3話 森の中へ その行きつく先は
響介、暴漢共をとっちめる。
「キョウスケ!こっちだよー!」
深い森の中、その先を行くライミィは後ろにいる響介に対し笑顔でブンブンと手を振っている。
「待ってくれライミィ。こっちは森の中なんて歩き慣れてないんだ」
森の獣道。いや蛇の通り道の様な道なき道をスイスイ進んでいくライミィからかなり遅れてながらもついていく響介。2人が何故こんなことになっているのか?話は少し遡る。
「で?お兄さんらはライミィに何しようとしてたの?」
ライミィの手当てが終わった後。響介は叩きのめした暴漢共を一人ずつ起こし並んで正座させていた。響介とは一回り以上年が離れているのにも関わらず響介の目が笑ってない笑顔とその威圧感。なによりも響介に一撃で叩きのめされたのが脳裏に有るようで全員が顔を青くして正座していた。
「俺の話、聞いてた?」
「聞いてます!」
「質問に答える気あんの?」
「あります!ラミアは顔も良いのと魔力も有るため売り飛ばそうとしました!」
「成る程ね、人身売買か。で?それだけ?」
「え、後は、味見を……」
「!」
「あ?」
「ひぃぃ!ごめんなさい!」
その言葉を聞いて怯えて響介の後ろに隠れるライミィと殺気を隠さなくなり目のハイライトが消えた響介。婦女暴行類いの犯罪が何よりも嫌いで嫌悪している為尚更である。響介の怒りに火に油を注いでしまった形になり先程以上に顔を青くして震えている男達。響介は一息つき努めて落ち着きながら男達に尋ねる。
「…なあ、お兄さんらに相談があるんだ。いや選択って言った方がいいかな?」
「せ、選択?」
「お兄さんらはラミアなんて見ていない。なによりもこの森にいなかった。武器もいきなり襲ってきた魔物に命からがら逃げたから落としてしまった。これが一つ目」
「ふ、二つ目は…?」
「お前ら全員が右手人差し指を切り落として落とし前をつけた後、俺にボコボコにされて放置される。どっちがいい?」
響介は暴漢共から取り上げたナイフをちらつかせながらニッコリとした笑顔で聞いた。しかしその響介の笑顔はニッコリと笑ってはいるがどす黒いオーラを纏った怖く威圧感のある笑顔でそれを目の当たりにした男達は
「1つ目でお願いします!」
即答だった。当たり前だ。こんな所でボコボコにされて放置されたら間違いなく魔物のエサである。
「素直で嬉しいよ。ただ、約束破ったら分かるよね?」
「はい!本当に申し訳ありませんでした!」
地面に額を擦り付けながら土下座した男達は一目散に逃げていった。それを見届けた響介は
「こんだけ釘刺しとけば大丈夫だろ。ごめんね、巻き込んじゃって」
「え、ええとそれはいいんだけど、ねえ」
「じゃあ、元気で」
そうして響介は立ち去ろうとした。だが
「えっ!ちょっ、ちょっと待ってよ!」
「へ?どわぁ!」
立ち去ろうとした響介の右腕にライミィは自分の白い尻尾を絡ませ無理矢理引っ張って自分の所に引き寄せた。ただ、無我夢中で引っ張った為引き寄せられた響介は受け身を失敗して地面に叩きつけられる
「いってぇ!いきなりなにすんだ!」
「私の話も聞いて!一方的になんて酷いよ!」
そう言って強がっていたライミィだが目に涙を浮かべて「う~」と唸っていた。これを見た響介は
「え、ああ、ごめんな、俺が一方的過ぎた。謝る。すまなかった」
女の子を泣かしたという状況に響介は強い罪悪感が生まれ彼女に出来るかぎりの謝罪を入れた。そんな響介を見てライミィは響介の右手の両手で優しく握り
「私もごめんなさい。えっとね、助けてくれてありがとう。お礼がしたいの」
「俺が勝手にやった事だから気にしなくていいよ。でもいいのか?人間の俺が君達ラミアだったか?君達の縄張りに入っても?」
そこが響介が一番懸念している所だった。人間だろうとラミアって種族?だろうと自分達のシマに勝手に入られる事はよく思わないだろう。だからこそ響介は騒ぎにならない今のうちに立ち去ろうとしたのだった。
「大丈夫だよ、私がみんなを説得するから。だから…」
俯いてしまって顔色は確認出来なかったが声が震えていた。怖いのだろう、不安なのだろうと響介は感じた。それに対し響介は
「分かった。君の言葉に甘えてもいいかな?」
努めて優しくライミィに答えた。その答えを聞いたライミィはパアッとまるで花が咲いた様な笑顔を浮かべ
「うん!こっちだよ!」
「ちょっと待ってくれライミィ。行くから尻尾で引っ張るのは」
次の瞬間ゴチーン!と音が似合うくらい響介は木に頭を勢いよくクリーンヒットさせ
「いってぇ!」
こんなことがあり響介はラミア達の隠れ集落へ行くのだった。
この出来事から凡そ1時間弱。未だに森の中を進む2人。響介は自分の身体に違和感がある。
先程のした男達との戦闘でもそうだったが、1時間以上歩いていてもほとんど疲れがないということだった。体力には自信はある方だったが自分でもわからない
(体力はあるほうだったと思ったがどういうことだ?そういえばあの神様、ステータスは反映して色付けるって言ってたような…)
考えているとこっちにくる時の神様との会話を思い出した。自分の身体能力を反映すると言っていたので恐らくそう適応しているのだろうと思う事に。そこで響介は自分の身体能力を改めて考えてみたのだが
「キョウスケー、どうしたの?」
考え過ぎたのかさっきより遅れていたようで心配したライミィが声をかけてきた。ライミィの声に答える為に考えを中断する響介
「いや、なんでもないよ。ちっと足取られただけだ」
「そっか、道悪くてごめんね。でももう少しだから頑張ろ」
そう言ったライミィは先に進む。さっきからライミィはチラチラと見ているが人間が珍しいのだろうか?それとも逃げないか気にしているのだろうか?
