156話 試射 ネロとウェブリー
エリーとアイリス、かにを飼う。
鴻上邸の広々としたエントランスホールにある大階段の裏には地下へと続く階段がある。地下へ降りるとあるのは広い廊下に数部屋ありそこに連なっている二部屋から
パァン!パァン!
「ふう、いい感じだ」
高く響くは黒く鈍く光る銃の咆哮。引き金引くは金髪赤眼の幼さを残す青年。
鴻上組組員にして魔王アルフォンスの義子ネロ・レーゼルスだ。ネロは魔王アルフォンスと響介の間を取り持つ連絡員であるのと同時に鴻上組組員として在席しており組長補佐の三人と同列であり魔王軍の中でもランガ達と同列と少々特殊な立場となっている。
今ネロがいるこの部屋は作製整備した魔銃の試し撃ちの為に改造した室内射撃場。ネロは撃ち尽くした薬莢を抜き魔銃の一丁をホルスターにしまい
「取り敢えずこの二丁、魔銃としては現状これくらいだな。もっと魔導機があれば何か出来そうだけど今は」
腕利きの魔導機使いでもあるネロは自身の武器である魔銃のメンテも自身で行う。左手に持っていた魔銃を机に置くと身に付けていた別の魔銃を抜く。
銀色に輝く回転式弾倉拳銃コードライナー。ネロは弾倉を開くとある弾を込める。
「キョウスケのスマホってのは凄いよなぁ、まさか魔銃の図面もだけど弾の種類まであんなにあるなんてよ、エリーに頼んで見せて貰って頭に叩き込んで作ってみたけど、どうかな?」
そう言ってコードライナーを構えクリエイトウォールで作った的に照準を合わせる。神経を目の前の的に集中させ引き金を引いた。
バァァン!!
先程とは桁違いの鋭い銃声が響くと的は命中した中心部を抉るように4センチ程の穴が空き貫通していた。それを見てネロは満足そうに笑うと
「よっしゃ。何時もの銀弾だと反動も凄えし連射向かねえけどこのマグナムって銃弾なら反動も10分の1まで抑えられたし威力を落とさずに済むぜ。作るのも銀の配分量も抑えられるし火薬多めにするぐらいだからこれならこいつも使えそうだ」
ただもうちょい良い火薬があればなぁとごちりながらコードライナーをホルスターに仕舞い机に置いていた魔銃を手に取り試作した弾丸を込めていき別の的に照準を合わせる。
「じゃあ撃ってくか、先ずはソフトポイント弾」
パァン!
引き金を引き的に着弾する。ソフトポイント弾とは殺傷力はあれど貫通能力の低い弾で貫通や跳弾による二次被害を抑えた物。命中したが弾は的の中に圧縮したように潰れて残っているのを確認し撃鉄を起こし
「次はフルメタルジャケット弾」
パァン!
続けて射撃し今度は的を貫通し的を通して向こうまで奥の緩衝壁に突き刺さっている。フルメタルジャケット弾は軍用ライフルに用いられている貫通力が高い弾だ。本来ライフル用のフルメタルジャケット弾は一発一発の実包が大きく拳銃には使えない代物だがネロは仕組みや構造を理解し自身のリボルバー用にカスタムし制作した。
こういう器用さと応用力の高さはネロの長所であり響介もアルフォンスも重宝しているが本人は全く気が付いていない。
なおも撃鉄を起こし
「最後にこれがダムダム、言いずれぇな。弾頭拡張弾だ」
パァン!
