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異世界に来たらピアニストになった俺~しかし面倒事は拳で片付る任侠一家の跡取り息子の見聞録~  作者: みえだ
第4章 貴族の国 ~本領を発揮するピアニスト~
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76話 オルレアン平野 本当に人間か?(騎士団視点)

響介、ストーカー被害に遭う。




「状況報告!」

『右翼からの進行押さえきれません!至急応援を!』

「駄目だ!人員を割けられない!持ちこたえるんだ!」

『このままくたばれってのか!』

「誰か手を貸してくれ!」

「怪我をした者は直ぐ下がらせろ!」


 至るところから魔物の断末魔や騎士の怒声やらが飛び交う戦場の中私、共和国騎士第2騎士団団長ライアン・ボル・ロイジュは通信用の魔道具を取る


「騎士団本部へ!こちら第2騎士団!こちらは4割の兵が戦闘不能!数が多すぎる!手に負えん!」


 今までで類をみない規模のスタンピードが発生し私は騎士団本部に応援を寄越す様に吠える。このままでは騎士団が壊滅し、魔物がオルセーまで雪崩れ込む事は時間の問題だ。


『先程オルセーの冒険者ギルドへ緊急要請を出した!現在臨時編成を』

「そんな事をしていたら間に合わない!こっちは今人が欲しいんだ!」


「ライアン!」


 通信魔道具を投げ捨て駆け寄った部下を一瞥する。駆け寄ったのは私の腐れ縁で狼人(ワーウルフ)の騎士団副官のヘンリー・ガライルだ。


「デカイサイクロプスが出やがった!」


「何だと!?」


 サイクロプスだと!?バカな、そんな報告は受けていないぞ!?戦場の見ると5メートルはあろうかという一つ目の巨人が1体ではなく何体も戦場に近付いてきた。それを負傷した部下達が見てしまい


「ああ…」

「終わった…」

「もうだめだ…おしまいだ……」


 皆表情を絶望一色にしその様を見ては回りの部下達にも伝播し士気はみるみるうちに下がっていく。目の前の魔物の大軍に見たことの無い程の、二回り大きい大型のサイクロプス。その様を見た私は


「ヘンリー、負傷者とまだ動ける者を連れてオルセーへ逃げろ」


「待てライアン!どうするつもりだ!」


「いいから逃げろ!これは命令だ!私とて騎士の端くれ、我が国民を守る為散るのなら本望!」


 私はヘンリーの静止を振り切り愛馬に跨がり出そうとする。ここで私まで逃げたら我が家に、散った部下達に申し訳が立たん!

その時だった。


「ガアアアアアア!?!?!?!?」


「!?」

「なんだ!?」


 突如見えていたサイクロプスの1体の頭が爆発しサイクロプスの悲鳴に近い絶叫が響くと目を押さえて苦しみだしたのだ。私達が何事かと混乱する中で部下の1人が


「後方から、何かが…」


「何かとはなんだ!?どこから何が飛んできた!?」


 部下に詰め寄るヘンリー。すると


「眼球の水分が蒸発する痛みはどう?」


 ふと、この殺伐とした戦場に似つかわしくない少女の声が近くから聞こえた。私が見るとそこには格好こそ冒険者のようだが良いところの貴族令嬢のような美しい金髪の少女。少女は矢をつがえ引き絞ると


「図体デカイからって、戦い方は人間相手と変わらないね」


 矢を放つ。放った矢は別のサイクロプスの目に吸い込まれる様に眼球に突き刺さり喰らったサイクロプスは怯んだがここでなんと


爆破(イグニッション)!」


 少女が何か魔法を唱えたと同時にサイクロプスの目が爆発したのだ!どうやら先程の攻撃もこの少女の仕業のようだ。

 しかし、この距離でサイクロプスの目を正確に居抜くのも驚きだがその上魔法も使うとは、それに弓で射る一連の動作やあの距離まで矢を飛ばすことからしてこの美少女はかなりの手練れなのが容易に理解出来る。すると


「お姉ちゃん」

「ライミィ様!」


 その美少女にエルフ族の少女と大剣を担いだメイドが近くにやって来た。彼女達も冒険者なのだろうか?


「エリー、ステラ、そっちはどう?」


「うん。エリーの、出来る範囲で、騎士さん治した」


 どういう事だ?騎士さんを治したと言ったかこの少女は?


「ライアン団長!」


「どうした……ん!?お前達!怪我は…!」


 私が見たのは先程まで酷い怪我を負い苦しんでいた部下達。しかし皆動ける処か完全に回復していているではないか!?


「そのエルフの少女に助けて頂きました。かなり腕の良い治癒術師(ヒーラー)のようで…」


 なんと、

 私は空いた口が塞がらない。先ほどまでの絶望的な状況がまるで嘘の様に感じてしまう。


「お姉ちゃん、お兄ちゃんは?」


「キョウスケなら右翼?に行ったよ。人が足らないんだって」


 ……ん?


