149話 再会2 勢揃いする響介の舎弟
響介達、戦いに備える。
「若あぁぁぁぁ」
これはどういうことだろう。ライミィやエリー始め皆が目の前の光景に呆然としていた。
先程、珍しく尋ねて来たベラに何だろうと出た響介達。挨拶もそこそこにベラから
『なぁキョウスケ、この兄さんら知り合い?』
とベラが示したのは日に良く焼けた筋肉モリモリの大男と眼鏡をかけたスーツの優男。響介は二人と目が合うと
『太一郎と、憲剛?』
響介がそう言うと響介を見て感極まった大男の方が響介に抱きつき今に至る。
「た、太一郎…、苦しぃ…」
「若あぁぁぁぁ……!」
太一郎は盛大な男泣きをしながら力一杯響介を抱き締める。その様子を見るに響介は相当慕われていたのだろうと分かるが次第に力が入ったのか響介の身体からメシメシと音が鳴り始めた。
その光景、熊式鯖折の如く
「太一郎…!折れる、折れる…!」
「うえ…?うぉっとぉ!申し訳ねぇ若!」
「…少しは力加減を考えろ津上。若、またお会い出来るとは」
そう宥め響介に言葉をかける憲剛の表情は固いままだが響介は知っている。感情表現が苦手な憲剛だが響介にはその表情が読め憲剛も太一郎のように嬉しそうだと
「まさか太一郎と憲剛までこっち来るなんてな」
響介の一言に憲剛は即座に反応し
「…若、俺や津上までと言うことはもしかして…」
「あん?どういう事だ憲剛?」
「俺もおるんや」
後から来た潤樹が顔を出すと潤樹を視認した太一郎また感極まり
「潤樹ぃぃ!」
「ぎいぃやぁぁ!離さんかい津上ぃ!折れるわぁぁぁ!」
感動の再会を熊式鯖折でメシメシと鳴る音と共に表現していた。その後二人がこちらに来る寸前の話を聞いた響介が潤樹の時と同様に二人に土下座し二人が響介を必死に説得したりと一悶着あったが響介は響介でこのエガリテに来てからの事を二人に話し
「で、話まとめっと若は『エガリテ』、だっけか?そこで組を旗揚げしたと」
「…若のバックにいるのは五分の盃を交わしたこの地の魔王」
「ついでにそっちのライミィっていう蛇の姉ちゃんと結婚して」
「…同族に狙われてるエルフの母娘を保護し今も若は戦っていると」
「大体そんな感じだ」
事のあらましを説明しステラが淹れてくれた紅茶を一口、随分端折って話したが概ね理解した太一郎は改めて響介に尋ねた。
「若は、本気でやるつもりなんだな?」
「勿論。漢に二言はねぇ」
暫し沈黙が流れると憲剛が潤樹の方に向き
「…天堂はいいのか?」
「当たり前や、津上と乾に一言言うならこれや。ここでも若は若やってんで」
この潤樹の言葉を受けると太一郎は声を上げて笑い憲剛は口角が上がり笑みを溢す。ネロやアステル達がなんだと困惑していたがライミィとエリーとステラはその様子を理解し穏やかな表情に変わる。
「分かりやしたぜ若!そう云うことならこの津上太一郎改めて若のお力になりやす!」
「…若、今後とも宜しくお願いします」
「ありがとう二人共。本当にありがとう」
固い握手を交わす響介達。こうして太一郎と憲剛の二人が鴻上組に合流、皆の自己紹介がてらエリーの提案で二人のステータスが見たいとの事で見てみると
津上太一郎
25歳
ジョブ 戦闘士
レベル 45
ステータス
生命力SS、攻撃力S、防御力S、スピードB、知力B、魔力C、魔力保有量C
固有アビリティ
タフネス…防御補正特大、生命力が少なくなる程攻撃力上昇
料理人の目利き…鑑定自動取得、食物に対してのみ詳細な鑑定が出来る
鴻上組の矜持…あらゆる精神異常に対して耐性大、生命力が少なくなる程戦闘能力上昇
乾憲剛
23歳
ジョブ 暗殺者
レベル 45
ステータス
生命力B、攻撃力SS、防御力C、スピードS、知力A、魔力S、魔力保有量C
固有アビリティ
サイレントアサシン…音消し、隠密、暗殺自動取得
痛覚なき身体…痛覚が死んでいる為気絶及び怯み無効
鴻上組の矜持…あらゆる精神異常に対して耐性大、生命力が少なくなる程戦闘能力上昇
「……突っ込みどこしかねぇんだけど」
太一郎と憲剛のステータスを見てネロが呆れながら口にした。
「戦闘士に暗殺者、ジュンキ殿含めキョウスケ様の舎弟さん上位ジョブです…」
「全員攻撃力S以上…」
「強いです…」
アステル達が呆気に取られる中その横ではオリビアが太一郎に
「タイチロウ君、料理人の目利きってあるけどお料理出来るの?」
「へい、俺ぁ長年中華料理屋の厨房で働いてたもんで中華ならなんでも出来まさぁ」
「「「「「ちゅーか?」」」」」
