68話 第2都市オルセーへ 響介、決める
4人、カチコミをかける。
「ぶへっ!」
女盗賊の鼻っ柱に容赦なくグーを入れた響介。桁違いの攻撃力を十二分に手加減した一撃で伸びた事を確認すると功掌を使いまるで汚物を摘まむように持ち上げると横のある山の上に投げ捨てる。その山というのが
「うう…」
「痛いよぉ…」
叩きのめした盗賊を積んで作った山でこれでもう11段目である。このように積んでいるのは相手に視覚的に恐怖心を煽る為だ。
一殺警百。一人の敵を無残に殺し百人の敵に警告するという意味でこのように自分達は強いと勘違いしている輩相手にはこれ以上ないビビらせ方だ。(殺してはいないが)
さて、響介の目の前にはあの幽霊と化とした女頭と狼狽える側近らしき女2人のみだが後はというと響介達の予想通り後ろの馬車を狙ったのだが
「な、な…」
「が、がはっ」
「う、動かない…!」
響介とライミィ達の間の空間で一歩も動けずにいた。まるで地面に縫い付けられたように指一本ピクリとも動かすことが出来ず中には毒や麻痺などの状態異常の状態になっている盗賊もいた。その理由は
「~♪」
エリーだ。傷を負った馬車の護衛達にアースヒーリングをかけながら鼻歌を歌いまんまと自分の仕掛けた罠に引っ掛かっているのを見て上機嫌だ。
「流石エリー様です!」
「やるねぇエリー。随分上達したね」
「うん♪一定の力が、かかると、重力が発動するように、仕掛けた」
「これがパターンBなんですねライミィ様」
「そ、パターンブービートラップ」
パターンブービートラップ。ライミィ発案の戦法で狩人時代からの経験と自身とエリーの状態魔法とエリーの空間魔法を使ったものだ。
響介との間を空けていたのもわざとであり普通なら少し考えれば気付くものだが
「目の前にいる明らかに強い人と後ろの手負いの護衛や女の子ならどっち狙うなんて分かりきってるよね~」
それも弱っちくてバカなら尚更と敢えて相手の癪に障るように聞こえるように言うライミィ。この言葉を聞いて顔を真っ赤にさせるが一歩も動けない盗賊達を見ても怖くもなんとも無い。その中でも一番ぎゃあぎゃあ言っている女盗賊に対してライミィは瞬時に弓矢を構えると引き絞り矢を放つ
「ぎゃああぁぁぁ!!?」
情けも容赦もなく動けない盗賊の右膝を射抜く。ヒュン!と射る音と共に女盗賊の悲鳴が響くが何処に吹く風のようにライミィは無関心な態度を取ると
「このアマっ…!」
「よくも…!」
動けないばりに虚勢を張る盗賊達だが、ライミィにはただただ滑稽に見え盗賊達に対して
「よくも?それはこっちの台詞よ。人様の事殺そうとしておいて足射抜かれた位でぎゃあぎゃあ喚かないで」
とても静かに、加えて威圧的に、
「あんた達、殺されても文句言えないのよ?」
冷たい目と冷たい笑みを浮かべ冷酷に言ってのけると盗賊達のみならず馬車の護衛達や中にいた貴族らしき女性やその側付きもビクリと体を震わせおののく、その姿を見た罠に掛かって動けない盗賊達は戦意を喪失していき皆抵抗する気力を失っていた。
蛇に睨まれた蛙ならぬラミアに睨まれた人間である。そんなライミィを見て
「お姉ちゃん、カッコいい」
エリーが拍手をしており
「流石ライミィ様ですわ!」
ステラは感激し
「ブラボー。goodだライミィ」
響介も相手に背を向けてライミィに拍手とエールを送る。3人から誉められふふんと得意げにドやるライミィを見て響介は改めて
「やっぱりライミィは可愛いな」
自身の恋人を改めて可愛いと思っていた。そんな余裕ぶっこいた響介の態度を見て
「このガキ共がっ!調子に乗るな!!」
側近達が携えていた剣を抜き背中を見せている響介に振りかぶりながら突撃してきた。今にも響介に振りかぶろうとした時
「がっ!?」
響介に向かってきた女盗賊の一人を女頭の側に狙って殴り飛ばしもう一人の顎を鷲掴みにする。ギリギリと力を込め片手で軽々持ち上げるとブチブチブチっ!っと不快な音を立て女盗賊の顎を握り潰し頬骨ごと引きちぎりその場に捨てると女盗賊の声にならない呻き声を立て踞るのを見て馬車の護衛は青ざめて絶句し、女頭と側近は響介をまるで化け物でも見るように見て怯えていた。
「おい、もう向かってこないのか?」
冷たく鋭い眼光を飛ばしながら怯えている女頭と側近に尋ねる響介。正に蛇に睨まれた蛙の図で顔面を殴り飛ばされ顔の歪んだ側近に至っては恐怖のあまり失禁し始め黄色い水溜まりが出来、女頭はガクガクと震えもう戦意は欠片も無い。それを見た響介は残念そうに一瞥すると
「はぁ、興冷めだ。食後の運動にもならない」
くるりと回れ右をしエリーのトラップ平原をワンステップのジャンプで飛び越えライミィ達の元へ行くと
「みんな、ご苦労様」
ライミィ達3人に労いの言葉をかけるのだった。
「この度は誠にありがとうございました。お嬢様がご無事だったのも貴殿方のおかげでございます」
「俺達からも礼を言う、仲間まで治療して貰ってすまねぇ」
