43話 依頼終わり 家計簿と絵本
3人、仲良く本を読む。
響介達がC級冒険者になって2日が経った。今響介達はと言うと
「二人共行ったぞ!そっちに追い込む!」
ゴブリン討伐の依頼を受けていて森の中にいた。群れからはぐれて単体でいるところのゴブリンを一匹、また一匹と討伐しており今も一匹のゴブリンを響介が追い込んでいた。
「オッケー!エリー準備はいい?」
「今、麻痺毒かける」
響介が追い込みをかけエリーの魔法捕捉範囲内に誘導、範囲内に入ったゴブリンに麻痺をかける。麻痺毒が通ったゴブリンは身体の自由が効かなくなりその場で倒れ動けなくなり、倒れた瞬間ライミィが矢を放ちゴブリンの頭に矢を命中させ息絶えた事を確認した。
「これで最後だね、ありがとうエリー」
「うん♪」
そんな微笑ましい2人のやり取りを見ながら響介は討伐証明として事切れたゴブリンの耳を円月輪で器用に削ぎ落としてから埋葬した。魔物は死体のまま放置するとアンデット化、要はゾンビになって放浪するらしくその為このように後始末は大切だということが魔物図鑑に書いてあったからだ。それを考えながら黙々と後始末をし終わると
「もうキョウスケ、駄目だよ~」
ライミィからお叱りを受けてしまった響介。理由は明白である。
「お兄ちゃん、一人でやっちゃめっ、だよ」
エリーからも言われてしまった。2人が言っているのは勿論
「だからと言って女の子に死体の後始末させるのもな、それに俺の場合すぐ穴掘れるし」
勝手に後始末をしてしまった事だ。これにも勿論理由があり
「ちゃんと女の子扱いしてくれるのは嬉しいけどみんなでやんなきゃ駄目だよ。もう放っとくと直ぐやっちゃうんだから」
「お兄ちゃんって、こうなの?」
「そだよ~、集落で一緒に狩りやってた時も後処理とか出来る様になったら直ぐやっちゃうの」
「さっきみたいにライミィがゴブリンの群れのど真ん中にスパークぶちこんだ後始末とかな」
「ちょっと!キョウスケ!」
顔を赤くしてシャーと威嚇するような表情で反論をするライミィを見てあーと言わんばかりの表情をするエリー。そこで響介は状況を改める。
「今回の依頼はゴブリンの討伐、E級の依頼だった。しかし俺達はこの森でたまたま100匹近いゴブリンの群れを発見してしまった」
「驚いたお姉ちゃんが、雷の魔法で吹き飛ばしちゃった」
「ただでさえ高い魔力のライミィがぶっぱなしたから中心にいたでかい奴と取り巻きは黒焦げになり追撃のグレネードボールで下っぱがふっ飛んで散り散りになり」
「お兄ちゃんがいっぱいいたゴブリン達を虎さんみたいにやっつけたけどその後エリー達、森の中を駆け回ってゴブリンやっつけた」
「おさらい終了。良くできましたエリー」
「えへへ♪」
響介に頭を撫でられて嬉しそうにするエリー、それを見たライミィはぷくーと頬を膨らませ
「だって、しょうがないじゃん。あんなにわらわらいんだから…」
と、すこし拗ねてしまったが響介はライミィの頭を撫でて
「ごめんな、少し過ぎたよ。ありがとうライミィ、一発でウォーリーダー潰してくれて助かった」
「えへへ♪そうでしょそうでしょ♪」
「お兄ちゃん、うぉーりーだーって何?」
「ゴブリンウォーリーダー。ゴブリン族の中では軍師と呼ばれレイドモンスターに該当する希少種だ。ゴブリンキングの側近も務め、下位ゴブリン達を束ね軍隊並みの指揮を執り団体での数的有利を生かし戦う危険度B級のモンスターになる。と図鑑に載ってた」
「軍師?」
「要は命令する指揮官みたいな奴だ。ウォーリーダーがいる場合他のゴブリン達はウォーリーダーの命令に従う傾向があってそれでさっきみたいに一番最初にウォーリーダーを潰してしまえば他のゴブリン達は混乱する。さっきもそうだったろ?」
「うん。お姉ちゃんスパークした後みんなあわあわしてた」
「本来ゴブリンは群れて行動する。数的有利を知ったら相手が強くても襲うがそれは周りが皆同じくらいのゴブリンだけの場合、そこでさっき話した事だ。頭を潰せば自分たちでは統率がとれなくなる。逆に自分が不利に感じたら逃げ回るんだ」
話ながら響介はマジックバックから棒苦無を取り出しノールックで後ろに投げる。それは後ろにいたウルフの頭に正確に命中し短い悲鳴を上げ倒れた。
「取り敢えずゴブリン達の討伐はこれでいいだろう。ゴブリン、ホブゴブリン、ハイゴブリン等々数が多いが」
「そだね~、これだけあれば大丈夫でしょ」
ライミィが指座したのは響介が持ってるゴブリン達の討伐証明が入った袋だ。ウォーリーダーの討伐証明である勲章と魔石も勿論他のゴブリンの物も入っている。
「最後にウルフを埋めてやって帰ろうか」
と、響介は両手の甲に気功を収束させて刃渡り15センチ程の4本の爪を手甲鉤の様に作り穴を掘って中にウルフを埋め3人で手を合わせた。その帰り際
「響介のそれ爪みたいだね。エリーが虎さんって言ったのも分かる」
「虎か、よし決めた。これ『白虎爪』って付けるか」
