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146話 昔話2 潤樹が慕う理由

3人、人造人間に名前を付けるPart2




「ねぇねぇ、ジュンキお兄ちゃん」


「どないしました?エリーのお嬢」


「お兄ちゃんと、どーして、仲がいいの?」


 屋敷にアステル達を迎え入れたある日の昼下がり、リビングで寛いでいたエリーがふと思い出したように外でリーゼと手合わせして入ってきた潤樹に尋ねた。


「若と、っすか?」


「うん」


「あっ、私も気になった。確か『家族に蔑まれ』っていってたのが気になる」


「よく覚えてまんなぁライミィのお嬢」


 このエリーとライミィと潤樹のやり取りにリビングにいた響介以外の者達が注目した。ちなみに響介はアステル達やドライアド達の件でアルフォンスの元、アングリフ城へ赴いている為不在である。潤樹は少し唸り


「そやなぁ、皆さんには話してもええか」


「えっと、聞いてもいいの?ジュンキ君」


「構いまへんでアリスの姐さん。あっ、アステルはん水ええか?」


 潤樹はアステルから水を受け取ると勢いよく飲み一息つき改めて


「俺は若の爺様、つまりは親父が束ねる鴻上組で漢を磨く若手の極道。鴻上組は『コロシの鴻上』ゆうて事構えたら行くとこまでとことんやるゆうて日本中の同業ごくどうから恐れられとった。普段は部屋住みゆうて雑用やっとってカチコミは勿論時にはヒットマンもやってたわ」


「「「「ヒットマン?」」」」


「暗殺やる奴の事や、俺と同期だと乾もかヒットマンやっとって俺は危ない橋を何度も渡った。でも」


「でも?」


「響介の若の役に立てる思たら苦にもならんかった。響介の若を組長にするんが俺の夢やったんや」


 そう思い出したように笑った潤樹は続けた。


「そんな俺と若が出会ったのは3年前位や、当時の俺のどうしようもないゴンたくれやった」


「ゴンタクレ?」


「乱暴者って意味やオリビアの姐さん。当時の俺は荒れに荒れとった」






 俺の実家は政治家の家系でな、皆さんには貴族ゆうたら分かりやすいか?取り敢えず俺はそんな家に産まれた。俺の家は文武両道でいうなら文に重きを置いてた家やってな


『何故間違えるんだ!この程度も出来ないのか!』


 その上親父は家柄もあってか自分の考えが正しいゆうて子供に自分の考えを押し付ける常軌を逸した人間やった。今なら所謂毒親ゆうやつやな

 そんな家庭からか母親は父親のいいなり、俺には兄が2人おったがこっちも父親のいいなりで出来の悪い俺を父親と揃って攻めたてとった。まっ、腕っぷしは俺が強かったけどな。こっちは才能あったようで空手習うたら優勝連発で年上にも負けんかったわ。

 そんなんばっかでとうとう俺もブチ切れてな、髪をコレに染めて父親と大ゲンカや、母親や兄達もそのままケンカ別れし俺は実家によりつかんなったし高校も地元から追い出されるように府外のとこに行っとたわ。それで悪い事やってツルンでた奴らんとこに転々としながら後ろ暗い事やって日銭を稼いどった。


