155話 お願い かってもいいですか?
響介、リーンホースを受け入れる。
「お兄様、お姉様、かってもいいですか?」
リーンホース達を迎え入れ益々の賑わいをみせる世界樹の森へ演奏という名の見回りを終えて帰って来た響介とライミィ。それをエリーと共に出迎えたアイリスが両手に持っていたのを見て二人は困惑する。
「えっとぉ…」
「アイリス、それ何だか分かってるか?」
太一郎とリーゼが庭で組手をし潤樹とアステルが洗濯物を干し憲剛とエストとレアが屋敷の二階を掃除している中尋ねる響介。
「はい!エリーお姉様やお母様たちからおそわりました!」
ニコニコと笑顔で答えるアイリス。そのアイリスが持っていたのは
「かにさんです!」
「キュ!」
アイリスが両手に抱えるように持っていたのは全身をゴツゴツとした殻で覆い海老のようなのか短い尻尾を持ち両手に立派でゴツい鋏を携えた体長30センチオーバーの蟹?だった。その通称かにさんはアイリスの言葉に反応したのか右の鋏を上げる。
それを見て挨拶だろうかとは響介談。
エリーの話によるとこの通称かにさんは二人が庭で遊んでいた時に庭の片隅で弱っていたのを見つけたそうだ。それを見たマルコシアス曰く
『巫女殿妹殿。この魔物は吾が管理しているダンジョンの魔物では御座いませぬ。恐らく元来住んでいた個体が紛れ込んだようです』
とのこと。マルコシアスから見ても敵意は無く弱っていた事もあり野に帰そうとしたがアイリスが屈みかにさんをじっと見て
「エリーお姉様、このこなんだかかわいそうです」
弱っている姿を見て何処か共感する所があったのかアイリスがエリーに話しかける。そんなアイリスにエリーは
「アイリスは、どうしたい?」
真っ直ぐ見て尋ねた。
「えっと、アイリスはこのこもいっしょにくらしたいです」
そう言うとエリーは何か思い付き屋敷へと入って行くとある物を持って来た。
「はい」
「エリーお姉様これなんですか?」
「ラミアのアミュレット。アイリス、調教魔法使える、だからアミュレット媒体にして調教魔法使う」
何故かは知らないがアイリスは初めて会った日にステータスを確認したところ調教魔法と治癒魔法を習得していた。エリーは余って保管されていたラミアのアミュレットを思い出しそれをアイリスに手渡し
「だいじょぶ、アイリス、エリーの妹、出来る。それに」
「それに?」
「こーがみけ家訓その五『やる前から諦めるな、諦めるのは死ぬ直前』」
『やる前から諦めるな、諦めるのは死ぬ直前』物騒な家訓だがこれは響介の人生観が主に占める。
様々なもので才能を見せる響介だがそれに至るまで様々な失敗や挫折があり何度も怪我をし骨を折ってきた。しかしその何れにも響介には諦めるという選択肢は無く全て真っ向から挑み努力を重ねその度に最高の結果を出してきた。
実際響介が言った『諦めたら、二度と立ち向かえなく』という言葉だがエリーが家訓にしたいと言い出して今の形になったという経緯であり、響介の影響もあり今のエリーにとって座右の銘でもある。
「だからアイリス、やってみる」
そのエリーの声色は優しくアイリスに諭すように話しかけるとアイリスはラミアのアミュレットを受け取り
「うん!」
そうして調教魔法をそのかにさんに行使して仲良くなったということらしい。
「事情は分かったエリー、アイリス。まず一ついいか?これ本当に蟹か?」
響介の疑問は最もでありそのかにさんは蟹というよりロブスターのような鋏を持つ海老、いやザリガニと言ったほうが早いだろう。そう思いまじまじと観察していると同じように見ていたライミィが
「それならキョウスケ、鑑定スキル使ってみれば?何か分かるかもよ?」
「鑑定スキルって生き物にも使えるのかライミィ?」
「分かんない。でも見るだけ見てみれば?」
「それもそうだな」
そうして響介は鑑定スキルを使いそのかにさんを見てみるすると…
グランドシザース
魔法金属ダマスカスに匹敵する強度の外殻を持つ陸上甲殻類の魔物。
鋏の鋏む力はタイクンタイガーの顎を超え雑食の為草も肉も食し柔らかい物を好む。この個体はクイーンに当たり最終的には体長5メートル程に成長し体内にある魔石に一定量の魔力が溜まると放出するために子供を産む。
グランドシザースの殻は錬金魔法の素材に使うと武具の強度を飛躍的に上昇させる事が出来、身も大変美味な為以前では乱獲され今では絶滅が危惧されている。
日本が存在する世界ではヤシガニに相当する。
これを見て響介は色々と絶句し改めてまじまじと通称かにさんを見ていると不審に思ったライミィが尋ね響介はありのままを話す
「うそでしょ!?このこグランドシザースなの!?」
「マジらしい、そうかヤシガニか確かにヤシガニに似てると言われれば似てるな」
「お姉ちゃん、知ってるの?」
「すっごい珍しい魔物って事ぐらいしか知らないの、私も初めて見た」
「そーなのかー」
「ところで二人共」
「なにー?」
「なんですか?」
響介はしゃがんでエリー達に視線を合わせると改めて確認する。
「ちゃんと面倒見れるか?」
「だいじょぶです!アイリスがんばります!」
「ご飯はどうするんだ?」
「それならだいじょぶ、今」
『巫女殿妹殿、お持ち致しました』
声が聞こえ見上げると口に何か加えたマルコシアスがバッサバッサと羽撃いて着陸すると加えていた物をエリー達の前に置く。
「マルコが取ってきてくれる」
「キューちゃん、ごはんですよー」
キューちゃんと呼ばれたグランドシザースはアイリスに降ろされると嬉しそうに置かれたウルフらしき魔物に近寄ると腹に向かって鋏をザクッと突き刺し腹肉を抉り取るとムシャムシャと食べ始める。
キューちゃん、中々にワイルドである。
『主、御使い殿申し訳ありません。巫女殿妹殿に頼まれてしまい…』
「それは構わない。マルコシアスご苦労だった」
『勿体無き御言葉でございます』
「それよかアイリス、キューちゃんってこのこの名前?」
「はい!キュリオスでキューちゃん、おなまえつけてくれたのはエリーお姉様です!」
金色お目々をキリッと決めてアピールするエリー。
アイリスと仲良くなり鴻上組のペットとなったグランドシザースのキュリオスことキューちゃん。このキューちゃんが思わぬ形で活躍するのは後のお話。