30話 出会い2 黒い耳長少女
2人、奴隷狩りを返り討ちにする。
奴隷商人がいる森へと入った響介とライミィ、理由は勿論
「おっとしまえ~♪おっとしまえ~♪」
この通り自分達に対する落とし前を付けさせる為だ。ライミィが歌いながら先に進み呑気に聞きながらも周囲警戒を抜かり無く行う響介
「ライミィ、本当にこっちで合ってるのか?」
「勿論!キョウスケだって本気で言ってないでしょ?」
「まあな」
ラミア特有のアビリティ蛇の感性。蛇は生物の体温を判別出来るピット器官がある。分かりやすく言えばサーモグラフィにあたり熱元探知機みたいに使える。
ラミアにもこの器官は存在しそれ故の熱元探知能力は極めて高く、森での捕捉能力は人間はおろか大陸東部で生きているエルフや獣人族をも凌ぐと言われているらしい。特にライミィはレベルが上がったのと隠れ集落での狩人生活や響介との旅での経験で更に上がっており今では
「ん~と、馬が2の人間が大体10人位で動いてるのは1人で後はずっと1ヶ所から動いてないし回りは動物や魔物はいないみたい」
と、この様に感性に磨きがかかりある程度距離があっても判別が可能である。
「本当にライミィは凄いな。ありがとういつも助かるよ」
「でしょでしょ!うーんと褒めてね!頭ナデナデ付きで」
響介褒められたライミィは響介に抱きつき笑い、響介はライミィに頭ナデナデして上げるとにへらーと幸せそうに抱きつきながら
「でもでも、キョウスケもここまで来ればわかるでしょ?」
「ああ、聞こえるな『奴隷狩り共は何をしている』とか『さっさと奴隷共を売りたい』とかな、どうやら動いているのは商人で後は恐らく拐われた人間だな」
「キョウスケのぶっ飛び聴力も凄いよねー」
「スキルポイントも割り振ったからな」
ニューポートに滞在していた時、聴力が良くなっていた事に気が付いた響介はスキルツリーを開くといつの間にか『聴力強化』が解放されていたので取り敢えずMAXにした。すると聴覚での収集能力が上がりこの様にかなり離れていてもある程度なら聞こえる様になりしかもonoff機能付きという獣人族魔族涙目の地獄耳である。
「草を踏む音も聞こえるからうろついてるみたいだな、聞こえるのは男1人分、ライミィの情報と合わせて考えると1ヶ所に固まってるのは拐われた人間か?」
「だと思うよ。1ヶ所だけやけに熱が固まってるから多分閉じ込められてるのかな?」
この2人、それぞれ人の域を越えた斥候に適した能力を持っている故周囲に対しての情報収集能力がえげつない程高い、それに加え情報の擦り合わせも抜かりなくするため完璧と言っていいほど周囲の状況を理解していた。そうして森を進み
「いたな」
「うん」
暫し歩き目的地に到着した。
茂みの向こうの水辺にいるのは二頭の黒い馬に牽引されている馬車、遠目から見てその荷台は外から中の様子を伺う事が出来ない箱型の、まるでトラックのコンテナみたいな造りをしており窓もない。その周辺をうろつきながら時にぶつぶつ何か呟き、時にいきなり気持ち悪く笑っている商人がいた。
「でもどうするの?絶対言い逃れするよ?」
「パッと思い付いたんだがこうやろうと思うんだ」
響介はひそひそとライミィに耳打ちをする。それを聞いたライミィはにやっと笑い
「オッケー♪じゃあ早速…」
「あの奴隷狩り共は何時になったら戻って来るんだ……!」
商人はイライラしていた。
奴隷売買は確かにいい金になるし未だに需要もある。しかし禁止されてから重罪とされ捕まるリスクだけは最小限に留めたい。それに今回は
「くくく、あの娘はいい金になるぞぉ…!」
幸運な事に本来ここにいることがあり得ない種族の、取り分け珍しい種の娘を捕まえる事が出来たので速く売りたかった。高値で売れるだろうと思っていたその時…
