69話 リノリノ 陽気なギルドマスター
響介、ライミィと婚約する。
「やっと着いたな…」
「そうですね、キョウスケ様…」
ようやく第2都市オルセーへたどり着いた俺達、しかし盗賊との戦闘やその後も魔物に襲われた馬車を助けたりもあったことで到着ががっつり真夜中になってしまっていた。街の入り口手前でバイクを降りてから門にいた衛兵にギルドカードを提示してようやく街に入れたのだった。
「二人共お疲れ様」
「ありがとうライミィ」
「ありがとうございます。ライミィ様」
「キョウスケだいじょぶ?無理しないでね?」
ライミィがそう言っていたのは俺がエリーをおんぶしていたからだろう。長時間座りっぱなしで疲れたようで静かに寝息を立てており、俺は起こさないように細心の注意を払いながらライミィに返事を返す
「大丈夫だライミィ。この位じゃ俺はまだ音を上げることはないよ。ステラ、疲れている所申し訳ないが何処か宿を取ってくれないか?最低でもベッドが3つの確保できる所で頼む」
「かしこまりました。直ぐに行って参ります」
ステラはすぐさま宿を探しに街の中へと消えていった。懐中時計を取り出して時間を確認すると1138、もうすぐに日付が変わる時間だ。
「う~、眠い…」
「ごめんな、俺の算段が甘かった」
「いや、あれはしょうがないよ~馬車があんなにファングボアに追っかけられちゃね~」
「に、してもバイク乗りながらだけど上手くいったなライミィ」
「だね~、まさかあんな方法思い付くなんてさっすがキョウスケだね~やってて楽しかったし、何より」
「ん?」
「しっかりキョウスケに抱き着け、いや全身巻き付けたし♪」
「何一つ間違ってないから否定出来ないな、でも今真夜中だからいいが街中であんまり言わないでくれよ」
「はーい。それにしてもこれいいね、エリーも使ってもだいじょぶそうだよ」
そう言ったライミィがジャケットの裏ポケットから御守りのような物を取り出す。それは
認識阻害の護符
アイテムランクA
魔法媒体不可
人間を始めあらゆる生物から装備者の認識を都合良く偽り正体を隠蔽することが出来るマジックアイテム。但し装備者より高いレベルの生物に正体を看破された場合効果が切れ24時間は使用出来なくなる。
以前プトレマイオス遺跡の所長室で回収したマジックアイテムの一つ認識阻害の護符だ。このアイテムは装備者の他者に与える認識を装備者の好きなように改竄出来るアイテム。
例えるとダークエルフのエリーがこれを使うと周りの人間はエリーの事をただのエルフの子供としか認識出来なくなる。といった具合に要はこれを使えばエリーも顔を隠さないで堂々と歩ける様になる。しかしこの効果は自身よりレベルが低い者にしか効果は無く、レベルの高い者に正体を口に出されてしまうと周りの人間の認識阻害も解除されてしまうので過信は禁物だ。
「まあ、エリーには使ってもらうがいつも通りフードも被って貰ったほうが確実だな」
あくまで認識を反らすだけのものだからなと付け加えておいたらライミィも同意してくれた。するとステラが戻ってきた。
「御待たせ致しました。宿を確保出来ました」
ステラの案内で宿へと向かいようやく体を休めることが出来た俺達だった。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫だよ…ありがとなエリー」
朝を迎え俺達は冒険者ギルドへ向かっていた。冒険者ギルド経由でランベール卿に手紙をお願いしていたのでその確認とギルドマスターのリノリノさんに挨拶の為だ。だがしかしエリーを始め俺を3人共少し心配そうに見ていた。
「本当にだいじょぶ?キョウスケ床で寝るからだよ」
「申し訳ありません、私がしっかりした宿を取れていれば…」
「…女性を床に寝させる訳にはいかんだろ」
と、言うのもステラになんとか取って貰った宿の部屋はベッドは3つ、俺は迷いなくライミィ達に譲り自分は床で雑魚寝していた。なんとか寝れたが床がコンクリみたいになかなか固く寝心地は良いわけがなく肩が凝ってしまった。だが
「誰も悪くないんだ。次の宿はしっかりした所を取ればいいさ」
そう、誰も悪くない。強いて上げれば昨日もライミィに言った俺の算段が甘かった事だ。
『生きている上で自分の思い通りになると思うな』これもじっちゃんからの教えだ。人と生きている以上何がなんでも自分の思い通りになる事はないからだ。それを今改めて身に染みて理解した俺だった。
そんなことを考えながら改めて俺達はオルセーの街並みを見る。ニューポートやリュインとはまた違う中世の街並みは言うと綺麗でありある種の落ち着きがあった。
(やっぱり、オウレオールもマルシャンもだが何処か中世ヨーロッパって感じだな)
そう思いながら街を歩くと歩く先の建物の前で何やら騒ぎになっていた。
「どうしたのでしょうか?」
首を傾げるステラ。騒いでいるのは格好を見るにどうやら冒険者のようで眺めているといきなり建物の中から一人の冒険者がけたたましい音と共に転がり出てきた。どうやら蹴り出されたようでまともに受身も取れていなくゴロゴロと転がっている肥えた男がじたばたと痛みに悶えていた。
「朝から騒がしいね~、なんだろ?」
ライミィが呑気に言うと中から
「一昨日出直してきな!!この染みっ垂れ坊主共が!」
中から出てきたのは水色に近い青い髪に狼のような耳を生やした冒険者ギルドの制服をノースリーブ調に改造したスーツを着た恐らく獣人族の女性。その強く凛とした態度と圧に怖じけ付きひいと声を上げて逃げる男と仲間らしき男達。
「ったく、朝から仕事増やしやがって。ほらお前らも散った散った。見世物じゃないよ!」
頭をガリガリと描いて面倒そうに人払いをしていた時に俺と目が合った。
真っ正面から見ても美形だと改めて分かるぐらいぱっちりとした二重瞼を始め整った容姿に鮮やかな濃い水色の髪。そこにちょこんと頭にある狼らしき耳をピンと立てて俺達に近づいてきた。
「黒髪に青い瞳のイケメン、あんたがキョウスケかい?」
間違いない、俺の事だ。
「はい。初めましてキョウスケ・コウガミです」
頭を下げて挨拶をする。
挨拶は大切だ。古事記にもそう書かれているそうだから間違いないだろう
「礼儀正しい兄さんだね。アランから聞いてるだろうけどあたしはリノリノ。リノリノ・マグリアスさ。そっちは仲間かい?」
そう言ってリノリノさんはライミィ達に向き直る
「はい!ライミィです!」
「エリー、です」
「ステラと申します。以後お見知りおきを」
「おう!ようこそ冒険者ギルドアルス共和国オルセー支部へ。ギルドマスターのリノリノだよ。リノって呼んでおくれ」
にかっと笑うリノリノさんもといリノさん。アランさんがライミィみたいだと言ったのが何となく分かった気がする。