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異世界に来たらピアニストになった俺~しかし面倒事は拳で片付る任侠一家の跡取り息子の見聞録~  作者: みえだ
第3章 商人の国 ~遺跡を探検するピアニスト~
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進まない調査と2人の母親

4人、ヒューズ一家からステラの装備を買う。




 ニューポートに帰還してから2週間が過ぎた聖女にして勇者アリシア率いる一行。パスク教会から伝えられた国王から「『ピアニスト』を追え」という依頼を受けたものは良いもののその捜査は難航を極めた。その日の暮れ頃、パスク教会の扉が開かれ入って来たのはアリシアの仲間の拳闘士レイモンドだ。しかしその表情は芳しくない。


「どうじゃった、レイモンド?」


 蓄えた白い顎髭を撫でながら魔導師の老人ウィルが帰って来たばかりのレイモンドに成果を聞くとレイモンドは首を横に振った。


「駄目だウィル爺さん、セフィロトにも行ってみたが値が吊り上がってやがる」


「やはりか…」


打つ手無しと言った様に切羽詰まった表情を浮かべるウィルにたまらずアリシアが尋ねた。


「吊り上がる?」


「左様、セフィロトという情報屋ギルドは情報の値段が急激に変わりやすいと言うのは以前説明したの?恐らく例のピアニストは自分とその恋人の情報を良い金額で買って値を上げたのじゃろう。ちなみにレイモンドや、幾らだったかの?」


「…最低でも金貨150枚からだ、その恋人やらの女の情報は1000枚を越えてたよ」


「金貨150枚…!?何処にそんな大金が……!」


「恐らく『コレクター』の懸賞金じゃろ。ここまで尻尾を掴ませんとは中々のやり手じゃの、関心するわい」


 ホッホッホッ、と笑うウィルの見てレイモンドは苛立ちを隠さずにウィルに向かって当たり始めた。


「笑ってる場合じゃねえだろうが爺さんよぉ!この街の連中はピアニストに肩入れしてるのかどいつに聞いてもしらきりやがるしピーター商会やギルドに行っても顧客や個人の情報は開示出来ねぇって抜かすは、挙げ句の果ては泊まったって情報があったオロスなんて台帳を誤って焼いちまったなんてほざきやがるんだぞ!!」


「落ち着かんかいアホ。それだけあのトリウス教会やあのアホたれがやっていた事の結果じゃろうて」


 ウィルが言っているアホたれというのはアルスにて裁判中のロン・ハーパーだ。

 この街、ニューポートで勇者の肩書きと親の権力を使い我が物顔で傍若無人の限りを尽くしていたロンだったが最後はそのピアニストに泣いて命乞いをしたものの一蹴され指名手配犯のズボフ始め(ブラック)狼団(ウルフ)と纏めてアルスへ連行、その後の調べで神聖王国にあるトリウス教会に集まった喜捨や寄付金を父親が関与し横領した資金でズボフ達を雇い匿っていたとされアルスは国際裁判権を執行しハーパー卿を出頭させた。それにロンも加担していた事も発覚し親子共々今尚追及が続いている。

 その一件がありニューポートでは貴族を除いた凡そ8割の住民達の今まで溜まっていた教会に対する不満が爆発。トリウス教会は勿論パスク教会や他の五神の教会、はては貴族及び教会末端関係者までも飛び火しこのニューポートの住民達には快く思われておらず聖女の肩書きを持つアリシアでさえそういった住民達にまともに話を聞くのが困難になっている状態だ。


 対してそのピアニストは弱き者達の為に立ち上がり苦しめていた勇者と教会に鉄槌を下したとして英雄のように称えられておりそれに加えこの付近の盗賊達の7割を潰したとも言われていることからこの街の商売人やマルシャンの行商人から一目置かれ、貧民街の住民達には恋人共々絶大な人気を誇っている。

