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136話 奇襲 組の出入りと母親達

響介、舎弟の潤樹と再会する。




「くっそ!しつこいのよ!」

「魔法も矢も射ちまくれ!こっちにこれ以上近づけさせるな!」


 魔族領に有る深い森の中にある巨木から魔法や矢の雨が絶え間なく地に降り注ぐ、


「がっ!」

「ぎゃあ!」

「怯むな!我らにはアイゴーン様の加護がある!」

「突っ込め!我が神に仇成す者共を根絶やしにしろ!」

「うおおぉぉぉぉ!!」


 しかし地上にいる戦いの国コンバーテの兵士達は退かない。矢が降ろうとも魔法が落ちようとも地に罠が仕掛けられていようと立て籠もっている巨木へと雪崩こまんと迫る人間(コンバーテ)の騎士や兵士達。対してその巨木に立て籠もっているのは


「ベラ!そっちは!」

調教魔法(テイム)したのが半分以上殺られた!チビ達は出せねえよ!」

「私のラプトル達ももう深手負ってるこの子だけよ、よく頑張ってくれたわ」

「キュルル…」

調教魔法(テイム)した子達のお陰で私達には被害ないけど…!」

「2日間も矢継ぎ早に襲撃されちゃこれ以上はジリ貧よ!」


 立て籠もっているのは下半身が大蛇の見目麗しい女性達、ラミアだ。皆その顔は疲労の色と辟易している様子、しかし


「つっ…」

「怪我人を一箇所に集めなさい!」

「ツバキ!キキョウ!アザレア!そっちはまだ矢はある!?」

「もう少ないわよ!手が空いてるなら木を削って矢代わりにしなさい!」

「迂闊に出ちゃ駄目よ!嬲り殺しにされるわ!」


 そうだとしても皆必死に抵抗し誰一人として諦めていない、理由は皆理解している。


「キュアベッセルング…!」


 自身を顧みず負傷者達を瞬く間に癒やし続ける女性がいるからだ。彼女はふらつきながらも


「はぁ、はぁ、次の方は…」


 負傷者の怪我を治して回っていたハイエルフの女性アリスだ。練り上げられた魔力と高レベルの治癒魔法でラミアや調教魔法(テイム)された魔物達を次々と癒やしていく。

 しかし、アリスの足元はおぼつかずふらついており顔色を悪くし身体中からは玉のような汗をかいていた。


「アリスさん!もう止めて!このままじゃ貴女が!」


「大丈夫です…これくらいしか力になれないならせめてこれだけでも…」


「貴女とっくに魔力欠乏症の症状が出てるじゃない!もう…」


 ラミア達が制止するのを振り切るようにアリスは治癒魔法を詠唱しようとする。そこに


「アリスちゃん」


 一人の銀色の大蛇の身体を持ったラミアがアリスに呼びかける。


「オリビアさん…」


「アリスちゃん、気持ちは解るわ。でも貴女頑張り過ぎよ?みんなも心配しちゃうから止めて頂戴?」


「で、でも…」


 食い下がろうとしたアリスにオリビアは呼び掛けた時と雰囲気を変えて冷たい声で語り掛けた。


「言い方を変えるわ。そんなフラフラの状態で彷徨かれても周りの気が散って邪魔なのよ。だからもう下がりなさい」


 オリビアの豹変した様子に驚きつつも察したアリスは大人しくなり


「…はい」


「リリス、アリスちゃんを」


「はぁい」


 ふらつくアリスに肩を貸して奥へと連れて行くリリス。その際アリスは


「…ごめんなさい」 


「ごめんなさいねアリスさん。こんな状況だからオリビア様も気が立ってるのよぉ。悪く思わないでね?」


「…分かってます。オリビアさんは、最悪私を逃がそうともしているのも」


「あら?そこまで見抜いてた?オリビア様も腹芸ヘタになったのねぇ」


 ウフフと微笑みアリスをベットに乗せ横にさせるリリス。魔力が切れてぐったりするアリスにリリスは


「大丈夫よぉアリスさん。休んでいる間には終わってるわぁ」


「…?」


 眠りに就く直前のアリスにそう語りかけるリリス。そうしてアリスを寝かせるとリリスはオリビアの元へと戻りオリビアに一言


「オリビア様ぁ、バレバレでしたよぉ」


「あらあら、やっぱり慣れてない事はやるものじゃないかしら?」


 硬い表情から一転笑みを溢すオリビア。このような絶対絶命の状況でも笑える彼女は紛れもなく肝っ玉母さんだろう。そんなオリビアに周りのラミア達は勇気付けられるのも確かなので困ったように笑うリリス。そこへ


