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異世界に来たらピアニストになった俺~しかし面倒事は拳で片付る任侠一家の跡取り息子の見聞録~  作者: みえだ
第4章 貴族の国 ~本領を発揮するピアニスト~
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75話 緊急クエスト スタンピード発生

響介とエリー、ライミィから魔法の訓練を受ける。




 魔法の訓練やギルドの依頼で忙しく過ごし建国祭まであと8日後。響介達はランベール卿の屋敷に訪れていた。


「ではこの部分なんですがこの曲とこの曲をこうして、後この曲をこうしようと…」


 セレモニーでの演奏曲の最終打ち合わせをランベール卿とオルセー在住の貴族達と幾人かの貴族とピアノを目の前で弾きながらしていた。

 響介が担当を受け持つことになったのはオープニングのピアノソロ約18分間。何故ソロなのかというと元々出席予定だったクルジットがソロで演奏することを固持した為であったからでありもう他の演奏家を用意することが間に合わないからだ。

 ランベール卿から話を聞いていた貴族達もどうするのかと疑問が挙がったが響介が


「なら何十曲かを繋げてメドレーにしましょうか?」


 は?となった貴族達だったがそれを平然と実演する響介に釘付けになる。まるでそれは一つの曲のような音楽で皆圧倒された。一連を聴き終わると止めには


「どうでしょうか?35曲程繋げたのですが」


 この響介の言葉に居合わせた貴族達を唖然とさせた。それも無理はない、響介が弾いている曲は全て響介の世界のものなので聞いたこと無い、だから元の曲がどういう曲なのかはこの中で把握しているのはライミィぐらいだろう。貴族達が唖然としている中ランベール卿が拍手をし


「素晴らしい!」


 一言。その表情はとても満足そうであり饒舌表せないようだ。人間本当に心から素晴らしいと思った事はそのまま言葉として出てしまうものだから無理はない。笑顔で響介に拍手を送ると


「私達は幸運だ。こんな素晴らしい演奏家に出会う事が出来たのだから」


「恐縮です。ランベール卿」 


「いやいや謙遜しないでくれ。この間初めて聞いた時も素晴らしかったが今回はその上をいっていたよ。キョウスケ君が張り切ってくれているのが良く分かる」


「私事ですが、自分の晴れ舞台を婚約者(フィアンセ)と妹分と従者が楽しみにしてくれています。みっともない事は出来ませんから」


「そうだったね」


 上機嫌に笑うランベール卿と照れくさそうに笑うライミィに優しく微笑む様に笑うエリーとステラ、ここでふとランベール卿が1人の貴族に話しを振る。


「所でホーカー子爵」


「はっ」


 呼ばれたホーカーという子爵が少し怪訝な表情をして前に出る。背が高い痩せ形の50過ぎの男性で、集まった貴族達の中でも年を食っている印象だ


「君の所の娘、アンナマリー君と言ったね?」


「はい。あの、それが何か…?」


「知らないのかね?なに、婚約者のいるキョウスケ君にしつこく付きまとっているようでね。キョウスケ君も断りを入れたのだが聞く耳を持ってくれないそうだ」


「も、申し訳ありません!私からも良く言い聞かせますので何卒……!」


「謝る相手が違うだろう?謝罪するべきはキョウスケ君とライミィ君だ」


「も、申し訳ないキョウスケ殿!ライミィ殿!私からきつく言い聞かせておくのでどうか……!」


 気の毒になるくらいひたすらに頭を下げ謝罪の言葉を並べるホーカー子爵に頭を上げて下さいと宥める響介。ホーカー子爵はホーカー子爵でランベール卿の評価を下げないように必死で頭を下げ続けている。

 どうしてこうなったかというとランベール卿の屋敷に初めて来た日まで

 時を戻そう。






「お父様?今のピアノは…?」


 来客の相手をしていたメアリーが客間に戻って来た。本来ある筈の無いピアノを始め色々疑問がありランベール卿に尋ねるメアリー。その後ろからふと見たことの無い貴族らしき女性が顔を出すと


「あっ!」


 何かに気付いたように反応すると思いきやメアリーの横をすり抜け響介達の近くへ来るや否や響介に向かって


「あの!私を覚えていますか!?」


「はい?」


 いきなり話しかけられる響介。抱き付こうとするのをかわしその女性を見るが一考に思い出せずにいると見かねたライミィが


「どちら様でしょうか?」


 響介の代わりに答える。そのライミィの返答が少し不機嫌な感じが混ざっているのが分かった響介だったがまだ思い出せず、その女性はランベール卿達の前だというのにライミィに向かって声を荒げ


「貴女は関係ありませんわ!私はこの殿方とお話しをしていますの!邪魔者は引っ込んでなさい!!」


 ライミィが関係無いと言われた響介はイラッとした。明らかに口論になりそうなライミィや一言もの申そうとしたエリーとステラを制して響介は目の前の知らない女性に言ってやることにする。


「いや、関係ありますが」


「は?」


 響介はライミィをおもむろに抱き寄せると


「この女性、ライミィは自分の婚約者(フィアンセ)であり将来を約束している女性です。何処の何方か存じませんが妻になる女性が自分に関する事に関係無いことはありません。と自分は思いますが」


