59話 出会い3 藍色髪の人造人間
3人、所長室を見つける。
…私は、夢を見ました。
開発者の夢です。開発者は何度も私に謝っていました。
「すまない、こんな時代にお前を産み出してしまって、すまない…」
泣いて謝っておられました。そしてそのお姿は日に日に弱り切っておられました。
泣かないで下さい。私はそんな事は望んではいません。出来る事なら今すぐここから出て開発者を慰めてあげたい。そして沢山尽くしたいのです。だからこのプレイスとの境がもどかしい!
私は人造人間。開発者は私達は「ヒト」を助ける為に産み出したと言っておりました。だから私も沢山沢山「ヒト」のお役に立ちたいのです!
それに私は戦闘用モデルの人造人間から更にカスタムされた体を与えられた所謂ハイスペック、特別製なのです!
「私が出来るのはここまでだ。いつか、お前に世界を見せてくれる者が、お前に名を与え快く迎えてくれる者が現れるのを切に願う…」
名前!そうです名前です!人造人間には名前がありません。みんなナンバー何何だとかの番号しか与えられていません。開発者も呼んでくれませんでした。
そしていつの日か私はずっとこのプレイスの中に1人ぼっち。
迎えてくれるヒト、私のご主人様。
どんなに素敵なヒトかと、私は夢を見る。
「ここが倉庫?」
所長室の奥にあった部屋の転送魔法陣から転送された響介達は寂れた倉庫にいた。中は閑散として壊れて崩れた天井の一部分からは太陽の光が差し中を照らしている。中は何もなくがらんとしておりあっても他の部屋と同じように空っぽの棚いくつかあるくらいだ。
「どこに人造人間はいるのかな?鍵は2つあったけど」
ライミィは鍵を手に取る。鍵の1つはこの倉庫入り口の鍵だったがもう1つが見当付かないといった所だった。何よりも
「鍵、カードキーじゃ、ないやつ」
今までのカードキータイプから何処にでもあるような金属製の鍵だ。しかし鍵の特徴も方や響介にとっては元の世界で良く目にしたシリンダータイプらしいものでもう1つは錠前等に使われている鍵、シリンダータイプの鍵は既に倉庫に入る時に使用した為残る鍵は1つ
「でも怪しいのはあの棚だよな」
「そだね~、どかそっか」
「だな」
「エリー、危ないからちょっと下がってね」
「うん」
響介とライミィはテキパキと並んでいた棚を退かすと
「あったよ、完璧にここの鍵だね」
床に錠前が掛けられた隠し扉があった。棚の接地面の凹凸を上手く生かして隠されていたが今までの比べ比較的分かりやすかった。
「さっきのに比べたら楽だね~」
「そうだな、ん?」
「どうしたの?キョウスケ」
「退かしたらこっち扉があるぞ」
「え?」
響介が見つけたのは錆びた扉。見た所鍵も何もない簡素なもので空いているようだった。
「どうする?」
改めて響介はライミィとエリーに聞いたが、返事より先にエリーが開けて中に入ってしまった。
「ちょっ!エリー、まだ確認してないから待って!」
ライミィが両手や尻尾を伸ばして静止しようとしたが、ふとエリーが立ち止まりまるで黙祷するように少し俯いて目を閉じたのを見て
「どうしたの?」
エリーの以外な行動が気になり部屋の中に入る響介とライミィ、その中には
「…そういうことか」
響介とライミィも黙祷を捧げた。部屋には窓向きにソファーがぽつんとあるだけでそのソファーにはとうに風化したであろう僅かに残っていた白骨と一冊の本があった。黙祷を解いた響介は側にあった本を拾いあげ中身を改めてると
「スヴェン・プトレマイオスか…」
ふいに響介はそう呟いた。目の前の遺体はどうやらスヴェン・プトレマイオス本人に間違いはなさそうだ。
「この人が…?」
「この本は日記のようだ。晩年はずっとさっき見つけた地下扉の先にいる人造人間の調整をしていたそうだ」
「そう、なんだ。中はなんて書いてあるの?」
「『王国はここの放棄を決定した。仕方がないだろう。オウレオールがあんな魔導兵器を使用して狙撃してきてはな。人造人間のプレイスがあり私がいるここを狙うのは当然の事だろう』」
「オウレオール?」
「神聖王国ってとこだよ。この時代からあったんだ…」
「『だが構わない。そのお陰で私は自分の死を偽装出来、生き残った部下達にも情報を徹底させてここから避難させる事が出来た。表向きでは私は死んだことになっているだろう。しかし、私は後悔している。この娘をこの時代に産み出した事をだ。今見つかれば確実に兵器として使われるだろう、だから私は自分の命尽きる迄ここに居て彼女を守ろう。戦争の時代よりも生きるのにもっと相応しい時代があるはずだ。幸い彼女のプレイスへの供給は私の空間魔法によって確保してある。私が死んでも向こう1000年は大丈夫だろう』」
