141話 胸中 アリスの葛藤
鴻上組、セフィロトと協力関係を結ぶ。
「皆様、お帰りなさいませ」
『我が主、帰られたか』
「…」
世界樹から帰って来た響介達一行をステラがメイドの礼カーテシーを披露し出迎えた。さらに今や鴻上家のペットと化し世界樹がある森の周辺を覆う森ダンジョンの主魔狼マルコシアスとエリーがクリエイトゴーレムで生み出しこちらも今や門番と化したシルバーゴーレムのリーゼが出迎える。エリーはリーゼを呼ぶと
「リーゼ、お母さんと、お姉ちゃんのお母さんと、ジュンキお兄ちゃん、あいさつ」
エリーの言葉を受け3人に頭を下げるリーゼ。それを見て関心するオリビアやアリスとその横で「…このデカイの強そうやな」と潤樹がポツリと溢していた。その後はステラが用意してくれた料理を食べ響介がピアノ演奏し賑やかに過ごすのだった。
そんな楽しい一時も終わり響介とライミィは自室で寛いでおり一日を振り返る。
「ありがとねキョウスケ」
「ん?何がだいライミィ?」
「お母さん達の事。みんなを受け入れてくれて」
そう話し響介の手を優しく握るライミィの表情は穏やかだ
「お礼を言いたいのは俺の方だ。右も左も分からない俺に良くしてくれた皆さんに恩を返す事が出来た。ありがとうライミィ」
「えへへ〜、それほどでも」
華が咲いたような笑顔を向けるライミィに響介は
「なあライミィ」
「なあに?」
「まだ、プロポーズの言葉言ってないよな?」
「ああ〜、そだね」
「ごめんな、順番滅茶苦茶で」
「気にしてないよ♪キョウスケだし」
どういう事だよと口を開こうとした時…
「隙きあり!」
「隙きなし!」
ベットに押し倒そうとライミィが仕掛けるが響介が反応し身体を入れ替えようと捻ってライミィとポジションを入れ替える、しかし
「ここ!」
「!」
ライミィは動きを読んでおり蛇の身体を使い響介の捻った回転力を活かし更に捻りポジションを入れ替える事に成功、無事に響介を押し倒す事に成功した。
「ん〜ふふ♪今日は私の勝っち〜♪」
更には響介に身体を巻き付けることも出来て上機嫌なライミィに
「…次は刹那功でも使うか」
「いいよ〜、それまでに対策考えとく〜」
後に、この激しくなる一方の二人のベット上のマウントの取り合いを例の如くオリビアが仕掛けた人形に操作魔法を使い見ていたラミア達から『コウガミ夜の攻防』と呼ばれるのは別のお話し。
「いいでしょ?今日からエリーはアリスさんと一緒に寝てるしやっと二人っきりになれたんだから…!」
響介からマウントを取り両手を恋人繋ぎにするライミィ、響介を見下ろすその眼光は鋭くまるで狩猟時のように獲物を狙う目、否今の状況を見るに捕食者の眼光をしている。それを見て響介は
「なんだか色々今更感が出てきたな、よっと」
穏やかな笑みを見せた次の瞬間、両手を繋いだままの状態で鍛え上げられた腹筋を極限まで使い上体を起こす。二人はお互いに額を付け見つめ合い
「ライミィ」
「なあに?」
「俺と一生いてくれ」
「もっちろん♪末永くよろしくね」
二人は抱き合って笑い合っていると
「ん?」
一瞬だけ窓の外に何かの気配にライミィが気が付き
「どうしたんだライミィ?」
「キョウスケ、あれアリスさんだよね?」
「…」
皆が寝静まった屋敷の庭先、そこへやってきたのはエリーの母親のハイエルフ、アリスだ。アリスは何か思い詰めているように呆然と月を見ていた。
「夜風に当たり過ぎるのはお体に障りますよ」
ふと後ろから声をかけられた。アリスが振り向くとそこにいたのは黒髪碧眼の青年、大切な我が子を助けてくれ今の今まで護り続けてくれた恩人
「キョウスケ君…」
「どうしましたか?こんな夜更けに」
「キョウスケ君は?」
「いや、ライミィが外に出てる貴女を見つけたもので気になって来てしまったって訳です。あっ、ライミィはエリーのとこに見に行ってますから」
「そう、ですか…」
「エリーも寂しがりますし、戻りましょうか」
そう言うとアリスの表情に陰を落ちるのが見て分かった響介。
何か迷っている。それを見た響介はアリスからの返答を待つことにした。月が二人を照らす中暫し沈黙が流れるが意を決したようにアリスは口を開いた。
「私ね、キョウスケ君」
「はい」
「私の扱う操作魔法って魔法の中にヘリッヌリングって魔法があるの、その魔法は人の記憶を視る事が出来る魔法よ」
「アリスさんの様子を察するに、エリーの記憶を視たんですか?」
