137話 一蹴 オドレに構ってる暇ない
響介一行、コンバーテの騎兵団を襲撃する。
「て、敵です!それも囲まれています!」
響介とマウロ達が対峙している後方兵隊達の最後尾では
「邪魔をするなら斬ります!邪魔をしなくても斬ります!」
「おらおらおら!食べ放題だぜ人間共!」
突如現れたステラとネロが後ろから兵隊達を強襲、バスターブレードを振るい斬り捨てるステラと二丁の魔銃で次々と兵士達の頭を撃ち抜くネロ。更には
「我ら!誇りある亡霊騎士団!主の盟友が為義により助太刀致します!」
兵隊達の両方の横っ腹を突くようにテレポートで転送され潜んでいたハリエット率いる亡霊騎士団のデュラハン達が同じタイミングで攻撃を開始。突然の奇襲に対応が遅れたコンバーテの騎兵隊は応戦しようとする。が
「や〜らせな〜いよ〜♪」
ラミア達が立て籠もっていた巨木の頂上付近にいつの間にか陣取っていたライミィが攻撃を開始、高所から人間達を狙い射ち崩れていた足並みを更に崩す。
「ほらほらみんな!手を止めちゃ駄目だよ!」
「…!言われなくても!」
「矢をありったけ持って来て!」
「逆襲!」
「ここから巻き返すわよ!」
ライミィの声を受けたラミア達も弓を持ち弦を引き絞り矢を放ち攻撃を再開する。
「あらあら、頼もしくなったわねライミィ」
そんな成長したライミィを見てウフフと笑うオリビア。そのオリビア達の後ろ巨木の中では
「マナトランスファー」
魔力を消耗していたラミア達に自身の魔力を分け与えているエリー。魔力切れを起こしていたラミア達を回復させている傍ら
「お母さん…」
顔色悪く眠りに就く母親を見て心配そうな表情を浮かべる。
ようやく合うことが出来た母親アリスは今弱々しい寝息を立てている。エリーの様子を見たフランが
「大丈夫よ、貴女のお母さんは魔法を使い過ぎてしまって休んでるの。だから今は休ませてあげてね?」
優しくエリーに語りかける。エリーはアリスの手を握りマナトランスファーを詠唱し魔力を分けると
「エリー、お母さん、守る」
そう決意をするエリー。終いには
「サ、サイ団長!」
「!?」
「後方より何者かが、があぁ!」
「ひ、ひいいぃぃぃ!」
報告に来た兵士が突如背中から血飛沫を上げ絶命、それを見たマウロからは情けない悲鳴が上がると
「すっトロいわオドレら。鉄火場で気ぃ抜き過ぎやろ」
最後尾でステラ達と襲撃していたはずの、いつの間にか響介と肩を並べて両手に氷で出来たロングナイフを持っていた潤樹が威圧しながら口を溢す。それを見て
「ちょっと!誰よあのイケメン!」
「キョウスケくんとはまた違うイケメンだけどカッコいいわぁ…!」
「見てよあの横顔!綺麗だわぁ」
面食いのラミア達から潤樹に対して黄色い声が飛び出していた。嫌でも耳に届いた潤樹は
「…何か賑やかな人らやな若」
「俺の恩人達だ。変わらずで安心したけど」
「若はホンマ変わらんな、逆に安心したわ」
本当に変わらない。目の前のダボ共に対して恐怖心が欠片もない所も、その筋の者に人気な所も、義理を通す所も、外道を許さない所も
勿論変わった所もある。このように用意周到な所や目の前の外道共に対して容赦が無くなった所だ。
アングリフ城からテレポートで跳ばされた直後に響介達が講じていた策はこうだ。
『まず俺は奴らの先頭に奇襲をかけて足を止める。ライミィとエリーは更にテレポートで巨木へ跳んで中のラミア達と合流して欲しい』
『オッケー』
『うん…!』
『ステラとネロ、潤樹は奴らの後ろに回り込んでくれ』
『畏まりました』
『わかった』
『了解や』
『潤樹、これ渡しとく』
『なんやこれ?』
『通信カフスってアイテムだ。耳に付ければ電話代わりに使えるもんだ』
『へぇ便利なもんやな』
