60話 人造人間 終わった任務に鎮魂歌を
3人、人造人間を見つけ名前を付ける。
容赦なく剣を振りかぶる人造人間レブナント達の攻撃を玄武甲盾で受け止めその払い除け様に功弾を当てて2体程吹っ飛ばした。
「そうだお前ら、俺の所へ来い…!」
レブナント達が皆、武器が剣や斧等の近接武器しか持っていない事が幸いだ。弓はまだしも銃なんて持っていたら目も当てられない。
響介は何体か倒しながらも守りながら戦う事の難しさを痛感していた。
(今までの喧嘩がおままごとに感じるな、こいつら死んでいても本質は変わっていない…!)
「…目の前の男を最大の脅威として認定、A班B班、攻撃を集中させよ」
「「「「了解」」」」
レブナント達が絶え間ない波状攻撃で迫るが響介は白虎爪を展開し捌きながらライミィ達がいる後方に向かわせないよう徹底して戦っていた。
(白虎爪が使えるようになっていて不幸中の幸いか、殴って倒せれば楽なんだがな)
そう思いつつ大きく振りかぶった人造人間のがら空きのボディに白虎爪を叩き込む、体とその中にあった魔石が三枚下ろしのように三分割になりレブナントは静かに倒れた。
「ラッキー、魔石に当たったか」
レブナントやアンデットには痛覚を始めとした神経が無い。その為レブナントやアンデットには気を失うという概念が無く殴り倒すというのは現実的ではなく、格闘主体の響介とは相性があまりよろしくないのだ。現に功弾で吹っ飛ばした2体の人造人間レブナントも何事も無いように攻撃に参加している。
倒すには先ほどのようにアンデット化の際に精製される魔石を摘出若しくは破壊するしかない。しかし
(相性が悪い…!)
人造人間の特性を考えると響介は兎に角ライミィ、特にエリーとの相性が最悪なのだ。
するとそこに人造人間に何本もの扇状の炎の矢が突き刺さる。ライミィからの援護射撃だがまるで効いていない。自分に向かって来ていたレブナント達の何体かがライミィ達の方を向いた為響介は棒苦無を取り出し人造人間達の攻撃を捌きながら投擲、攻撃を受け仰け反った人造人間達は響介の方を向いた。
「おいおい、俺と遊ぼうぜ?」
「…行動変更、目の前の脅威を排除します」
「上等だっ!!!」
今までの喧嘩はずっと自分の身だけを考えれば良かった。
楽だった。
それに自分の今の力量も把握しておりレブナント達も時間はかかるが響介自身には対して脅威でも無い。
しかし今はもう1人ではない。
守らなければならない大切な仲間が自分の後ろにいる。白虎爪でまた1体片付けながら響介は戦闘に集中していた。
「お姉ちゃん…!お兄ちゃんが……!」
「わかってるよ、ちょっと待って…!」
棚を元にエリーの錬金魔法で作った即席の遮蔽に身を隠し内心焦りながらも努めて冷静にライミィは慣れた手つきでコンジットボウにキツく弦を張り調整するとマジックバックから矢を取り出して引き絞る
「当たれ!」
引き絞った一閃は人造人間を射抜き吹き飛ばしたが直ぐにむくりと起き上がった。
「ちっ!外した…!」
即座に身を隠し息を潜めながら舌打ちをし次の矢を取り出すライミィ
「いえライミィ様、確実に心臓部に当てていますが…」
「心臓部に当たっただけだよ、魔石には当たってない!ここまで魔法が効かないなんて本当に厄介だね…!エリーもステラもここに隠れててね」
「うん」
「は、はい」
隠れながらライミィはまた矢をつがえて放ち響介の援護に徹底する。ライミィと特にエリーが何故相性が最悪なのか、それは人造人間の特性にあった。
「それにしても本当に魔法が効かない…!最初はフレイムカッターを込めて、次は魔力で弦を張っただけなのに全然だよ」
「あの第2世代後期生産型は前線への対応の為魔法による攻撃や妨害に対して特に抵抗力を上げたタイプになります。ですので銃や弓で遠距離から射抜くか、近距離での斬撃及び打撃が有効な手段となります」
「最悪壁扱いじゃん、厄介な事してくれるよ…!」
造られた存在、魔法生命体である人造人間は生命活動に魔力を使っている為魔法を扱うことが出来ないがその代わり魔法に対して抵抗力が高く造られている。その為か魔法は勿論魔力で弦を張ったコンジットボウでもどうやら魔法とされてしまったようだ。さらに