『どうでもええ、どうでもええわ、人生なんてクソ喰らえや』


 あん時の俺は人生ってもんに絶望しとった。半分自棄やったしあのままやったら今も半グレの小間使いやったやろな。

 そんな時や、17歳の時。俺の人生に転機が訪れたんは。そんときも俺は街でケンカしとって相手をボコボコにしとった


『兄ちゃんか?最近この辺で暴れてるっていう関西弁の奴は?』


『あん?オドレ誰や?』


 不意に話しかけられた。そいつは俺を見て


『なあ兄ちゃん、俺と喧嘩しようぜ。兄ちゃんも弱ぇ奴ばっかじゃつまんねぇだろ?』


 挑戦的に笑いながら俺に挑んできよった。見たとこ中学の制服着とったそいつを俺は殴ってたダボを放り


『ガキが!舐めとんのか!』


『ぐっ!』


 不意打ち気味に蹴りを入れた。完璧に入ったはずが


『いい蹴りじゃねえか、よっ!』


『ぐぁ!』


 そいつは俺に頭突きカマしてきよった。空手の大会で優勝連発の俺にそいつは喧嘩殺法で互角、いや


『どうしたぁ!そんなもんか!俺はまだまだやれっぞ!』


(なんやコイツ…!強いのもあるが何で倒れんねん…!俺は倍は殴ってんねんぞ…!)


 互角以上に、なによりそいつの絶対に倒れんって気概を俺は折れんかった。そしてそれは


『来たばっかの奴に負けられるかよ!』 


 家から逃げ、現実から逃げた俺には無いもんやった。俺は見事な回し蹴りをもらって人生で初めてタイマンで負けた。


『おい、立てるか?』


『…なんや?』


『警察来ちまった。逃げるぞこっちだ』


 否応無しにそいつは俺引っ張ってその場から逃げよった。ちらと後ろを確認すると丁度入れ替わるように警察が来とった。


『兄ちゃんがのばした奴らいるし警察はそっちいくだろ、もうちょい離れるか』


 慣れたように路地に入り警察を振り切りよった。俺をタイマンで負かした男、それが響介の若やった。

 当時ヤバい中坊がおると噂で聞いとった。

 ここいらを裏で治めてる極道鴻上組組長の孫。だが俺にはそないな噂より気になった事があった。


『どうしてオドレはそないに意地を張ってるんや?』


 恐れよりも興味が上回った。目の前のこの男に、そしたらこう言いよった。


『じっちゃん達に日々教わってんだ。意地は張り通すもんだ、そんでそれを舐めてるような奴はブチのめせってな。まぁ兄ちゃんからすれば俺は極道の孫だけど両親いない俺にとっちゃじっちゃんと組のみんなは俺の自慢の家族だ。みんな俺の為思って言ってくれっから大切なんだ』


 そう誇らしげにかぞくの話しをする若を見て、俺は自分に無いもんが分かった。その後俺は若とつるむようになり残りの高校生活はダボ共との喧嘩三昧やったけど今まで生きてきた中で一番充実しとったわ。で、高校を卒業したとき俺の元に実家から絶縁状が届いた。


『はっ、今更か、どうでもええわ』


 実の家族から縁を切られても俺は何とも感じなかった。絶縁状を破り捨てもう未練はなかった。こんとき俺は若から誘われてたんや


『潤樹、今後の事何も決まってないならウチ来い。一緒に漢磨いててっぺん目指さないか?潤樹の才能をそのまま腐らせるなんてもったいねえ』


 真っ直ぐ俺見て語る若。俺は


『また、若とケンカ出来るんすよね。勿論乗らせてもらいますわ』


 こうして高校を出た俺は若の爺様が束ねる極道鴻上組の門を叩いたんや。

 任侠一家鴻上組。現代を生きる極道の中でも一線を引く勢力としての地力の強さと強固な一枚岩の組織で裏社会では『コロシの鴻上』と呼ばれ恐れられている組織や。てっぺんの椅子に座る若の爺様である鴻上孝蔵氏は現役時代『人間凶器の鴻上』と恐れられた伝説の極道。

 俺は初めてお会いした時の緊張感は今でも忘れん。多分人生でいっちゃん緊張したわ。


『ほう、お前か。響介が言っとったのは。いい目をしとるが響介よ。コヤツはお前が土下座までして組入りを頼むような奴なのか?』

『ああ』


 このやり取りを聞いた時は耳を疑ったわ。若、俺何かの為にあの化け物のような爺様に土下座までしたんかってな、しかも若即答て、実の家族では考えられん


 その後俺は本部の部屋住みとして組入りを認められ組員になった。


 ん?津上と乾?ってなんでエリーのお嬢若のスマホもっとんの!?え?若がくれた?それならええか。話し戻すで、津上とはそん時出会うた。俺より半年位早く津上も若の口利きで組入りしたんや。乾は実は俺も会うたことあってな、乾は鴻上組のシマで悪さしとうた愚連隊の頭やってん、でまたまた若に喧嘩売ったんで若と俺で壊滅させたんや。下の者が逃げたが乾だけは若に挑んで負けたんやがその後二回若にタイマン挑んで負けたんや。で若が乾と少し話して


