158話 窃盗犯 その正体は
リリス、紹介する。
「今日はこちらがやられたと言う訳ですね」
「はい〜」
ある日、ドライアドのユグからの相談を受けて響介始めライミィ、エリー、ステラ、ネロ、憲剛は世界樹の森にある果樹園に赴いていた。理由は
「えっと、実った果物が盗まれてるって事ですけど」
「…ライミィのお嬢、こちらやられていますね」
最近、果樹園で実った果物が何者かに盗まれていると相談を受けてユグに案内してもらい現場検証をしている所で丁度憲剛が見つけたのはブドウが成っている木の中でも低い所にあったであろうブドウがもぎ取られた跡だった。憲剛はまじまじと観察し
「…取られ方がドライアドの方々やリーンホースの方々と違い雑ですね、強引に引き千切ったような跡が確認出来ます」
「ケンゴお兄ちゃん、よく、分かるね?」
「…それはエリーのお嬢。今日の自分の星占いは4位、意識すれば些細な違いも分かると出てましたのでその通りになっただけかと」
メガネをクイッとかけ直しそう語る憲剛。そんな憲剛にネロが首を傾げる
「ホシウラナイってなんだ?」
「これ」
エリーがアイテムバックからスマホを取り出してネロに見せたのは『12星座占い』と書かれ順位付けされているものだった。ネロは一通り目を通すと
「ケンゴが占い信じるなんてなんか意外だな」
「…黙れネロ。俺は一生星占いを信じると決めてるだけだ」
「お前の人生に何があったんだよ…!」
エリー達がそんなやり取りをしている間に、調査は進んでおり
「あっ、あったよキョウスケ〜」
「キョウスケ様、こちらにも」
ライミィ達が何かを見つけたようで響介が向かう。
「やっぱりあったか」
「うん。でもこれ小さいよ」
「子供の、でしょうか?アイリス様位の大きさになりますね」
ライミィ達が見つけたのは足跡、だが足跡なら普段から果樹園の管理をしているユグ達やリビー達のも勿論あるが見つけたのものはそれよりも小さい足跡、それも子供のもののようだと思えるもの。その後も周囲を一通り確認し得られた情報を響介は精査する。
「窃盗犯はステラ達の見立てで約2、3人程。履いているものは無く裸足、その理由は足跡の中に血が付着していたものが確認されている為とステラの推測、これは俺の主観だけど恐らく暗視能力持ちだな」
「…若、暗視能力とは?」
「暗いとこでも明かり無しで視野が確保出来る能力だ。俺のスキルツリーにもあったから憲剛もあるんじゃないか?後で確認してくれ、もし取れるなら便利だぞ」
「分かりました」
ペコリと頭を下げる憲剛の横でエリーが手を上げているのを見つけた響介
「エリーどうした?」
「お兄ちゃん、なんで暗視能力、持ってるって思ったの?」
「それはな、足跡が真っ直ぐに伸びてるからだよ」
「真っ直ぐ?」
「俺達が見つけた足跡はどれも迷った様子が見れなくてな、まるであるのが分かってるかのように最短距離で来ている。ユグさん達だけならまだしもリンドウさん達ラミアの皆さんも犯行に気が付いていない様子をみるに恐らく犯行時間も短く盗ったらすぐ逃げてるんだろう」
「でもどする?足跡辿って追い掛ける?」
ライミィの疑問に響介の答えは意外なものだった。
「どうせだ。夜まで待って誰が盗むのか現場抑える」
「…若、その心は」
「犯人は明らかな食べ物目当てだ。なら盗ってくとこ抑えて一つ話しでもして懐柔出来ないかなって」
「懐柔、ですかキョウスケ様?」
「がおー」
「エリー、その怪獣じゃねえ」
「ああ、もしこの犯人達がやむを得ない理由があって事に及んでいるなら俺だって鬼じゃない。お互いの落とし所を着けれるんじゃないかと俺は思ってる」
