66話 寄り道 ご当地グルメを食べよう
4人、アルスへ入国する。
何事もなく無事にアルスへ入る事が出来た響介達は第2都市オルセーを目指してバイクを飛ばす。
人族国家群のど真ん中にあるアルスは周りが山々に囲まれており特に北側のオウレオールとその隣国ケントニスに面する国境沿いにはツェッカーノ山脈という越えるのには苦労する険しい山々を始めとして主に台地が多く気候も安定していて過ごしやすいそうだ。それに加え山の中にはダンジョン化したもの、通称山ダンジョンも多数あり冒険者もそれなりに多いと聞いた。
「わぁ……!」
響介の運転するメテオラにタンデムしているライミィは広大な景色に感嘆の声を上げた。
今日は良く晴れており、万年雪化粧をした北の国境沿いに伸びるツェッカーノ山脈が良く見え近くにあった山ダンジョンから鳥系の魔物、ホワイトバードが群れを成して飛んでいた。
「凄いよキョウスケ!ホワイトバードがあんなに飛んでるよ!」
「ああ、ああまでいると壮観だな」
「貴族の国にって聞いてから堅っ苦しいとこかと思ってたけど自然多くて良いとこだねぇ、ん?キョウスケ、あれなに?」
ライミィが指差して響介に聞いてきたのは、柵が立てられていて整備されている広大な草原が続いていてそこには多くの動物が放し飼いされていた。
「どうやら牧場みたいだな」
「牧場?」
「多くの動物一辺に育てる所なんだ、狩りをするライミィ達には馴染みはないかもな」
「育ててどうするの?」
「ミルクが出る動物なら酪農やったりとかだが、あの動物なんだ?」
羊のような山羊のようなやたらといる動物が気になった響介はメテオラのスピードを緩めステラのミーティアに並走するような形になる。
「ステラ、あの動物なんだか分かるか?」
「あれは、どうやらフーリジャシープとフォークシープようですね」
シープと聞いてようは羊かと思う響介。それをステラのミーティアにタンデムしていたエリーがステラに尋ねる。
「どう、違うの?」
「私が存じ上げているものとは少し変わっていますがフーリジャシープはミルクを出すシープとして優秀な品種の動物になり、もう片方のフォークシープは繁殖力が高く食用として一番飼育されている品種になりまして2種類共ウールの質も良くこのように放し飼いをするのに適した動物になります」
「ん?食用?あの動物食べれるの?」
食用と聞いて急かさず反応するライミィと、耳をピンと立てたエリー。種族柄お肉大好きラミアと響介達と旅で肉の味を覚えたダークエルフはどうやら食欲に火が付いたようだ。と言うのも
「シープだっけ?美味しいのかな?」
「元の世界で似たの食った事あるぞ、味は美味いんだけど独特な臭いがあるんだ」
「独特な、臭い?」
「はい、臭いで嫌と言う方もいらっしゃいますね。ですがこの土地はシープ類の飼育が盛んですからアルス以外ではなかなか食べれないかと」
「食べてみたい」
「私もー!シープのお肉って食べたことないから食べてみたい!」
(言うなればご当地グルメって奴だな、食える所は…)
今は丁度昼時、昼ご飯をどうするかで考えていた事もあり2人は食べてみたいとはしゃいでいた。こういった所なら食事処もあるんじゃないかと響介は辺りを見渡すと牧場の奥の方に離れていてもある程度の大きさだと分かるロッジと入り口近くに止められた馬車と厩舎らしき建物を見つけた。
「丁度おあつらえな所があるな。あそこで聞いてみるか」
響介はステラに停まる事を伝え2台のバイクは停車した。エアバイクと言えど流石に牧場の中をバイクで突っ切ってシープ達に刺激を与える訳にはいかないのでバイクをしまいロッジまで歩いて行くことに、
整えられた緑色の絨毯のような草原に風が吹くと心地よく綺麗な音が聞こえる中を進む4人、放し飼いされ牧草をムシャムシャと食べているシープを観察していたエリーは
「ステラお姉ちゃん、あれは?」
「あれはフーリジャシープです。一見わかりずらいですが見分け方として分かりやすいのは角ですね。角の色が黒い方がフーリジャシープになりましてあっちの白い角の方がフォークシープになります」
「あっちは?」
「あれはフォークシープですね、黒み架かった灰色っぽいの角をしていますが足元をご覧下さい、蹄の形に特徴がありまして」
「「ん?」」
ステラの言った事が引っ掛かり響介とライミィは目を見合せる、ここからだとエリーが指差したシープの角はともかく足元なんて見えなかったからだ。
「ステラ、分かるの?」
「はいライミィ様。私を含む人造人間は生まれもって視力が強化されておりますのでここからでもはっきり見えますよ!それに暗視能力完備でごさいます!」
3人にキリッと決め顔を作るステラ。確かにステラのステータスボードを見せて貰った時にアビリティの1つに『人造人間の身体能力』っというのがあったのを思い出した響介とライミィ。これを見てみんな暗視能力持ってるから特別灯りの類いいらないなとその時は思ったぐらいだが、どうやら視力は自分たちが思っている以上に優れているようだ。そんな事を考えながらみんなで牧場を見学しながら歩くと
「お馬さんだー」