「ごめんなさいね、私達を匿ったばかりに…」


 やって来て謝罪をしたのは幼いラミアの双子を連れた一人の人間に女性。その女性は魔女帽子と呼ばれる三角帽子に黒と金色を基調としたローブを纏うリリスのように妖艶な雰囲気を纏うナイスバディな美女だった。


「気にしないでフランさん。私達の同胞を大切に育ててくれていた方を無下に出来ないわ」


「…ありがとう」


 フランと呼ばれた女性はオリビアに礼をいうと不安そうに抱き着いていた双子のラミアを抱き締めて


「大丈夫よ、シアン、マゼンタ。お母さんがついてるからね」


「「お母さん…」」


 安心させるかのように優しく囁くフラン、そこにリリスが幼いラミアの双子に


「大丈夫よぉ、もう手は打ったからぁ」


 この言葉にはフランだけでなくオリビアや近くにいたラミア達も頭に疑問符を浮かべる。すると外が騒がしくなった。


「な、何?!」


 明らかに状況が変化したことに気が付いたオリビアは巨木から外を見る。


コンバーテの兵士達からはどよめきと悲鳴が、

ラミア達からは黄色い声が上がっていた、


「まぁ…!」


 リリスの言った言葉の意味を理解したオリビア。その表情は先程までの張り詰めた厳しいものから明るい表情に、遅れて来たフラン達は外を見ると


「…人間の、男の子?」

「だあれ?」

「あのお兄ちゃん…」


 困惑するフラン達を他所にオリビアは、いやラミア達が見たのはかつて自分達を救ってくれたあの後ろ姿だった。






「まだ根絶やしに出来ないのかっ!?」


 側付の騎士を引き連れた豪華や鎧を纏う男の名はマウロ・バカラテ・コンバーテ。五神の一柱である戦いの神アイゴーンを信仰しているコンバーテ王国の第4王子。

 戦いの国と呼ばれるコンバーテはその国柄もあるが今王家では兄姉で熾烈な王位継承権争いが起きておりこのマウロも例外ではない。寧ろ兄姉が多いマウロは16と若い年齢から継承権が遠い、しかしその差を埋めるに必要なものがある。

 それは戦果。

 戦いの国と呼ばれる国にとって戦果は重要なものであり誉れだ。だからマウロはハンデを覆す為に戦果が欲っしている。


「はっ、マウロ様!どうもしぶといようで未だ抵抗を続けており」

「たかだか蛇女共の討伐に何時までかかっている!あの大木に火でも付ければ簡単だろう!」

「それが、大木に防御魔法を張り巡らせているようでして…」

「ちっ!下賤な蛇共が…!」


 忌々しいように舌打ちをするマウロ。だが


「ですがこちらが断続的に攻撃を仕掛け包囲しており全滅も時間の問題でしょう!」


「ふふふ、そうか!時間の問題か!」


「ええ、あの隠れ住んでいた魔女を探していたらこんな好機があるとは!」


 楽しそうに下卑た笑みを浮かべるマウロと側近の騎士達。五神教会の教義では蛇は邪神の遣いとされ魔女は魔族に寝返った裏切り者とされ忌諱の対象とされている。下半身が蛇のラミアはその最たる例で五神に仇成す存在として討伐対象とされている。つまりここで信仰する神の敵を討つ事は下手な魔族を討つより戦果としての評価は高い。