アリスはコクリと首を縦に振る。それを聞いた響介はある種の合点がいった。以前セフィロトから聞いた事を思い出す。
王家を強奪したエルフ達がエリーを亡き者にしようとしていたがその前にアリスがエリーを連れて失踪した。
つまり、アリスは王家の誰かにヘリッヌリングを行使し事前に概要を知っていた。
だからエリーを連れて逃げる事が出来たという事だろう。だが
「そうだとしてもそれが今のエリーとどう結びつくのでしょうか?」
響介の疑問はそこだった。エリーの記憶を見たなら何故アリスが思い詰めているのかが響介には分からなかった。
「ヘリッヌリングで視たエリーは笑っていました。楽しそうに、幸せそうに…」
寂しそうに笑うアリス。それを見た響介はその笑みの裏が見え彼女の言いたい事が察する事が出来た。しかし
「…」
響介は沈黙する。理由は分かっている。アリス自身の言葉で聞きたい、否、アリスの口から聞かないといけないと判断したからだ。
何故なら、この人はエリーの笑顔に隠れた本心を知らない。
「それを見て私は、ここにいてはいけないのだと分かりました。エリーが笑っていられるのもキョウスケ君達がいたからです。今までエリーに苦労ばかりかけさせてしまった私じゃ出来ません、それはこれからも」
黙って聞く響介、アリスは続ける
「祖国のエルフ達は私を探す為にいずれこの地にやって来ます。そうなれば皆さんにも迷惑がかかってしまいます。そうなる前に私さえいなくなれば」
「アリスさん」
アリスは言葉を遮られ響介を見るとアリスは思わず息を飲んだ。響介の声色はアリスに対して何処か怒っている様子なのがアリスには分かった。
響介は静かに告げる。
「エリーが何で笑っていたか、アリスさんは分からないのですか?」
「えっ…?」
次の瞬間アリスは響介の顔を見るととても悲しそうな表情をしていた。
「エリーは頑張っていたんです。弱音も吐かずずっと、どうしてかアリスさんは分かりますか?」
響介の問に戸惑い首を横に振るアリス。
「エリーは頑張っていたんです。貴女に会う為にずっと、確かに俺達と一緒にいたときもエリーは笑っていました。でもその裏には貴女に会いたいと願って必死だったんです」
「えっ…?」
「エリーが今までどんな思いでここまで来たか貴女は分からないのですか?母親を探すと言って味方もいない場所でたった一人になろうとも貴女を探したエリーをまた一人にするおつもりなんですか…!」
「あ、貴方に私達の何が分かるっていう「分からねぇよ!」…!?」
穏やかに話していた響介が一転し、アリスの言葉を声を荒らげて遮り続ける
「分かる訳ねぇだろうが!昨日今日会ったヤツのことをよ!真剣に子供を思い遣る親の気持ちなんてよ!」
その時見た響介の表情は怒りや悲しみ等色んな感情が混ざったような複雑な表情を浮かべているのを見てアリスは言葉を失った。響介はすいませんと一言付き落ち着くと口を開く
「貴女の言い分も分かります。確かに貴女の元家族達は貴女を探しているその理由も俺達は知っています。ですが、俺達はそれでも貴女達母娘を護りたいんです。これは俺達の意思です」
そう言うと響介はだからと言うと頭を地面に着かんと思うばかりに深々と下げ
「アリスさんお願いです。エリーから母親を奪わないで下さい」
その響介の姿を見てアリスは今自分が何をしようとし何を考えていたのかを理解し、自身の愚かさを思い知った。
それもそうだ。娘は自分を探すまでのこの半年の間どんなに心細い思いをしていたのか、例え響介達がいてもそれは決して自分の代わりにならない事。そんな事少し考えれば分かる事だった。
そんな事も失念し目の前の少年にここまで言わせ頭を下げさてしまった自分の不甲斐なさに思わず涙が出てしまうがそれに気が付いた響介が頭を上げ
「アリスさんは何も悪くないんです」
「ごめんなさい…」
アリスが落ち着くまで側に寄り添う。次第にアリスも落ち着きを取り戻すとふと響介が口を開いた
「それにアリスさんは迷惑だと言っていますが俺達が立ち向かうべき敵は同じです」
「立ち向かうべき敵?」
「俺達の敵は五神です」
そう言い切る響介の表情は真剣だ。響介は続ける
「アリスさんの祖国では五神の一つ勝利の女神ミネルヴァが信仰されていると聞いています。今までの俺の経験上の事を考えると五神に取ってダークエルフはラミア同様邪魔なんじゃないかと俺は思います。アリスさんはダークエルフ達を保護していたと聞きました。もしそれが五神に取って不都合だとしたら、ダークエルフと言う存在が邪魔だとしたら、後は言わずもがなエリーがダークエルフでなくても王座を奪うように唆したでしょう」