「エリーの状態魔法、効かない。岩石ゴーレムじゃ歯が立たない…」
これが相性の悪い理由、魔法主体で行動を組み立てるエリーにはこのように魔法が効かない敵というのは天敵に近く。レブナント達が強すぎてロックゴーレムでは壁にしかならないのが現状となっている。最もは本来アンデット等に有効な治癒魔法も強化された特性を持つ人造人間に通用しないというオマケ付きであり拍車をかけた。
「私の魔法も期待出来ないね、でもキョウスケのお陰で魔石の場所はわかったよ!次は当てる!」
そう弓矢をつがえた時だった。一体の人造人間が隠れていたライミィ達に気付き突撃、それを見たライミィはアミュレットに魔力を込めて人間状態になると向かって来た人造人間に向かって跳躍、真上を通り過ぎざまに脳天目掛けて何本も矢を放つ。
「よし!」
脳天ごと魔石を射抜かれた人造人間は静かに倒れると何体かの人造人間がライミィに向かい構える。
「…目標変更、ラミア、排除開始」
「出来るならやってみなよ!」
襲い掛かる人造人間レブナント達の攻撃を響介の見よう見まねの軽い身のこなしでかわし跳び跳ねては隙を見つけて射るという響介とは違う方法でレブナント達を翻弄し引き付ける。
そうして響介とライミィが人造人間レブナント達を引き付けている間エリーと隠れていたステラは
「エリー様、武器か何かないでしょうか?」
「武器…?」
「はい、私は元は近接戦闘型の人造人間です。ですので剣か何かあれば戦えるのですが…」
「剣?あ、そうだ」
何かを思い出したようでエリーは自分のマジックバックを漁る。すると
「これ、使える?」
「残りは24か、ある程度は減ったなライミィ」
「ほとんどキョウスケが倒してるけどね〜」
互いに背中を預け状況を確認する。倒したレブナントは12体、3分の1を消耗したことでレブナント達は響介とライミィを最大の脅威と認識し残りの24体で包囲しジリジリと距離を詰めていた。
「どする?」
「エリー達と反対方向にいるレブナントを倒して外に出て引き付ける」
「あの斧持ってるやつね?オッケー」
2人がそう決めていた時だった。
「でえぇぇぇぇい!!!」
「「!?」」
その瞬間反対のレブナント数体の上半身が吹っ飛んだ。まるで一陣の突風が吹いたように斬り跳ね跳んだのだ。それをやってのけたのは
「キョウスケ様!ライミィ様!ご無事ですか!?」
「「ステラ!?」」
ステラだった、そしてその手に持っていたものは
「あれって、この前キョウスケが聖騎士からぶんどった聖騎士の剣だよね?」
「ああ、錬金魔法の材料にしたいってエリーに渡したやつだな、おっと!」
ステラの登場に驚いた2人だが、向かってきたレブナントの攻撃を響介が白羽取りの要領で受け止めるとライミィが流れるような動作で魔石目掛けて矢を放ち倒す。ステラは手近にいたレブナントに斬りかかる
「はああぁぁぁ!!」
真上から振り下ろした一撃はレブナントを聖騎士の剣ごとけたたましい程の音と共に粉々に破壊し、その威力は地面にクレーターを作る程の一撃だった。
「うっそぉ」
「マジか」
「確か、あの剣って銀製だよね?」
「単純なパワーなら俺よりステラの方がありそうだな」
そう会話しながらレブナントの攻撃をひらりとライミィがかわし隙だらけのレブナントのボディに全力の右ストレートを叩き込み魔石を砕き倉庫の外まで殴り飛ばす響介。丸腰になりレブナント達の攻撃を避けていたステラだったが
「ステラお姉ちゃん!使って!」
新しい聖騎士の剣が投げられた。剣を投げるなんてエリーが出来るはずがと思っていたがその疑問が直ぐに解決した。投げた方を見るとエリーは銀色の巨人の頭の上に乗っていた。
「キョウスケ、あれって…」
「シルバーゴーレムだな、そういえば聖騎士の鎧も一緒に渡してたから多分媒体に使って錬成したな」
聖騎士の鎧を使い錬金魔法で錬成したシルバーゴーレムに乗りエリーはゴーレムに指示を出す。ズンと音を立て進むゴーレムにレブナント達が襲い掛かるが
「今度は、平気…!」
