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153話 力試し 魔王軍VS鴻上組

潤樹、エガリテでアイスを作る。




「ぐあっ!」


 勢力が二分し、今なお緊張状態にある魔族領。魔族領の半分以上を勢力下に置きその高貴なカリスマ性で多くの魔族を束ねる魔王アルフォンス。その魔王アルフォンスが居城とするアングリフ城の訓練場では一人の鬼人族オーガの戦士がいいストレートを貰い派手に吹っ飛ぶ


「手応えありやな!まだやるかいな?」


 そこにいるのは銀色に染めた髪をハーフアップに整え襟元に金色の竜胆と三日月が入った代紋のバッチを付けた濃紺のショートジャケットを身に纏う男、鴻上組組長鴻上響介の補佐の一人天堂潤樹だ。


「い、いえ!ありがとうございました!」


 潤樹の目の前にいた鬼人族オーガの戦士は直ぐに立ち上がり潤樹に一礼すると潤樹も一礼を返す。するとすぐに別の鬼人族オーガの戦士がやって来るや否や一礼すると潤樹も一礼を返し


「お願いします!」

「おう!よろしゅう頼わぁ!」


 身構えて殴り合いを始める。それは真正面からのろくな防御もない正にノーガードの殴り合い。体格的に差があり人間と比べて体格的に優れる鬼人族オーガ、しかしその体格差を物ともしない潤樹の殴りっぷりに鬼人族オーガの戦士は押され始める。別の場所に目をやると


「…遅い」


「なっ、しまっ…!」


 武器を振るった人狼族リカントロープの戦士の攻撃をするりと躱しあっと言う間に死角に入り込んだ眼鏡の掛けた人間の男、一瞬身構えたと思った瞬間。


「…シッ!」


「ぐおっ…!肩が…!」


 瞬く間に左後方に回り込み痛みもなしに左肩の骨を外し怯ませると痛烈な左フックを土手っ腹に叩き込むは襟元に代紋のバッチを付けたブラックスーツと薄い青みかかったワイシャツに眼鏡を掛けた優男、鴻上組組長鴻上響介の補佐乾憲剛。さらには


「んぎぎぎぎ…!」


「ぬうぅぅ…!」


 また隣では戦鬼族トロールの戦士と真正面からがっぷりと力比べをする色黒で鍛えられた筋骨隆々とした身体を持つの人間の男。鴻上組組長鴻上響介の補佐津上太一郎だ。周りで見ていた他の兵士達は目の前の人間の男が魔族からしてみても魔族の混血か?と疑いたくなる程体格に恵まれているが倍以上の体格を誇る戦鬼族トロールと互いに武器と上着を投げ捨て真正面から力で張り合っているのを見てどよめきが起きる。そこから


「んだらっしゃあ!!」


「なにっ…!ごぁ!?」


 なんとそのまま強引に地面に叩き込むかの如く変形の大外刈り、プロレスでいうSTOを炸裂させて戦鬼族トロールの戦士を投げて見せたのだ。


「悪ぃ!やりすぎたか!?」


「大丈夫だ。手合わせ感謝するタイチロウ殿」


 戦鬼族トロールの戦士は身体を抑えながら立ち上がるも互いの健闘を称える。強き者と戦う事が戦鬼族トロールの誉れ、戦鬼族トロールの戦士は太一郎を称えると一礼し下がると


「おおお!次は俺だぁ!」


「おう!喜んで!」


 待ってましたと言わんばかりに次の戦鬼族トロールの戦士と相対すると太一郎は投げ捨てた得物の鉄の棒を拾い代紋のバッチが付いているタクティカルベストを羽織り構え直すと一直線に戦鬼族トロールの戦士に突っ込み激しく互いの武器で打ち合う。