「おい、どういう事だ?まだ仲間がいるのか?」


 私が口を開く前にヘンリーが少女達に問いかける。右翼に人員要請があった事を何故知っているんだ?すると美少女は


「はい。今あっちに」


 彼女が指差す方向は間違いなく右翼に展開していた部隊の方向だ。すると右翼からいきなり雷が落ち魔物を薙ぎ払ったかと思えばサイクロプスが蹴り飛ばされ宙を舞うのを見て私達は唖然とする。


「あっ」

「今のはキョウスケ様のライトニングですね。それにサイクロプスにしっかり眼球に飛び膝蹴りを叩き込んでます」

「だね~。さっ私達もしっかりやるよ!エリーは怪我人の対応と守備お願いね」

「はーい♪」

「ステラ、貴女は左」

了解(ウィルコ)


「まっ、待ってくれ君たち」


 私はすかさず彼女達を呼び止める。色々疑問があるが行動しようとした彼女達に確認したい事がある。


「君たちは…?」


すると彼女達は


「ピアニストの婚約者(フィアンセ)です」

「妹分」

「従者で御座います」





 僕は第2騎士団レーゼン・ベレナーゼ。

 栄えあるアルス騎士団に入団して半年、まさか任務でこんな事になるなんて、今までに類を見ない規模のスタンピードに僕の所属する右翼の部隊は混乱していました。


「負傷者は直ぐ下がらせろ!」

「このままでは突破されるぞ!?応援はまだか!」


 急編された部隊は魔物の猛攻を押さえるのに精一杯だった。右翼にはゴブリンやボルガ(二足歩行の狼みたいな魔物)やモスマン(二足歩行の蛾の魔物)が徒党を組んで攻めこんで来て数の差なんてもう明らかだった。

 僕みたいな新兵が生き残っているのは僕が治癒魔法を使えたから後方で負傷者の手当てをしていたからだ。怪我も勿論だが厄介なのはモスマンが出す鱗粉の毒だ。この痺れ毒に苦しむ仲間の手当てをしていると


「レーゼン!」


 小隊長の声が聞こえた。どうやら治療に集中していて気が付かなかったみたいだ。振り向いて見るとその小隊長の表情は焦り一色だった。その理由も直ぐわかった。だって


「しょ、小隊長、あれは…」


「サイクロプスまで出てきた!この場を放棄し本陣まで撤退する!」


 小隊長の声が遠くに聞こえる程僕は目の前の状況を呆然と見ていた。確かに通常よりも大きいサイクロプスがのっしのっしと歩いて来た。

 なんであんなのが、サイクロプスなんて普段ダンジョンに住み着いて滅多に出てこないのに…

 皆が逃げる中、僕は呆然としてしまった。呆然としてしまい前線を突破し近付いてきたボルガに気付く事が出来なかった。

 多分、余りの絶望を感じ呆然自失していたと思う。ボルガが剣を振り上げられたのをスローモーションに感じて他人事の様に見ていた。全てが手遅れだったと思ったその時


「うわっ!」


 突如耳をつんざくような雷が降り注ぎゴブリンやボルガ、モスマン等魔物達を消し炭にした。それも1体や2体じゃない突破してきた魔物を全て断末魔を上げる間もなく薙ぎ払ったのだ。それだけじゃない


「グオオオオオォォォ!?」


 なんとサイクロプスが顔から血を吹き出しながら吹っとび近くにいた他のサイクロプスを巻き込み揉みくちゃになり倒れる。近くの魔物は巻き添えを食らいサイクロプスの下敷きになり潰される。たったそれだけで右翼にいた魔物の3割が倒れた。


「な、何が…」


 何が起きたんだ?一瞬の出来事に僕も小隊長もみんな呆然としていた。何よりも僕はあの間近に落ちた高レベルの雷属性魔法の衝撃が耳に残っている。すると


「殿を務めます。早く後方へ」


 僕達の目の前に現れたのは見たことの無い黒い服を着た僕と同い年位の(僕が24歳)青年だった。

 背が高く、黒髪青瞳の青年は魔物の大軍に対して構えている。って待て彼は丸腰じゃないか!


「武器なんて、口と手足2本ずつあれば大丈夫ですよ」


 聞こえてたの!?そんな事をしているとゴブリンやボルガ達がまた大挙を成して向かってくる。青年は焦る様子もなく右手をかざして


「ライトニング」


 ライトニング?そんなの初級の魔法ですよね?しかも詠唱は?それにもっと高レベルの魔法をと言おうとしたら


「わぁっ!」


 先程以上に激しい雷が魔物達の頭上に落ち消し炭にする。あれがライトニング?魔導団長の放つ雷魔法よりも凄いじゃないか…


「何をしてるんですか!早く退却を!」


 唖然としていた僕達に青年は振り向き呼び掛ける。だがその後ろから


「危ない!」


 後ろからモスマンが襲いかかんとして迫っていたのだ!しかし青年はモスマンに見向きもせず裏拳一発で片付けた!?

 そんなバカな…モスマンは見た目とは裏腹の硬い皮膚で厄介な魔物なのに、それからも彼は素手で魔物を相手にし殴る蹴るで蹴散らしていた。

 もうあの青年は全てがデタラメだった。無詠唱で高レベルの魔法に匹敵する初級魔法に素手で魔物を蹴散らす姿は僕のみならず全員が釘付けにされる


「き、君は一体…?」


 不意に溢れた呟きだった。誰にも聞こえないと思ったのだが、ボルガを蹴り飛ばしながら青年が


「通りすがりのピアニストだ」


 確かにそう言ったのが聞こえた。





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