31話 疾駆 少女の視線の先
2人、奴隷を助ける。
「よし、この人で最後だな」
「お水欲しい人いますかー?いっぱいありますから遠慮なく言ってくださーい」
響介とライミィは鎖に繋がれていた人間達を解放し手当てを施していた。皆命に別状は無かったが脱水症状を起こしていたり体力低下による衰弱症状を起こしていた為、響介が治癒功で体力を回復させたり汲んできた水辺の水をクリーニングで綺麗にして飲ませたりしていた。そんな中ライミィの横で
「手伝ってくれてありがとうエリー」
こくりと頷く銀髪のダークエルフの少女エリー。
ダークエルフ。
本来肌が色白い傾向があるエルフだが、褐色の肌を持って生まれるエルフがいる。ダークエルフはその総称であり時にエルフより上位のハイエルフより高い魔力を持つ者がいる事があるが、その高い魔力故一説では魔族との混血と言われ、種族として特に排他的傾向があるエルフ達の中では『忌子』と言われ迫害の対象にされているエルフ達でもあった。
ダークエルフの事もオリビアさん達に教えてもらっていたが響介は祖父の教えの一つ『人を見かけや噂で判断しない』にのっとりエリーに接していた。これは元の世界で響介自身がモロに周りから受けていた事でもあり他人事に思えずこの考えはこの世界に来てもしっかりと守っている。
その証拠に響介はこの教えを守り行動した結果ライミィ始めラミア達から別れた今でも絶大な信頼を寄せられている。
現に改めてエリーを見ても自分から率先して手伝ってくれる良い子で、今はあの気絶している奴隷商人を落ちていた棒でつんつんしながら見てくれている。
「エリー、もうそいつは見なくていいぞー」
響介の言葉を聞いて響介の元へ駆け寄る、身長差がある為響介に対して見上げる形になっており金色の瞳でじーと響介を見ていた。
「どうした?エリー」
響介が尋ねるがエリーはじーと見ている。これには響介もどうしていいか困ってしまう。と言うのも育った家庭環境で年上と接する事が圧倒的に多く子供に慣れていない。むしろ見た目で怖がられる事が多かったのでどうしたものかと考えてると
「目」
「目?」
「お兄ちゃんの目、青くて綺麗」
どうやらエリーは響介の瞳を見ていた様でそれでじーと見ていたようだった。予想していなかった言葉に照れながら戸惑う響介。その時
「!?」
響介が何かに気が付いた。
「?」
「キョウスケ?どうしたの…!?」
弱っていた人間達の介抱が一段落したライミィが近付いてきた時だった。ライミィも何かに気が付き
「お姉ちゃん、お兄ちゃん、どうしたの?」
エリーがおろおろと心配そうにライミィと響介にに尋ねる。
「ライミィ、気が付いたな?」
「うん。周りの熱、いや空気が変わった」
「音も変わった。来る」
響介は異常を察知した方に身構えライミィは弓矢を構えたその時…!
「GGYAAAAAAAAAA!!」
大地を震わすかと思う咆哮を上げ一匹の禍々しい色をしたドラゴンがドスンと大きな音を立てて襲来した。飛竜種や翼を失った下級ドラゴンなどではない。正真正銘の、しかもレイド化した真性のドラゴンだった。
意識が回復した人間達がドラゴンを目撃した瞬間
「ひいいいぃぃぃぃぃぃ!」
「ド、ド、ドラゴン…!!?」
「もうだめだ…おしまいだ……」
「せっかく奴隷になるところを助けて貰えたのに…パパ……」
大人達が阿鼻叫喚となっている中エリーが見ていたのは、
「ライブラ使ったけどゴメン、『レイドグランドドラゴン』って名前しか分からなかった」
「そうなると少なくてもライミィよりレベルは上だな、名前からして風魔法効きそうだ。ありがとう情報が2つ手に入った」
響介とライミィの2人だった。
ドラゴンを前にしても慌てるどころか顔色一つ変えずのんびり会話をしており大人達とは大違いだった。そんな2人に見ていたら響介が気付き
「大丈夫だぞエリー」
優しく微笑む響介を見ているとどうにかなりそうだと思われたその時、後ろのドラゴンがブレスを吐こうとしているのに気付いたエリーは
「お兄、ちゃん…?」
気付いて声を出したがいつの間にか響介はいない。エリーが見たのは
「うおぉら!!」
ブレスを吐こうとした瞬間を狙っていたのかドラゴンの顎目掛けてサマーソルトキックを喰らわせていた響介だった。一体いつの間に移動していたのかが分からない。
ブレスを吐く寸前だったドラゴンは顎を蹴り上げられ強制的に口を塞がれた状態になりブレスは口の中で行き場が無くなり口の中で暴発。空に大爆発が響きドラゴンの悲鳴が上がり怯む、それを
「一点集中…!こいつで、どうだ!!」
ライミィが矢を引き絞り放った。ライミィの魔力で弦を張ったコンジットボウから放たれたのはただの矢ではない。矢にグランドドラゴンの弱点を突ける風魔法のゲイルマグナムを重ね掛けした矢、その音速を越えた一撃はグランドドラゴンの心臓部を抉り貫き
「GYAAAAAAAAAA!!!!!?!?」
ドラゴンの断末魔が響いたつかの間、
「喧しい。いい加減黙れ」
サマーソルトの勢いそのまま宙を蹴り跳んだ響介から脳天目掛けて振り下ろされる叩き付け蹴り、毒蛇咬が叩き込まれる。事切れ直前のドラゴンが見たのは紛れもない『青い瞳の悪魔』の姿。
同族より恐ろしい悪魔から振り下ろされた蹴りをくらい頭部を地面に叩き込まれてドラゴンは絶命した。
そこへ着地した響介はライミィとハイタッチを交わし見ていたエリーに気付いたライミィは
「ね、大丈夫だったでしょ?」
と、ライミィに優しく笑顔で言われつられて笑顔になるエリーだった。