それを聞いてアリスは身構えてしまう。響介はさらに
「アリスさんがいなくても俺達鴻上組は凱旋の女神トリウスに、俺と兄弟の契を交わしたアルは戦いの神アイゴーンにそれぞれ喧嘩売られています。それを踏まえると他の五神にも俺達は敵認定されているでしょう。ほら?こう見ると利害は一致します。でも俺は」
「?」
「俺達の大切な妹分を悲しませ俺の家族に手を出す不届きな輩共を許す気は毛頭ありません。相手が国だろうと神だろうとカタにはめるだけです。それは俺達鴻上組の総意です」
静かに響介の言葉を聞いていたアリス、すると響介は穏やかな表情になると
「話しが逸れてしまいました。俺がアリスさんになにが言いたいかと言うと、アリスさん貴女は一人ではありません。ここには貴女が望めば力を借し知恵を借してくれる者は大勢います。勿論、俺もその一人です」
「キョウスケ君…」
「さぁ、子供達が起きて来る前に美味しい御飯を作らないと、ねっアリスちゃん」
翌朝、屋敷のキッチンに立ち皆の朝食の準備をしているオリビアとアリス、何故二人がキッチンに立っているのかというとオリビアの希望でアリスを巻き込んだからだ広々としたキッチンを軽く物色しながら調理をする母親二人
「…」
「どうしたのアリスちゃん?」
浮かない顔をして考え込んでいるアリスは昨晩の響介とのやり取りをオリビアにも話した。何故ああも自分の事のように熱を入れて話したのかアリスには分からなかった。一連の話しを聞いていたオリビアは
「どうしてキョウスケ君は、あのように私に…」
「キョウスケ君、物心付く前にご両親を亡くしてるのよ」
「えっ…?」
「こっちに来たばかりの時にご家族の事を聞いた事があるの、そうしたらキョウスケ君の誕生日に亡くなったって聞いたわ。だからキョウスケ君はアリスちゃんが自分さえいなければって一方的に言ってエリーちゃんの元を去るのを納得出来なかったのよ。だってアリスちゃんはエリーちゃんに何も話してないでしょ?だからよ」
「…」
「だからアリスちゃんも、私達にもだけどちゃんとエリーちゃんとも話さないとダメよ?それがもう出来ない人もいるんだから」
それを聞いたアリスはまた手を止めて考えてしまう。思いもよらずに知ってしまった響介の背景にどう言葉に表すか迷っていた。
しかしそれと同時にアリスは響介という人間の芯の強さと優しさを知った。そんな響介に
「私が、キョウスケ君に出来る事はあるのでしょうか…?」
「あら、いい方法があるわよアリスちゃん」
「?」
そう言って微笑むオリビアはアリスに何やら耳打ちをする。すると
「ええっ!?」
「オリビア義母さん、アリスさん、おはようございます」
「あらキョウスケ君。おはよう」
リビングにやって来た響介が挨拶し水を飲もうとした時
「キ、キョウスケ君!」
何処か緊張した面持ちのアリスに呼び止められる。
「はい、アリスさん」
真っ直ぐにアリスを見る響介、深呼吸を一つしたアリスは意を決したように
「わ、私のことも、『お義母さん』って呼んでいいのよ!」
「はいぃ!?」
朝っぱらから何を言ってるんだこの人とパニックになる響介。そんなアリスは恥ずかしかったのか顔は真っ赤だ
「あらあら、早速いくのねアリスちゃん」
「オリビアさん?何を吹き込んだんですか?」
この事態を知っているであろう人物、オリビア(義母)に話しを振る。この時あえてオリビアに義母さんと付けなかったのは響介のせめての抵抗である。
「だって、エリーちゃんはキョウスケ君とライミィの妹分でしょ?妹になるならアリスちゃんは二人の義母さんじゃない?ってアリスちゃんと話したのよ。それでアリスちゃんにキョウスケ君にお母さんって呼んでもらえばって」
「随分強引ですね!てかアリスさんはそれでいいんですか!?」
「はい!アリスは大丈夫です!」
「絶対大丈夫じゃないですよね!?」
顔を真っ赤にし目をマンガみたいにグルグルさせどこぞの山の名前のキャラクターみたいな事を言い出したアリスを見て
「完璧にキャパオーバーしてますよね、えっと…」
ここで何か言い淀んだ響介は一つ覚悟を決め軽く咳払いをし
「アリス義母さん」
その瞬間、照れに照れてエルフ特有の長い耳の端まで真っ赤にしたアリスは頭からボンと音を立てて目を回し顔中からシューと煙を上げぶっ倒れた。
鴻上家の朝は何時も賑やかである。