品の良い服を着た執事風の男と馬車の護衛に着いていたリーダー格の冒険者にお礼を言われる響介達。その横で回復した冒険者達が盗賊を縛っており盗賊達もおとなしくされるがままだった。というのも
「あんたらすげえな、腕っぷしだけでなく魔法もいける口かよ」
ライミィとエリーが盗賊達全員に状態魔法の睡眠から派生した昏睡を2人係りで行ったからである。ライミィ曰く丸一日は起きないそうだ。縛られて馬車に積まれる盗賊を見ながらステラが口を開く
「あの者達はどうなりますか?」
「あいつらは最低でも懲役刑だろうな。あいつらは血秋桜という数年前からアルスに出没していた指名手配されている強盗団だ」
「やけに女性が多かったですね、リーダーも女性のようですが」
それに答えたのは執事の男だ
「リーダーのドロリーヌは10年前の革命で没落した悪徳貴族、アジャー家の令嬢でした。他の女達も同じ悪徳令嬢やその取り巻き達でしょう」
貴族令嬢の成れの果てが盗賊かと、やれやれと頭を振る響介に明らかに「うわぁ」とドン引きしているライミィとそんな2人を交互に見るエリー。後の事は護衛の冒険者達に任せ自分達はその場を去ろうとバイクを出した時
「お待ち下さい!」
一行は呼び止められた。振り向く馬車から一人の女性が降りてきた。身なりがこの馬車の面々の中でも整っていることから恐らく貴族令嬢かなにかのようだ。ステラは少し困ったように響介を見たので響介は自分が前に出て対応することにした。
「あの、この度は危うい所を助けて頂いてありがとうございます!」
「いえいえ、当然の事をしたまでです」
辺り障りないように対応する響介。近くに駆け寄って来て息を切らしながらお礼を言う令嬢は初めてまともに響介の顔を見ると顔を赤くする。
「いかがなさいましたか?」
「えっ、あ、えっと」
響介を見て顔を赤くしながらどぎまぎしている令嬢の行動に首を傾げ響介は
「良くわかりませんが自分達は先を急ぎますのでここで」
と、響介は馬車の面々に頭を下げるとライミィが待っているバイクへ向かうと
「あっ、お待ち下さい!せめてお名前だけでも!」
我に返った令嬢が響介を呼び止める。響介は足を止め向き直ると頭を下げ
「名乗る程の者ではございません。失礼致します」
それだけ告げるとバイクに乗りその場を後にした。
オルセー行きを再開した4人、順調に向かってはいるが先程の盗賊達をしめた事でタイムロスしてしまい恐らく到着する頃はもう日は完全に暮れるだろうとライミィに話しているとライミィの様子がおかしいことに響介は気が付いた。
「どうしたライミィ?」
「む~…」
なにか考えているようで少し難しい顔をしていた。
「本当にどうしたんだ?」
「いやさぁ、あの女」
「どの女だ?」
「あの令嬢っての、キョウスケに色目使ってたからさ…」
「おいおい、考え過ぎだろ」
少し乾いた笑いが出た響介だったがライミィが真剣に考えているようであまり言わないようにした。というのも
(まぁ確かにニューポートの時もライミィ機嫌悪くなったからなぁ)
実際おんなじように貴族令嬢から言い寄られた事があったが基本的に取り付く島がないようにしてお断りをいれていた響介。自分ではそんなに大きく考えてはいなかったがライミィはどうやら違うようだ。
「キョウスケは私のだもん…」
ぷくぅと膨れっ面を作って不満を口にするライミィ。それを聞いた響介は考える。
(俺が他所の女に靡くとは思って無いようだけどやっぱり不安なんだな、ふむ…)
響介は暫し考えると何か閃いた。そしてライミィに
「なあライミィ。俺達恋人だよな?」
「えっ、そうだよねキョウスケ!私達恋人同士だよね!」
息を吹き替えしたように元気になるライミィ。さっきまでの不機嫌な膨れっ面が嘘のように晴れやかに笑う。それを見た響介は続ける
「そうだよ。でな俺達の関係なんだけど恋人からって言ったの覚えてるか?」
「うん、一緒に寝てた時だよね?」
「それ。それでなライミィは恋人ってどう捉えてる?」
「どうって?恋人は恋人でしょ?何かあるの?」
「俺は結婚前提でのって認識だったんだ」
「け、けけけ結婚!?」
響介から思いもよらない発言を聞いて顔を真っ赤にして動揺するライミィに響介は
「だからな、次は婚約者って関係を進めたいって思ってるんだ」
「こ、婚約者?!」
「ああ、これからのオルセーでの事を考えてな、さっきみたいに周りからのちょっかいも婚約者いるんでで断れるし、ライミィも機嫌悪くならないかと思ってるんだけど」
と、響介はライミィに聞いたがライミィは婚約者と聞いて照れっぱなしだったがライミィは満面の笑顔で
「うん!これからは婚約者!キョウスケの婚約者…うふふ♪」
すっかり笑顔になってくれたようで安心する響介は
「オルセーに着いたら2人で指輪を見に行こうな」
ライミィはまた顔を赤くするが笑顔で了承し約束する。そしてその夜に一行は無事オルセーへ到着したのだった。