「「……」」
「『この願いが叶うなら、どうか、心ある者達が彼女を、私の娘を連れていってくれることを切に願う』」
響介は読み終えると日記からパラパラと何枚か写真らしき物が落ちた。拾いあげるとそれは天体、星の写真の様で裏には星の名前だろうか書かれていたが掠れていて読めなかった。
「何それ?」
「天体の写真だ。多分星を見るのが好きだったんだろうな」
ふと響介はソファーの位置を改めて見た。窓の外を一望出来るその位置にあることからスヴェンは最後まで自分のやりたい事をやっていたのだろう。
最後の瞬間までスヴェンは星を見ていた。
恐らく、スヴェンは人造人間達と、自分の人造人間達と一緒に星を見たかったのだろう。
「地下、行こう」
「そうだな」
スヴェンがいた部屋を出た響介達は錠前の鍵を外し地下へと進む。地下への道は一本道で灯りも確保されている道を進んでいると扉に突き当たる。響介はライミィとエリーを見て頷くと扉を開けた。
「これが、プレイス…」
「すごい、こんな質の高いマナが満ちてるなんて…」
エリーがそう呟き感嘆が漏れるのも無理はなかった。目の前にあったのはいまだに稼働しているプレイスのカプセルが一基。
見た目は一見銀色の大きな筒のような物で中は見えない。室内はプレイスの駆動音が静かに聞こえていてライミィの反応からどうやら日記にあったように動力は空間魔法で何処からか調達しているのがわかった。
「でも、どうやって、開けるの?」
エリーの最もらしい一言で響介は室内を見回す。するとプレイスの脇に小さなコンソールがあるのを見つけた。近付きコンソールの画面を見ると
「『起動しますか』か、ここを押せばいいのか?」
目についたボタンを押すとプレイスのカプセルからプシューと音がしたのと同時に圧縮された空気が排出される、そしてカプセルが開くと
「待ったキョウスケ!」
「んぐっ!?」
突然ライミィが響介の顔を中心に自分の蛇の体の部分で目隠しするように抑え始める
「な、なんだライミィ!?って待ってくれ首が…!」
「出て来た女の人裸なの!まだカプセルの中のコード類で隠せてるけど見ちゃ駄目!髪ブラにホットなリミット状態になってる!」
「なんでそんなネタ知ってるんだよ!ってちょいちょいちょい!ライミィ尻尾!尻尾が首閉めてる!目ぇ瞑っておくから尻尾を離してくれ!」
「わーい♪」
「「エリー落ちたら危ないからぶら下がって遊んじゃいけません!!」」
突然の事に焦って目隠しだけでなく絞め落としそうになるライミィと抵抗しライミィの体を外そうとする響介、そしてその横でライミィの体にぶら下がって遊び始めるエリーと緊張感が微塵と無くなりわちゃわちゃし始めていると、プレイスから解放されたからか騒がしくなっている事に気付いたのか人造人間がパチッと目を開くと響介達を見て
「おはようございます」
「お、」
「「「おはようございます」」」
戸惑いながら挨拶するとライミィは直ぐに何か着るようにと伝えて自分の服を渡す事5分後
「お見苦しい所を見せてすまない」
代表として響介が目覚めたばかりのライミィの予備のワンピースを着た人造人間に頭を下げる。身長がライミィより高い事もあり渡されたワンピースが小さく未だ際どいがそこはライミィのタイツ(寝冷え対策用)も身につけてもらい取り敢えず目のやり場は大丈夫になったとライミィから見てもいいと許しが出た。
目覚めたばかりなのにあんな珍事を目撃しては困惑するだろうと思い代表して謝罪する響介
「い、いえ!私の事はお気になさらず!それよりも貴方方は?」
ダークブルーを連想させる藍色の長い髪をはためかせるように頭を振ると質問された響介達は自己紹介をする。
「これは失礼した俺は鴻上響介。キョウスケで構わない」
「私はライミィだよ!」
「エリー」
「えっとキョウスケ様にライミィ様、エリー様ですね!覚えました!」
「いや、そんな風には…」
「失礼しました!私は人造人間第4世代戦闘用改修型の、えっと」
「第4世代?」
「戦闘用?」
「はい!私の製造種のロットナンバーになります!」
ロットナンバーって確か生産時の管理番号だよなと思う響介は
「君、名前は?」
「私達、人造人間にはありません。それよりも」
そう言うと藍色の髪の人造人間は辺りを見回し
「あの、開発者はいませんでしたか?スヴェン・プトレマイオスという方なんですが…」