レブナント達の強力な攻撃を耐えきるシルバーゴーレム。エリーが錬成するにあたり聖騎士の鎧の元になったシルバーアーマーの防御力が上乗せて反映されロックゴーレムとは比較にならない位頑丈なのである。レブナント達を振り払うとそこに
「もらい!」
「シャラァ!」
弾き飛ばされたレブナント達を見逃さず、体勢が整う前に魔石のある場所を正確に射抜くライミィと白虎爪でまとめて切り裂く響介。2人の乱入で一気に形成が、と言うべきか響介の懸念点が解決してしまったのでそうなるともうレブナント達は脅威ではなくなる。
「お姉ちゃん!」
「オッケー!」
「ステラ!そっちに吹っ飛ばす!頼む!」
「了解」
4人で連携を取り合いながら戦い1体、また1体と倒す
「…被害、甚大、マスターへ、連絡を、」
人造人間の中では隊長格だったであろうレブナントが頻りに呟いていた。
この人造人間達の任務はここの防衛だったのだろう。しかし戦争に伴いここで戦いになったのかそれとも放棄の時に置き去りにされたのかわからないがレブナント化になっても生前に与えられた任務をボロボロになった武器でただ遂行しているだけだったようだ。素早く懐に飛び込みステラは
「貴方達の任務はもう終わったんです。だから、もう休みなさい!」
その言葉と共に剣を振り抜き最後の一体を斬り捨てる。
「これで、終わりでしょうか?」
辺りをキョロキョロと見回すステラに
「俺達以外の物音無し」
「動体の熱反応は無いよ」
「匂いも、しないよ」
周囲の状況を確認しステラに教える響介達。それを聞くとふうとステラは息を吐くと響介達に尋ねる
「私は、お役に立てましたか?」
「ああ、助かったよ」
即答気味に答える響介にライミィとエリーも続く
「ステラ強いんだねぇ、私びっくりしちゃった」
「うん。凄かった」
「お褒めに預り光栄でございます。ですが…」
急にステラは響介に向き申し訳無さそうに顔を曇らせる。
「どうした?」
「キョウスケ様申し訳ありません。お預かり頂いた剣を3本共駄目にしてしまいました」
そう言ってステラは聖騎士の剣だった物を響介に見せる。一本目は力一杯に叩き付け粉々に、二本目は途中で折れ、三本目は折れはしなかったが刃こぼれだらけになっていた。
しかし響介は笑いながら
「ああ、気にすんな。あの剣とエリーがシルバーゴーレムに使った鎧な、下手に売ったら足付きそうだから処分に困ってたんだ。だから有効活用してくれて助かったよ」
「ステラお姉ちゃん、だいじょぶ、エリーも鎧3つ使った」
「頑丈な理由が今わかったよ」
「それにしてもさぁ」
「どうした?ライミィ」
「どする?ここの人造人間」
改めて倉庫の中と外の一部を見回す。魔石を破壊されて倒れた人造人間の成れの果てがあちらこちらにある。このまま放って置くとまたレブナント化するだろうと考えていると
「あの、キョウスケ様。お願いが」
「皆まで言わなくても大丈夫だステラ。弔ってやりたいんだろう」
「はい」
「お兄ちゃん、穴、掘れたよ」
倉庫の外、木々が無く開けた場所でシルバーゴーレムに穴を掘るように指示を出していたエリー。
「ありがとうエリー。並べていくから並べ終わったらまた土を被せてくれ」
「はーい」
響介とライミィとステラがエリーのシルバーゴーレムが掘った穴に人造人間達の遺体を最後まで使っていた武器を添えて中央を少し空けて並べる。そして最後に
「この人も、一緒の方がいいよね」
ライミィが持って来たのは半分も残っていないしゃれこうべとわずかな白骨。それを見たステラはそれが誰なのか理解し
「開発者…」
そう呟き無言の再会を果たす。ライミィから受けとると中央の穴に自分が壊した三本の剣を添え
「私は一緒には逝くことは出来ません。皆さんとどうか、安らかにお眠りください…」
それを見届けエリーはまたゴーレムに指示をし土を被せ埋め、そこに響介が「R.I.P.」と掘ったある程度の大きさの石を石碑代わりに置くとピアノを出し弾き始める。
「この曲は…?」
「曲調変わってるけど、確か『亡き者達の楽園』だっけ?」
「鎮魂歌代わりにな、最後は穏やかに送りだそう」
とても穏やかに、そして優しくも物悲しい曲が響き渡る。曲が終わるまで響介達は哀悼の意を、ステラは開発者の、他の人造人間達に冥福を祈った。