ロッジにたどり着く4人。ロッジの側に止めてあった馬車はどうやら行商の馬車のようでマルシャンの国章が付いていたのを見つけた。近くの厩舎はどうやら来客が乗って来た馬を停めておく用のものだったらしく、色とりどりの毛並みをした馬、中には馬鎧を着けた馬もいた。
「人間が飯時なら馬も飯時か」
その馬達は目の前にどっさりと置かれた干し草や麦類を混ぜた餌をガツガツと食べているのを目をキラキラさせて見ているエリー。今は丁度書き入れ時のようでロッジの中から賑やかな声と良い香りがしていた。するとロッジの扉が開き中から数人のアルスの国章を着けた騎士が出てきた。
「ありがとうございましたー!」
「ご馳走さまです。またよろしくお願いします」
「「「「クラウス殿ご馳走さまです!」」」」
「全く調子いいなお前ら、っとすまない」
入り口を陣取る形になっていた騎士達は先頭の騎士がそそくさと道を響介達に譲ると他の者も道を譲り厩舎で餌を食べていた馬鎧を着けた馬達の元へと向かって行った。
「あの馬、あの騎士達のようだな。と言う事はあれがアルス騎士団か」
馬に乗り駆け出し消えていく騎士達を見て響介は改めてセフィロトから仕入れた情報をまとめようとしたらちょいちょいと服を引っ張られた。
「お兄ちゃん、どうしたの?お姉ちゃん達、行っちゃったよ」
エリーが不思議そうに響介を見ていた。ライミィとステラはウェイトレスに案内されて席へと移動していた。
「対した事じゃないよ、ありがとうエリー」
「うん♪」
「キョウスケー、エリー、こっちこっちー」
先に席に着いていたライミィが手を振り響介達を呼んでいる。響介はエリーの手を繋ぎライミィ達の所へ
「どうしたのキョウスケ?」
「いや、あれがアルスの騎士かと思ってな」
「どうやらそのようで、国境付近に騎士を配置しているのは本当のようですね」
さっき思っていた事をそのままライミィ達に伝えるとステラを始めとして同意を得てもらい話しをしていると
「お待たせしましたー!ご注文はお決まりでしょうか!」
元気な大声と共にテーブルにやって来たのはニコニコとした笑みが似合う少女で頭に猫の耳があることから獣人族のようだ。すっかりメニューを見るのを忘れていた響介は周りの他の客が食べていたものが気になり
「質問を質問で返してしまうのを先に謝罪させて頂きます。申し訳ありません」
「えっ?あの…」
『質問を質問で返すな』これも大切な教えなのだがいさ仕方ないと思いウェイトレスに頭を下げる響介とお客さんに頭を下げられ困惑するウェイトレス
「皆さんは何を召し上がってるのでしょうか?」
「えっ?はい!今日のランチメニューの羊肉のシチューのランチセットですね!バケットとサラダも付いて銅貨7枚になりますよ!」
それを聞いた響介は
「みんなどうする?俺はシチューセット食いたい」
即決だった。それはライミィ達も同じだったようで
「私もー」
「エリーもー」
「私も」
「ランチセット4つお願いします」
「ありがとうごさいます!他にご注文はごさいますか?」
「あっ、すいませーんこの羊乳のチーズ盛り合わせもー」
「じゃそれ2つ」
「かしこまりましたー!」
笑顔で厨房へ向かう猫耳ウェイトレスが「オーダー!」の声が良く聞こえる中横のテーブルに座っていた冒険者達の話し声が聞こえその内容に興味があり聴力スキルをONにし聞いていた。
「どうしたの?キョウスケ」
そんな響介の行動に首を傾げるライミィ。
「いや、興味深い話しをしていたから聞いていただけだ。後でみんなにも話すよ」
そう言って笑う響介を見てライミィ達は納得したら先程の猫耳ウェイトレスが料理を乗せたワゴンを運んで来た。
「お待たせしました!こちらが羊肉のシチューセットと羊乳のチーズ盛り合わせでございます!」
料理が次々とテーブルに並べられる中特に一同が目にいったのは羊肉のシチューだ。ビーフシチューの様にドミグラスソース仕立ての煮込み料理は香辛料を上手に使用して羊肉特有の臭みというのを感じられなかった。
「凄い、良い匂い」
エリーもこの反応なら問題は無さそうだ。そう考えて見ているとエリーから
「お兄ちゃん、大丈夫、エリーも、お兄ちゃんみたいにONOFF出来る」
いつの間に成長していたようで微笑ましく思う響介だった。改めてテーブルに置かれた料理を確認する。メインの羊肉のシチューにみずみずしい生野菜のサラダにバケットとライミィが追加したチーズの盛り合わせだ。
「わぁ色んなチーズがある!」
チーズが好きなライミィは目を輝かせている。見た所クリームチーズやモッツァレラチーズなどの鮮度が命で産地ならではのフレッシュチーズがずらりと並んでいる。
「ごゆっくりー!」
「では皆さんご一緒に」
「「「「いただきまーす」」」」
響介達はアルスならではのご当地グルメに舌鼓を打ち
「シチュー美味し~」
「お肉、柔らかい♪美味しい」
「このチーズは随分塩気がないですね、サッパリとして野菜に合いそうです」
「野菜に合うぞステラ。むしろ野菜と一緒に食うと美味い、俺のオススメはトマトだ」
4人は賑やかに食事を楽しむのだった。