33話 遺跡の街 冒険者ギルドへ
2人、移動しながら炊き出しをする
中に入った響介はマリオンとロイに言ったことを中にいた残りの人間達に改めて頼む事を決めた。がその前に響介は隅っこに転がした奴隷商人を再度強制的に眠らせたのを確認してから切り出して自分の今後の考えを伝えた所、皆快く了承してくれた。
それが終わり、一息着いた響介はライミィの作ってくれたポトフを2人で食べている。
「ありがとうライミィ。美味しいよ」
「にへへ、ありがとう」
2人の間に流れる和やかな雰囲気、それを横でエリーはじーと見ていて
「どうしたエリー?」
じーと見ていたエリーは響介に身を寄せて来たと思ったら突如響介に抱きついた。
「おっと!」
「エ、エリー?」
いきなりの行動に食べていたポトフを溢さないようにする響介と冷静を取り繕っているが内心穏やかじゃないライミィ、しかし響介に抱きついたエリーからすんすんと音がするのに気がついた。
「エリー、何してるんだ?」
「変わった匂い」
「匂い?」
「お兄ちゃん、変わった匂いだけど、優しい匂い」
するとエリーは今度はライミィの胸元に埋まるように抱きつくと
「お姉ちゃんも、変わった匂い、でもお兄ちゃんと違う、優しい匂い」
そう言い穏やかに微笑むエリー、そんなエリーを見て意図が分かり和む響介、エリーの頭を優しく撫でるライミィ、気持ち良さそうに撫でられるままのエリー、そしてまるで仲の良い兄弟を見ているように和んでいる一同。大変なことが起きた後だが何とも平穏な一時だった。
そして日も暮れる頃に一行は遺跡の街リュインへ到着する。
遺跡の街リュイン。
遺跡型のダンジョンが多数あり今もなお新しい地下ダンジョンが見つかって冒険者、それを相手にする商人で賑わっているマルシャン有数のダンジョン街だ。奴隷商人と突き出し拐われた人間の保護を国に申請する為一行は冒険者ギルドへ向かう。
「でも何で冒険者ギルドに行くんですか?この場合国のお役所とかじゃ」
「冒険者ギルドは人族国家にまたがって存在しています。その関係上今回の拐われた人の身元を確認や対応をするには冒険者ギルドを介した方が早いんです」
質問したライミィに答えてくれたマリオンに
「それに、人によっては冒険者ギルドに捜索依頼が出されているケースがある」
付け足すように教えてくれたガタイのいい大柄で逆立てた金髪の男は兄弟で冒険者をしている兄のケインだ。その後に「ま、俺達は無いがね」と皮肉に笑って付け足していた。その後ろで
「おら!逃げられると思ってんのかこのタコがっ!」
「ひぃ」
同じくらいガタイが良く大柄でスキンヘッドの男性が奴隷商人に凄みを効かせている。この男はケインの弟のオットー、その風貌からこの兄弟は厳つい感じがあるが見た目とは裏腹に以外と話が出来、エリーの事も快く了承してくれた。と言うのも
「エリーさんが助けを求めていたから私達は助かりましたわ。ならエリーさんの事も助けませんと不公平ですわ」
と、言ってくれたのはメアリーと名乗った女性だ。気品の良さと身に付けていた装飾品から良いとこのお嬢様で彼女はアルスから拐われたと言っていた。
このようにメアリーやケイン兄弟を始め全員がエリーの事に全面的に響介達に協力してくれたということだ。そして一行が冒険者ギルドに近付くと何だか慌ただしく冒険者が騒いでいるのが目についた。
「何があったのでしょう?聞いてみますか?」
「いえ、マルコフさん。このまま横に着けましょう」
「キョウスケさん分かりました」
御者の青年マルコフに冒険者ギルドに横付けするよう指示をする響介。マルコフは指示通りに冒険者ギルドに着けようとするとギルドの職員が慌てたように出て来て
「すいませーん!討伐隊が要請した馬車でしょうかー!?」
眼鏡をかけて長い髪を三つ編みにした職員の女性が一行に喧騒の中でも聞こえるように質問を投げる。そこに外から見えないようにマントでくるんだエリーを抱えた響介が代表して
「申し訳ありませんが違います。ナウロアの森で奴隷商人の身柄と奴隷商人が使っていた馬車を押収しまして、お忙しい中すいませんがご対応頂けますか?」
ナウロアの森とは言わずもがな響介達が奴隷商人をとっちめた森である。これを聞いた女性職員は
「本当ですか!?分かりました。降りて確認させてくださーい!」
職員の指示で馬車から降りる一同、ライミィとエリーを抱えた響介が降りると
「おら!とっとと降りな!」
「んんーー!」
奴隷商人を蹴り落としたオットーを始めケインや他の人間が降りると次々と降り、職員は一人一人確認をとる為一同をギルドの中へと案内する。その間職員の対応はマリオンがしていた。
「なんで商人に猿轡をしてるんですか?」
「私達がされたのもありますがうるさいのでさせてます。喧しくて」
その商人はケイン兄弟に否応なしに引きずられていた。それを見た職員は呆れながら
「あはは、あんまり手荒な事はやめてくださいね?皆さんがこの奴隷商人を捕まえたのですか?」
「いえ、私達はこの奴隷商人に捕まってしまい拘束されてた所をこちらのお二人に助けて貰いました」
マリオンが響介とライミィを指すと職員は響介達に質問をする。
「間違いはありませんか?」
「ええ、奴隷商人はこいつと奴隷狩りの男達は全員で4人。3人はぶちのめしてナウロアの森の近くに放置、1人は逃げました。あっとそれとこれを」
「これは、サウンドセーバーですか?」
「俺とライミィとの会話を録音してます。使えれば使ってください」
「後で中身は確認しますね、後抱えてるその子は?」
「この子も拐われた被害者です。ただ怖かったのか今は寝ていますのでこうして抱えさせて貰ってます」
「そうでしたか」
職員は中へ行き他の職員と対応しようとするがその時響介が小声で
「それとこれは個人的なことですが、ギルドの所長、ギルドマスターの方に渡して貰えませんか?」
「はい、分かりました」
頭に疑問符を浮かべながらも手紙を受け取ってくれたギルド職員。手渡したのはクリスから貰った手紙だ。渡すのならギルドマスターに直接出すように言われているが、冷静になって考えたら見ず知らずの男からの手紙を直接受け取ってもらえるかわからないのでこうして渡して貰うことにした。
マリオンやロイのおっちゃん達がギルド職員に身元確認をされている中、響介の元へさっきの眼鏡のお姉さんが血相変えてやって来た。
「お、お待たせしましたっ!此方へどうぞ!!」
響介とライミィ、エリーの3人は奥へと案内されるのだった。