62話 誕生 大剣メイドステラ
響介、アランに報告する。
俺は突っ込まずにはいられなかった。
確かに今日はステラの服や装備を買いに行く約束をライミィとエリーとステラとしていた。しかし俺はアランさんに呼び出されてしまい先に宿出たのが3時間前で現在に至る。
遺跡を出て昨日ギルドに報告がてらステラの希望で冒険者登録した後ステラのステータスを確認したところジョブが重戦士ということもありそれに相応しい服や装備が欲しいと言うことだったが目の前のステラは嬉しそうに自身の髪の毛より濃い藍色のメイド服を着てはしゃいでいる。俺は胸中で
Whats otherworld people!
メイド服なんて服選びの行程いくつ飛ばしやがった!おかしいだろ!?
と、突っ込まずにはいられなかった。心の中で
「待って、お兄ちゃん」
「キョウスケ、これには理由があるの」
「理由?」
何だ理由って?俺はてっきり鎧や剣でかなり出費があると思ってたんだがと考えていると
「私がお話しましょうキョウスケさん!」
と、そう言って颯爽と現れた女性。俺には見覚えしかない、ライミィより薄い金髪のこの美人さんは行商人ヒューズ一家の長女マリオンさんだ。後ろには兄のジョセフさんとご両親もいる。
「これは皆さんこんにちは。どういう事でしょうか?」
どうやら訳を知っているようだ。そう思いマリオンさんに訪ねると
「これはステラさんのご希望でもあるんです!」
このマリオンさんの言葉に俺以外が頷く
「ステラの希望?」
「はい。ステラさんは仰いました。『キョウスケ様、ライミィ様、エリー様達の従者として相応しい服が欲しい』と」
「「「うん、言ってた」」」
それは俺も聞いてたので思わずライミィとエリーとハモった。ステラは自分は俺達の従者だからそれに相応しい服装が欲しいと言っていた。しかし俺達は思い付かなかったので今日色々と見に行く予定だった。
「ステラさんの事は私達も存じ上げています。そのご意志を尊重するならやはり何事も形から入るのが大事です!ジョセフ兄!従者と言えば?」
「メイド!」
「メイドさんと言えば?」
「メイド服!」
「exactly(その通り)!」
OK把握した。つまりステラにメイド服を薦めたのはこの家族か。ヒューズ一家の表情を見るに全員グルだな、そして恐らく
「お姉ちゃん、これがじゅーしゃの、格好?」
「みたいだね~、エプロンドレスって言うみたいでステラ身長高いから似合ってるね」
「お褒めの言葉ありがとうございます。ライミィ様」
完璧にこの行商人一家に丸め込まれているライミィ達。でも仕方ないことだと思う。何故なら
ライミィ→約2ヶ月前まで深い森の中で人目に隠れるように種族で生活
エリー→母親と2人でこちらも人目に隠れるように暮らす
ステラ→この間目覚めたばかり
と、ぶっちゃけこの世界に来たばかりの俺含めみんな一般的な世間に疎いのだ。特にライミィとエリーはヒューズさん一家を信用しているので多分薦められるがままだっただろうな、ステラはもっての他だ。そんな事を考えているとマリオンさんがメイド服の詳細を語る
「それにこのメイド服、ただのメイド服じゃあないんです!キョウスケさん、キョウスケさんは鑑定スキルをお持ちでしたね?是非確認して頂けたらと思います」
そう言われ俺は鑑定スキルを使いステラが着ているメイド服を確認する。
コンバットメイドドレス
アイテムランクA
魔法媒体不可
王室に仕える侍女をモデルに戦闘前提に作られた服。全身の至る所に防御魔方陣が仕込まれており質のいい繊維に魔力を込めて作製されているため見掛けによらず下手な鎧よりも防御力、魔法防御力が高い。また見た目に反して軽く動き易く前衛として戦う戦士、剣士、重戦士向け。
「突っ込み所しかねえぞ!?この服戦闘前提に作ってんの!?前衛向けなの!?前衛の装備の定義がぶっ壊れるわ!?しかもこの服防御値確認したら魔法金属のミスリルで作ったアーマーとほぼ同じじゃねえか!?」
「わかるよキョウスケ。誰だってそう思う、私もそう思う」
「お姉ちゃんと、おんなじような、反応。仲良し」
つい矢継ぎ早に突っ込みを入れてしまった。その光景にみんなが笑いライミィはうんうんと共感してくれていた。特にヒューズ一家は今まで見たことない取り乱した俺を見て「ああ、年相応な部分あるんだな」という暖かい目で見ていた。
ってこれ少し冷静なって考えるともしかして…?
