57話 後始末2 進化する気功術と拾い物
響介、文字通り一蹴する。
『電力供給100%。施設内供給安定を確認』
動力室のカードキーを使用し部屋の真ん中にあったジェネレータが動き出した。ものの数分でこの言葉が表示されたことから、どうやらこれでこの遺跡の中は大丈夫そうだ。
「すっごい!眩しい~!」
「すごい。パチパチしてる」
かなりの年月が過ぎて放置されていた発電装置、ジェネレータは外壁が朽ちて半分以上剥き出しとなった超大型のステータコイルと高速で回るロータが見えている為か、目の前で魔法以外の方法で電気を作っているのを見てライミィとエリーは目をキラキラさせていた。
「確かにすごいな。でも目悪くなるからあんまり見ちゃ駄目だぞー」
「「はーい」」
テレビを近くで見ちゃいけないよみたいな感じで軽く注意すると改めて考える。
どうやらこの遺跡、いやこの研究所は人造人間の研究だけでなく同時に生産、調整を行う施設でもあるようだ。稼働していたのは魔族との戦いが盛んな頃、この世界は500年以上前に大きな戦乱があったとオリビアさんから教わったのと研究所の荒廃具合を見るとその頃の物だと推測出来る。
しかし、ここで思ったことが
(こんだけデカイジェネレータがあるなら製造場所もそれなりにデカイよな?それらしいところ見当たらなかったがもっと下か?)
そう思っているとふとディスプレイが切り替わっているのに気が付く
『ファクトリーライン応答無し、異常発生の為ファクトリーラインへの電力供給を停止します』
意味を察するにどうやら製造ラインは既に失われているようで自分の考えが杞憂に終わったと感じた。人造人間達がまだ存在していて戦う事は無いだろうと思ったからだ。仮に侵入者に反応するように設定されていたならたまったものじゃない。
まだあちこち見ている2人に改めて俺は声をかける。
「2人共、もういいか?」
「あ、いーよー」
「うん、満足した」
2人共満足したようでよかった。そんな事を考えて進んでいるといつの間にか変身を解除して元に戻っていたライミィが
「珍しいものいっぱいあるけどお宝ないねー」
「ない。なんでだろ?」
「多分なんだが、ここは魔族に襲撃されて放棄されたのかもしれないな」
俺の言葉に2人は「あー」と揃えて声を上げた。2人も思うところがあったようで納得してくれたようだ。
「お母さん達みたいにみんなでどっか行ったのかな?」
「と、いうか逃げただな。さっきから空いた部屋見ていても中はもぬけの殻だ」
明かりが確保された第3階層へやってきた俺達。奥へ進んでいく程分かってきたがどうやらここは襲撃を受けここにいた人員は持てる物だけ持ち出して逃げたようだ。こう端からみると何も無いようだが
「所長がなにやってたかがすっげぇ気になるの俺だけかな?」
気になったらどうしても確かめたくなる。そう思ってライミィとエリーに聞いてみたら
「私も気になるよ!ひょっとしたらなにかありそう!」
「エリーも、気になるー」
2人も同じみたいだった。警備室にあった手記によると所長のスヴェン・プトレマイオスは倉庫の鍵を持ち出して何かをしていたようだった。もしかしたらまだ残っているかもしれないと思っているとあの場所へたどり着いた。
「地下2階兵装実験場。ここだね」
目的の一つこの部屋の後始末だ。
妹分がやったことはちゃんと兄貴分が責任を取らないとな。『率先垂範、人の上に立つことを決めたのならその見本となれ』これもじっちゃんから教わった教えの一つだ。
「よし、これから始めるぞ」
「具体的にどうするの?」
「これから説明する。まずエリー、俺達に『クリアベール』をかけてくれ」
「うん、分かった」
エリーはクリアベールを詠唱すると俺達の周りに淡い光が包んだ。
