51話 帰還 救出クエスト終了
エリー、ジュリアに落とし前を付けさせる。
グスグズに溶けていったジュリアが死んだことで重力で押さえつけていたゴーレムも崩れて塵となったのを確認したエリーはジュリアが持っていた例のアルケミストキットとジュリアのギルドカードを回収する。
「ここ、どこだろ?」
多分第3階層なのは間違い無いだろうが出口が見当たらない、溜飲がすっかり下がり辺りをキョロキョロしながらどうしようか考えていると
「あっ、お兄ちゃん達の匂いだ」
エリーはてててと駆け出して自分がいた所と別の壁際へ移動した。
「ここの扉だけ開かなかったんですね」
その密室の外には響介とライミィ、それと残りの調査隊5人が空かずの扉の前にいた。調査隊5人は消耗しているが皆前衛職の戦士や重戦士ばかりだったのが幸いし大きな負傷者はいない様子で
「そうなんだよキョウスケ、ここだけ何やっても開かなくてよぉ」
中でも比較的体力が残っていそうなマクレイン兄弟の弟オットーがランタンを照らしながら他の冒険者の変わりに説明する。響介が改めて見ると扉の横にカードスロットがあるが電源が落ちておりこの階層自体の電力復旧が必要なようだ。どうするか考えているとふと
「……!」
扉の前に気配と微かな音が聞こえた、響介がガンガンと扉を殴り
「エリー!そこにいるのか!?」
そう問いかけた瞬間だった。突如エリーがヒュンと目の前に現れた。
「「エリー!」」
「良かった!無事だっ」
ここでエリーを抱き締めたライミィがピクリと止まり改めてエリーを見ると
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
響介と大の大人5人がビクッと竦み上がった。響介に至っては聴力感度をMAXに上げていたのが災いして隣で悲痛な叫びを聞いた為耳鳴りが凄まじく頭がくらくらしていて額を押さえながら
「ど、どうしたんだライミィ?」
「ど、ど、どうしたのエリー!!?」
ライミィが見たのは顔に切り傷を作り髪や体が汚れまみれに、特に腹部に蹴られた後があり傷だらけになったエリーの姿だった。耳鳴りが収まり状況を改めてエリーの状態を見た響介は暫し硬直してしまい救出された調査隊が逆に響介とライミィの心配する始末。するとライミィがふらぁと立ち上がり
「…殺す」
ライミィが突如物騒な事を言い出し
「あのジュリアとか言ったアマ殺す!絶対許さない!!!」
「「「「「じょ、嬢ちゃん!?」」」」」
ライミィの豹変っぷりに困惑する調査隊達。アメシストを思わせる紫の瞳は怒り一色に染まり弓矢を両手に直ぐにでも射殺す勢いだ。
「ふふっ、駄目だぞライミィ」
「おお、キョウスケ…!」
「殺す前に釘打ち込まないとなぁ」
「「「「「お前もかぁぁぁぁ!?」」」」」
「おいちょっと待ってくれ!ジュリアってまさか…!」
「ブライアン!それより2人を止めろ!キョウスケはその釘とトンカチどっから出した!?」
「兄ちゃん怖えよ!なんでそんなに笑ってんだ!?」
「嬢ちゃん!ステイ!ステイ!!」
「誰かこいつらを止めろぉぉぉ!!」
響介とライミィがぶちギレてしまい宥めに入る調査隊達。2人のキレ具合を見て疲れなどぶっ飛び全力で止めに入る。特に響介は不気味な程笑って釘とトンカチを握りしめておりオットーが何とか羽交い締めにして抑えるなど一時場は混沌な状態となった。しかし納めたのは
「大丈夫。エリーやっつけた」
エリーだった。金色お目々を輝かせ意気揚々と響介達に報告すると響介とライミィは途端に大人しくなりエリーに駆け寄る。
「本当か?エリー本当に大丈夫か?」
「うん」
「良かったぁ、エリー良く頑張ったね」
「良く1人で頑張ったな、直ぐに綺麗に治してやるからな」
まるで怒りが霧散したかの様に穏やかになった響介とライミィはエリーを抱きしめる。それを見てホッと胸を撫で下ろす大の大人5人。しかしその中でブライアンが3人に声をかけようとしたら先に気づいたエリーに何かを渡された。
「これは、ギルドカード?ジュリアだと?!なぜ君が」
「討伐証明」
「は?」