 そう響介がライミィを抱き寄せながら説明する。響介はもう覚悟を決めた目をしていた。

 そんな響介に嬉しそうにされるがまま抱き寄せられ身を寄せるライミィに暖かい眼差しで見守るエリーとステラ。その様子を見て感嘆を漏らすランベール卿達に


「そうでしたのね!御二人共おめでとうございます!!」


 我が事の様に祝福してくれるメアリー。


「フ、婚約者(フィアンセ)……?」


 絶望の表情を浮かべ放心する知らない女性(これがアンナマリー)。そこへ響介からまさかの追い討ちが


「まず貴女誰ですか?」


 追い討ちというかこれが止めとなり女性は泣いて出ていってしまいメアリーから困った様に


「あの、キョウスケさん?アンナマリーさんの事はご存知ないのですか?」


「初対面だったと思うんですが」


 響介は困った様にライミィ達に確認するように見ると、エリーは頭にはてなが浮かんでおりライミィはあれ?と言いたげな様子。そこでステラが響介に


「キョウスケ様、2日前の昼食後に襲われてた馬車に乗っていた貴族の方では?」


「えっ?あっ、そうか、あの時のか」


 響介のこの微塵も覚えていない様子を見て流石に一同はあははと苦笑いするしかなかった。






 時を元に戻そう。

これが6日前、ランベール卿に依頼された後の出来事だ。そのホーカー子爵の娘である貴族令嬢アンナマリー・ホーカーはメアリーから聞いた話しによるとどうやら響介に一目惚れしたらしく名前も聞くことが出来なかった事から諦めていたがあの時再会したことで運命を感じたのだそうだ。(メアリーは散々話しを聞かされゲンナリしていたそう)


 ただ前述の通り響介とライミィが婚約(仮)と知り諦めたかと思っていたらなんと響介のストーカーと化し、今では使用人を使って宿まで特定する始末。

 今回ランベール卿が多く集まるこの場で父親であるホーカー子爵に釘を刺したのは貴族としての思惑もあるが一番は貴族の身である者として婚約者のいる男性に付きまとうのは如何なものかという注意なんだそうだ。

 つまり一言で言うなら「貴族の品格を疑われるから止めさせろ」という事らしく未だランベール卿に謝罪を続けるホーカー子爵を気の毒に見ていた響介達だったが


「御館様!失礼致します!」


 ランベール卿の側付きである執事長のニコラスが慌てた様子で入って来た。その様を見てランベール卿はただ事でない事を察すると表情を真剣なものに変えホーカー子爵を制すると


「そこでいい、ニコラスどうした?」


「冒険者ギルドからスタンピードが発生したと報告を受けました!」


 それを聞いてざわめく貴族達。皆気が気では無い。


 スタンピード。

スタンピードとはダンジョン等で大量発生した魔物が一斉に暴走し襲いかかってくる事だ。しかしスタンピードには予兆があり大体の場合はその予兆が出た時点で該当のダンジョンの調査し予兆を解除する事になっている。しかし


「どういう事だ!予兆など出ていない筈だぞ!」


 一人の貴族が声を張り上げる。それもそうだ。今は建国祭を控えた大切な時期、特に警戒が必要とされ現に響介達もギルドからの依頼でダンジョン調査も行っていた事もあってか些か不自然さを感じていた。貴族達がやんや言っていたがランベール卿は冷静にニコラスに尋ねる


「ニコラス、どこのダンジョンからスタンピードが起きたんだ?」

「現在調査中との事ですが、少し不信な事が…」

「申してみよ」

「それが、魔物に統一性が無くどうやら幾つかのダンジョンでスタンピードが同時に発生したと…」

「何だと!?」


 この言葉に響介とライミィは引っ掛かった。

スタンピードが発生する、ダンジョン内の魔物が暴走するのは理由がある。

 それはダンジョン内の魔素、マナのバランスが崩れる事。ダンジョン内の魔物はダンジョンに溜まったマナから産み出される存在で本来の生態系から外れる魔物、つまりレイドモンスターなのだ。要はレイドモンスターを適度に産み出す事でダンジョンはマナのバランスをとっている。だが詳しく話しを聞くと今回のスタンピードはこのオルセーに近いダンジョン4箇所で同時発生しているとの事で、一軍となった魔物達を現在オルセーにいた共和国騎士団が水際で進行を食い止めているそうだ。しかし


(…)


 響介は腑に落ちなかった。ギルドでも聞いたがこの近辺とルーブル近辺のダンジョンは全てマナが落ち着いていたと聞いていて自分達が調べたダンジョンも異常はなかったからだ。流石に話しを鵜呑みにはしていないがリノリノが言っていた事たがら嘘は無い筈。

と、思案するライミィが響介に目線を合わせる。


(キョウスケ、多分あいつらかな?)

(根拠は?)

(私の勘!)

(分かった。なら動くか)


 響介はライミィの勘を信じている。ラミア特有だとかでは無くライミィ自身の『女の勘』というものは良く当たり響介は信頼を置いているからだ。

『女性の勘はカオス理論すら越える』祖父が笑いながら言っていた事をふと思い出した響介。それに響介も思い当たる事もある。


(確かにあまりにも不自然だ)


 不自然。響介はそう直感的に感じた。しかし今はアレコレ議論している暇ではないとしてランベール卿達に響介は一礼すると


「ランベール卿、それにお集まりの皆様。大変勝手ながらで申し訳ありませんが自分達は失礼させて頂きます」


「待ってくれキョウスケ君どうするつもりだい?」


「いえ、自分達も冒険者ですから」


と、笑い響介達はランベール卿の屋敷を飛び出しバイクを出した。

 目指すは騎士団と魔物の大軍がぶつかり激戦地と化したオルレアン平野、響介とステラは全速力でバイクをブン回した。





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