クリアベールとは毒や麻痺などの状態異常の耐性を上げる治癒魔法レベル4の魔法だ。術者の魔力に左右される魔法だが、ただでさえ魔力の高いのに加え『先祖返りのエルフ』のアビリティでブーストがかかったエリーが行使すると本来5分程しか持たないクリアベールが1日持続する。
「次にライミィ。俺が合図したらこのカードキーをそこのカードスロットに差し込んでくれ」
俺はライミィにカードキーlevel2を渡し赤く光っているカードスロットを指差して説明する。
「オッケー!でもキョウスケ、どうするの?」
「空間いっぱいに解病功をかける」
そう言って俺は気を練り始めた。放出したら危ない溶解ガスを一瞬にして中和するように純度を高く、そして強く、そうして気を練っていると俺の身体に変化が出た。
「すごい、お兄ちゃん、キラキラ」
どうやら気を練っている俺の身体からオーラが出ているみたいだ。初めての事で内心ビックリしてるが顔に出さないように気を練る事に集中する。
…もういいだろうな。そうして俺はライミィに合図を出す。
「いくぞライミィ!開いたら2人共!息を止めててくれ!」
ライミィは指でオッケーサインを作り俺に知らせエリーも息を止めながら俺が教えたサインを鳴らすとライミィはカードキーをスロットに差し込んだ。そしてその瞬間扉が開く
「はぁ!!」
俺は解病功を放つ。練りに練った気に練度の高いクリーニングの魔力を乗せて放った解病功は瞬く間に実験場の隅々に行き渡った。
空気を綺麗にするならクリーニングという方法があるが今回エリーは魔法を何時もより高い魔力で行使していたためクリーニングだけでは不十分だと思い、それで思い付いたのが気功と同時に行う事だ。
そもそも俺の気功術での解病功は健康な俺の気を対象に送る事だが実はその対象には制限はない。
合気道の師範だったじっちゃんが言っていた。
『儂はな気とは『呼吸』じゃと思っておる。『呼吸』は万物あらゆるものに存在し目に見えるものが全てではない』と、
それで閃いた。空の気、『空気』に俺の気を送ればいいってな。その結果
「凄いよキョウスケ!この部屋のマナがはっきりわかる!」
ライミィが鮮明に魔力が感知出来る位効力があったようで、どうやら俺は中和を通り越して空気を浄化してしまったようだ。
「…やり過ぎたか?」
と、ふと思ったがまあいいか。改めて部屋を見ると第2階層の実験場と大きさは変わらず、あちこちに瓦礫や鉄屑がある程度だ。その時キラッと光るものが落ちていたのに気が付いた。ライミィもそれに気付いたようで拾い上げる。
「あれ?キョウスケこれってカードキーだよね?」
響介達は所長室のカードキーを手に入れた。
「どうやらそうみたいだ。でもどうしてここにあるんだ?」
素朴な疑問だった。裏には所長用と書かれている明らかにセキュリティレベルが高いカードキーだ。なんでこんなところにと考えているとエリーがちょいちょいと引っ張った。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、もしかしたら、あいつが、持ってたのかも」
「あっ!そっかそういえばいたね!」
その言葉に俺とライミィは合点がいった。そういえばジュリアがいたな、あいつがゴーレムを錬成しながら捜索して訳も分からず拾って持ってたのなら十分に考えられる。
「やっといて良かった」
俺は思わず言葉がこぼれる、単なる後始末が思わぬラッキーになったもんだ。普段は悪運の方が強いんだがなと思うと
「ラッキーだね!これで何処行けるかな?」
「わーい」
2人が喜んでいるからまあいいか。だが後は他に探索出来る場所はあったかと考えようとすると
「そういえば、さっきなんかおっきい扉あったよ。ここ来る前に」
ここに来る前?そういえば瓦礫で崩れていた所があったが扉は気が付かなかったな
「行ってみるか」
他に思い当たる所も無い、俺達はライミィが見た扉まで戻る事にした。