聞き覚えのない料理の種類にライミィ達は首を傾げる。それを見て
「なら何か作りましょうか、ちょいと厨房にお邪魔するぜ?」
「あっ、はい!ご案内します!」
アステル達の中でも料理に興味を持っているシュテルが太一郎を案内していると今度はアリスが恐る恐る憲剛に尋ねる。
「ケンゴ君、アビリティの『痛覚なき身体』と、いうのは?」
一瞬、場の空気が止まったような感覚がした。すかさず響介が
「アリスさん。その事は」
「…構いません若。いずれ知られる事です」
「あの、言いづらい事なら」
「…構いません。それに見られたら説明しなければなりませんから」
「見られたら?」
すると憲剛は意を決して口を開く。
「…俺は幼少期、ロクデナシだった父親から酷い虐待を受けていました。見られたらと言ったのは服の下にはその時の跡があるからです」
「そんな…」
聞き耳を立てていたライミィ達は衝撃を受けアリスに至っては口元を抑えて唖然とする
「…それが起因し、色々ありまして俺は身体の痛覚が死んでいるんです」
事情を知っている響介達はともかくライミィ達は言葉を失う、そこにエリーが憲剛に
「ケンゴお兄ちゃん、お母さんは?」
「…母親もそんなロクデナシに暴力を振るわれており俺を守る為に俺以上に暴力を振るわれてました。それである日俺を連れて夜逃げしその後ロクデナシは鉄砲玉にされて死んだと聞きました。ですがその一ヶ月後通り魔に襲われ他界し身寄りの無くなった俺は施設に入りました。ですから」
「ですから?」
「…エリーのお嬢とアリスの姐さんの身の上を聞きロクデナシは殺すべきだなと改めて実感しました」
そう言う憲剛の表情は余り変わらないものの声色に確かな怒りがあった。アリスが戸惑う中それを見て潤樹が
「エリーのお嬢もアリスの姐さんもすんませんなぁ、乾の奴そういうの俺以上に嫌ってんねん。向こういた時もこの四人で半グレ潰して帰ってた時に父親らしき男に暴力振るわれてる母子見て乾その男半殺しにしよったからな」
「…天堂、余計な事は言わなくていい。申し訳ありませんアリスの姐さん、つまらない身の上を話すなんて柄ではありませんが」
「そ、そんな…!こちらこそごめんなさい」
「ケンゴお兄ちゃん」
アリスと憲剛が互いに謝罪をする中エリーが憲剛に呼び掛けると
「クソ親父やるの、落とし前、つけてから、だよ?」
この言葉に潤樹は吹き出して笑い憲剛は目を点にさせアリスに至っては衝撃を受けた。暫し無言になると
「キョウスケ君、ライミィちゃん、少しお話が」
くるりと首だけを動かして笑顔で鴻上夫妻を見据えた。
しかし普段綺麗な銀色の瞳はハイライトが消え完全に据わっている。
「「…はい」」
全てを察した響介とライミィは神妙な顔をしていたのは言うまでもない。しかし
『我が主』
ここでふと庭で寝ていたマルコシアスがリビングに入って来て響介を呼んだのだ。響介はアリスに断りを入れマルコシアスに尋ねる。
「マルコシアス?どうした?」
『侵入者で御座います』
この言葉で屋敷内の空気が、特に響介の周囲の空気がひりつくものに変わる。しかし響介は笑みを見せると
「みんなすまない。『出入り』だ」
出入りと聞き即座に反応したのはライミィ、太一郎、憲剛、潤樹、そしてエリーの五人。
出入りとはその筋の用語でカチコミと同意味の言葉。ライミィが弓を持つと憲剛と潤樹は席を立ち
「シュテルの姉ちゃん、悪ぃが後でいいか?用が出来ちまった」
厨房から出てくる太一郎。そんなライミィ達を見てエリーはアルケミストキットを装備すると察したステラとネロも準備を始め
「いや〜、エルフ達が動いたよキョウスケ」
「ああ、だが俺の予想より遅いな。マルコシアス、アステル、シュテル、エスト、レア留守を頼む」
『承知致しました。巫女殿反応はこちらで御座います』
「「「「ハッ!」」」」
「ステラ、リーゼを懐中時計に」
「畏まりました。リーゼ殿失礼します」
『あいよ!』
響介が皆に指示を出す中オリビアが響介に呼び掛ける。
「キョウスケ君、私達も行くわ。ねっアリスちゃん」
「はい、キョウスケ君お願いします」
申し出た二人の母親、オリビアは魔方陣を魔石に宿した杖を持ち新調した魔導師のローブを羽織りアリスは腰にアルケミストキットを装備しこちらも新調した魔方陣が施されたケープを身に着けていた。
その二人を見て響介は無下にせず
「分かりましたお願いします。エリー頼む」
「うん…!」
エリーのテレポートでエルフ達が現れた場所へ向うのだった。