159話 案内 夜の森へ
更新が遅れ大変申し訳ありませんでした。
鴻上組、果樹園の窃盗被害を調べる。
その後も答えられる範囲の質問を交えながら響介はクルツ達3人と笑いながら話しをしていた。
空腹が満たされたのか聞き上手な響介に心を開いたからか聞かれた事に彼等は解る範囲で滑らかに舌を滑らせるかのように話しをしてくれた。話しも一段落するかと思った時
「皆様、こちらに籠をご用意しましたので皆様のご家族様にも持って行って差し上げましょう」
「「「はーい」」」
そう言われクルツ達はブドウの木に手を伸ばしてもいではブドウを大きな籠に入れていく。ここで何か違和感に気が付いたトマが恐る恐る後ろを振り向くと後ろの光景を見て固まる。そんなトマを不審に思いクルツとケニーも振り向くと
「「こんばんは〜」」
「今晩は」
「こんばんは」
そこにはライミィは4人がにこやかにクルツ達に挨拶をしていた。それをポカンとした様子で見ていたクルツがポツリ「キョウスケ兄ちゃんのウソつき…」と溢したが
「んーん、お兄ちゃん、ウソついてない」
「そだね〜。私達は時間になっても帰って来ないキョウスケを探しに来ただけだからね〜」
響介はちらっと懐中時計に目を移すとクルツ達に出会ってから小1時間程経過していた。これだけ見るとライミィ達の言い分は最もであるが最初からそうするつもりだったりする。
実は響介、クルツ達と接触する直前に身に着けていた通信カフスを起動させておりクルツ達との会話は全てライミィ達に筒抜けだったりする。
先程の響介の「今は俺達しかいない」という言葉にウソはない1時間も経てば状況など直ぐに急変するのだ。だが今はそんなことよりも
「えっ、ダークエルフ…?」
「ホントだ」
「うん。エリー。ダークエルフ、だよ」
初めて見た自分達以外の同族に子供達は自然と話し始める。それを見ながら
「首尾はどうだいライミィ?」
「こっちはオッケーだよ〜。お母さんとアリスお義母さんとリンドウさん始め世界樹の森の主だった人達みんなと話し合って最終的な判断はキョウスケに任せるってさ」
「流石、頼りになるよ」
でっしょ~と笑うライミィと手近にあったリンゴの木からリンゴをもいで籠に入れていく響介。暫し収穫作業をしていると楽しそうに話していた子供達の輪にアリスが入って行ったのを見た響介は聴覚スキルを使い聞き耳を立てる。
「こんばんは」
アリスから声をかけられクルツ達は目を丸くさせている。その様子からどうやらハイエルフを初めて見たのかと思ったが響介はトマが「ベルセドア様以外のハイエルフ初めて見た」とポツリと言ったのを聞き逃さなかった。そこにエリーが「お母さん」と声をかけるとクルツ達は顔を見合わしエリーに尋ねる。
「えっ、お母さんって…」
「エリー、ダークエルフだよな?」
「ハイエルフ…」
「エリー、先祖返り。ご先祖様がダークエルフ」
「「「先祖返り?」」」
初めて聞く言葉にクルツ達は再度顔を見合すとエリーは自分のステータスボードを開いてクルツ達に見せる。そんなクルツ達にアリスは自己紹介を挟みながら意を決してクルツ達に目線を合わせて話し始めた。
「おばさんね、みんなとみんなのお父さんお母さんに謝らないといけないことがあるの。だからみんなのご家族に会わせてもらえませんか?」
アリスの申し出に戸惑いを見せたクルツ達だが
「うーん、ホントは駄目だけど」
「でも、大丈夫じゃないかな」
「うん。あのエルフ達みたいな臭いしないし」
「だな!おばさんもキョウスケ兄ちゃん達みんないい匂いするしいいよ!」
エリーよろしくダークエルフ特有の匂い判定でクルツ達の許可を貰え響介達はクルツ達とダークエルフ達が暮らす森へと歩を進めた。
ダークエルフ達は世界樹の森の北側にある果樹園の向こう、マルコシアスが森ダンジョンを創った際何故かダンジョンにならなかった森へとやって来た。エリーとクルツ達を先頭に籠を背負うステラ、少し距離を開けて籠を背負う響介、ライミィ、アリスの順で歩いている。
新月の夜の森は不気味な程静寂に包まれており虫の音は疎か風の音すらない。しかしあまりにも静かな森に少し違和感を感じた響介だったが
「……成程ね〜」
響介を他所にライミィは何か納得したように響介が感じていた違和感に気が付いた。
「何かわかったのかライミィ」
「なんかここらへん一帯いろんな魔法の魔力を感じるよ〜」
「いろんな魔法?」
「うん。風属性魔法に水属性魔法でしょ、これは隠蔽魔法に付加魔法に状態魔法かな?なんだか一つに纏められて絶妙なバランスで保ってる」
