21話 対決 ピアニスト対勇者一行round1
2人、対策を立てる。
オロスでの話合いの翌日の冒険者ギルド。そこへ
「おい!勇者様ご一行が帰ったぞ!」
乱暴に扉を開け入ってくる5人の男。勇者ロン率いる『凱旋の狼』だった。どかどかと他の冒険者達を追い払いながら入り受付へ、
「帰られたのですね。報告を」
受付で座っていた職員が事務的に対応する。そして小綺麗なローブを着た男が出て来くるやいなや。
「こんな仕事僕にやらせるな!僕は勇者なんだぞ!分かっているのか!?」
開口一番職員に罵声を浴びせる。どうやらこの男が勇者ロンのようだ。
「勇者様だろうとなんだろうとロンさん冒険者ランクEですからね。そんな事より報告を」
「ふん!これだ!」
ロンは突っぱねるように職員に袋を渡す。中を確認した職員は
「確かに確認しました。こちらが報酬です」
「さっさと寄越せ!」
ロンは報酬を引ったくるように受け取り待っていた男達に合流する。
「金だぞ。お前達の取り分だ」
「ありがとうございやす勇者様」
「ここのギルドの奴らは無能だな。この僕の価値がわからないんだから」
「全くでございますな」
「勇者様。そんな事を言ってしまうと貴方様まで同じにされてしまいますぞ」
「そうか。ならここまでにしておこう」
ギャハハと下品に笑いながら冒険者ギルドのど真ん中で他の冒険者達の侮辱し始め満足するまで笑う勇者達。本来こんな所で言った場合確実に喧嘩になるがこの勇者は親の権力をちらつかせては刃向かえないようにしている為誰も手出しが出来ず黙っているしかなかった。
(ふん、バカはおだててやるに限る)
その中でもニック・ハルパー、ズボフ・コッドは勇者含めここにいる人間を見下していた。ハーパー家と契約し、隠蔽魔法によるカモフラージュで大手を振って歩け勇者の権力と庇護で好き勝手出来るこの状況はまさにズボフとっては最高の状況であった。
「まあまあ勇者様。とっととこんな所出て食事にでも行きましょう」
「あっはっはっ!そうだな!なら教会に戻るとしよう!」
勇者一行は冒険者ギルドから出て教会に向かう。その途中で
「きゃっ!」
女の子はロンにぶつかってしまう。
「あ、あの、ごめんなさい…」
「僕のローブが汚れたろうが!この薄汚い平民がぁ!」
あろうことか幼い子供に対して持っていた杖で殴りつけ、殴り倒す
「申し訳ありません!娘が」
女の子の母親が血を流して泣く我が子を抱き勇者に謝罪する。しかし
「うるさいんだよ!」
ロンはその母親にも杖を振るおうとする。ズボフ達はこの無抵抗の人間をいたぶる瞬間が何よりも好きだった。だからこの愚行も止めずニヤニヤと見ていたのだった。
「身の程を教えてやる!この平民が!」
そして、親子に杖が振るわれた時だった。母親に当たる直前に何者かが杖を掴む。
「な、なんだお前はっ!?」
反応が出来なかったズボフ達。いつの間にか勇者と親子の間にいた長身の黒髪の青年、ロンは振り払おうとも杖はピクリとも動かず
「子供に何してんだてめぇ!!!!!」
青年の怒声と共に杖が握り潰され、同時に鳩尾に強烈なボディーブローが叩き込まれ
「おぼわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」
殴り飛ばされ20メートル程吹っ飛んで行った。吹っ飛ばされたロンはゴロゴロと地面を転がり自慢のローブもあっと言う間に泥だらけ、なんとか起き上がろうとしたのだが
「うぷっ、おえ、おええええぇぇぇぇぇぇ!!」
肝臓を狙い澄ましてぶっ飛ばされた事で身体のあらゆる器官がシェイクされた事に拍車が掛かり勇者は街の中央通りで、公衆の面前で胃の中の物を盛大にぶちまけたのだった。
