157話 動向2 なら、紹介してあげるわ
ネロ、魔銃や弾を作る。
豪華な調度品で彩られたある会議室に兵に連れられた壮年の男が入室すると先に集められていた若い男女が一斉に視線を向ける。
「父上…」
入って来たのはコンバーテ王国の現王ハンロルド・コーナ・コンバーテ。現王は険しい面持ちのまま兵に案内され上座に当たる席へと腰を降ろす。それを静かに見ていた一人であり騎士鎧を身に纏い席に着いていたのは現王の二番目の娘カトレアが口を開く
「御父様、御母様は…?」
その問いに現王は険しい面持ちを崩さず
「…落ち着いたところでな、今やっと眠った所だ」
「そう、ですか」
現王の言葉を聞き俯くカトレア、その横で
「うう、おいたわしや御母様…!」
「くそっ!魔族め…!」
啜り泣くは長女の魔導師団団長アレイス。その隣で怨めしそうに顔を歪めて毒づいていたのは次男の近衛騎兵団団長ボッツ。
きっかけは一月前に突如として玉座の間に現れた壺。その壺はコンバーテ騎士団が遠征などで使用する大きな水瓶でそんなものがいきなり玉座の間のど真ん中に降って湧いたように現れ何事かと騒ぎになった。魔法で蓋がされていた水瓶は罠の可能性もあったが現王は控えていた騎士達に開けるように指示し魔導師も呼び騎士達が壺を開けた瞬間
『うわぁ!?』
『蛇だ!』
『王と王妃を早く避難させろ!』
中にいた蛇達が一斉に壺の外へと飛び出して来た事で場は騒然。中には致死量の毒を持つ蛇もおり混乱する騎士達。目の前の光景に啞然とした現王と王妃を避難させようと側近達が声をかけ促していると
『くっ、来るな!来るなぁ!?』
混乱した騎士が持っていた槍を振るいそれが壺に当たり破砕音が響く。その音に反応し王妃エメラインが視線を壺へとやると
見てしまった
『い、いやああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?』
壺の中にいた万を超える蛇に喰われ変わり果て事切れたマウロを
その騒動の日を境に王妃エメラインは発狂。人が変わったのように情緒を失い暴れ、特に子供達を見ると一際意味のない言葉を喚いて錯乱する為今は離れに隔離し兵達が細心の注意の元におり面会も現王のみとなっている。
現王は子供達を静かにさせると側近に説明をさせる。
マウロの死因は蛇による毒だがそれ以前に酷く殴られた痕跡があり骨まで達している所を見るに酷い拷問も受けたのだろうとの見解を報告。さらに諜報からの情報で直前にマウロが第2騎兵団を引き連れて何処かへ遠征に向かい未帰還との報告もあったのを聞いた長兄の王直騎兵団団長キーラが報告を遮り口を開く
「第2騎兵団?」
「どうしましたか兄上」
「僕の部下からの報告に魔族が引き連れたアンデット兵がコンバーテの鎧を着けていたとあります。なら…」
その言葉に場に緊張感が走る。一同が頭に過ぎったのは第2騎兵団の全滅。そしてその兵は死してなお魔族に尖兵として使われているという事実に黙って聞いていた三男の親衛騎兵団団長ミハエルは声を荒らげ現王に進言する。
「父上!俺に兵を!奴等絶対に許さん!」
この会議の結果コンバーテ王家は友好国であり五神教会の救援を待たず魔族との戦いに親衛騎兵団と魔導師団の投入を決定。後日大規模な遠征が行われることとなる。
時を同じくしてコンバーテ王国領内にあるとある貧民街
「…Gの戦車」
「Hの力」
貧民街の片隅の壁を隔てた曲がり角で二人の人間が何やら話をしていた。声色から察するに二人共女性のようで片方は全身に外套を纏い声色でしか女性と判別が出来ずもう片方はローブを纏い魔女帽子と呼ばれる大きな三角帽子を目深に被り二人ともその表情は伺えない。
「…情報屋さん、例の件なのだけれどなにか進展は?」
三角帽子を被った女性が口火を切る。琥珀色の瞳の女性の問いに情報屋は暫し思しると口を開く
「あるわよぉ、貴女の睨んだ通り王家はクロよ」
「そう、やっぱり…!」
三角帽子の女性からギリと歯ぎしりが鳴る。情報屋は
「ただ、状況は貴女が想像してるより悪いわ。心の準備はいいかしら?」
情報屋の問い掛けに三角帽子の女性は意を決したようにコクリ度頷く。
「貴女達魔女を捕え魔力を奪っているのはコンバーテの第一王女にして魔導師団団長のアレイス、そしてそれに協力しているのは弟の親衛騎士団団長のミハエル。奴らは貴方達魔女が持つ膨大な魔力に目を付け魔女狩りと称して秘密裏に捕らえその魔力を奪い我が物にしているわ」
ピクリと動いたが情報屋は続ける。
「ミネルヴァ教の聖女でもある奴はミネルヴァから『エレメンタルドレイン』という対象の魔力を奪う神聖魔法を授けられたそうよ。それを得た奴は魔女の魔力を奪うことを思いつき今尚魔女を生け捕りにし魔力を奪い手伝わせたミハエルには報酬として魔女だった女性達を与えているわ。見目麗しい女をおもちゃのように好きに出来るからミハエルは喜んで手を貸すのよ」
魔女にとって魔力とは人としての生を捨ててまで極めんとした叡智にして生き様。それを侵害されあまつさえその身すら肉欲の塊と同然の連中に穢された仲間達の話を聞いた魔女は怒りのあまり肩を震わせ先程以上の歯ぎしりを鳴らし目深に被った帽子の奥にある瞳には憎悪の炎が滾った。
「あいつら…!許さない…!絶対に……!」
まるで怨嗟のように言葉を漏らすと瞳に灯る憎悪の炎が黒く色付く。それを見て
「やめときなさい。仮にも相手は王女で国よ、貴女達魔女でも太刀打ち出来ないわ」
「じゃあ、どうしろっていうのよ…!このまま死ぬまで搾取され続けろというの…!」
そう悔しそうに吐き捨てる女性、すると情報屋は
「違うわ。そういう時はプロに頼るといいのよ」
「…プロ?」
情報屋の女性の言葉に顔を上げた女性の目の前に立ち情報屋は一枚の写真を手渡す。
「貴女の知らない裏の世界には法で裁けない外道に無慈悲な裁きを下すこわーい専門家がいるのよ」
含んだように笑う桃色の髪の女性、リリスから渡された写真には黒髪青眼の青年が写っていた。そしてリリスが消える直前
「とっておきの彼を紹介してあげるわ。奴等外道を地獄以上の所に叩き堕とす人間をね」
受け取った写真を呆然と見ていた魔女ミレイユは一筋の光を見た気がした。