「マウロ様。私達にも手柄分けてくださいよ」


「いいぞぉ、これからも僕に仕えるなら考えてやる」


 それはこの戦いに参加している1000を越える騎士や兵士も同じ、ラミアを殺せば出世のチャンスが巡ってくるというもの。つまりコンバーテの人間達からすればラミアも魔女も出世の為の獲物でしかない。だから王家の末弟とはいえマウロは兵を動かせるし兵も参加しているのだ。


「流石にこちらにも被害は在りましたが我々が出世する必要な犠牲です。ですが…!」


「うん。僕が王に成る為に犠牲になったんだ。十分誉れある事だろう。サイ!」


「はっ!」


 マウロは側にいた騎士を呼ぶ。周りの騎士達に比べ豪華な鎧を身に着けていることから隊長格なのは伺える。


「期は十分だ!馬を引け!奴らを狩るぞ!」


「はっ!マウロ様!」


 サイと呼ばれた騎士は側付に馬を引かせるとマウロは自ら馬に乗り剣を片手に兵士達に檄を飛ばした。


「往くぞ我が王家に仕えし勇敢な騎士達よ!我が神の敵である魔女共を討つ為に僕に続け!!」


 マウロが馬を引き先陣を切るとサイや他の騎士達が続きおおお!と地鳴りのような怒号を上げて兵士達が続く。


(そうだ…!王になるのはキーラでもアレイスでもボッツでもミハエルでもカトレアでもない…!この優秀で勇敢な僕!マウロだ!!)


 所詮は有象無象の蛇女共と魔女。僕の敵ではない。そう思いマウロはラミア達が立て籠もる巨木に迫る。


我欲に塗れ他者を貶める外道の典型。

 それがマウロを始めとしたコンバーテ王族を実態だった。その下に付く人間も同類。

 目の前にいたラミア達と目と鼻の距離となりマウロは剣を振りかぶったしその時


「退け」


 目の前にいきなり男が現れた。現れたと思った次の瞬間


「うぼはぁっ!?!?」


 顔面を飛び膝蹴りで蹴り抜かれ落馬。見事にクリーンヒットし落馬後もゴロゴロと30メートル程転がってしまう


「マ、マウロ様!」


 なんという事でしょう。先程までの士気の高まりっぷりから一転、指揮官のマウロが文字通り一蹴されコンバーテの兵士達は騒然としどよめきが起こる。しかしそれとは対象的に


「あれは…!」

「間違いない!間違いないわ!」

「キョウスケ君じゃない!?」

「「キョウスケ〜!」」


 現れた男に黄色い声援を飛ばすラミア達だった。






「間に合ったみたいだな」


 エリーのテレポートで跳び先程の打ち合わせ通り響介はラミア達がいる大木に近付きアヤメ達に危害を加えようとした先頭のアホを見て刹那功を使い瞬間移動しアホを蹴り飛ばしラミア達を襲撃した連中に立ちはだかるように割り込むことに成功した響介。少々無理な体勢から蹴った為仕留める事が出来ず少し反省していると


「「「キョウスケ〜!」」」

「「「キョウスケく〜ん!」」」


 後ろにいるアヤメやリリーとリリアンを始め背にしている大木から顔を出したラミア達から沢山の声援を受ける。響介は振り向き


「皆さんお待たせしました」


 ラミア達を安心させる為柔らかな笑顔で右手を高く掲げ手を振り声援に応える。それを見たラミア達からは一際大きい黄色い声援が上がる。その姿はまるで某J系人気アイドルの如く


 しかしそんな響介に蹴り飛ばした男に駆け寄っていた騎士が怒声を上げた


「貴様!!」


 それに気が付くと響介は振り向く。いたのは顔を抑えて蹲っている小柄な男とそれに駆け寄っていた騎士数名と後ろに控える数百の兵と馬や騎竜と呼ばれる二足歩行の小型ドラゴン、そして怒声を上げた他の騎士達とは鎧細部の装飾が異なる騎士。どうやら隊長格のようだと見た響介。


