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異世界に来たらピアニストになった俺~しかし面倒事は拳で片付る任侠一家の跡取り息子の見聞録~  作者: みえだ
第3章 商人の国 ~遺跡を探検するピアニスト~
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58話 本音 その心中と託されたもの

響介、溶解ガスの中和に成功する。




 地下2兵装実験場を後にした響介達はライミィが見た扉まで戻る。すると


「ここだよ、あれ!」


 ライミィは見つけた扉を指差すが


「ここだよ、と言われてもな」

「瓦礫、いっぱい」


 道が崩落でもしたのか見事に瓦礫で埋もれていた。しかし確かによく見ると奥に重厚な金属製の扉らしきものが見え


「よく分かったなライミィ、言われるまで気付かなかったぞ、俺」

「お姉ちゃん、すごい」


「でしょでしょ?」


 ふふんと鼻を鳴らしどやっと言いたげに満足そうに笑うライミィを見て今度エリーが真似しそうだなと響介は笑いながら思う。

 それはさておきこの目の前の瓦礫をどうするか響介達は考える。


「どうする?キョウスケが白虎爪で掘る?」


「俺もそれ思ったんだが、ここ崩落してるだろ?下手にやるとまた崩落しかねない可能性があるし、鑑定スキル使ってみたんだけど周りの壁や天井はかなり脆くなってるみたいだ」


「それじゃ私の魔法はもっと駄目だね」


 うーんと考える響介とライミィだったがここでエリーが手を挙げる。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん、エリーがやってみる」


「ん?何か思いついたのか?」


「うん。私にいい考えがある」


 得意げに言うエリーだが何処かの失敗フラグみたいな事を言い出したエリーに『そんなの何処で覚えたっ!?』と心の中で突っ込みを入れる響介と何やるのと内心ハラハラしているライミィ。

 巨大なドラゴンすら涼しい顔して仕留めるこの2人を不安にさせるなどの芸当が出来るのは恐らくエリーしかいないだろう。そんな響介とライミィを尻目にエリーは腰のアルケミストキットを取り出し


「クリエイトゴーレム」


 クリエイトゴーレムを詠唱し瞬く間に瓦礫で1体の岩石(ロック)ゴーレムを通路の大きさギリギリに錬成した。その時、


「……っ!?不味い…!」

「まさか……!?」


 ズズッと壁や天井から音がしたのを聞き響介は即座に反応する。ライミィとエリーを庇おうとした時


「ゴーレム、あそことあそこ、押さえて」


 エリーは錬成したゴーレムに指示を出し、崩れる寸前の壁と天井にゴーレムを割り込ませまるでつかっえ棒変わりにすると


「今、あっち行ける」


 エリーが指差したのは瓦礫でゴーレムを作った事と壁や天井を押さえるゴーレムで出来た人1人分が通れそうなスペースだった。響介達は直ぐに扉まで駆け抜け扉の横にあった赤くランプが光るカードスロットを見つけると響介は咄嗟にカードキーを差し込みロックを解除して中へ入る。ライミィとエリーが入った事を確認した響介は扉を力ずくで閉じるとそれを見たエリーは


「ありがと」


エリーがそう言った次の瞬間、扉の外でズズンと大きな音が響き金属製の扉が歪んだ。恐らく錬成したゴーレムを原子崩壊させたのだろう。そして支えが無くなり扉の外は崩落したようだ。


「上手く、いった」


 ライミィがやったようにどやっとしピースしたエリーを見て思わず笑ってしまう響介。一見退路がないように見えるが、テレポートが使えるエリーがおり遺跡に入る前もテレポート地点を明確にする空間魔法『マーキング』を使っている為エリーと切り離されるということでも無い限り問題なく外に出る事が出来る為特に支障は無かった。


「いや~危なかったね!」


「端から見れば危ない所の騒ぎじゃないけどな。ありがとうエリー」


 明るく笑うライミィに軽く突っ込みを入れながらエリーを撫でる響介。改めて部屋の中を見る3人


「ここが、所長室?」


「いや違うな」


「なんで?キョウスケ所長室のカードキー使ったんじゃないの?」


「使ってない。俺が使ったのはカードキーlevel2だ」


 そう言って響介はカードキーlevel2を2人にヒラヒラと見せる。じゃあここは何処だろうと辺りを見回すと、警備室にあったようなコントロールパネルのような機械やモニターがありその機械類は何も反応がなかった。


「なんだろ?なんか不気味だね」


 何も反応が無い機械が並んでいるのは不気味だが響介は動力室のディスプレイを思い出した。


(確か、ファクトリーラインへの電力供給は止めたとあったが、もしかしてここがプレイスか?)


 プレイス。人造人間(ターロス)を生産するための設備だがどうやら完璧に機能を停止しているようで機器類は何も反応しない。取り敢えずあらかた調べるがここももぬけの殻で壁に並んだ空の棚や部屋に置かれた机には何もなかった。これ以上探しても何もなさそうだったのでエリーにテレポートを頼もうとしたら


「お兄ちゃん、あそこ変」


 エリーがなにか見つけたようで見てみるとそこは空っぽの棚だ。同じような棚は壁際に並んで置かれておりエリーが反応したのは右から3番目の棚だった。響介は


「何処が変なんだ?」


 見ても何のへんてつもない棚だった。動かしてもみたが壁にも床にも何も変なことはない。しかし今度はライミィが怪訝な表情をして反応した。


「ちょっといい?」


 ライミィが手に魔力を込めて壁を探り始める。すると何も無い所でコツンという音を立ててライミィの手が止まる。


「やっぱり」


「隠蔽魔法か?」


「そうみたいだね~なんか魔力感じたから変だと思ってたけど巧妙に隠してあるよ。光学迷彩(カモフラージュ)と他の隠蔽魔法合わせて重ね掛けしてるから手が込んでるけど、相手が悪かったね~解除(ディスペル)っと」


