17話 それぞれの夜
響介、家計簿をつける
響介達が仲良く眠りに就いている頃、冒険者ギルドに併設している宿の食事処では
「ドーンさん、あれは流石に失礼ですよ」
勇者クオリア一行の姿があった。クオリアが言っているのは商会での響介達との事だ
「まあまあクオリアそのへんで」
「ヤコブさん、ですが…」
ヤコブと呼ばれた魔法使い風の優男が宥める。人当たりが良さそうな青年だ。
「でも今回はないわよ」
「リーナさん厳しいです」
口を挟むのは神官のリーナだ。長い銀髪の気の強そうな女性ではっきりと言い切った。
「ドーンのナンパ癖は何時ものことだからいいけどさぁ今回は、って」
「リーナさんどうしましたか?」
「ドーン、さっきから黙りじゃない。どうしたのよあんたらしくない」
「え、ああ」
「気持ち悪いわね、どうしたのよ?」
「あ?いや俺の籠手って鋼鉄製だったよなと思ってたんだが」
「だが?」
「これだよ」
3人はドーンからその籠手を見せてもらった。それが
「は?」
「うそでしょ!?」
「そんな…」
その籠手は響介に握られた方の籠手で、鋼鉄製の籠手には握られた手形がくっきりと跡がついていた。
「今改めてこれ見てたがあの兄ちゃん何者だ?」
ぼそりと呟くドーン。鋼鉄製の籠手を握り潰すなど並大抵力ではない
「分かりません。ですがちゃんとお話を伺いたいですね」
そう言ったのはクオリアだ。貴族の出だが両親からの教育が行き届いた礼儀と教養がなっている女性で謙虚で思慮深い彼女の好奇心は明日の依頼より響介とライミィに向いていたのだった。
「そう、分かりましたクルーニさん」
所変わってここはギルド所長室、初老の受付クルーニからの報告を受けていたクリスは頭を悩ませる
「ワッツから聞いてたけどよりによってオロスかぁ」
「申し訳ありません。私の力が足らず」
「いえいえ!クルーニさんの責任ではありません!それにあの事だって…」
「それこそ所長の責任はありませんよ。あの馬鹿共が……!」
「ですが、もう直接私が出向くしかありませんね。クルーニさん今後の予定の確認お願いします」
「所長!」
「元々自らスカウトしたいと思ってましたから、それに私に直接来いと言われましたので行くのが礼儀かと」
クリスは席を立ち窓の外を見ながら話す
「あんな人材見逃せないわ…!有能過ぎる、それに」
「それに?」
「久しぶりよ、あんなにも決意に満ちて生きた強い目を見たのは、ああいう人間は本当に冒険者に欲しいわ」
今でこそギルドの所長をしているが元は冒険者として活躍していたクリス。2人を、特に響介を見て嘗ての自分達の姿を重ね合わせていたのだった。