『キョウスケさん。アルフォンス様の命により亡霊騎士団総員到着しました』
『ありがとう御座います。それならハリエットさん達亡霊騎士団は左右に分かれてください。奴らの退路を絶ちます』
『了解しました』
『エリーが、テレポートする』
『全員の準備が整ったらエリー、俺に合図をくれ。俺の合図で皆一斉に攻撃を開始だ』
これが響介の策、少数で多数を相手にする方法で効果的なのは数的優位を封じる事、一箇所に固まっていたコンバーテの騎兵団を包囲しすし詰め状態にすることで半分以上の戦力を使えなくする。一見単純な作戦だが効果は覿面だった。
大抵の戦力配置としては騎士や戦士と言った前衛が壁となり後ろに魔道士達が控えている。だから響介は背後をステラ達に襲撃させたのだ。
魔法の効かないステラ
魔道士達の射程圏外から攻撃出来るネロ
足でかく乱し同士討ちを誘発させられる潤樹
魔道士達が襲撃されればあちらは手数を失い治癒魔法を使える神官が殺られれば騎兵団の継戦能力はガクンと落ちる。それを阻止しようとしても同じタイミングで自身達が襲撃されたとなれば助ける事も出来ない。更にはライミィによる高所からの狙撃で中心部にいる兵士が次々と射抜かれ拍車をかける。
先程までの楽勝ムードから一転窮地に立たされ満足に抵抗も出来ず目の前で次々と殺される仲間を見て騎兵団はパニックとなり
「ひいぃぃぃ!」
「もういやだ!助けて!助けて!」
「助けて!命だけは!」
包囲され無慈悲な攻撃を目の当たりにし逃げる事も出来なく恐慌状態となる。しかしステラ達は攻撃の手を緩める事はせず一人また一人と骸にする。
四方を囲まれた奴らは正に四面楚歌、自身の置かれた状態にやっと気が付いたマウロは周囲の騎士達に喚き散らし
「な、何をしている!サイ!お前ら!こいつ等を早く殺せ!」
意を決した騎士達は剣を抜き構えようとした時だ。一番後ろにいた騎士に
「だからすっトロいねん」
「!?」
何時の間にか懐を取った潤樹が迫っていた。二本のロングナイフを構えるのを見た騎士は驚愕の表情を浮かべた瞬間
「シイィィ!」
ロングナイフで騎士を滅多刺しにする。氷で出来たロングナイフは騎士鎧を紙のように容易く貫通しドスドスドスと音を立てて突き刺し断末魔すら上げさせず一瞬で命を刈り取る。
しかしこれだけではない。滅多刺しにした潤樹は近くにいた騎士の足目掛けてロングナイフを投げ太腿に突き刺し体勢を崩すと雷のような踏み込みをみせて一瞬で騎士の懐へと入り
「オドレに構ってる暇ない、とっとと死ねや…!」
もう一本のロングナイフを騎士の土手っ腹に深々と刺して一気に斜めに斬り上げて腹を鎧ごと引き裂いた。それを見た響介は
「相変わらずやばい踏み込みだなぁ。負けてらんね!」
完璧にスイッチが入ってる潤樹に負けじと響介も閃光の如く鋭い踏み込みを見せてマウロの側にいた騎士二人の喉元を一瞬にして掴み握りながら身長を生かして高々と持ち上げると
「おらぁ!」
渾身の力で完全装備の騎士二人を纏めてチョークスラムで頭から叩き落とし鎧の自重を生かして首の骨をへし折り一気に仕留める。更に
「シッ!」
背後から来た騎士に振り向きざまに閃光のような上段回し蹴りを叩き込み仕留める。それを見た潤樹が「若も人の事言えませんやんwスピード格段にえぐなっとる」と溢していたのは聞かなかった事にした。
一瞬にしてマウロとサイ以外の側近を片付ける響介と潤樹を見てまたもラミア達からは歓声が上がる。
一方で自分の騎士達を容易く殺す響介達を見て顔を青くさせていたマウロは縋り付くようにサイに声を張り上げた。
「サイ!何をしているんだ?!早く奴らを殺せよぉ!僕は死にたくないんだぞ!!」
死にたくないのは皆同じ。しかしそんな事も分からないマウロはサイをけしかける。しかし
