27話 別れの日2 仕置き完了
2人、取り立てに行く。
「この魔法使いやすい!」
覚えてから一度も使う機会がなかったライミィの新しい魔法ゲイルマグナム。
間近で見る事になった響介はその威力に舌を巻いた。魔法自体はシンプルな風の弾丸を出すだけだが威力も速度もウインドアローの比じゃない。まるで何発ものウインドアローを凝縮した音速の弾丸の一発は通り過ぎた風圧だけでゴロツキ共を吹き飛ばし、弾丸が直撃したゴロツキ共は馬車まで吹っ飛ばされ勢いよく馬車に激突しもろとも破壊するほどだ。手加減してこの威力である。
「いい威力だな、ライミィ」
「ありがとう!キョウスケのそれも凄いね!」
ライミィが言っているのは大盾の様に展開している気で出来た壁だ。まるで亀の甲羅の様な模様があることから元の世界で戦神と呼ばれた亀から頂戴し『玄武甲盾』と響介は名付けていた。30人程のゴロツキが一斉に襲いかかっても傷一つ無くゲイルマグナムの風圧にも耐えたことから強度は問題なさそうだ。そうして響介とライミィが盗賊共を派手にぶっ飛ばすと
「いいぞー!!」
「ざまぁみろー!」
「お姉ちゃんすごーい!」
「お兄ちゃんカッコいいー!」
後ろから響介達に付いてきた民衆達から歓声が上がる。それを聞いたライミィはふふんと小さく笑い神官長に
「どうするのー?もう終わりアバズレ?」
不倫カップルに問い掛ける。ハーパー卿は雇った黒い狼団の連中が一瞬で吹っ飛ばされた事で腰抜かして尻餅をついて呆然としていたが神官長はヒステリックに叫び
「ふざけるな!ふざけるなぁ!聖騎士達は何をしている!こいつらを捕らえろ!」
叫び散らす神官長だが聖騎士達は伸びたゴロツキ共を捕らえて連行しており騎士団長は落ち着いた声で
「私達聖騎士団はこの国の民を守る為に存在している。貴様のような犯罪者の言うことを聞くと思っているのか?国民の安全の為貴女を捕らえさせてもらう」
冷ややかな視線を向けてはっきりと言ってのけた。どうやら優先順位はわかっている様で響介はひと安心。しかし往生際の悪い神官長は髪の毛をかきむしりさらにヒステリックになり
「どいつもこいつも役立たずがぁ!!もういい!こうなったら考えがある!」
神官長は懐から何かを取り出し砕く、すると足元には突如魔方陣が浮かび輝き始めた。
「なっ!?貴様!」
騎士団長を始め聖騎士達が顔色を変えて狼狽える。
「うふふふ、私を怒らせた罰よ」
神官長の前に現れたのは神々しい光を纏い純白の鎧に身を包んだ美形の騎士。しかし無機質な感じがあり、どこか機械の様な不気味な男であった。
「召喚式の人造人間だと!?」
「そうよ、私にはこれがあるわ!さあ!純白の騎士よあの者共を」
「うおぉら!」
「へ?」
勝ち誇っていた神官長が召喚した人造人間が戦闘体勢に入る前にあっという間に距離を詰めた響介がターロスを殴る。当の神官長は間抜けな声を出して呆けていた。
胸部に撃ち込んだ気功を纏った拳は純白の鎧を粉々に砕き撃ち込んだ拳にスナップを効かせて地面に叩きつけダウンを奪う。立ち上がろうとするもすぐさま響介が両足で腕を抑えマウントポジションを取ると
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
馬乗りの体勢から何十発と顔面に拳の雨を降らせる。整っていた顔は見る影もなく歪み抜け出そうとしてもがいていたが次第に力を失っていき
「どおぉらぁ!!」
止めといわんばかりに大きく振りかぶった拳は舗装された地面ごと破壊する威力で殴り殴った場所にはクレーターが出来、召喚されて1分も持たず純白の騎士は何も出来ず地面に埋もれ動かなくなった。
響介達は神官長が人造人間を持っているのは情報屋から把握済み。そして召喚直後の人造人間は召喚者の指示が無いと動かないことも把握していたので、召喚されたら直ぐに片付けると響介は決めていて先手を打ち殴り殺した。
「うそでしょ…?人造人間を瞬殺なんて……」
騒ぎを聞きつけてきたクオリア達は目の前の光景に唖然とした。人造人間の戦闘力は高位の魔族並みに高くレベル換算はおよそ30レベルと一般の冒険者より高く逃走一択となるほど危険な存在を一方的に殴り倒した響介に呆然とするしかなかった。その中でもヤコブが
「さっきのライミィの魔法はなんだ?風魔法みたいだけどあんな魔法は知らないぞ?それに詠唱無しだなんて……」
ライミィの放った魔法がかなり気になっているようだった。
ってあれ?詠唱無しってそもそも詠唱いるのか?ラミアのみんなは詠唱何てしてなかったぞ。
まあそんな事はどうでもいいかと響介はつかつかと歩みを進めハーパー卿の元へ
「おい、ボケッとするな」
腰抜けて動けないハーパー卿の胸ぐらを掴み持ち上げ無理やり目線を合わせさせる響介。が
「あ、あわわわ……」
目の前で起きた事が理解出来てないのか響介の剣幕に怯えてなのかまともに話にもならなそうだったので金貨50枚分の装飾品の宝石が付いた指輪やら金製の腕輪などをパッパとハーパー卿からブン取ると懐中時計にしまう、同時に一つの袋を取り出し
「支配人、キッチリ金貨50枚です」
「あ、ああ……」
乱暴にハーパー卿を未だ呆けていた神官長目掛け投げ捨てる。あの不倫カップルはもつれ合いながらゴロゴロと転がり響介は予め分けていた朝宿で言っていた宿の修理費諸々を支配人に渡す。すると
「よし、ライミィ逃げるぞ!!」
「はーい!」
「「「はっ?!」」」
金貨を支配人に渡すや否や突如走り出した響介とライミィに戸惑う一同、それを見た騎士団長は我に返り
「ま、待ちなさい君達!手の空いているものは門へ行き彼らの足止めを」
「そんくらい折り込み済みだ!ライミィ!」
「きゃっ、もうキョウスケ大胆♪」
走りながら響介はライミィをお姫様抱っこして抱えると功掌を使い伸ばす。それを冒険者ギルドの4階の屋根を掴むと
「と、飛んだぁーーー?!」
功掌は掴んだものを引き寄せる事が出来るがそれだけではない、この様に響介自身を引っ張るのにも使用出来るのだ。そして今響介達は宙に舞っている。功掌で勢いよく引っ張られ空中に投げ出されたような形になったがライミィをお姫様抱っこしたままで
「皆さんさようなら!また何処かで!!」
「ばいばーい!!」
ワイヤーアクションのように飛びながら別れの挨拶をして消えていったのだった。ポカーンとしてただ見ているクオリア達、そしてギルドの所長室から目撃したクリス所長は唖然としていたが、
ファーマスとウナ、それに仲良くなった大道芸人達や下町のみんなは笑いながら2人に手を振って見送っていた。
そして同じ様に功掌で建物を掴みまるで八艘飛びの様に移動しあっという間に街の外へ、そして2人の姿はマルシャンとその隣国コンバーテの国境付近の森へと向かって行き
「次どこ行くの?」
「商人の国、マルシャンだ」