響介の状況としてはこの世界に来て初めて話が通じる相手で遭遇したのがライミィだった為それ以外で頼れるのがないのが現状。なにより
(また、泣かせたくはないからなぁ)
先程の泣き顔を見て彼女を悲しませて去るのは良心的にも痛い。
『故意に女を泣かせる奴は人として人でなし』これも大切な祖父の教えである。響介はこの教えを痛感しながらライミィを追いかけて行った。
(どうしたんだろう。キョウスケといるとドキドキする…)
ライミィは響介に対しての今の感情が分からず内心困惑していた。
今日は狩りをするためあの森に入ったのだが運悪くあの暴漢達に出くわしてしまい、弓と矢筒も壊されて囲まれた時に響介が現れた。
変わった服を着た黒髪で青い瞳の彼。
自分の事を知った上で女の子と言ったくれた。
ラミアの事を知ったらまず化け物扱いされるのにも関わらず彼はそんな素振りも見せなかった。
それどころかあの男達に対してまるで自分の事の様に怒っていたのが印象的で容姿も端麗、まるで昔読んだ絵本の王子様みたいにカッコいい。
もっとキョウスケとお喋りしたいがいざ彼の顔を見るとドキドキしてしまうライミィだった。
お互いこんなことを考えながら森の中を進む。それから歩き続けさらに1時間後
「ここだよ、キョウスケ」
そして2人はラミアの隠れ集落へとたどり着いた。苔むした大木がいくつもありより鬱蒼とした、日の光がほとんど届かない深い森の奥地。そしてその中でも一際大きい大木が目についた。大木には所々に穴やうっすら這った痕跡があることからどうやらあの大木の中で暮らしているのが分かった。
(蛇は木のうろとかにねぐらを作るって聞いたことあったが、成る程木に住んでいるってことか)
そう響介が考えていると1人の茶髪の弓を携えたラミアが木の中から出てきた。
「どうしたのライミィ遅かったじゃな」
ここまで言った所でライミィの後ろにいた響介を見るや否や
「人間…!ライミィ逃げなさい!人間よ!」
その慌てた声に反応して中からぞろぞろと他のラミア達が皆杖や弓矢を持って出てきた。響介も反射的に身構えようとしたら
「みんな待って!お願い!私の話を聞いて!」
ライミィが響介を庇う様に両手を広げて間に割って入ってきた。
「ラ、ライミィ!?」
「ちょっと、どういうこと?」
「ライミィ退きなさい!」
「私の話を聞いて!お願い!」
ライミィの必死の行動に狼狽えて同様するラミア達。そこへ銀髪で風格があり魔法使いが羽織るようなローブを着たラミアが近付いて来た。
「あらあら、みんな何してるの?」
「オリビア様!」
「お母さん!」
ん?お母さん?
「あらあらライミィ帰って来たのね。あら?その男の子は?」
「お母さん、実は……」
カクカクシカジカ マルマルクネクネ
「ちょっと待て、今の通じたのか!?」
響介の疑問を他所に話は通じたようでオリビアと呼ばれたラミアが響介に近寄り話し掛ける
「キョウスケ君。娘を助けてくれてありがとうございます。ですが」
オリビアはここまで言うと少し言い淀みライミィを見た。そして響介に向き直り
「ですが人間の貴方がここに居るのは貴方にとっても私達にとっても不利益しかありません」
「!」
「はい。それは自分も理解しています。俺はここを立ち去った方が良いでしょう。では失礼します」
響介はラミア達に頭を下げその場から立ち去ろうとした。縄張り事はデリケートだ。これは仕方ない事だ。
しかし右腕にガシッとした感触があり見てみると
「えっ?またかぁ!?」
ライミィの白い尻尾だった。さっき以上に雑に引き寄せられ地面に激突する響介。こう何度もやられると流石に響介も文句の1つでも言おうとしライミィを見ると
「みんな、みんな酷いよぉ、私はただお礼がしたかっただけなのに……」
嗚咽を漏らして泣きじゃくっていた。
これを見た響介は痛みと怒りがなんて消え失せ、どう声を掛けていいものなのか内心パニックになっている。
「ごめんねライミィ。貴女の意思を無視してしまって」
泣きじゃくるライミィを優しく抱き寄せ宥めるオリビア。ライミィを落ち着かせた後に改めて響介に尋ねた。
「確かにこのまま貴方がいるとお互いの為にはなりません。ですがキョウスケ君。ライミィの母として貴方にお礼をさせて頂けませんか?」
「分かりました。オリビアさんこちらこそよろしくお願いします」
会話をしつつこの辺りが落とし所だろうと思った。お互いに納得が出来るしオリビアさんがああ言えば大丈夫だろう。
と言うのもさっきのラミア達の口振りでこの中でも立場がある人だ。その人が自分個人を責任の所在にすれば文句はないだろう。
現にラミア達は従っている。それを知ってか知らずか
「キョウスケ!こっちだよ!」
「行くから!行くから尻尾で引っ張らないでくれ!」
すっかり元気を取り戻したライミィは響介を引っ張って行ってしまった。それを見て
「あの子があんなに懐くなんて」
オリビアは嬉しそうに呟き、ラミア達にはもう戻るように言い自分もライミィと響介の後を追って行った。