「がっはっは!愉快愉快!」


 1対1の決闘の如く激しい手合わせ、まるで鉄火場のようなひりつく緊張感渦巻く訓練場に豪快な笑いが響く。

 魔王アルフォンスに仕える戦鬼族トロールの戦士であり軍部の長を務める男、戦鬼族トロール戦闘士グラディエーターランガだ。


「なんと素晴らしい!やはり強者との闘いは我らの誉れ!皆の者よ!存分に闘うのだ!」


「「「「おお!」」」」


 ランガの鼓舞で益々活気と闘気が上がる訓練場、そのランガに


「盛り上がってますね」


「おお!キョウスケよ!」


 後ろから来たのは堂々と鴻上組の代紋を背負う黒いフライトジャケットの男、鴻上響介だ。ランガは響介に対して手を差し出すと


「この度は感謝するキョウスケよ!おかげで我が軍の戦士達に良い刺激になったぞ!」


「いえいえこちらこそ。潤樹達もこっちに来て自分の力量を測りたいと言ってたので渡りに船でしたよ」


 そう握手を交わす響介とランガ。一体何故魔王軍の戦士達が響介達と手合わせをしているのか、


 時を戻そう。






「キョウスケ様、お客様がお目見えです」


「通してくれアステル」


「畏まりました」


 潤樹がアイスを作った日から3日後の昼下り、リビングには響介、ライミィ、ネロが、隣接しているキッチンには叉焼を仕込む太一郎とそれを手伝うシュテルがおり普段陽気で口数の多いシュテルも響介達の雰囲気を察して何処かソワソワしている。そうしているとアステルがまた入って来た。


「キョウスケ様、ご案内致しました」


「すまんなキョウスケよ、邪魔をする」


 低い声と共にアステルに連れられ入って来たのは3メートルをゆうに超える巨体を持ち頭に立派な角を携える文字通り巨漢、魔王アルフォンスに仕え軍部の長を務める戦鬼族トロールの戦闘士ランガ。ランガはアステルに促され席へと付く少し与太話を挟み響介は本題を切り出す


「ネロから話は拝聴させて頂きました。なにやら相談があるとお聞きしましたが?」


「うむ。実はな…」


 ランガから聞いたのは近頃、再編した魔王軍の士気がイマイチよく無いという話しだ。鬼人族オーガ戦鬼族トロールを中心に士気が今一つのようでまだ微々たるものだがこれが伝播し士気低下になることを危惧しておりそれに対して第三者の意見として響介達に相談したとランガは話してくれた。ネロも詳しい話しは聞いていないようで響介達共々神妙な面持ちで聞いていたがネロが思った事を口にした。


「なあランガ、それってようは不安ってことじゃねえのか?」


「不安、とな?」


「ああ、アルフォンス様救出は勿論十闘将との闘いもキョウスケ達がいたからなんとかなったけどよ、それまで俺達防戦一方だったろ?だから自分達の自信が揺らいでんじゃねえか?」


 むうと唸り思い当たる節があるランガを見て響介は


(よくある話しだよな、それ聞くと天城の兄貴、航兄から聞いた事思い出す)


 響介が思い出した事柄に関係しているのは兄貴衆の一人であり組の最高戦力の一人である『スタンガンの天城』こと天城航大だ。天城の兄貴は幼少期に親に捨てられ荒れに荒れていた14の時に京町のカシラの妻、京町弥生こと弥生の姐さんに拾われて京町家に養子縁組をして引き取られ組に育てて貰った経緯があり物心付く前から組に育てて貰った響介とは年こそ離れてはいたが兄弟ともいえる間柄の人間でこの天城も響介のことはいたく気に入り実の弟のように接していた。

 この天城の兄貴も若い頃は己の行く末を不安に感じた時、今でも組の伝説として語り草となっている仁科の兄貴に相談していた時に言われた言葉がありそれを当時11歳の響介に教えてくれた


『いいか響介、こりゃ仁科の兄貴の受け売りだがよ「過去を悔やむな、未来を憂うな、今目の前を進め。それが『道』になるんだ」だ。今度は俺が響介に教えてやるよ』


 今正にランガの部下達は己の行く末に不安が、否、彼等の場合自分の闘いに自信が持てないのだろうと響介は察した。

 それはそうだ、人間だろうと魔族だろうと心があり感情が昂ぶったり不安に驅られ起伏があるのは当たり前の事、ただ今回の事は自分で解決方法にたどり着けないということが多々あったりする。