『お前元気有り余ってんだろ。ならウチ来い』


 って乾引き摺って俺が組入りする二月前に組入りさせたんや。所謂俺等三人は同期で若勧誘の組入りってのもあったけどなんだかんだ馬合ってな、楽しくて良く三人でつるんどったわ。


 組での業務は激務やったし大変やったけど


『山賀の兄貴に言われた言葉でな「若いうちに苦労を買え、買わん奴は即ち死」』


 と、若から雲の上の存在である山賀の兄貴のお言葉をもらったんや。

 ん?苦労ってなんややってライミィのお嬢、山賀の兄貴の言う苦労ってのは経験の事や。年取ると周りが気ぃつこうて新しい事に挑戦出来へんようになる。だから若いうちに苦労は進んで買って経験を積めと言う有り難いお言葉や。

 ちなみにそれを正しく実行したのが若やで。若まで行くとあれはやり過ぎやってなって津上と乾とで笑うたわ。


 ある日若と二人で飯を食ってた時や、若が何で組長になりたいのか聞いた事あんねん。


『物心着いた時からいるとな、色んな人を見るんだ。勿論みんなに世話になった。でも渡世は非情なもんだ。昨日一緒に笑ってた人が死ぬなんでザラにある。それこそ偉大な兄貴分も入って来たばかりのペーペーも平等にな。俺はそんなのを沢山見てきたんだ。明日は我が身、それはいずれ渡世に飛び込む俺も同じだ』


 若のええとこはしっかり現実見てる事や。決して理想だけで動かん、しっかり現実と状況見て動くんや


『だから俺は渡世に飛び込むんだ。死んじまった組員かぞく達が見たかった、目指してた景色をこの目でこの鴻上で見たいんだ』


 そん時の若の言葉は力があったんや。力だけやない確かな決意もや。そう言った後


『だから、潤樹がうちに来てくれて本当に嬉しい!ありがとう潤樹!』


 笑顔で俺に感謝の言葉を言う若に、そん時俺はなんで若に惹かれたかやっと分かった。


 若は、俺がガキん頃から欲しかった家族の像そのものやったんや


『若、買い被り過ぎでっせ』






「だから俺は誓ったんや。絶対に若をてっぺんまで押し上げると、その為ならどんな手もつこうてやると」


 潤樹の話しを静かに聞いていたライミィ達。語り終わった潤樹に


「ジュンキ君も大変だったのね…」


 アリスが声をかける。実家である王家から酷いハラスメントを受けていたアリスには朧気ながら潤樹の立場などの境遇も理解出来たのだろう


「ありがとうございますアリスの姐さん。もう終わった事や。それに」


「それに?」


「これは南川の兄貴のお言葉なんやが『過去に囚われるのは駄目、今の自分が未来を造るのよ』ってのがある」


「えっと、どーゆう意味?」


「過去は変えられん。だが未来は自分の手で幾らでも変えられる。だから終わった事を何時までも考える暇あったら次に目を向けろって意味や」


 そう語る潤樹は最後に


「しかもこっちで若、神様に喧嘩売られてんやん。最高やんけ。なら神様ぶちのめして天下取ったりまひょか」


 笑いながら話す潤樹に迷いはない。今生の別れとなった家族きょうすけと再会し新たに出来た目標と響介から賜った金色の代紋を胸に今日も生き、アステル達に稽古をつける為庭へと向うのだった。



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