放たれた弾丸は的に当たり貫通せずに的の中に残り弾は不規則に潰れ広がりそれに伴って中身の金属も広がるように内部に散っていた。それを見たネロは
「成程な、確かにこりゃ厄介だ」
ダムダム弾もしくは拡張弾頭とも呼ばれる弾は一発の弾丸で相手により致命傷を負わせる為に作られた弾で目標に着弾した弾は弾頭が潰れながらまるで花が開いたように広がり傷口を拡大するだけでなく貫通能力が低いが為目標内部に残りやすく弾丸に内包されている金属が目標内部に晒されることで新たな弊害を生む弾丸。作り方もソフトポイント弾の弾頭である金属を抜いて内封されていた金属を表面に出すだけと容易なのも利点である。
日本のある世界ではこの弾頭は100年以上前から非人道兵器として使用が制限されており戦争行為での使用は禁止されている代物だ。
理由は殺傷力が強過ぎる為。だが
「俺魔族だし、ここエガリテだし、それにキョウスケからも許可貰ってるから使うんだけどな」
この世界はエガリテ。そしてここは魔王アルフォンスが当地する魔族領で響介が治めている土地。つまりはこの地ではアルフォンスが法でありそのアルフォンスと五分の兄弟分である響介も同様。
つまり響介の許可はアルフォンスの許可となり合法となるのだ。
今回の弾丸制作に至った経緯は響介の世界の銃器に興味を持ったことが起因している。
初めて会った時、響介は銃の事を知っていたのを実はずっと疑問に思っていたネロが尋ねた所響介の世界ではありふれたものでしかも
『うちの組もかなりチャカは所持してたし組だと必修科目だったから潤樹達も扱い方は知ってる。俺はミリタリーオタクの桑島の兄貴に本物撃たせて貰ったこともあったから』
桑島の兄貴。
鴻上組の兄貴衆の一人で銃火器に精通しており組の銃火器仕入れを担当しシマ内の武器管理をしている組きってのミリタリーオタク。普段は落ち着きがあり誰にでも丁寧な人物だが、カチコミ時は両手にサブマシンガンをぶっ放しながら突っ込む組きっての切込み隊長で引き金を引けば狂ったように撃ちまくる狂人。二つ名は『二丁マシンガンの桑島』
組には敷地内に専用の射撃場があり組員は桑島の兄貴と兄貴衆の人格者の一人で『早撃ちの岩永』の異名を取る岩永の兄貴の指導の元若手達はきっちり仕込まれる。
つまり、それくらいありふれているものでありスマホで調べるだけでもかなりの情報量が手に入るのをネロが見逃すはずがなかった。ネロは弾丸制作だけでなく
「さってと、こいつはどうかな?」
どこからか今までの魔銃よりも随分と小型のポケットサイズの魔銃を取り出すと先程の的に向かって引き金を引く。
チュン!
命中した的を見ると先程の銃痕後は残るものの治癒魔法のように癒えていくのを見て
「よし、成功成功。射程距離約78メートル。装弾数2発。治癒弾を撃つのに申し分ないな」
ネロが持っていたのは響介達の世界で隠し銃として知られているデリンジャー。
元来このタイプの魔銃はエガリテに存在しない。しかし響介達の世界の銃知識を得て製作意欲を刺激されたネロがライミィ達に無詠唱で魔法を行使する方法を教えて貰った事でネロの魔導機技術で再現可能となり今回作製した。
ネロはデリンジャーの銃身を二つ折りにし翠色の薬莢を取り出し同じ翠色の薬莢を装填するとホルスターバッグタイプのアイテムバッグに仕舞った。バッグの中には三丁のデリンジャーが納められており
「普通に魔銃作る要領で三丁作れたからつい作っちまった。まっこれからはこいつが回復用になるからいいか」
今までその扱いの難しさから運用に難があった事で回復用として使用していたコードライナー。しかしマグナム弾の作製に成功し今後は攻撃用として運用可能になった事で誤射防止の観点で回復弾用の魔銃を別でこのデリンジャーを用意した。デリンジャーを選んだ理由は
「やっぱり引き金で区別出来るのいいよな、それと引き金引く指も違うしで扱い違うし」
デリンジャーはその作りの関係上安全装置をつけるスペースがない。だから安全装置代わりに引き金を重くしており人差し指で銃を支えて中指で引くという変わった構造をしている。
ネロがデリンジャーを選んだ理由、一つは取り扱いが違い他の魔銃と間違える可能性が低い点、二つは製作が容易で最悪使い捨てが出来る点、三つは
「やっぱ格好いいよなこれ!無駄のないディテール、単純な中でも合理的に完成された構造!だから魔銃は好きなんだ!」
格好いいから。なんともネロらしい理由である。魔銃を全て納めネロは射撃場を後にし向かうは今や魔導機工房と化している自室だ。
「次は何作ろっかなぁ!マシンガン?アサルトライフル?それともスナイパーか?いやいや手榴弾やパンツァーファウストもあるな?いっそバズーカもあの対戦車ライフルってのもいいな!」
その足取りは軽くまるで滝を登る鯉の如く。こうしてネロは今日も工房に籠もるのだった。