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異世界に来たらピアニストになった俺~しかし面倒事は拳で片付る任侠一家の跡取り息子の見聞録~  作者: みえだ
第4章 貴族の国 ~本領を発揮するピアニスト~
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64話 野宿 夜の会話

響介、ライミィ達にプロレス技を教える。




 盗賊をシバキ倒し馬車を見送る響介達はズタボロの盗賊共を最寄りの村まで引き摺って行き憲兵に引き渡すとアルスへの旅路を再開する。しかし


「もうすぐ日も暮れるな」


「このへん村とかあったっけ?」


「ないから今日は野宿になるな」


「じゃ、もう野宿の準備しようよ。キョウスケもステラもずっと運転疲れたでしょ?」


「そうだな、うんそうしよう。ライミィ、悪いんだがステラ達にも伝えてくれないか?」


「オッケー」


 響介はメテオラのスピードを落としステラのミーティアと並走する形を取る。するとライミィはエリーに光魔法のフラッシュを応用した点滅信号を送ると内容を理解したエリーはステラに耳打ちする。次第に2台はスピードを落とし停車すると響介達は日が暮れる前に野営の準備を始めた。






「テント張れたー?」

「今張り終わったぞー」

「周りに、罠も、張り終わったー♪」

「皆様ー、御食事のご用意が出来ましたー!」


 整地されている街道から外れた草原で野営の準備を進める。みんなで役割分担を決めパパっとテント張りや就寝準備をすませてステラが作ってくれた料理を食べることにする。


「本日は沢山ある保存食からスープをお作りしました!」

「この間作ったポトフをアレンジしてスープを多めにしてみましたー」

「美味しそー♪」

「じゃあ皆さんご一緒に」


「「「「いただきまーす」」」」


 響介達はステラが作ってくれたスープを堪能し舌鼓を打つ。下級(レッサー)ドラゴンやウィングタイガーの干し肉と干し茸で出汁を取り干し野菜とリュインで買い足した調味料であっさり味に仕上げたスープは


「おかわり」

「「おかわりー」」


「はい!かしこまりました!」


 響介達に好評でステラは笑顔で順番におかわりをよそっていく


「それにしてもまだ下級(レッサー)ドラゴンの干し肉あったんだな」


「まあね、ヒューズさん達にサウンドセーバーとかのアイテムと交換しちゃったからもう下級(レッサー)のは使いきっちゃったけどウィングタイガーとかウィンドファルコンはまだあるからね~」


「保存食2ヶ月分だよな?最初もらったの」


「ラミアに取っての2ヶ月分だから普通の人間換算なら大体4ヶ月分じゃない?」


「ラミアの方はいっぱい食べるのですね。勉強になります」


 実はラミアは種族的に皆大食いだ。大体人間の二倍は食べるそうで理由は皆が人間部分と蛇部分計4メートルを越える体長がありその身体の分沢山食べるのだ。それに加え


「ラミアはみんな基礎代謝が人間より高いからな、食っても太らないんだよ」


 基礎代謝、新陳代謝の良さが一番の理由だと響介は考えている。そこにライミィが現にラミアの隠れ集落で暮らしていた時ラミアの皆が限られた物の中で行われていた独自の健康法や美容法があるからそれだろうとライミィは言う


「代謝で言ったらキョウスケの方が凄いでしょ?食べたら直ぐにカロリー消化されるって本当に人間?」


「昔からなんだよ。だから大食いでラミア並みに食うのは俺もだから人の事言えないんだけどな」


 あははとみんなで笑いながら和やかな雰囲気で団欒を囲みポトフを食べる4人。それにつれ次第に日も落ち辺りは暗闇に包まれ辺りを月が淡く照らしていた。


「よし、これで明日も大丈夫だろう。ステラ、魔力供給が終わったからもう仕舞っても大丈夫だぞ」


 メテオラとミーティアのサンクォーツに魔力を込める響介。今の所クリーニングしか使い道がない5桁の魔力を越える響介はいずれ使うかもしれない魔法の訓練がてらに行っていた。


「ありがとうございますキョウスケ様。私も自分で出来ればいいのですが…」


「気にしなくていい、どうせ使い道がほとんど無いんだ。それに寝れば回復するしな」


 そう笑いながらメテオラを懐中時計にしまう響介はステラに


「それに、従者が最高のコンディションでいるのを保つのも主の義務だ。だから気にしなくていい」 


「キョウスケ様…!勿体無い御言葉でございます」


 ステラに頬を赤らめながら満面の笑みで響介にお礼の言葉を口にした。こういう言葉をサラッと言えるのが響介である。

 ステラは懐中時計にミーティアをしまうと少し申し訳なさそうな表情を響介に向ける。


「あのキョウスケ様。ご命令であれば私が通しで夜番を致しますが…」


「一人でやる必要がないだろ?最初の4時間は俺がやって後はライミィとステラがって決めただろ?それまでは寝ててくれ、時間が来たら起こすからその時頼むな」


 これも話し合って決めたこと。自分達のテントの周りにはエリーが鼻歌を歌いながら空間魔法を利用して作った重力トラップがしこたまあるが流石に皆で寝るのは無用心なので交代して夜番をする事を決めた。ちなみにエリーは子供なので夜番無しである。