「くっ…」
そんなサイの表情は諦念に至っているようだ。背後を見たが千はいたはずの自身の部下達も今となってはもう百もいない。命乞いをしようと必死に抵抗しようと無慈悲な刃が振り下ろされ一人また一人と死んでいる。
…全滅も時間の問題だろう
外道とはいえサイも騎兵団を任されている身、そんな自身の末路を察した故剣を抜き響介に襲いかかる。
「ああああ!!せめて貴様だけでも!!」
響介に向かって突撃し仕掛ける。せめて目の前の男だけでも道連れにしようと、しかし
「誰に手ぇだしてんねん。オドレの相手は俺や」
ドスの効いた声と共に潤樹が割り込むと手に持っていた残りのロングナイフを投げるがサイはナイフを切り払い防御する。だがその動きを潤樹は読んでいた。
「鉄火場で相手から目線切るなやドアホ」
「な…」
切り払った時、自分から目線を切る瞬間を狙った潤樹。驚愕するサイに次の刹那
「首もろたで」
鎌のようにまるで刈り取るような鋭い蹴りがサイの頭を正確に捉えた。蹴り抜いた衝撃が頭部を襲い頚椎をへし折り一撃で仕留めるのを見た響介は
(美藤の兄貴感謝します。兄貴が鍛えてくれた潤樹はすげぇ奴ですよ)
ムエタイの美藤。
鴻上組に所属している組員にして兄貴衆の一人だ。幼少期からムエタイの修行をし鍛えた彼は祖父孝蔵に拾われた事で組に入りそこでさらに研鑽を積んだ事でムエタイを殺人術まで昇華させ銃や刃物を好まずカチコミの時は鍛えた肉体とムエタイで蹴り殺す組きっての武闘派。
人材育成にも積極的で彼から教わり力を着けた若手組員も存在し潤樹もその一人。特に潤樹は美藤の元で鍛錬を積んだ事で才能が開花、当時の鴻上組に在席した若手組員の中では素手での喧嘩は一番強かった人間だった。
響介の蹴りが相手を叩き潰すような蹴りなら潤樹の蹴りは刃物のような鋭い蹴りだ。ただでさえ日本では凶器レベルだった蹴りがこのエガリテに来た事でステータス補正がかかってしまい殺人レベルの蹴りと化し目の前の騎兵団団長を一撃で蹴り殺すのは当然の帰結だった。
頼りにしていた騎兵団団長ですら瞬殺されたのを目の当たりにしたマウロは逃げようとするが
「ぐえっ?!」
「おっと、逃さねぇよ?」
それを察していた響介が背後からマウロの頸動脈をギリギリと締め落とす。必死に藻搔くも意味を成さず締め落ちる寸前に響介は
「自由に振る舞うのは終わり、落とし前の時間だ」
ドスを効かせた声でマウロに告げ締め落とした。それが終わった頃には
「キョウスケ様。終わりました」
挟撃していたステラが血が付いたバスターブレードを払い響介に報告していた。その後ろではネロが仕留め損ね虫の息だったコンバーテの兵士達に弾丸を撃ち込み止めを刺して回っていた。亡霊騎士団も同じく後処理のように同じように兵士達に剣を突き刺してる。
「ありがとう、ご苦労さん」
「はっ、それでキョウスケ様。その者は?」
「潤樹がいるからあれやろうかと」
「あれとは?」
こてんと首を傾げるステラ、対象的にその言葉を聞いて合点がいった潤樹は
「ああ、美藤の兄貴とやったあれか若。なら任せてください。ステラはん、手伝ってくださいな」
そういって潤樹は響介の締め落としたマウロを受け取りステラに手伝ってもらい準備をする。準備が揃うまで響介はラミア達の元へ向かうと
「「「キョウスケ〜!」」」
「「「キョウスケく〜ん!」」」
「おわっ」
「ありがとうキョウスケくん!」
「また助けられちゃったね」
「もう素敵だわ♪」
ラミア達に抱き締めてられてしまった響介。あっと言う間に抱き締めてられてしまいラミアの二人が響介の頬にキスしようとしたのを見た
「待ちなさぁぁーーーい!!!」
巨木の頂上付近にいたライミィが直ぐさま飛び降りてくると見事な着地を決めラミア達から一瞬で響介を取り上げ抱き締めると