この言葉にライミィとエリーははっとした表情をした。恐らく名前を聞いて上を想像したようで少し複雑なようだ。そこで響介が答える事にし
「落ち着いて聞いて欲しい。君がここで長い眠りについている間に…」
少し曖昧になってしまったが響介の言葉に思うところがあるようで話の途中で何処か納得したように
「そう、ですか…」
納得こそしているようだったが何処か悲しそうに目を伏せる。しかし顔を上げ改めて響介達に質問をする。
「キョウスケ様達はどうしてここに?」
「俺達は冒険者でこの遺跡の探索依頼でここに来たんだ」
「探索してる時にそのスヴェンさんがここの事をメッセージで遺してたからここを見つけて来たの」
「そうでしたか」
「でだ、君はこれからどうしたい?」
響介のこの問いかけに思わず首を傾げてしまう
「どう、とは?」
「こんな所と言ってしまうのは悪いがずっと1人だったんだろう?やりたい事ややってみたい事があるんじゃないのか?」
「やりたい事…?」
人造人間は暫し思案すると
「私達、人造人間はヒトの役に立つ為にと産み出されました。ですので私は私の意思で目覚めさせて頂いたキョウスケ様達について行きたい所存です」
「わかった。これからよろしく頼む」
響介達は目の前の目覚めたばかりの人造人間を快く迎え入れる事にした。ライミィもエリーも嬉しそうだがここで別の問題が
「でもこの人、どうしよっか?名前はないんだよね?」
「はい」
「お互いに不便だからな、もしよかったら今から俺達で決めてもいいか?」
「いいんですか!?お願いします!」
何処か嬉しそうに笑う人造人間の女性に少し待ってもらい3人は話し合う
「でも、どうしよっか?いきなり人の名前決めるなんて」
「ポチ」
「エリー、犬じゃないぞ」
「タマ」
「エリー、猫じゃないんだから…」
「ゲロしゃぶ」
「「何処でそんな言葉覚えた!?」」
突っ込み所しかないエリーを抑えつつ考える響介とライミィ、その時響介はふと所長室から持ち出した本を思い出して
「こんなのはどうだろう?」
響介はライミィとエリーにも伝えまた話し合うこと5分後
「お待たせしましたー」
「名前、決まった」
「本当ですか!?それで私に頂ける名前は?」
「落ち着いて『ステラ』」
と響介が発表する前についライミィが宥める為に言ってしまった。あっ、と言う顔をする3人にステラと命名された人造人間はキョトンとする。
「ステラ?」
「うん、ステラ」
「それが、私の名前ですか?」
「はい、命名はキョウスケです」
「ステラの意味は『星』若しくは『恒星』の意味でスヴェン所長の部屋にあった本から取らせて貰いました」
「ステラ…」
貰った名前を嬉しそうに呟いたステラ。その様子を少し勘違いしてしまった響介は
「嫌、だったか?」
心配になりステラに訪ねると
「いえ!素敵な名前です!ありがとうございます!!」
と、ステラは満面の笑みで3人にお礼を言うと響介とライミィは勿論エリーもホッとした。
「じゃ、お外、いこ?」
「そうだな」
こうして響介達はステラを連れて地下道から倉庫へと移動した。道中、街へ戻ったらステラの服を買おうなどを話しながら倉庫に出ると響介が不意に止まった。
「……」
「キョウスケ様、いかがなさいましたか?」
「しっ、外に何かいるぞ、ライミィ分かるか?」
「なんかいるね、それも大体30位熱は冷たいよ」
「……!?」
「キョウスケ様?」
「来る!」
その時倉庫の扉が破壊されボロボロの武器や鎧を着たボロボロの、まるで幽鬼のような男女達が中へと雪崩れ込んできた。
「これは…!?人造人間第2世代戦闘用後期生産型!?何故…?」
「人造人間だと…!?だがこの有り様はどう見ても……!」
「…ゾンビ」
「ん?こいつらからマナ?…ヤバいよ!こいつらみんなレブナント化してる!」
レブナント。
この世界では主に魔物等が亡くなった時適切に埋葬をしなかった場合アンデット化する事が高確率である。その中でも強い未練や情念があった場合その感情が闇属性のマナとなりレブナント化すると言われている。
詰まるところアンデット化の上位互換に当たり中には生前の意識をある程度保ったものもいるらしい。
「人造人間レブナントか、戦うしかないようだな…!」
目の前の人造人間達から確かな殺気を感じ取り構える。その時目の前の人造人間から何か聞こえてくる
「…除」
「何?」
「…侵入者、発見、排除、排除」
その瞬間5体程の剣を持った人造人間が響介に向かって襲い掛かる
「ライミィ!エリー!ステラを頼む!」