「かしこまりました。キョウスケ様、先にお休みさせて頂きますね」

「キョウスケーお休みー」

「お休みなさい」


「ああ、お休み」





 先に女性陣がテントに入って眠りに落ち数刻が経った。

 焚き火が涼しい風に揺られ鈴虫のような虫が鳴いている音が聞こえる位の静かな夜で響介は焚き火を絶やさない様たまに火に集めておいた枝等をくべていく


「今思えば、こっちに来て早2ヶ月、早いもんだな」


 ポツリと呟く響介


「捨てる神あれば拾う神あり、か、こっち来て色々あったな、本当に」


 今までの事をふと思い返す。車に轢かれて死んだと思ったらこの世界に来て早々ライミィを助けてラミアの隠れ集落にお邪魔してピアノの弾いたり狩りや魔法の手伝いもした。

 狩りを通じて初めて命を奪う事の重さに気が付いた。だからこそあんなにマクルスや人を食い物にしていたロン達に対して腹の奥底から怒りが沸いたのだろうなと思っている。


「任侠。仁義を重んじ困っている、苦しんでいる者を見捨てず身体を張って助ける事。俺は、ちゃんと出来てるのだろうか……」


そんな事を考えて感慨に浸っているとテントの方からガサガサと音が聞こえた。すると


「お兄ちゃん」


 エリーがテントから目を擦りながら出てきた。


「どうしたエリー?眠れないのか?」


 エリーは顔を横に振るととことこと歩いて来て響介の前にくるとポフっと響介に寄りかかるように座り


「一人ぼっちは、寂しい」


 エリーが言うと妙に説得力がある。


「そっか、エリーは優しい子だな」


「うん♪」


 上機嫌に笑うエリーを見て安心する響介。エリーは表情が余り出ないから勘違いされやすいがちゃんと見ていると分かりやすい、そんなエリーからこんな事が


「エリー、あと3ヶ月で、誕生日」


「おお、誕生日か。するとエリーは今度は」


「12歳」


「ならちゃんと皆でお祝いしないとな」


「わーい♪」


 喜んでいるエリーを見て和やかになる響介。そこにエリーが響介を見上げるように見ると


「お兄ちゃん、は?」


「俺?」


「お兄ちゃんは、お祝い、しないの?」


「俺は3ヶ月前に終わってるし、俺はお祝いはいいよ」


 そう言った響介の顔を見るエリー。少し切なそうな響介の表情が気になった。エリーは響介のその表情にとても意外そうで頭にはてなが浮かんでいるような表情をし、金色の瞳を揺らして響介を見ていた。


「何で?」


「…俺の両親の事ってエリーに話した事あったか?」


「お姉ちゃんから、聞いたよ。確か、お兄ちゃんが、ちっちゃい時に、死んじゃったって」


「ああ、そうだ。その亡くなった日がな、俺の誕生日だったんだ。誕生日プレゼントを買いに行っていたら事故に巻き込まれて亡くなったってじっちゃんから聞いてな」


「……」


「だから俺はしなくて大丈夫だよ」


「じゃ、次はお兄ちゃんのお母さん達の、お祈りして、お兄ちゃんのお誕生日のお祝い、しよ」


「へ?」


 余りにも予想だにしないの答えに響介はポカーンと呆気に取られる。


「エリー、両方やるのか?」


「うん、お兄ちゃんのお母さん達、死んじゃったのは悲しい、でもお兄ちゃんが生まれたのは良い事、だから、今度、お祝い、しよ」


 無邪気に言ってのけるエリー。それを呆気に取られながらも聞いていた響介は


「…そっか、そういう発想は無かったな」


 本当に無かった。

 そんな発想。


 心の何処かで自分のせいなのかと過る事も小さい時は思ってしまうこともあり自分の誕生日=両親の命日と祝う気にはならず何時も墓参りをしている記憶しかない。いつしかそれが当然になりその事だけはじっちゃんも何時もみたいに厳しく言ってはこなかった。

何時も複雑そうに見ていた。

響介は無意識に柔らかな表情になり


「なら、今度からそうしようか。ありがとうエリー」


「うん♪」


 人は一人では成長しない。


 本当にそう思う。任侠に必要な仁義の仁も人が二人と書く、これは他人がいて初めて成り立つからだ。

『一方的な仁義は仁義にあらず』

 また一つ大切な事を学んだ事を思い出した響介は気付かせてくれたエリーに感謝し、静かな夜は少しだけ心が暖かく感じた。




夜会話っていいですよね

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