47話 遺跡 救出クエスト遂行中
3人、緊急クエストを受ける。
エリーがテレポートを唱えるとギルド内にいた響介達は瞬時に森の中にいた。そして目の前には
「これが遺跡か」
響介達の前にあったのはもう何千年も放置された様な古ぼけた建物。それはかつては栄えたであろう施設で響介には何かの研究所のように見えた。そう見えたのはその研究所の外見が元いた世界のような造りをしていたからかもしれない。そしてそれが森の中にあることもあり神秘的に映る。
(そう言えば人造人間の研究施設だって言ったな)
人造人間。
人造人間と聞いて響介は人間ソックリのアンドロイドみたいなSFチックなのを考えていたがこの世界の人造人間は厳密には魔法生命体と言うものでプレイスという大型の装置で産み出されるらしく、洞窟若しくは遺跡タイプのダンジョンではたまに稼働しているプレイスが発掘されるらしい。恐らく
「ここにもいるって事か…」
ふとそんな事を考えていると
「おう兄ちゃん!そんなんで大丈夫か?!」
後ろから野太い怒鳴り声が聞こえた。一緒にテレポートで来た冒険者のアトラスの声だ。アトラスは仲間の冒険者にテキパキ指示を飛ばし周囲警戒を始めていた。
「クリプスは待機!フライとダロスは周囲を探索し魔物を見つけ次第片付けろ!」
「キョウスケ、どうしたの?だいじょぶ?」
ライミィの声にハッと我に返った響介。どうやら目の前のリアルな遺跡に不思議な高揚感を感じてしまったようだった。響介は自分の両頬はパシンと叩き気を引き締め直し
「ごめんなライミィ大丈夫だ。申し訳ありませんアトラスさんよろしくお願いします」
「おう!」
「ライミィ、エリー準備は?」
「オッケー!」
「うん!」
「さあ行くぞ!」
ぼーっとしている間に2人は準備が出来ていた様だ。それを確認した響介は改めて気を引き締めて2人と共に遺跡へと侵入する。遺跡内部の状況と下層へ続く階段の位置は既にハースからマッピング済みの資料を貰っておりそれを頼りに響介達は進む事が出来る。そして内部は
「へぇ、こうなってるんだ~」
遺跡の入り口から侵入するとそこはいわばエントランスになっており広く見通しの良い空間、ライミィとエリーは物珍しそうにキョロキョロと見ている。ここはそれぞれ通路がこのまま真っ直ぐ直進と直ぐ右手と奥に左の3つがあり、そしてエントランスのあちら此方に鉄の破片が転がっておりどうやらアイアンゴーレムとかち合った調査隊との戦闘があったようだった。
「入って来た時に戦ったのかな?」
「十中八九そうだろうな、…だめだ周囲に人の音は聞こえないな。ただ奥に何かいる」
「うん、人の熱も感じない。でも冷たい何かが動いてる」
「人じゃない、鉄の匂い」
「アイアンゴーレムだな、どの辺りか分かるか?」
響介はハースから貰ったマッピングを拡げる1階層はこのエントランスから真っ直ぐに行き突き当たりを右、突き当たり前の十字路を左に行くと第2階層への階段があり左右にも部屋があるが開かないと書かれている。
「この十字路ら辺だね、冷たいのがうろうろしてるけど、なんだろ?」
「お姉ちゃん、どうしたの?」
「うーん、なんだかうろうろしてるのなんか気になっちゃってね、気のせいかな?」
「いや、俺も考えてたんだ」
「お兄ちゃん、なんで?」
「時間がないから進みながら話そうか、打ち合わせ通り俺エリーライミィの順で進むぞ」
3人はエントランスを突っ切り進む、救出を優先するため探索はせずまずは下への階段へと向かう、中は照明が所々落ちており真っ暗だが3人は暗視能力を持っている為明かり無しで問題なく進めた。すると先頭の響介がバッと手を横に出し
「ステイ、ゴーレムだ」
響介が先に見つけた。2人と話した通り3メートル半程の大きさのアイアンゴーレムが十字路をゆっくりとうろうろしている。そのゴーレムを観察していた響介とライミィは
「…やっぱり妙だな」
「だよねぇ」
ゴーレムの挙動に違和感を覚えそこにライミィも同意した。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、どうしたの?」
「ゴーレムの動きがおかしい。まるで近くに人が居るのを理解してるようだな」
「キョウスケ、十字路の真っ直ぐと右ってあれ部屋かな?」
ライミィに言われて確認する響介、金属製の壁のようになっているが確かにライミィの言うとおりどうやら部屋になっているようだ。そして正面の部屋らしき所に書かれていた文字が響介には読めた。
「正面のは…………食堂か?確かに部屋のようだな…」
ここでエリーが何かに気が付いたようで響介の服をちょいちょいと引っ張った。
「?、どうしたエリー」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、あそこ、お人形がある」
「お人形?」
