19話 邂逅2 厄介な人達
響介、路上演奏が成功する。
「そこの貴方!お待ちなさい!」
この日、2人で歩いていた響介とライミィは後ろから声をかけられた。
が、この国には知り合いと言う知り合いはいないし響介達は自分達とは思わず歩いていた。
「そこの背の高い黒髪の殿方!金髪の貴女!お待ちなさい!」
どうやら自分達のようで振り向く2人。そこにいたのは綺麗で派手な服や目立つ装飾品を着けたいかにも貴族ですって言っているような、響介達より年が上の女性だった。
「貴方の演奏、聞かせてもらいましたわ!顔も良いしよろしければ私の屋敷のピアノ演奏家に招いてもよろしくてよ?」
断られまいと余裕の表情で言い放つ貴族の女性。まるで響介の物みたいに扱う言い方に難色を示し睨みを効かそうとしたライミィだったが
「あ、結構です」
横でサクッと一蹴する響介
「そうでしょうそうでしょう、どうしてもと言うって、え?」
「行こうかライミィ」
「うん!」
ライミィと手を握り直し歩き始める2人。余りの事に呆けていた貴族の女性だったがハッと我に返り
「ちょっ、ちょっと!あなた私が誰だと思って」
「知らんし、興味無いし、どうでもいい」
女性が何か言ってるのを遮り白けた表情で返答する響介。取り付く島が無いとはこの事だろうか。
初めて中央公園で演奏した日、次の日もその次の日も響介は中央公園に通いピアノ演奏を披露していた。そして大道芸人達と仲良くなり今では大道芸人達と一緒にパフォーマンスを披露していて今もその帰りで大道芸人達と別れたばかりだ。
それからか、このような勧誘紛いの事をしてくる輩が後を立たない。今日でもう通算6件目である。
「わ、私を敵にするとどうなるとお思いかしら!?」
「知らねぇ、どうなんの?」
「この街に、この神聖王国にいられなくしてあげますわ!だって私は」
「大丈夫っす。自分達後3日でこの国から出てきますんで」
「え?」
まさかの返答にあんぐりとする貴族の女性。権力を振りかざして脅そうとしたのだったが響介にその手の脅しは通用しないしむしろ逆効果である。そこで
「いいかライミィ、あんな喧しい女性になっちゃ駄目だぞ」
何事もないように追撃を入れる響介
「あんな女性嫌い?私は?」
「喧しいのは嫌いだ。それと外見だけで中身空っぽな奴もな、だがライミィのは明るい若しくは賑やかって言うんだ。俺は明るい女性が好きだ」
「えへへ~」
顔をほころばせて笑い響介の腕に抱きつくライミィ。もう2人だけの空間である。貴族の女性は取り付く島もなく脅しも効かない響介に肩を落としすごすごと帰って行った。そこに
「おっ、バカップルじゃあないかい!」
「あっ、女将さーん!」
声をかけてきたのはオロスの女将ウナさんだ。夕食の買い出しに行っていた様で山盛りの紙袋を両腕に抱えていた。
ウナさんはさっきの様子を見ていたようで
「まーた貴族に声掛けられたのかい?キョウスケあんたも大変だねぇ」
「もう慣れましたよ。うんざりしてますが」
「まあ確かにあんたのピアノ上手かったからねぇ」
実のところ響介は宿でも弾いている。4日目の夜の事、食事時に盛り上げようとして宿が演奏家を呼んだがドタキャン。それで代役の話をライミィが偶然聞き宿に響介を紹介した。宿側も宿泊客にされられないと言ったが代案が無く響介に依頼したところ響介は見事に成功させた。
その後番頭兼支配人に滞在期間中弾いて欲しいと言われ快く了承したのだった。
「それにしても、こっちから料金返すって言っても断るし、キョウスケは欲は無いのかい?」
「何曲か弾いただけで流石にそこまでしていただくのは俺もライミィも断りましたし、結局晩御飯に一品追加で落ち着いたじゃないですか」