 だからこの街の住民はアリシア達を始め教会関係者がピアニストの情報を聞こうとしても途端に口を紡いでしまい満足に情報が集まらないのだ。


「……」


「どうなさった、アリシア嬢?」


「いえ、同じ街とはちょっと思えなくて…」


「…無理はねぇよ」


「そうじゃな…」


 少し目を伏せたアリシアを見て同じく目を伏せたウィルとバツが悪くなったように黙るレイモンド。

 神聖王国の中でも名高い貴族の生まれで生まれてすぐ聖女としての力に目覚めずっと聖都の王立修道院にて教育を受けたアリシア。そしてパスク教会に勇者として選ばれ神聖王国国民から憧れと羨望を得て誰もが羨む順風満帆な人生を歩んで来ただけにこのようなバッシングには全く免疫がなく戸惑いを隠す事が出来なかった。


「そういやパメラは?」


「パメラ嬢は買い物じゃ」


「…一人で行かせて良かったのか?」


「…流石に今さら街の者とは揉めんじゃろうて」


 ウィルとレイモンドは揃って溜め息をつく、それも無理はなかった。

 と、言うのも生まれながら聖女として王立修道院にてあらゆる分野で功績を残し勇者に選ばれたアリシア。その聖女アリシアのお供として選ばれたパメラはアリシアをまるで自身の信仰する神のように崇拝していた。

 ウィルが言っているのは、アリシアが街の住民からピアニストの情報を聞こうとした時に冷たくあしらわれた事に激怒し街の中でしかもよりによって子供に向かって神聖魔法を放とうとしたことがありより印象を悪くしてしまったのだ。ウィルとレイモンドが頭を悩ませている横でアリシアはずっと


(ピアニスト…)


 ピアニストに対して何か関係している事を考えているアリシアがふと思い出したのはあの時森の中で出会った黒髪の整った顔立ちの、青い瞳の青年と金髪の女の子だった。







 時を同じくして魔族領の深い森の中でとある女性の一団が火を起こし肉を焼き食事を取っていた。ステーキ肉のように厚切りにされた肉をまるで焼き肉のようにジャンジャン焼き、一団は焼いては食い焼いては食いを賑やかに繰り返していた。


「いやー、まさかこんな所にゴールドボアがいるなんてな!うめぇ!」


「のんびり食べるのも良いけど満足したら見張り代わりなさい!私だってお腹減ったのよ!」


「そんなプリプリしちゃ駄目よアヤメ~」


「キョウスケにー」

「嫌われちゃうよー」


「キョウスケは関係ないでしょうがーー!!」


 アヤメが顔を真っ赤にして抗議する姿にあははと笑い合い食事をとっているのはオリビア達ラミアだ。響介とライミィの2人から別れ安住の地を探し旅をしているこの一団。今日も今日とで旅の道中に獲物を狩り賑やかに囲んでいた。

 

「それじゃウノ達食い終わったみたいだからウノ達にやらせるわよ。ウノ?みんな?いいか?」


「「「「「「わう!」」」」」」


「待ってベラ。それなら私が調教魔法(テイム)したラプトル達も一緒にやらせるわ。いいわねみんな?」


「「「「ギャウ!」」」」


 ラプトルとは下級(レッサー)ドラゴン種に分類される竜の魔物であり大きさは2メートル程の小型のドラゴン。足が早くスタミナがあり気質も落ち着いて頭が良い竜が多く騎竜としても優秀な竜だ。

 2人の指示で6頭のグランドウルフと4頭のラプトルが一斉に散り森へと消えた。


「悪いなラナ。助かるぜ」


「気にしないでベラ。あの子達も運動がてら丁度良かったわ」


 うふふと笑い緑色の髪を揺らしたラミアのラナ。そこへ労いの言葉をかけられた。


「2人共、ありがとうね」


「オリビア様」


「ベラの他にもラナやメリアやトレア達が調教魔法(テイム)を覚えてくれたからグッと負担が減ったわ。みんなありがとう」


 グランドウルフとラプトル以外にもグリンイーグルとフォレストベアと言った魔獣やウッドバイパーやポイズンスネーク等の蛇の魔物を調教魔法(テイム)して自分たちの戦力としていたオリビア達。今となっては皆レベルが30以上、オリビアも40を越えているのに加え集団戦法や罠などで着実に削る戦い方を徹底している為並み半端な魔族や人間では太刀打ち出来ないレベルの一団だがラミアは争いを好まない種族の為こうして誰も立ち入らないような深い森を選び進んでいる。