 しかし、この手の事なら良い解決方法があるのを響介は知っている。そんな響介を他所にライミィが


「そゆ事なら思っいきり戦えばいいんじゃない?私が相手になってあげよっか?」


 このライミィの言葉にランガがギョッとしたのを見て


「ライミィ」


「ごめんなさーい」


 すかさず嗜める響介と悪戯っぽくペロッと舌を出すライミィ。前科のあるライミィはまたやり過ぎかねない。(間話2話)それに今回は一方的では駄目なのだ。だが


「だけどライミィのその戦うって考えは俺も同意見だ」


「む?」


「じゃ、どするの?」


「おーい、太一郎ー」


 徐ろに響介はキッチンにて仕込みをしていた太一郎を呼ぶ。


「おう。どうした若?」


「太一郎この間のエルフ共との戦いさ、なんか不完全燃焼気味っていってたよな?」


「ああ、攻撃は軽いし直ぐに吹っ飛ぶしでよ。もっと骨のある奴と闘いてぇよ。なぁ若、後で組手しようぜ?」


「それは勿論俺も太一郎と久しぶりにやりたいからいいぞ。でもこの世界の奴とやりたくないか?」


「この世界の奴?」


 そこで響介は太一郎にランガを紹介した。






 時を元に戻そう。

 以上の事があり、響介はランガからの相談を受け鴻上組組長補佐対魔王軍精鋭との合同訓練と銘打った組手もとい模擬戦が決まると話しを後から聞いた潤樹も憲剛もノリノリで参加し3人がランガの部下達と闘っている別の訓練場では


「はい!訓練はここまで!それでは次は実際に手合わせをしてみましょう!」


「「「「はい!」」」」


 アステル達鴻上家のメイド達がハリエット始め亡霊騎士団に稽古をつけて貰っていた。アステル達は元は戦闘用の人造人間ターロス、戦いに関する事の飲み込みは早いようでハリエット達も感心し稽古の成果を見る為とこちら側でもアステル対ジュリエッタの組手が始まり得物同士がかち合う音がし始めた。

 各所でやり合う中響介が目にしたのは


「…あんた、頭硬いか?」


 互いに武器を抑え合い両手が使えない状態なのを利用し頭突きをするため不敵な笑顔と共に頭を振りかぶる憲剛と


「ははっ!面白い!興に乗ったぞ!」


 何処か愉快そうに笑い同じ様に頭を振りかぶる人狼族リカントロープの戦士でヴーレの右腕を務めるスリガラ。次の瞬間。


「喰らっとけあぁ!」

「人間に負けるかぁ!」


 目を背けたくなるような、形容出来ないような重く鈍い低音が響くと


「うおっ…」


 スリガラが予想以上の衝撃に怯み体勢を崩してしまう。そこに


「まだだ…!」


 人狼族リカントロープの人間より優れた身体能力を持っている。しかしそんな種族差のハンデを凌駕する程の威力と元来の執念深さに火が付いた憲剛がスリガラの顔面に痛烈な頭突きを何度も叩き込む


「うおっ、あれはヤベェ」


「何故だキョウスケ?」


 響介に声を掛けたのは魔王アルフォンスに仕える人狼族リカントロープ達のリーダーにして魔王直属の諜報部隊の長ヴーレ。そんなヴーレに響介は


「憲剛の石頭はマジで痛ぇっすよ。何発も貰ってスリガラさん頭ヘコんだんじゃないっすか?」


「キョウスケは喰らった事があるのか?」


「はい、俺の時はお互い怯みましたが」


「…と、言う事はキョウスケも同じ位頭が硬いと言う事か」


 何処か納得するヴーレ。そんな事を考えていると


「うおおぉらあああぁぁ!!」


 戦鬼族トロールの戦士ゴルザと闘っていた太一郎が得物の鉄棒をスラッガーの如く豪快に振りそれを斧で受けるゴルザだったが


「ぬううう?!?!」


 なんとそのガードの上から太一郎は強引に振り抜きゴルザをぶっ飛ばしたのだ。この光景には見ていた戦鬼族トロール達やランガとヴーレは目を疑う


「なんと…!ゴルザを真正面から吹き飛ばすだと…!」


「どんなバカ力だ…」


「太一郎ならやっても不思議じゃない」


「それにあのタイチロウとやらの武器はなんだ?鉄の棒のようだが…」


「ええ、鉄棒ですよ。ただ」


「ただ?」


「鉄棒と言ってもあれは鉄の塊を棒状にした物で重さ40キロ位ある代物ですが」


 それを聞き更に驚くランガ達。その後もこの魔王軍と鴻上組の力試しとなった合同訓練は互いに充実したものとなり自信を失いかけていた魔王軍の兵士達は改めて自身の力量を知ると後日から皆人が変わったかのように訓練に打ち込む姿を見られ改めて響介達はランガに感謝されたのだった。




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