「まあキョウスケがそれなら構わないけどライミィは良かったのかい?」
「私はキョウスケがそう言うならなんにも。それより今日の一品は何ですか?」
「…聞くだけ野暮だったよ。今日はカプレーゼ。にしても2人は次どこいくんだい?」
「特には決めていません。ですが神聖王国からは出ようと思ってます」
「そうかい寂しくなるねぇ、それはそれとしてちゃんと夕飯にはちゃんと戻ってるんだよ」
「「はーい」」
こうして女将ウナさんとは別れた。響介が神聖王国から出ようと思っているのはお国柄を調べた結果この国は人族以外には排他的な傾向があるからだ。万が一ライミィの正体がバレた場合の事を考えバレてもまだ種族問題が寛大なマルシャンに渡ろうと思っている。この事はライミィにも話していて本人も納得している。
「……」
「どうしたの?キョウスケ」
「ライミィ気が」
響介がライミィに何か伝えようとした時だった
「あっ!お兄ちゃんとお姉ちゃん!」
声の方を見るといつぞやの少年と母親、それと少年の妹だった。親子は響介達に近づき
「こんにちはトム、妹さんもすっかり元気になったようだな」
「うん!」
「お兄ちゃん、お姉ちゃんありがとう」
「良かったね、えっとジーンちゃんだよね?あれから大丈夫?」
「うん」
「本当にありがとうございました。またこの子達が元気な姿を見れるのは」
「おっとご婦人ここでは」
響介は口に人差し指を立ててそれ以上言うのを控えてもらった。気持ちは分かるが誰が聞いているかわからない。
「あっ、すいません」
「いえいえ、トム。家族は大切にするんだぞ」
「うん!バイバーイ!」
家族と別れた響介達。歩きながらライミィに小声で
「ライミィ、気付いてるか?」
「うん。女将さんと話してる途中から。私達に敵意持ってるのバレバレ過ぎ、あのお母さん達との会話も聞かれてたかな?」
「確認しよう。そこ曲がったら待ってみるか」
響介とライミィは中央通りから商業区に入る道に入って少し進んで待つことに、すると
「わっ!」
修道服を着た女性、要はシスターがやって来た。響介達の顔を見るなり驚いていることからどうやらつけてたのは彼女のようだ。見た目はライミィより小さくつり目で赤色っぽい髪の毛が見え隠れしている。
「こんにちはシスター。俺達に何か御用でしょうか?」
「えっ?えっと」
「ああ、お茶ならご遠慮しますよ、俺にはライミィがいますので」
「えへへ~」
笑顔で響介の腕に抱きつくライミィ。それを見てか
「違います!」
キッとした顔で反論してきた。
「では何でしょうか?シスターに何かつけられるようなやましいことはありませんが?」
「貴方は何者ですか!?」
「何って、旅のピアニストです」
「その恋人でーす♪」
「そうではありません!」
「先に断っときますがシスター。人様に物を尋ねる時は自分から名乗ると教わらなかったのでしょうか?」
「まず人としての礼儀だよね?」
「まさか、貴女様の仕えている神様はそのような非礼を推奨している神様なのでしょうか?」
この言葉にカチンときたようだが響介達の言ってる事は最もなので反論すると認める事ととらえたのかシスターは名乗る
「私は五神の内の一神、凱旋を司るトリウス様に仕える神官のアシャよ」
「ありがとうございます。自分は鴻上響介、先程も申しましたが旅のピアニストをしています」
「私はライミィです」
「互いの自己紹介も終わりましたし本題に入らせて頂きますが、俺達に何か?シスターアシャ」
「単刀直入に聞きますわ。貴方!治癒術士なのでしょう!?」
アシャは響介に指を指してはっきり言い放つ。しかし
「いえ、違います」