そうライミィが魔力感知のスキルを使いながら分析していると並んで歩いていたアリスが口を開いた。
「それと操作魔法と錬金魔法よライミィちゃん。操作魔法のマリオネットでライミィちゃんが言った魔法全てを意図的に操作して纏めてたのを錬金魔法で一つにしたの」
「魔力を意図的に操作、ですか?」
「ええ、これは結界魔法『サンクチュアリ』。私が13年前、エリーを身籠った時に創った魔法よ」
アリスの説明によると結界魔法とはかつて存在したと謂れている魔法で今現在では失われた魔法、喪失魔法だと呼ぶのだそうだ。
その喪失魔法をアリスは文献を元に自己流にアレンジし再現させたのがこの結界魔法『サンクチュアリ』だという。恐らくそのサンクチュアリでマルコシアスのダンジョン化を弾いたのではないかとの推測も付け加えていた。
ここまで聞いて響介とライミィの純粋な感想は流石エリーの母。
弱冠11歳とはいえその発送力で空間魔法や錬金魔法で遺憾なく才能を発揮するエリー。その母親で僅かな情報から読み取りその応用力で喪失魔法を再現させたアリス。
正に親子と言っても過言ではなかった。血は争えない。その一言が相応しいだろう。
だが新たな疑問が出て来てしまう、それは
「でもそんな結界魔法、誰が使ってるんですか?アリスお義母さんしか知らないんじゃ…」
ライミィの疑問にアリスは首を横に振った。
「いいえ、この魔法を使うことが出来るのは私と私が教えたベルしかいないの」
「ベル?」
「アリス義母さん。それは先程トマが言っていたがベルセドアという方ですか?」
響介の言葉にアリスはハッとした様子で響介を一瞥する。そして改めて口を開いた。
「ベルセドアは王家にいた時に私の側付きをしてくれていたハイエルフで私の教え子だった娘よ」
「教え子?それって魔導師のってことですか?」
「ええ、ダークエルフの両親から生まれた娘で身寄りがなかったところを私が素性を隠して身の回りのお世話する側付き兼魔導師の教え子として引き取ったのよ」
穏やかに笑いながら語るアリスを見て、語る声色を聞いて響介はそのベルセドアという人物の事を大切にしていたのだなと分かった。
「だから私以外でサンクチュアリを行使出来るのはベルしかいないの、実はキョウスケ君達にも話してないことがあってね。聞いてもらえるかしら?」
響介とライミィは揃って首を縦に振り促した。
その内容は自身がエリーを連れて失踪した直後にベルセドアにダークエルフ達を連れて逃げて貰うように伝えていたという。サンクチュアリには隠蔽魔法のカモフラージュの効力もありサンクチュアリの効果内に入ってしまえば認識出来ないのだと話してくれた。そして今もこうしてダークエルフ達を匿いサンクチュアリが行使されているのならベルセドアの身も無事だろうとのこと。そして
「ベルセドアさんは独自で他者の遺伝子を解析する魔法を研究して完成間近だった?」
「成程それなら…」
疑問符を浮かべるライミィと対象的に話しを聞いた響介は即座に理解した。要はDNA鑑定を行う魔法を使うことが出来る人物だと。
もしそれが本当なら一方的に貶められたアリスの身の潔白を立証出来るかもしれない。そう考えていると
「…今まで黙っていてごめんなさい」
アリスが申し訳無さそうに謝罪の言葉を口にし俯く。しかし響介は一言
「気にしないでください。壁に耳あり障子に目ありってやつですよ」
「なにそれキョウスケ?」
「俺の国の諺で如何に秘密にしていることでも誰が何処で聞いて何処で見てるかわかったもんじゃないって意味だよ。だからアリス義母さん気にしないでください。寧ろ俺達みたいなのにはこういう適時適時に話して頂けたほうが有難いんです」
「だね〜。秘密全部教えてくれないなら信用しませんなんて可笑しな話しないし〜それに言うじゃないですかアリスお義母さん、女の秘密は魅力の一つって」
そう笑い合う響介とライミィを見てアリスは呆気にとられたものの少し救われたような面持ちになり2人に「ありがとうございます」と小さくお礼を述べた。そんな話しをしているなんて露知らず前を歩いていた子供達とステラがふと止まっていることに気が付く
「どうしたんだ?」
「えっとね、確かここら辺が」
クルツ達が辺りを見回したその時だった。
「貴方達!こんな時間に何処に行っていたの!」
響介達の目の前に突如現れたのは紋様が入ったローブを羽織り銀色の髪を短く切り揃えた髪型のハイエルフ。そのハイエルフが響介達を一瞥した時
「…!?まさか、アリス様?」
「久しぶりね、ベル」