28話 商人の国へ ギブアンドテイクは商人の基本だそうだ
アリシア達が依頼を受ける5日前、響介達が街を出た頃の事
昼下がり、ごとごとと音を立て街道を行く一つの馬車、それを操る御者の若い男性と横には中年の男性が並んで座っていた。引いている大きな荷台には沢山の積み荷が積まれており武器や鎧を始め様々な武具やアイテムがあることから行商人のようだ。そして馬車は見えてきた関所へと入る。他の通行人もいたため暫し待っていると順番がきた。
「確認をお願いします」
御者の若い男が通行証を兵士に渡す、ここは神聖王国オウレオールとマルシャン公国の国境にある関所、神聖王国の兵士は通行証を確認し
「ヒューズさん、確認取れましたどうぞ」
「ありがとうございます」
ヒューズと呼ばれた若い男が通行証を受け取り馬車を出しマルシャン公国へ入る。そのまま道なり街道沿いに進み次第に関所が見えなくなってきた時、開けた場所でふと馬車を止め
「お二人さん、ここでよろしいですかな?」
中年の男性が荷台に声をかける、そこは本来誰もいないはずだが
「申し訳ありません、助かりました」
「ヒューズさんありがとうございます」
奥の荷物に紛れていた響介とライミィが荷台から降りてきて行商人達に頭を下げてお礼を言った。
「何言ってんですかお二人さん!助けられたのは俺っちたちですよ!ねえ父さん!」
「全くです。野盗に襲われていた私共を助けて頂いただけでなくドラゴンの干し肉まで分けて頂けるとは、こちらも感謝しかありません」
響介達がニューポートを飛び出してからのこと、功掌を上手く使い離れる事が出来た響介達は未開の森を通ってマルシャンに入るつもりだったがたまたま野盗から逃げてるこの行商人親子を見つけそこでいつも通り野盗を締め上げて迷惑料を取り行商人を助けた。
助けた時にお礼がしたいと言われ、ならマルシャンまで乗せて欲しいと頼んだところオウレオールを出るまでの護衛として雇わせて欲しいと提案をされ乗せてもらったのだった。
響介がこう提案したのはオウレオールは国を出る時に出国審査をする関所があり神聖王国が発行する身分証や通行証、もしくは冒険者ギルドが発行するギルドカードが必要になる。
そういう理由があった為未開の森を通ってマルシャンに入ろうとしたのだが運よく神聖王国から出る事が出来たのだった。
「他にもキマイラなどの魔獣の干し肉もありがとうございました。これらはいい値で売れそうです」
「いえいえ、こちらこそ貴重な情報やアイテム等も頂いたのでお互い様ですよ」
「私達行商人はギブアンドテイクが信条ですからな!私達も遺跡の街に立ち寄るつもりなので機会があればよろしくお願いします」
白髪混じりの短髪で口髭に顎髭と年相応のダンディなヒューズ父親が爽やかな笑顔で響介と握手を交わし、これまた父親に良く似ている口髭に顎髭のヒューズ息子が馬車を出し
「お二人さん!元気でなー!」
「ええ、ありがとうございました」
「さよーならー」
ヒューズ親子に別れを告げ馬車を見送る二人。響介はニューポートで買った地図を広げ
「今ここで、目的地はここだ」
地図に指を立てる。指差したところは規模の大きい街のようで地図には
「『遺跡の街リュイン』だよね?私も楽しみ!」
「ああ、でもまだ距離があるからな、焦らず行こう」
「だねー、神聖王国みたいに野盗とか多くないみたいだし魔物に気をつけて行こうね」
「ああ、武器の状態は大丈夫か?」
そう言ったライミィは背に携えた弓と腰に着けた矢筒、ブレストプレートを確認し
「もち!残弾174本!いつでもいいよ!キョウスケは?」
「ガントレットもグループも着けた。あとは」
響介はニューポートでクリス所長に買うように熱く薦められたマジックバックを確認した。
マジックバックとは冒険者に普及し始めた魔法道具で見た目と中に入れられる容量が比例せず魔法の力で拡張されているアイテム。購入したマジックバックはホルスターバックの様な形状で極力響介の動きを阻害しないものを選び中にはポーション類のアイテムをある程度ストック出来るものだ。ちなみにこのタイプはポーション類を最大10本までストック出来る。
「懐中時計の中は俺のピアノ、金貨袋と道具袋で、所持金は共通資産分金貨2405枚に袋の中身は保存食1ヶ月半分とポーション類とクリス所長達に買うように薦められた冒険者セットとテントと毛布と調理道具その他諸々、あとは差し押さえ品」
使用した内枠はクオリア達の依頼の報酬とギルドへの仲介費用200枚、改めて買い揃えた道具類で24枚、セフィロトから買った情報代260枚。
「そういえばあの聖騎士の鎧とかどうするの?」
「マルシャンには闇市ってのがあってそこで売る。盗品とかも取り扱ってるらしいから売れるだろうし、こっちの武器類は武器屋で売ればいいからな」
「それじゃ、目指すは遺跡の街リュイン!改めていってみよー!」
おー!と返事をする響介。
そして歩き始め響介とライミィの二人はこれから出会うヒトに、挑む遺跡に思いを馳せるのだった。