「…落とし所、ですか?」
「ああ、それに俺達から向かうと余計に警戒される可能性もあるからな、なによりもなんだか今日は話し出来そうな気がしてるんだ。じゃ俺は今日張り込むから屋敷よろしくな」
「じゃ私も〜」
「エリーも」
「私も」
「ちょっと待てお前ら!俺達こっからどうやって帰れってんだよ!?」
「それなら大丈夫だよネロ。憲剛、憲剛もバイク運転出来たよな?」
「…はい。と言う事は若」
「うん。メテオラ貸すからニケツしてって」
「…分かりました。ありがとうございます」
「おいケンゴ、お前はジュンキと違って大丈夫なんだよな?」
「…安心しろネロ。今日の俺の星占いは4位だと忘れたのか?」
「だからだよ!なんだそのビミョーな順位!」
そうこうしながらメテオラのエンジンを掛けると憲剛はネロを乗せるや否や仏頂面でメテオラをフルスロットルでブン回し
「おわあぁぁぁ!?!?」
急発進+ウィリーかましてあっと言う間に視界からネロの悲鳴と共に消えていった。それを見て
「あっ、お母さん、今日エリーとお兄ちゃん達、張り込むから、ご飯だいじょぶ」
スマホを取り出して屋敷にいるアリスに連絡するエリー。エリーの通話直後何事かとアリスから響介とライミィとステラに問い合わせが入り順を追って説明する羽目になったのは言うまでもない。
その後響介達とラミア達とドライアド達と窃盗犯に対する策のすり合わせと打ち合わせをする為ユグ達と共に世界樹の森へと向かった。
その日の夜。
今宵は月明かりの無い朔の夜、一筋の月明かりの無い世界樹の森から程よく離れた果樹園に明かりは無く闇夜は静寂に包まれる。そんな時
「いそげ」
ザッザッと草を踏み野を駆ける音複数と幼さを残す声が小さく一つ。
「ねえ、本当にいいの?」
「怒られない?」
「大丈夫だって。ここ夜なら誰もいないんだよ」
そう言って影達はブドウの木に近付くとブドウに手を伸ばす小さな影
「ここのブドウ美味しいんだぁ。この間偶然キキと見つけてさ、だから母さんも姉さんも喜んでくれるし二人の妹も気に入るって」
「おおそりゃ嬉しいな。そう言ってくれるとユグさん達も喜ぶ」
「ホント!」
嬉しそうにその影が振り向くとそこにいたのは
「こんばんは。少年達」
怯えた仲間達に肩を組んでいた見慣れない人物だった。少年は思わず声が上がりそうになったがその人物は口に指を一本当ててシーと
「おっと、騒がない騒がない。今ここには俺達しかいない。正直に答えてくれたらその手にあるブドウは勿論木に成っているのも好きなだけあげるよ。こっちの少年達もね」
その言葉を受けて少年達は戸惑いこそ見せたものの何処からか
ぐうぅぅぅ……
少年達から腹の音が鳴る。
その人物、響介は確信しこう少年達に勧める
「腹減ってるんだろう?食べるといい」
少年達は『いいの?』と言わんばかりに響介を見ると響介は組んでいた肩を解いて
「漢に二言は無い。早く食べないと見つかるぞ」
状況を直ぐに理解した少年達は瞬く間にブドウに手を伸ばし食べ始めた。少年達は皆「美味しい美味しい」と頬を綻ばせて食べていく。ある程度食べたのを見計らって響介は尋ねた始める。
「少年達、名前を聞いていいか?」
「俺クルツ!」
「僕ケニー」
「僕はトマです」
食べならが自己紹介をしてくれたクルツ少年達に響介は単刀直入に切り出した。
「クルツ達はダークエルフだよな?なんでここにいるんだ?」
「えっとね、母さんが言ってたんだけど俺達逃げてるんだって」
「逃げてる?クルツ達はみんなで逃げてるのか?」
「うん。僕もお姉ちゃんから僕達が産まれた頃に元々住んでた所から逃げてきたって教えて貰ったよ?」