「討伐証明。エリーやっつけた。だから一番分かりやすいの、持ってきた」
ブライアンには悪いと思ってはいたが思わず吹き出してしまった響介とライミィ、自分達が思っていた以上に逞しく成長しているエリーの頭を響介は優しく撫でる。エリーの行った言葉の意味を理解し絶句するブライアン。暫くして小さく咳払いすると
「…ジュリアの遺体は確認出来るかな?」
ブライアンの質問にエリーは首を横に振る
「この中だけど、入っちゃだめ、エリーがゴーレム使ってばらまいた、溶解ガスでいっぱい。あいつ骨も溶けた」
さらっととんでもない事を言い出すエリーにサーと血の気が引くブライアン達。唯一オットーが笑っていたがその中で調査隊の1人が
「ちょっと待ってくれ、もしかしてその子供は」
「「如何しましたか?」」
「ナンデモナイデス」
エリーの素性に気づいて口にしようとしたが響介とライミィのどす黒い笑顔の圧力に負け直ぐに口を閉じた。そしてオットーから「長生きしたけりゃ黙っときな、この兄ちゃんらドラゴンも蹴り殺すからよ」と笑って言われそれ以上詮索しない事にした。
こうして最後に一悶着あったが一行はエリーのテレポートで遺跡を脱出。外に出ると後続の救助隊が到着しておりその後無事リュインに帰還、響介達は救出クエストを成功させたのだった。
その夜の冒険者ギルド。アランに呼び出され響介達はアラベルにギルドマスターの執務室へ通されていた。
「よくやってくれた。緊急な事だったが被害を最小限に押さえられたのはお前達のお陰だ」
「いえいえ、皆さんが協力のお陰ですよ。自分がやった事は微々たるものです」
「そう謙遜するな。ああいう時に仕切れる度胸のあるやつはそうそういねぇよ。まあそうはおいといて、ジュリアか」
「ええ、動機はプトレマイオス遺跡に眠る宝の独り占めだと言っていました」
そう言って響介はサウンドセーバーをアランに渡す。それを受け取ったアランは少し深刻な表情を浮かべた時
「あっ、そうだ。おじちゃん、これも」
「なんだこれは?」
「あいつが持ってたの、エリー回収した」
エリーはジュリアが持っていた例のアルケミストキットをアランに渡す。するとそれを見たアランは
「おいおい、こりゃ邪神魔具じゃねぇか…!」
「「「エビルファクト?」」」
「かつて邪神が生み出したと伝えられているS級アイテムだが使う度にどんどん人が変わるって曰く付きでな、出てき次第冒険者ギルドが回収して本部に送って処理してんだ。」
アランのその言葉を聞いて妙に納得してしまった。確かに欲望剥き出しだったのが良く分かる。
「とりあえずこいつは俺が預かっておく。じゃあ最後にお前らの報酬についてだ」
響介達はつい緊張してしまう。今回の報酬は要相談となっており決まっていない、お金か物かと思っていたがアランから出たのは
「あのプトレマイオス遺跡のお宝だ」
3人が予想もしていない事だった。
「プトレマイオス遺跡のお宝、ってあのどういう事なんですか?」
ライミィが最初に質問した。響介もエリーも予想外で驚きを隠せない。
「いやよー、お前ら金じゃ喜ばねぇだろ?普通にゴブリンや他の分が支払い残ってるの催促せずに待ってるし、お前ら無駄遣いもしねぇみたいだし金をポンと貰っても嬉しくねぇだろ?」
「「仰る通り」」
「それにお前ら遺跡探検したくて冒険者になったから丁度いいだろ?ついでに『攻略』してこい。それまでお前ら以外立ち入り禁止にしといてやるから」
笑いながらサラッと攻略しろと言い出したアラン。しかしお金よりも未踏の遺跡探検に惹かれた響介達は
「分かりました。俺は構いませんよ」
「私もー」
「エリーもー」
「じゃあ決まりだ!アラベルー、明後日響介達用に依頼作っといてくれ」
「わっかりましたー!!」
「報酬はプトレマイオス遺跡から発掘したお宝で欲しいのあったら好きなだけ持ってけ。いらないのやエビルファクトはギルドが引き取る」
「分かりました」
こうして報酬も決まった。報酬はプトレマイオス遺跡のまだ見ぬお宝と遺跡の探検。漸く響介とライミィは当初の探検が出来る様になった。