24話 協力 任侠を学ぶ(クオリア視点)
クオリア、雇われる
神官長達に決別の意を示した私クオリアは昨日の事を思い出してました。
「一体なんだろうな?いきなりクリスさんから呼び出しなんて」
魔物の討伐依頼を終えてギルド内で寛いでいた私達は職員さんからクリス所長が話があると言われ所長室へ向かっていました。
「ナンシー達も呼ばれてましたし、勇者パーティーに召集かかってるわよね」
リーナさんが口を開く、確かにナンシーさんも呼ばれていました。複数パーティーを呼んでいるのなら大規模な討伐依頼でしょうか?
「あいつらも来るのか?僕やだなぁ」
そうぼやくのはヤコブさん。ヤコブが言っているのはロンさん達の事です。私もあの方達は苦手です。ロンさんは自分は貴族だと鼻にかけ横柄な方であり、回りの方々を平民を見下していてなるべくなら話をしたくありません。いや、同じ空間にいたくありません。
私は貴族と言うのは本来領地やそこに住む民達を庇護し有事があれば民の先頭に立ち、それに立ち向かわなければいけないと考えています。生まれただけで裕福な暮らしが出来るなんて美味しい話はありません。
それは責務に対する代価であり権利に対する義務と教わりました。
それに反するロンさんは好きになれません。
「クオリア、まあ難しく考えんなよ」
声をかけてくれたのはドーンさん。そうですね、と返事をし所長室に入る。すると
「クオリアさん、皆さんいきなりお呼びしてごめんなさいね」
出迎えてくれたクリスさん。しかし私達が驚いたのは
「えっ?」
「お、お前らは!?」
あの時、ピーター商会でナンパしたドーンさんを手厳しく振った女の子と仲裁に入った男性が先に入っていました。
「あら?キョウスケ君、面識があったの?」
「はい。そこのドーンさんがライミィをナンパしてましたので。ピーター商会の中でしたからワッケイン副支店長から聞いていませんか?」
「あー、そういえばワッツ言ってたかも」
あの時の事を言っているようでバツの悪い顔をするドーンさん。ですがクリスさんはその男性を紹介してくれました。
「おっとごめんなさい皆さん。先に説明するわねこの人はキョウスケ・コウガミ君とライミィさん。今回の皆さんに指名依頼をする依頼人よ」
依頼人?私がそんな事を考えていると
「入りますよークリス所長」
ナンシーさん達『ハイペリオン』の5人が入って来ました。ナンシーさんはキョウスケさんを見ると
「あれ?この人って…」
「知ってるんですか?」
「うん。朝宿屋街のとこで逆立ちして腕立て伏せしてる人だったはず」
……え?逆立ちして腕立て伏せ?
「そんな事してたのキョウスケ?」
「ああ、普段の鍛練はなるべく欠かさずやりたいからな」
普段の鍛練で逆立ちして腕立て伏せってどんな鍛練なんだろうと思ってましたが
「リュミエールとハイペリオンは揃いましたね。さっ始めましょう」
こほんとクリスさんは咳払いを一つしてから仕切り直しました。
「改めて、この人はキョウスケ・コウガミ君。今回の依頼人です」
「紹介に預りました鴻上響介です。旅のピアニストをしています。報酬の話から、1人当たり金貨20枚で考えています」
「1人金貨20枚!?」
私達のランクだと例を上げると一つの依頼の報酬で金貨5枚人数分で割ります。ですから一人当たり金貨20枚は高額です。が
「申し訳ありません。えっと」
「響介で構いません」
「ではキョウスケさん依頼内容は?」
「依頼は明日自分達が行うことの見届けと一組は移送する馬車の護衛。もう一組はトリウス教会の神官達の抑止です」
「トリウス教の抑止?」
「皆さんはズボフ・コッドはご存知でしょうか?」
聞いた事があります。確か行商人の中心に襲う強盗グループのリーダーです。ですが2ヶ月程前からとんと聞きません。
「ズボフ・コッドは今ニック・ハルパーと偽名を使いロン・ハーパーのパーティーにいます」
「なんだと!?」
「ズボフはロン・ハーパーの父親ハーパー卿と裏取引をし隠密魔法で姿を変え勇者の庇護下に置かれています。そしてハーパー卿とこの街のトリウス教会の神官長は裏で繋がっておりロン・ハーパーに有利になるようにしています」