「しっかりしろ!すぐ助けるからな!」
響介がライミィを抱えて茂みから飛び出してきた。それを間近で遭遇する事になった商人は
「な、なんだお前達は!?」
「!?」
反射的に大声を出してしまい響介に気付かれてしまった。響介はライミィを抱えて商人の側まで駆け寄る。抱えているライミィは息が荒く苦しそうな表情をしている。
「すまない。連れがいきなり倒れてしまったんだ。見たところ商人とお見受けする。金は払う!すまないがアイテムを分けてくれないか?」
「え?いや、申し訳ないが持ち合わせが…」
その時だった。
馬車からドンドンドン!と叩く様な音が聞こえ、その時の声も響介は聞こえた。
「ご主人、あの荷台には何が?」
「き、君達には関係無い…」
動揺しているのが一目瞭然だった。そこで響介は
「わかるか?」
「うん。あの中にいるのは11人。さっき叩いたのはその中でも一番反応が小さいよ、わかる?」
「声が聞こえた。『助けて、ここから出して』って言っているな。子ども、それも女の子か?ご主人何故女の子を閉じ込めているのですか?まさか」
「ち、違う!」
「まだ何も言っていませんよ?」
「あれは奴隷では」
「誰も奴隷だなんて言ってないよ?」
「あっ……」
響介に抱えられていたライミィの指摘に自分の失言に気が付いた商人だが、時既に遅しライミィの手に握られていたのは
「はい、サウンドセーバーに録音完了ー、言質取ったよー、この会話は全部録音しておりまーす」
笑いながら言うライミィのこの言葉に商人は慌ててライミィからサウンドセーバーを取り上げようとする。
「小娘…!そいつをよこせえぶらっ!」
「俺の女に手を出すな」
「あーんキョウスケカッコいい♪」
しかし響介のドスの効いた声と共に顔面に拳を入れられ一撃ノックアウト。ライミィは抱えられている体勢なのを利用して響介に抱き付いた。
「おっと、危ないぞ?」
「えへへ~、だって~またキョウスケ私の事『俺の女』って言ってくれた~」
嬉しそうに頬を赤らめるライミィに改めて自分の言った言葉に恥ずかしさを覚えた響介。顔を赤くしながらもライミィを降ろし、気絶している商人を縛り上げ問題のコンテナに近付く
「ご丁寧に鎖巻いて厳重にしてるね。どうするの?」
「こうする。ふん!!」
すると響介は鎖を引き千切り始める。これは元になっている響介の筋力自体も高いのもあるが、そこからスキルの『筋力強化』の全てが上乗せされているから出来る芸当である。
「キョウスケすごーい!」
「ありがとう。鎖はこれだけだな、じゃあ開けるぞ」
そうして響介はコンテナの扉に手をかけ開ける。中を見た響介は
「おい!大丈夫か!?」
開けるや否や直ぐに中に入る。
「キョウスケどうしたの!?」
いきなり入っていった響介に驚き続いて中に入る。ライミィが見たのは
「酷い……!」
鎖に繋がれた人間達だった。中は暗いが暗視能力を持っているライミィは確認出来た。皆衰弱していてぐったりとしていてその中で響介は少女に駆け寄っていた。見ると鎖を付けられた状態から無理に動いたのかあちこちから出血しており響介は鎖を引き千切る。どうやら中から叩いて助けを呼んでいたのはこの娘の様だ。
「よく頑張ったな。もう大丈夫だ」
響介は鎖を引き千切り少女に治癒功をかけて傷を治す。少女は呆然としていたがたどたどしい声で
「他の人、具合悪そう」
「何……!?」
「ホントだよキョウスケ。今ライブラで見たけど皆酷く衰弱してる!ってキョウスケその娘」
「?」
「?」
響介は改めてその女の子を見る。響介も暗視能力を持っているので問題は無く見ることが出来る。その女の子は整った顔立ちで浅黒い肌をしており長い銀色の髪と対象的で一番の特徴としては耳が長かった。
「キョウスケ。この娘ダークエルフだ」