エリーが見つけたのは十字路の右の所丁度アイアンゴーレムの死角に置かれた一体の人形。その人形は魔導師のようなローブを着けた真新しいものでここにあるのは不自然な物。それを見てライミィが気が付いた。
「あれってもしかして、調査隊の人が操作魔法で操ってる?私達に気が付くかな?」
アイアンゴーレムがこちらに視覚を外すのを待ってからエリーが人形に手を振ってみると人形もゴーレムに気付かれないように手を振って返した。
「手、振ったよ」
「間違いないな。ゴーレムのせいでどっちかに籠城してるのか、よし俺が仕掛ける」
「オッケー、キョウスケ頑張って!」
「ガンバ」
ゴーレムに気付かれないように小声でエールを送り響介を送り出すライミィとエリー。ゴーレムの視覚に入らないように隠密スキルを使い近づく、そして完全に背中を向けたタイミングを見計らい
「そいやっっ!!!」
素早くアイアンゴーレムの背後を取りジャーマンスープレックスを掛け後方にぶん投げ脳天から落とした。体格差があるのにも関わらず見事にきめ投げられたゴーレムは投げられるという事を理解出来なかったようでなんとか起き上がろうとしたところを響介がゴーレムの顔面にドロップキックを叩き込み頭部を粉砕し仕留めた。
「よし」
ゴーレムが完全に機能を停止したのを確認しライミィ達に合図を送る。
「キョウスケすごーい!」
「すごい、ゴーレム投げちゃった」
「なにこれくらい世話ないさ。それにここまで来ればわかるな」
そう言うと響介は十字路の右側、人形がいた所の先に食堂と書かれていた扉と同じ扉がありそこには『研究員休憩室』とあり
「中にいるね、数は4」
「聞こえるか!ギルドから救助に来た冒険者だ!」
響介が中にいるであろう調査隊員に呼び掛けると中から微かに呼び掛けているような声が響介には聞こえ
「大丈夫だ。この声の兄ちゃん達は信用出来る」
「ん?この声は」
そして扉が開くとそこにいたのは
「助かったぜ、キョウスケ」
「やっぱりケインさんでしたか」
響介達を出迎えたのは逆立てた金髪と魔導師のローブを着た筋肉質な大男、以前響介達が助けたマクレイン兄弟の兄ケインだ。ケインは響介達を確認すると
「また借りが出来ちまったな。そっちにも連れがいるんだ呼んで来てくれ」
ケインがそう言うといつの間にか響介達の後ろに先程の人形がおりケインに敬礼をするとふわりと宙に浮き食堂の方へと向かっていった。
「あのお人形、おじちゃんの?」
「ああ、なんかよ最近妙に魔力が高まっていつの間にか操作魔法も習得しててな、それで使ってみると意外と使えるんだ。っと今はそんな事は良い、すまねぇがお前ら回復アイテムか魔法使える奴いないか?第1階層の奴ら皆俺以外怪我人なんだ」
そう言ったケインが後ろに指をやるとそこには3人の冒険者がボロボロのベッドの上に傷だらけで横たわっていた。3人共意識はほぼないようで弱々しい呼吸音とうめき声しか聞こえなかった。
「すぐに見ましょう。エリー手伝ってくれ」
「うん」
「ライミィはケインさんから状況を聞いといてくれないか?」
「オッケー」
ライミィがケインから状況を聞いていると隣の部屋の冒険者達もやって来た。ケガをしている様だがまだ動けるようだったがそれを見た響介は
「一人一人に対応すると時間が掛かる。エリー『アースヒーリング』を範囲対象に出来るか?」
「やってみる」
「よし、俺の『治癒功』と一緒にかけるぞ。すいません、そちらの方々もこっちの寝てる方の近くへ来てもらえますか?」
エリーがアースヒーリングを詠唱するのと同時に響介はいつもより気を練り治癒功をアースヒーリングに乗せて怪我人にかける。すると
「おおっ……!」
酷い怪我を負っていた冒険者もみるみるうちに怪我が治っていきそれを見ていたケインは感嘆の声を上げた。すると
「うーん、あれ?ここは…」
傷が治り意識が戻った冒険者達。その中に
「あれ?キョウスケさん?」
「貴女はえっとヴァレリーさん、だったか?」
「はい~、助けて頂いてありがとうございます~」
インパルスのメンバー、エルフの治癒術士ヴァレリーだった。ヴァレリーは間延びした声で
「えっと、キョウスケさん達は~どうして~?」
「キョウスケ達はギルドからの救助隊だ。全員動けるな?俺達は遺跡を出るぞ。外に護衛の奴らが待ってる。エリーの嬢ちゃん頼む」
ケインがエリーに外に転送するように頼む。そこをヴァレリー
「あの~なにを~」
「この嬢ちゃんがテレポートを使えるから外の連中の所に送って貰うんだ」
「あの~、皆さんブライアンさんとメンフィスさんも助けて頂けませんか?」
「大丈夫ですよ。皆さん助ける為に私達は来ましたから」
ライミィがはっきり言い切るとヴァレリーは勿論他の冒険者も安堵の表情を浮かべエリーはテレポートを唱え順々に転送され
「オットーの事も頼む。お前達も無事に帰ってこいよ」
最後に転送されたケインを見届けて響介達は第2階層へと向かう。
調査隊 7人救出 残り10人