衝撃を受ける私達ですが、リーナさんが
「えー、キョウスケでよかったよね?証拠は?」
「こちらに」
一つの封筒の私達に渡して頂けました。中にあったのは裏取引の現場の写真やハーパー卿と神官長の逢引写真、トリウス教会に集まった寄付金や喜捨の使い先、そしてロンさん達が影で行っていた悪事の証拠など有力な物がたくさんありました。
……権力者ほど腹の底に黒いものが有るといいますが自分の実家もあるのかなと思いましたがここで疑問が
「質問。証拠も上がってるなら何故自分でやらない?ここまで出来るなら出来ると思うが」
ヤコブさんが突っ込んで聞いていました。確かにわざわざ回りくどいことしなくてもと思いました。
「簡単な事です。自分の言葉を誰が信じますか?いきなり出て来てこんなのを見せられても信じますか?自分達には社会的信用がありません。そこを皆さんの、勇者のお力をお借りしたいんです」
最もだと思ってしまった。詳しく聞くとお二人はこのニューポートはおろか神聖王国に来たばかりだという、しかしまた新しい疑問が
「どうして来たばかりの街に対してそこまでするんだ?あんたらには関係無いだろ?」
ナンシーさんから当然の疑問が、それをキョウスケさんは
「はい関係はありません。関係無いの一言で見て見ぬふりは簡単ですし赤の他人なら当然です。しかし自分は目の前で私利私欲の為に他者を苦しめている者を見逃す程人間が出来ていないだけです。それに」
「?」
「自分は任侠者です。目の前で理不尽に苦しめられている人間を助ける事に理由は要りません」
気がつけば私は依頼を受けていました。キョウスケさんの言葉には力があり目には決意が宿っていました。
このキョウスケさんの姿が本来貴族のあるべき姿、私が両親から学んだ人の上に立つ者のあるべき姿と思ったからです。
「で、具体的にどうするんだ?」
「明日、奴らが暴行沙汰を起こしたらキョウスケと私でしめます」
「そしてしめ終わったらピーター商会の伝を使いアルスへ身柄を移送し引き渡します」
トンでもないことを言っていましたが今思えば大変に確実な手段でした。そしてその後は細かな打ち合わせ、役割分担をして昨日は終わりました。
そして今に至ります。トリウス教会の神官達が何か言おうものなら下町の方々が擁護するなど御二人はこの短期間で慕われているようでした。
そして今はオロスでささやかながら祝勝会が開かれています。私達とクリス所長は招かれてキョウスケさん達と食事を御一緒させて頂いています。ですが
「チーズやトマトを使ってるのが多いな」
ドーンさんからの指摘です。トマトってあんまり得意ではないんですよね私、その疑問を答えてくれたのがオロスの女将ウナさんです。
「悪いねぇ、今日はあのバカップルが好きなの中心で作ってるからねぇ」
バカップルと言うのはキョウスケさんとライミィさんのことです。と言うのもいつも仲良く食べている所を見て女将さんが名付けたそうです。
「そういやキョウスケ達お酒飲まないの?」
もう既にエールの瓶を1本空けたリーナさんからの質問が、リーナさんお酒好きなんですよね神官なのにと思っていて御二人を見ると確かに御二人はお酒を飲んでないみたいです。
「自分達が住んでた所の風習で飲酒は20歳になってからとありまして、だからお酒よりお茶になります」
……は?ここにいる皆さんが一斉にキョウスケさんを見ました。当たり前です。
「ごめんなさいキョウスケ君。貴方何歳?」
「自分17です」
「「嘘でしょ(だろ)!?」」
嘘です!絶対嘘です!そのなりで17歳!?そんなにでっかくて中身も出来てるのに!?あまりの事実にここにいる人全員が声を揃えました。
「そういや年聞いた事なかったね…」
「……そうだな、そう言えば酒類にも手が全く伸びてなかったような」
そう言うのは支配人夫妻。宿屋の台帳にも年は書くところは無いので仕方ないと言えば仕方ないのでしょうか。
じゃあライミィさんは…?