「ふふふ、気付きましたかキョウスケ君?これ実は魔法道具なんですよ」
笑いながら説明してくれるカーラさん。やっぱりこれも魔法道具なのか、魔法道具になるぐらいだから需要はあるんだろうなと思ってるとマリオンさんが解説してきた。
「このコンバットメイドドレスは鑑定スキルで見てもらった通り優れた防御力は勿論ですが、特筆するのはやはりこの洗練されたこのクラシカルスタイル!メイドさんは肉体労働ですので踝まで保護するロングスカートに足元は通常使いは勿論戦闘時に適した戦士ブーツに筋力増強効果のあるオープンハンドタイプのパワーグローブ、更にはホワイトブリム等の小物にまで防御魔方陣が仕込まれるほどこだわり丁寧に作られています」
「ホワイトブリム?」
「私の頭に付いているカチューシャみたいなものですよ、エリー様」
「実際着てみてどうなんだステラ?」
「はい、大変動き易くて着心地も良くて可愛らしく、気に入りました!」
嬉しそうに笑顔で響介に報告するステラ。そこに
「いやぁ、ステラさんスタイル良くて本当にお似合いです!ねぇママ!!」
「そうねぇ、ステラちゃん羨ましいくらいスレンダーだから良く似合うわね、この服着る人を選ぶから尚更だわ」
造られた存在である人造人間のステラはライミィ曰くその身体はお人形のようにスラッと綺麗らしい、俺は見たことなので知らないが。
えっ?なんで見ないのかって?ステラの事だから言えば裸見せるだろうって?そんな事口が裂けても言えるか!ライミィに泣いて絞められるしエリーに軽蔑されるだろうが!!
「ステラお姉ちゃん、髪型、かわいい」
「ありがとうございますエリー様。シニヨンというらしくマリオン様からこの髪型の整え方も教わりました。後でエリー様にもしてあげますね」
「わーい♪」
すっかり仲良くなったエリーとステラ。エリーの出生の事を考えて見るとその姿はお姫様と側近のメイドだ。見ていて微笑ましくつい俺とライミィは和んでしまう。
ただ、ある一点を除けば
「で、ステラ。武器はそれ買ったのか?」
そう言いつつ俺は鑑定スキルを使っていた。視ているのはステラが背負っている俺の身長以上ある大剣だ。
「はい、私の使い方ですと頑丈な物でないと壊してしまいそうで…」
バスターブレード
アイテムランクC
魔法媒体不可
重さを利用して叩き斬る事を重点に置いた大剣。
グレートソードの類いに該当し片刃で頑丈に打たれているのが特徴の無骨な大剣でグレートソードの中では重く使用者にはそれ相応の力が必要とされる。
「ステラさん凄いんですよ!こんな重たい武器を片手剣のように扱ってましたから!びっくりしたよな父さん!」
「全くだ。過去に色々な重戦士を見てきましたがここまでの方は中々いませんよ!」
「お褒めに預り光栄でごさいます」
ショーンさんとジョセフさんが口々にステラに称賛の声を上げる。まあ確かにこんな馬鹿デカイ大剣をぶんまわす女性なんてまずいないだろう。しかしここで俺はあることに気がつく
「そう言えばライミィ、支払いはどうしたんだ?みんなで見てから買うからと金貨袋持ってるの俺だったよな?」
「それなんだけどさキョウスケ~」
少し困ったような笑いをするライミィを見て俺は首を傾げた。
何かあったんだろうかと考えているとショーンさんが口を開いた。
「それはね、実は私達が仕入れたものなんだよ」
「ショーンさん達が、ですか?この間こんなのなかったですよね?ライミィは見たか?」
「この間だよね?私も見てないよ」
この間と言うのはオウレオールを飛び出した時だ。そう言えば後いくつか街に寄ると言ってたような気がした。
「リュインに来る途中にダンジョンを探索していた冒険者達とこれと回復アイテムを物々交換したんだよ。珍しい物だからどうせならピーター商会に吹っ掛けようとしたんだが売れなくてね」
「そこへライミィちゃん達が来てくれたと言うわけさ、キョウスケ君達が買ってくれるなら今ならあのバスターブレードとステラちゃんの予備用にこっちのブロードソード2本込みで合計金貨220枚でどうかな?」
と、聞いてくれたショーンさん。
成る程、どうやらヒューズ一家は元々他の商品を納品するためにピーター商会に来ていたようだ。しかしあのメイド服やバスターブレードは断られたがそんな時にライミィ達が来たと、どうやらある意味ヒューズ一家にとっては丁度良かったようだ。しかし金貨220枚なんて大金だ。冒険者が其処まで稼ぐにはAランクの依頼を平均3つ程やらないと稼げないだろう。しかし俺は
「即金で」
なんら問題ない。さっきの報告と一緒に前のゴブリン討伐の報酬も貰ってきたからいちいち懐中時計から金貨袋を出さなくても今手元に金貨1200枚あるから支払いには十分だ。俺はポンと金貨220枚をショーンさんに渡す。
「流石キョウスケ君ですね。ありがとうございます」
「いえいえこちらこそありがとうございました。ステラも良かったな」
「はい!キョウスケ様ライミィ様エリー様ありがとうございます!!」
ニコニコと嬉しそうな笑顔を俺達に向けるステラ。それにはヒューズ一家も嬉しそうだ。
「いい商売をしたな父さん!」
「ああ、お客様の笑顔を見ると気分がいい!」
「あなた?ジョセフ?後で『お話』が」
「「は、はい…」」
しかし、ヒューズ一家の男達はこの後こんこんとカーラさんに入手経緯と諸々含め説教されていた。