「びゃっこ?」
「俺の世界の外国の昔話に登場する『四獣』って呼ばれてる生き物がいてな、その一つが白虎っていう白い虎なんだよ。『四獣』ってのは四方を守護する獣で、ってごめんな、話長くなりそうだから宿戻ったらでいいか?」
「うん、ピアノ弾きながら教えて」
「エリーはまた難しいこと言うね~」
実は響介、ピアノは宿の部屋で弾いている。各部屋完全に防音処理がされているピーター商会の宿のお陰で気兼ねなく懐中時計からピアノを出して食事後に何曲か弾いては新しい曲が思い付き弾く、『天性のピアニスト』のアビリティのお陰で弾く曲も曲名とメロディが朧気に分かるだけで完全再現出来る為今ではレパートリーが200曲を越えている。全て元の世界の曲だが気にしないしぶっちゃけこの世界の楽譜が読めないのが痛いと思う響介。でもピアノを初めて見たエリーが目をキラキラさせていたのは凄い印象的だった。
そんな感じで3人で和気あいあいとしながら帰路に着き報告するとまたアランから「また後日取り来てくれ…」と頭を抱えながら言われてしまった。またアランは徹夜だろう。
そして宿に戻ってきた3人。
今日はもう依頼を受けずにみんなで部屋に篭り勉強する予定だ。ライミィとエリーが仲良くお風呂に入っている間に響介は改めて懐中時計の中を出して整理する。
「まずピアノ、それと金貨袋と道具袋に差し押さえ品だな。各々の装備は自前のマジックバックに保管してるから保管スペースが2つ分空いたし、まずは銭勘定だ」
金貨袋を取り出し中身を改めいつものメモ帳とペンを出し書き始める響介、グランドドラゴンの分もあり中々の金額だ。
「ええっと、セフィロトで使ったのは金貨850枚、エリーの服とその着替えが金貨2枚と装備が金貨計5枚、錬金魔法のアルケミストキットが金貨10枚、ライミィのマジックバック代が金貨2枚と俺のマジックバック代が金貨1枚。宿代が10泊分で金貨150枚に食料費が今のところ金貨2枚と、食費に至ってはもう買いすぎだな、少し気を付けるか。後は一昨日の計17冊の本代が金貨3枚とお小遣い分配各金貨5枚で出費が金貨1040枚、日本円換算はやめておこう、うん」
少し気が遠くなりかけたが響介は続けることに
「そこからグランドドラゴンの報酬合わせると金貨袋の中は51365枚、うん後でちょっと小分けにしとこ、財布の中はみんな金貨5枚入れただけだからいいか、向こういたときも路上演奏のおひねりで昼食べてたからプラマイゼロだし、冒険者の報酬も飯代とかで消えたしな、銭勘定はこれでいいとして次は…」
と、響介は荷物の整理をしようと手を伸ばした時ある本が目に入り手に取る、それは一昨日エリーが買った『大地讃歌』。エリー曰く神話を元に作られた絵本であり昔話のように物語が始まるのだが
(この出てくる神様ってのがな…)
節々で響介は気になる所があった。まず自分を連れてきた神様とこの物語の神様、同じものではないが何処か似ている。具体的には言えない感覚的なもので。そう考えながらパラパラとページをめくる
(物語は、一人の人間が荒れた大地や森と言った自然を癒す旅。その最中神遣いの白蛇や神徒の巫女、機械人形、正しき心を持った魔の者を始め様々な出会いをへて世界樹をも癒し、迷える者達を導き皆の中心となり楽園を作る、か…)
最後のページを見る。主人公の人間を中心に色々な生き物達がみんな笑顔で手を繋いだ絵だ。最後の文も「こうしてみんな末永く幸せに暮らしましたとさ」と締めくくる
(オリビアさん達から教えてもらったこの世界の歴史と部分的に被るとこもあるからそうなんだろうな)
この世界の歴史、古くは『地母神ガイア』が創世したと伝えられている。が、不思議な事にその地母神を信仰されている様子が無い。神聖王国もあの五神以外の情報はピシャリと遮断してたしな
「ん?」
遮断してたで響介は思い出した。確か神聖王国は治癒術士を追放していた。これは何か関係あるのだろうか?でも何故だ?その事を考えていると
「キョーウスケッ♪」
「とぉ」
「うおっ!?」
風呂上がりのライミィとエリーに抱きつかれてしまった。抱きつかれた事でさっきまで考えていた事が全部吹っ飛んだ。それもそのはず
「ふ、二人共!髪も拭かず急に抱きつくんじゃありません!」
響介は顔を真っ赤にして二人に注意をしている。年頃の女の子二人が風呂上がりにブラウス一枚で抱きついた。女の子特有の匂いや風呂上がりの石鹸の匂い等、特にライミィは自前の天然グレネードを遠慮なく響介に当てていて、今響介の中では必死に理性が本能にマウントポジションからぶん殴っている。
「キョウスケ照れてる~」
「照れてる~お顔真っ赤っか~」
いたずらっぽく笑うライミィとライミィにつられニコニコ笑うエリーを見て怒る気はないが流石にもたないので
「…次、風呂いいか?」
「「どうぞ~」」
解放された響介は顔を真っ赤にしたまま風呂に向かうのだった。