「ご婦人、娘さんを見せてくれませんか?」
響介は母親に抱き抱えられている女の子を見た。痛々しい位に殴られた所は裂傷し血が流れており泣いていたが響介は殴られた所に手を当て気を込める。すると
「あっ」
「ああ……」
響介は女の子に治癒功をかけて治す。するとみるみるうちに傷は治りあっという間に傷は跡形もなく治った。
「ありがとうございます!なんとお礼を……」
「お気に召さらず。幼いとは言え嫁入り前に傷なんて可哀想だ。ほら行くといい」
笑顔で対応し親子がその場逃れから離れたのを確認して、目付きが鋭く変わった響介は改めてゲロまみれの勇者とズボフ達に向き直る。
「お前らがロン・ハーパーと愉快なゴミ虫達だな?」
ひと通り吐いて息も絶え絶えながらもやっと喋れるようになった勇者が口を開く
「な゛、な゛んだお゛まっ、おぷっ」
またもようしたようで咄嗟に口を塞ぐ勇者。変わりにズボフが答える
「おいガキ。このお方が誰か知ってての狼藉か?」
「あ?子供に手を上げるゴロツキだろ?」
端から見れば響介の言う通りである。この様な弱い者虐めも響介は嫌いな為中々のご立腹案件だ。
すると取り巻き共が吠える吠える。
「このお方は凱旋を司る神、トリウス神に選ばれた勇者ロン様だぞ!」
「勇者様に刃向かったらどうなるかわかってんのか!」
「てめえ終わったな!」
部下が吠えるとズボフもニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら
「と、言うわけだ貴様はこの国ではとんでもない事をしてしまったと言う訳だが」
「とりあえずお前らの脳内ハッピーセットなのはわかった」
「は?おい、さっきからお前、俺達をバカにしているのか?」
「まさか、アホにしてんだよ。ダボが」
響介は見下す様に言ってのけた。いや実際ズボフ達より物理的に身長の高い為見下してる格好になっている。常に周りを見下してる人間には丁度いい煽りだ。そしてより鋭くなる響介の眼光に萎縮してしまう。
「勇者だが貴族だが知らねぇが子供殴っていい理由にはならねぇな」
「そーそー子供に暴力振るなんてさいってー」
丁度響介に隠れる形になっていたライミィが顔を出してズボフ達を批判する。
「おい、嬢ちゃん。お前も勇者様に何言ってるかわかってるのか?」
「はぁ?勇者?低身長で短足、性格の悪さが滲み出てるブサイク顔のゲロまみれのお漏らし野郎が?ドン引きなんですけど」
公衆の面前で堂々と口撃でフルボッコにしている。確かによく見たら下も漏らしていた。これには
「うわぁ…」
「だっさ、何あれ?お漏らし?」
「あれが勇者かよ…」
「無様ww」
集まった観衆が口々に言われ、皆に哀れに見られていた。ちなみに最初の方から見ていたクリスとワッケインは呆れ、勇者ナンシーとその仲間はロンを見て腹を抱えて笑っている。挙げ句には
「確かに勇者には見えませんわ…」
勇者クオリアにも哀れに、汚物を見るような目で見られていた。
「それに比べて、キョウスケは強いし誰にでも優しくて礼儀正しいしそれにカッコいいでしょ!私自慢の恋人なの!」
ライミィはサラッと響介をアピールし腕に抱きついた。観衆は
「カッコいいわね、背も高いし足も長いしモデルさんみたい」
「顔もイケメン、あの娘羨ましいなぁ」
「あの人ってあのピアニストじゃない?」
「そうだよ!ピアニストの兄さんじゃないか!」
響介を見て騒いでいる。響介は注目されることに慣れていなく内心やれやれとこの状況でも呑気に思っていたのだった。