「こっちのお肉持っていっていいかしら?」


「構いませんよ、そう言えば」


「どうしたラナ?」


「オリビア様、あのハイエルフは大丈夫ですか?」


「ええ、ラナがラプトルを調教魔法(テイム)してくれたおかげよ。ありがとう」


 うふふと笑いラナに改めてお礼を言うと2人分の肉を持って行くと、一団の端っこでちょこんと座っていた女性に一人前の食事を渡す。


「ご飯食べれる?アリスちゃん」


「はい、ありがとうございます…」


 先日、ベラが調教魔法(テイム)したグランドウルフ達が行き倒れている所をハイエルフ、アリスを見つけオリビアは放って置くことが出来ずラナが調教魔法(テイム)したラプトルに乗せて移動していた。

 目覚めたアリスはラミアに囲まれている事に気が付いた時は目を白黒させたがオリビア達に敵意が無いと知り今の所行動を共にしている。アリスはオリビアから肉を受け取ると少しずつ食べ始めた。


「ごめんなさい、私の分まで…」


「いいのよ気にしないで、いっぱいあるんだから」


 アリスが食べるのを見て少し安心したようた表情をするオリビア。目覚めてからアリスはずっと塞ぎ込んでいたが最近はやっと食べ物を口にしてくれるようになった。何故あそこで行き倒れていたのか訳を聞いても言いずらい事なのか身の上をまだ聞いた事がなかった。

 オリビアもオリビアで無理に聞くのは筋違いと考えておりアリスから話してくれてるのを待つことにしている。そんな時


「…?この音は、ピアノ?」


 アリスが辺りを見回す、どうやらマリーがサウンドセーバーで響介のピアノを再生しているようだ。今流している曲は響介が弾く曲の中でもかなりテンポの速い曲をメドレーで終始ハイテンポで引き続けるものだ。しかも最初から抜群に速い曲を見事にまで弾く抜く、次の一小節になると


「おっ!この部分は!」

「キョウスケお得意のやつだ!」

「私、この曲好きなのよ」

「マリー、次はこの曲単曲で流してー」

「ホントにいつ聞いてもスゴいわね。キョウスケ君のピアノは」


「オリビアさん、皆さんが言っているキョウスケ君って方は…?」


「キョウスケ君?キョウスケ君は人間の男の子でピアニストで、私達の恩人なの」


「恩人?」


 アリスは首を傾げた。それもそうだろう人間がラミアを助けるなんて聞いた事がなかった。すると食事をしながら聴いていたラミア達が話し始めた。


「分かる分かるー普通そんな顔するよねー」

「キョウスケ君は見た目で判断する人じゃないからね」

「それにカッコ良くて優しいし筋肉も凄いわよね」


 口々に出る言葉にアリスは呆気に取られた。人間とラミアが良好な関係を築けているのが意外だったのだ。アリスは皆が言っている響介が気になり


「今、そのキョウスケ君は?」


「いないわ。世界を見たいって言ってね。娘も付いて行っちゃったわ」


「娘?オリビアさんも娘さんが…?」


「えっ?もってアリスちゃんにもいるの?」


そんな会話をオリビアとアリスがしている横ではこんな会話が


「ねぇねぇリリス。キョウスケとライミィで新しい話題ある?」


「あるわぁ。今あの2人、ダークエルフの女の子と見つけた人造人間(ターロス)と一緒に冒険者してるそうよ」


 この時の事をオリビアはこう語る「あの時のアリスちゃんの反応とリリスに対しての鬼気迫る詰め寄り方は凄かったわ」と





ここまで読んで頂き誠にありがとうございます。

作者のみえだと申します。

これにて第3章は終了になります。自分が考えている中で色々とお話が進む章だっただけに思っていた以上に長くなってしまいました。

第4章は今回よりかは長くはならないように頑張って続きを書いていきます。


また宜しかったらブックマークや評価を頂けたら今後の励みになりますのでどうぞ宜しくお願い申し上げます。

最後になりましたが読んで頂きありがとうございました!

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