「じゃあライミィは?」
「私16ー」
ダウト!ダウトです!
そ、そんな馬鹿な。だって…
「どう見ても、なあヤコブ」
「僕に振らないで下さいよドーンさん」
はあ、とため息をつくヤコブさん。
「だってうちの連中と比べて発育が、あだっ!」
ドーンさんの頭を酔っぱらいながらも杖で殴ったリーナさん。流石です!
「ドーン、あんたいい加減にしなさいよ!いくらクオリアが22になってもちんちくりんだからって比べるのは失礼よ!」
いや貴女も失礼ですよ!!酔った勢いで気にしてる事を…!
「そんなに意外ですか?」
「信じられないわよ、キョウスケもだけどライミィだってスタイル良すぎでしょ?典型的なボンキュッボンじゃないの」
「ありがとうございまーす。ちなみにくびれが一番自信あるよー」
確かに胸やお尻もさることながらワンピースの上からでもわかる引き締まったウエストラインは女性の私でも羨ましいです。
「それなのにクオリアはこの寸胴体型…」
「ドーンさん私泣きますよ?」
本当に泣きたいです。自分よりも年下のライミィさんはあんなにスタイル良いのに私は、と悲観している横でクリス所長が
「本当に17歳と16歳かステータスボード確認してもいいかしら?」
「構いませんが、あまり人に見せたくはないのでちょっとこっちでクリス所長だけでいいですか?」
と、少し渋るキョウスケさんとライミィさんです。確かに他人に見せたがらない方もいますから特段珍しい事ではありません。御二人とクリス所長が別室に行き数分後クリス所長が御二人のボードを確認したようで頭をかかえていました。
「クリスさん、どうしました?」
「……逃した魚があまりにも大きかったわ」
落胆の色を隠せない程動揺しているクリス所長。御二人がお強いのは確実ですからしょうがないですね。だってみんな一撃でしたしライミィさんは容赦ありませんでしたから。
「ま、まあ追々考えさせて下さい。ね、キョウスケ」
「ピアノを弾いてくれっていう強制的な依頼でもなければ考えたいと…」
「勿論待ってるわ!なら後で私の名刺を渡すわね」
この切り替えの早さに定評があるクリス所長、もう笑顔です。ですが心なしかいつもより笑顔が輝いてます。
「まあ、あのアホを厄介払い出来たんだから嬉しいんでしょ」
ヤコブさんの言葉で私達は納得してしまい頷いてしまいました。ギルドで一番のトラブルメーカーがいなくなって肩の荷が降りたようですね
「さて、なら何曲か弾かせてもらいます」
そう言ってキョウスケさんは席を立ち隅の空いてるスペースに行き懐中時計みたいなのを取り出すと
「え?」
いきなりピアノが現れました。マジックアイテムか何かでしょうか?そう言えば最近中央公園でマジックみたいにピアノの出してそのまま演奏しているピアニストの話を聞きましたが正体はキョウスケさんみたいです。
キョウスケさんの弾いている曲は聞いた事ない曲ですがすごい綺麗な曲です。
「キョウスケスッゴい上手でしょ?」
にししと笑って話かけてきたのはライミィさん。こう見てますと確かに年相応に見えます。御二人は2日後に旅を再開するそうです。私も見送りが出来たら良いな思います。
が、まさかあんな風に別れる事になるのは予想も想像もしていませんでした。