「よくもコンバーテ王家第4王子であられるマウロ様に対して無礼を!!貴様はこのコンバーテ王国王家親衛騎兵団第2騎兵団団長サイ・コヨーテが…」


 他にも言っていたが響介は


(なんかあの時の魔族との戦いと比べるとしょっぱい数だな)


 サイと名乗った騎士を後ろにいる兵士達を一瞥して一ヶ月半前の事を思い出す響介。あの時の万をゆうに越える魔族との戦いと比べると物足りなさを感じてしまう。だが殺気立つ数百の人間を目の前にして呑気に考えるのは『恐怖』という感情が実家の影響でイカれてる響介位であるのは追記しておく。

 そしてそんなバカの話しを聞いていない響介に


「貴様!聞いているのかっ!?」


「いや、聞いてなかった。そこの駄目王子マヌケが腹踊りをしたって話しだったか?」


「なっ、貴様ぁ…!」


 サイと言う騎士を始め連中の殺意が一斉に響介に向けられる。それを察した響介意に介さず寧ろ


(そうだ。俺を見ろ。俺に意識を向けていろ)


 そのほうが都合が良い。そう思っていると蹴り飛ばした男がやっと起き上がった。全身泥まみれになり顔を真っ赤にして怒りを露わにしているが響介の膝がまともに入ったようで鼻が潰れ血を垂れ流し明後日の方向に曲り歪んでいた鼻を見て笑いそうになるマイペースな響介。


「お前っ!!この僕に、このコンバーテ王国第4王子であるマウロ・バカラテ・コンバーテにこんな真似をしてどうなるか」


 マウロの言葉はここで途切れた。自分が王族だと公言したのを聞いてマウロが喋っているのを威圧的なガンを飛ばし遮ると響介は尋ねる。


 どちらにせよぶちのめすが口が聞けるうちにこいつの腹の中を改めたい、何よりも目の前のこいつの口から聞きたい


「ほう、てめぇは王族か?ならば答えろ。俺の後ろにいる彼女達がてめぇらに何をした?2日前に彼女達を見るや否や否応なしに襲いかかり今の今まで攻撃を加えているな?誤魔化そうとするなよ?こちらはてめぇが指揮して仕掛けてきたってのは既に調べが付いている」


 質問と共に発せられる響介の強烈な殺気を受けられコンバーテの人間達は慄き怯む。

 響介が怒るのは当然だ。2日前からコンバーテの人間達が彼女達ラミアを襲撃し膠着状態となっているのは全てネロ経由で確認しており詳細を聞いた時は怒りを覚えた。


 自ら我欲の為に他者を喰い物にする外道。それが響介の目の前にいるコンバーテの兵隊共のマウロと言うガキに対しての率直な感想だ。


 しかし響介の殺気に当てられたからか開き直ったマウロから出た返答は唾棄すべきものだった。


「そ、それがどうした!?この僕が王になる為にそこの蛇女共や魔女は必要な生贄なんだよ!」


「なに?」


「お前のような人間には分からないだろうなっ!僕は選ばれた人間なんだ!この世に必要な人間なんだよ!そいつらが死ねば僕には華やかな将来も約束されているんだ!!」


 マウロが唾と共に吐き捨てた言葉を聞き響介は慈悲も情けも不要と判断し


「外道が、履いた唾は飲み込めねぇぞ?」


 そうマウロ達にさらに強い鋭い殺気と共に放った時、耳に付けている通信カフスから声が聞こえた


『こちらあるけみすと、やつらが網にかかったー』


 エリーからの『合図』だ。

 それを聞き表情には出さなかったものの内心やれやれと思った響介だがマイペースなのを知り不敵な笑みを浮かべた響介は通信カフスに魔力を込め


「ジャッカル了解、では始めよう」


 そう口にした時だった。突如マウロ達の、コンバーテの兵隊達の背後から悲鳴が上がった。


「な、何だ?!」


 戸惑うことしか出来ないマウロ。マウロに代わりサイは何とか状況を把握しようとする。すると背後からやって来た兵士がマウロ達に報告した。


「て、敵です!それも囲まれています!」




外道キャラの勉強が足りない…

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