 解除(ディスペル)とは状態魔法レベル7に該当する魔法になりダンジョン探索にあたりライミィは状態魔法のレベルを上げて習得した魔法。効力は対象の魔法効果の打ち消す魔法でライミィが解除(ディスペル)を詠唱すると現れたのは扉とこの遺跡お馴染みの赤くランプが光ったカードスロット。そして扉には古ぼけたプレートが掛かっておりその文字を読むと


「所長室か」


 響介は所長室のカードキーをスロットに差し込むと他と同じように機械音がしてランプが緑に切り替わる。


「鬼が出るか蛇が出るか。まあ進む以外ないか」

「よぉし、いってみよー!」

「ウラー」


 何処か楽しそうに3人は所長室に入る。そして飛び込んできた光景は


「これは…!」


 入ったと同時に明かりが灯り全容が露になる。所長室の中は500年近い年月が経っているにも関わらず机や置かれているディスプレイを始め所長室の中のものはほとんど風化、荒廃しておらずまるでつい近日まで使用されたかのような状態だった。ライミィが近くの棚の本を取ってみると


「すごい!新品の本みたいに保管されてるよ!しかもこれ、空間魔導師クリストファーの提唱した魔導書!?ちょっと待って、こっちの魔導書は錬金魔導師フランドールの著書の正本!?すごいすごい!500年以上前の希少な魔導書がこんなに!!」


 興奮したライミィが嬉々として次々に歓声を上げては魔導書の本棚を漁る。

 ラミアは種族柄魔法に関しての造詣が深く、特にライミィは隠れ集落を出てから魔法の勉強をしていて魔導書などをよく読むことがある。ライミィが言った名前の魔導師は響介も聞いた事があった。全て500年以上前のこの世界に名を残した魔導師達で数える位しか資料が残っていない位の存在だ。

 この部屋の状態にどういうことだと響介は思案しようとするとエリーがちょいちょいと響介の服を摘まんだ


「お兄ちゃん、ここ、空間魔法が、かかってるよ」


「空間魔法が?」


2人のやりとりに本棚を漁りながらライミィが口を挟む


「そだね~、ここだけ空間魔法の反応もだけど一段とマナが濃いね。ここにある魔導書だけどもしかして所長さんって空間魔法使えたのかな?」


 ライミィの指摘を聞いて大いに可能性はあるなと響介は考える。

 確か空間魔法に対象の状態をそのまま保存する「クストーデ」という魔法がある。この部屋全体をここまでの状態にするのだからスヴェン・プトレマイオスという人物は魔導師としても高い実力を持っていたのだろう。


「あれ?なんだろこの本」


 ライミィが棚からなにか見つけた。

 響介とエリーも気になり一緒に確認するとその本は他の魔導書と比べ年季が入ったもので明らかに違っていた。と言うのも


「絵本?」


「みたいだな、題名は恒星伝説、か」


「「恒星?」」


「太陽のように自分の力で輝く星の事だよ。だがなんでこんな場違いな所にあるんだ?」


 響介がその絵本を手に取ったその時、突如後ろのディスプレイから起動音がしたのを響介は聞き逃さなかった。振り向く響介に反応してライミィとエリーも振り向くとディスプレイには


『この映像を誰が見ているかは知らないが、その頃にはもう私はこの世にいないだろう』


 1人の研究者の男が映っていた。くすんだ灰色の髪をし、無精髭だらけの白衣を着た壮年の男。男は口を開く


『私はスヴェン・プトレマイオス。世間では人造人間(ターロス)の産みの親、第一人者と呼ばれている男と言えばわかるだろう』


「このおじちゃんが?」


『世間は私の事を持て囃しているが、私はただの人殺しに過ぎん』 


「…!?」

「え…?」


『私は人造人間(ターロス)を戦いの道具にしたくはなかった。だがあの頃は魔族との争いもあり人間同士の戦争もあった。人造人間(ターロス)達はヒトではなく兵器として戦争に駆り出されてしまった。本来、人造人間(ターロス)とは人々の手助けをし生活を支える存在、嘗て存在した魔法帝国にいたとされる使魔(サーヴァント)の資料を元に産み出した』


使魔(サーヴァント)…」


『だが、人造人間(ターロス)達は皆戦争に巻き込まれた。これ程悲しい事はない。皆私の子供、私の血』


「「「……」」」


 響介達はディスプレイのスヴェンの話を黙って聞いていた。

自分の子供が戦争に取られる。

目の前のスヴェンはどれ程無念だっただろうか?

その胸中はもう分からない。しかしまだ映像には続きがあった。


『ゴーレムやこの施設の理解、魔法を看破しここまで来た君たちに頼みがある』


「頼み?」


『崩れてないのであれば、そこのドアの向こうには私が作った倉庫への転送魔方陣がある。そこから倉庫へ行って欲しい。鍵はそこの机の中に入れてある』


「え?」


『その倉庫の奥には今も眠りついている1人の人造人間(ターロス)がいる』


「何…!?」

人造人間(ターロス)が!?」

「いるの?」


『私の残りの生涯をかけて産み出した娘だ。その娘を連れて行って欲しい。そして』


「?」


『私が教えてあげれなかった事をその娘に沢山教えて欲しい。これは私の最後の願いだ』


 その言葉を最後にディスプレイはぶつりと切れ画面が真っ暗になると文字が表示された。


『今の情勢は知らないがこの部屋と倉庫にある物なら好きにしていい、せめてもの礼だ』





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