「キョウスケはわ〜た〜し〜の!!」
シャー!とラミア達を威嚇し強く響介を抱き締めた。ライミィの鬼気迫る様子に思わず怯んだラミア達、すると
「ら、ライミィ…、く、首…」
「えっ?あっ!ごめんキョウスケ!」
ラミア達から響介を引き離す為に強く抱き締めたライミィだったが抱き締めることを考えるあまり尻尾でつい首を締め上げてしまっていた。意識が飛びかけた響介を全力で身体をガクンガクンと揺すっているのを見て
「変わってねえなこいつら」
「「ね〜」」
「賑やかねぇ」
集落にいた頃の二人を思い出したのか何処かまったりとしてしまうラミア達。そこへ
「相変わらずねぇ、安心したわ二人共」
笑いながらやって来たのはライミィの母でこのラミア達の長オリビアだった。響介とライミィの二人のやり取りを見て他のラミア達同様微笑ましいやり取りを思い出し顔を綻ばせる。オリビアが来た事に気が付いた響介とライミィは
「お久しぶりですオリビアさん」
「お母さん!」
「ありがとう。またキョウスケ君には助けられちゃったわね。ライミィもありがとう」
「いえいえ、皆さんがご無事で良かったです」
再会を喜び手短に言葉を交わすと響介は本題を話す。エリーの母親の事もあるが一番は
「世界樹の管理?私達が?」
「はい、森に住み木を住処とする皆さんにお願い出来ないかと思いこうして皆さんの元へとお願い参った次第で御座います」
「お母さん、みんな、どうかな?」
響介達の申し出は実に魅力的なもので話しを聞いたラミア達は思わぬ申し出に戸惑いもあったがその声色は喜びのものだ。長であるオリビアも
「キョウスケ君からの申し出だもの、前向きに検討させてもらいたいわ。出来ればその魔王さんともお話をしたいわね」
「勿論です。このあとは一度アルのいるアングリフ城へとエリーのテレポートで跳ぶ手筈になってますのでその時に」
「ええ、何から何までありがとう」
ひとまずはラミア達との話しは一段落すると
「おーい!キョウスケー!あったから持って来たぞー!」
後ろからネロと人が数人入れそうな大きな壷を数人がかりで持って来たデュラハン達がやって来る。ネロを見て「新しいイケメンが来た!」とラミア達が盛り上がったのは言うまでもないが響介はネロ達に向き直ると
「ありがとうネロ、亡霊騎士団の皆さんありがとうございます。助かりました」
ネロ達に礼を言い壷を確認すると
「これは水瓶代わりに使ってたものか?」
「みたいだ。でも中はほとんどねえしどうすんだよ?そもそもなんでキョウスケはこれを探させたんだ?」
「ああ、それはな…」
ゴニョゴニョとネロに何か耳打ちする響介。その使用用途を聞いたネロは「えげつねぇ…」と引いていた模様。響介は改めてラミア達に向き直ると
「すいません、ラミアの皆さんの中に調教魔法を使える方はいませんか?」
響介の言葉を聞いて20人程のラミアが手を上げて前に出る。何だろうと疑問に思った茶色のショートヘアのラミアベラが響介に尋ねた。
「あたしら使えっけど、何すんだキョウスケ?」
「皆さんにお願いがありまして」
「「「「「お願い?」」」」」
ラミア達は皆首を傾げた。
「蛇、もしくは蛇のモンスターを調教魔法してこの壺の中に入れて貰えませんか?」
そして響介は今から何をするのかを皆に伝えた。それを聞いたライミィを始めとしたラミア達は喜々として協力してくれ対象的に亡霊騎士団のデュラハン達は「そんな刑があるのですか…?」と絶句していた。それはマウロの制裁方法、当然響介はマウロを許す事は毛頭なく、五神信者と聞いて相応しいものを思い付いた。
それはかつて日本に存在し最悪と呼ばれたある刑。それを異世界エガリテで執行する準備を進める響介だった。