響介は即答で返答する。
「え?い、いえ!そんな事は有り得ませんわ!?だって」
「あの、何を根拠にキョウスケが治癒術士って決めつけてるんですか?」
「こ、根拠?」
「うん。キョウスケが治癒術士って言う根拠。後言っとくけど私も治癒術士じゃないよ」
「根拠はありますわ!さっきの親子!確かあの親子の娘は重い病に罹っていたはず!それが貴方達がこの街に滞在している間に完治しています!それにさっきのこともありますしこれはどういうことですの!?」
響介はこの言葉を聞いてどうやらさっきのやり取りは見ただけで聞いてはいない。いや聞こえていないと判断する。しかし、それが根拠なら根拠としては心許ないと思う響介。
横ではシスターアシャにライミィが質問を投げ掛ける。
「あの親子がお薬買ったんじゃないの?」
「貧民にそんなお金はありませんわ!」
「なんで貧民だって知ってるんですか?」
「あの母親が我が教会とパクス教会に毎日の様に祈りを捧げに来ていたからです!あの母親だけではありません!貧民街にいた者達もです!」
「で、家族が治ったら来なくなったって事ですか?」
「ならこの都市に旅の治癒術士が訪れた可能性は?」
「考えられませんわ。この街に入る際持ち物検査や調査魔法による検査も行われます。だから街に入る事は出来ませんわ」
「じゃあキョウスケも入れないよね?」
「あ…」
最もな事をライミィは言ってくれた。確かに入国検査ならぬ入街検査はあった。しかし響介達の荷物は全て賢者の懐中時計にしまってあった為懐中時計一つ出しただけ。懐中時計も調べられたが響介以外にはただの懐中時計に成り果てる。その道の者しか価値がわからない為番兵達はスルー。それだけSランクアイテムは貴重かつ全容が判明していないからだ。調査魔法もかけられたが当然引っ掛からなかった。
「あなたの言ってる事は滅茶苦茶だよ。薄っぺらい根拠でキョウスケ疑ってさ、いい加減にしなよ」
「!?」
ライミィはそう言うとシスターアシャを睨みつける。睨まれたシスターは正に蛇に睨まれた蛙の如く固まってしまった。ラミアであるライミィの睨みは中々恐い、一度ここにくる時に見たことあって野盗共をしめて『お話』してた時、まだ反抗的な男がいてライミィが間近で睨みつけたら煩かった男がたちまち震え上がる位だ。止めは
「キョウスケが殺すなって言うから殺さないだけだよ?だから、わかるよね?」
と、どす黒く殺気のある薄ら笑いを浮かべ野盗共を震え上がらせ何人か漏らす程だ。
流石にそこまではしてないが喧しかったシスターを黙らせるには十分だった。
「ライミィ、やり過ぎだ」
「あっ、ごめんなさい。つい」
「あ、えっ?ええ、こちらこそ大変失礼を」
「連れが失礼を致しました。自分からもお詫び申し上げます」
響介達は2人で頭を下げる事に。これを見たアシャは慌てて
「い、いえ!此方こそ私も初めから疑ってしまい申し訳ありませんでした。失礼致します」
と、アシャは踵をかえしそそくさと行ってしまった。視界に消えた事を確認し響介達は宿に向かうことに、その道中
「ねえキョウスケ。トリウスって例のだよね?」
「間違いないな、情報通りだ」
「どうする?」
「取り敢えずほっとこうか。まだ疑われてるだけで直ぐには動かないだろう」
「動けないじゃなくて?」
「そうだな。下町の連中から聞こうにもトリウス教の連中は嫌われてるみたいだし、下町の皆は俺達のことは黙ってくれてるしな。だが」
「どうしたの?」
「もうそろそろあっちが動くかなぁって思っててな」
「ああ、あの人ね。でも来るかな?」
響介達は次に自分達に接触してくる人物に目処を立てる。そしてその日の夜、現実になるのだった。