70話 挨拶 オルセーのギルドと勘繰り
4人、オルセーに到着し響介床で寝る。
「散らかってて悪いね、適当に掛けとくれ」
あの後ギルドマスターのリノに執務室に案内され、通された響介達。中に入ると
「ちょっとギルマス~!何処行ってたんすか!?書類溜まってるんすからとっとと片付けって」
リノとは別の獣の耳、猫耳童顔の男性が大量の書類を抱えてリノに近づくと響介達に気づいた。
「あれ?ギルマス、お客さんっすか?」
「そうだよディーン。アランが言ってたドラゴン殺しのピアニストさ」
「おおっ!あの噂のルーキーの!初めまして、ギルマス補佐のディーンっす!」
ディーンが挨拶をしリノ達が盛り上がる中リノ達の会話でどうしても気になった所があるライミィは
「あの、どうしてキョウスケの事、ピアニストって知ってるんですか?」
ライミィにとっては当然の疑問だった。ピアニストと言うことはオウレオールを出てからずっと隠していたから尚更だった。その疑問をリノは笑いながら
「アラン達が言ってたのさ、教会相手だろうと売られた喧嘩はしっかり買う常識破りのピアニストってね」
けらけらと笑いながら話すリノを見て「あー」と納得してしまうライミィ。響介はライミィ達にそのあたりの事は予め話していたからあまり驚くことはなかった。
「ま、そういうこったさ。ピアニストはあたしらが勝手に言ってるだけだけど冒険者ギルドの中だと中々有名だからねあんた達は」
「はあ」
ソファーにドカッと腰掛けるリノは響介達に対面のソファーに座るように促され座る響介達。しかし
「…あの、リノさん」
「はいはいどしたキョウスケ?」
「テーブル位片付けましょうよ…」
対面したソファーの間にあるテーブルの上は食べたら食べっぱなしの食器だの、飲みっぱなしのコップだのが散らかっており一言言って汚い。それはテーブルだけでなく執務机も書類が乱雑だったり、脱ぎ捨てた服が床にあったりと執務室のなかは男部屋かと突っ込みをいれたいくらい散らかっていて、つい苦言が出た響介。
特にエリーは渋い顔をしてしかめっ面になっている。気持ちはわかる。エリーみたいに嗅覚が優れていなくても部屋の中は臭う。嫌な意味で
「ギルマス、流石に片付けましょうよ~もう5日前からじゃないっすか」
すっかり耳が下がっているディーンが呆れながらリノに片付ける事を薦めると
「5日じゃないよ。もう1週間さ」
キリッと決め顔を作って答えるリノだったが
「「「「片付けなさい」」」」
響介達がピシャリと一刀両断にした。
「はい、わかりました…」
あまりの即答ぶりと響介達の綺麗なハモりっぷりと圧にリノはおののく、まあ出会ったばかりとはいえ知人の知り合いからの正論には流石に反論は出来なかった。しかしリノは食い下がる
「でもさ、あんた達何か用があるんじゃないかい?それ終わったら片付けるからさぁ先に用件頼むよ。後でやるからさ」
後でやる
響介はこの言葉が嫌いである。後でやると言ってやるやつはほぼいないからだ。しかし朝っぱらから会ったばかりの人間に事を荒立てるのは違うと思い本題へ入る。
「いや、こちらにお世話になりますからまずご挨拶といくつか確認を」
「確認?」
「はい、2日前にアランさんから届いてると思いますが手紙ってランベール卿に送って頂きましたか?」
「手紙?」
ここではっとした顔してリノは執務机の上にあった魔道具に手を伸ばすとなにやらいじり始めた。すると魔道具は淡い光を湛えるとそこにはいくつかの書類が出てきた。リノは手を突っ込み一枚の手紙を掴み取り出すと
「あっはっは……」
それは正しく響介がランベール卿に宛てた手紙だった。ここにあるということはまず届いていないということ、リノはすっかり忘れていた。
素直に謝れば良かったのだがそれを明らかに笑って誤魔化すリノに
「今すぐ部屋を片付けろ!!!」
響介はキレた。それは手紙を、職務を怠ったからではなく笑って誤魔化そうとしたのに対してであった。そのキレ方に覚えがあったリノは
「は、はい~~!只今~~~!!」
条件反射で血相変えて部屋の掃除に取りかかるのだった。
この日の朝、見たことない明らかに若い冒険者に対して涙目になりながら執務室を掃除するギルドマスターがギルド職員達に目撃されたという
「と、いう訳でランベール卿に面会するのは明日になりました」
響介達がいるのは昨日の宿、町外れにあった安宿とは違いオルセーの中でも特に賑わっている中心街にある人気の旅人宿、一人銀貨4枚で部屋は勿論ベッドは4つ広さはまあまあでキッチン付きだ。運良く一部屋空いていたのですかさず10泊分取った。
「まさかの展開だね~」
「斜め上」
「まさか渡してないとは私もつゆと思っておりませんでした…」
ベッドに腰掛けいつもと変わらない調子で喋るライミィとコートを外しアルケミストキットを広げるエリーにキッチンで取り出した調理器具を確認するステラ。3者3様で急に出来た休みを満喫するようだ。響介も何をするかと考えるとやっぱり
「俺はこれだな」
懐中時計からピアノを取り出すと椅子に腰掛け神経を澄ます。それを見たライミィは
「キョウスケ、ここでピアノ弾いて大丈夫なの?」
「ああ、それが生活魔法を7レベルにしたら防音魔法習得出来てな、今この部屋に使ってるんだ」
「成る程~」
生活魔法のレベルを上げて防音魔法「プルーフ」を取得していた響介は部屋に掛けピアノを弾き始める。とても穏やかに優しく、まるで子守り歌のような曲を聞き3人は安らぎ、4人は今日1日をゆっくりと過ごした。
『…で、キョウスケに大目玉食らったと』
「あはは…」
『リノ、貴女は変わりませんね』
その日の夜の事、冒険者ギルドの執務室でモニター型の魔道具を使って話すリノ。画面に移る相手はリュインのギルドマスターのアランとニューポートのギルドマスターのクリスだ。クリスの横にはピーター商会のワッケインの姿も見える。
『大体予想はしてたが、何やってんだ…?』
「いや~、お恥ずかしい限り…」
しょぼくれて狼の耳もぺたんとなっているリノ、その様を見ても相当だったのが分かり
『まさかキョウスケ君がそこまで怒るなんて』
『あったじゃないですかクリス。ズボフがライミィさんを切りつけようとした時も相当でしたよ?あれ』
『あったわね、「俺の女に手ぇ出すな」って言って見事にぶっ飛ばしたの』
『キョウスケの奴、やっぱり首ったけだな』
ニューポートでの事、勇者ロン一味をコテンパンにした時の事を思い出したクリスとワッケインは懐かしくなり思わず笑ってしまいそれを聞いたアランは満足そうに笑っていた。その時リノが何か思い出したように口を開く
「そうそう!聞きたいのはライミィの事さ!」
『ライミィの嬢ちゃん?』
『ライミィさん?』
「ああ」
真剣なリノの一言でアラン達は神妙な顔つきになる。
『どういう事だ?』
「あたしが言いたいの、分かるだろ?」
『つまり人間じゃないってことですか?』
「ワッツ間違いないよ。あの娘の匂いは人間のものじゃない」
『人間じゃない?』
「あの娘はラミアだ。間違いない」