135話 急展開 思わぬ再会と緊急事態
ライミィ、妙案を閃く。
…くそったれや、まともにもろた。
胸からぎょうさん血が流れ出る感覚がある。致命傷や
だが俺はまだ倒れん。
事務所を吹き飛ばして殴り込み室屋の兄貴をボロボロにして舎弟を吹き飛ばしてくれたこの舐めた半グレ共を皆殺しにせな死んでも死にきれん。俺を刺したダボを今出せる渾身の力で蹴りを放ち首をへし折る。その時や
「室屋の兄貴!天堂おぉぉぉぉ!」
「テメエら…、覚悟出来てんだろうなぁ…!」
声からして津上と美藤の兄貴か?まだいるなぁ、アカンもう目が霞んできてしもた。2人を見て安心してしもたからか膝から力抜けて崩れ落ちちまった。遠くで足音が聞こえ俺に近付くのもあった。
「天堂、しっかりしろ」
この声は美藤の兄貴や、俺が組に入っていっちゃん世話になった兄貴や、美藤の兄貴は俺の肩を持ってつよう揺する
「美、藤の兄貴、室屋の、兄貴は?」
「室屋は大丈夫だまだ息はある。だからお前はもう喋るな」
「はは、それは、よかったなぁ、せっかく、子供生まれた言うてたのに、可哀想やわ」
「喋るなって言ってるだろうが!喋るんじゃねぇ!!」
美藤の兄貴すんません。ヤッパを心臓に貰っちまったんですわ。血ぃも流しすぎてしもたし助からん、呆気ないなぁ死ぬんかと思たら不意にある人の顔が浮かんだ
俺を変えてくれた人や、それ思うと口に出てしもた。
…死ぬ前に自分の不出来を詫びたかった
「響介の若、ごめんなさい。俺は若に救ってもらたのに、若の愛した組守れんで、ごめんなさ…」
ここまでしか言えへんかった。自分が情けないわ。でも
(…?)
意識が切れる前になんやか聞こえた。
なんや?今の声…
「天堂…!クソがぁぁぁぁぁぁ!!!」
この日、半グレ集団『天辺巣都』が鴻上組の事務所を襲撃。第3事務所を爆撃し組員数人が重傷を負い組員の一人天堂潤樹が殺害された事を受け鴻上組八代目組長京町豊の命を受けた鴻上組兄貴衆の纏め役であり新若頭山賀大吾が中心となり組総出の天辺巣都狩りが始まるのだった。
「ほう、ラミアの民か」
響介達はアングリフ城のアルフォンスがいる謁見の間を訪れ世界樹の管理に関しての話をしていた。
ライミィの案でオリビア達ラミアを世界樹の森に招き管理を頼む案。ラミアは木に住み着き森に生きる下半身が大蛇姿の女性達。しかしラミア達を敵視している五神教会や過去に人間を喰い物にした一部のラミア達の行いにより多種族には恐れられている存在。
しかし皆見目麗しい美貌を持つ美女揃いでスタイル抜群。一団の長であるライミィの母オリビアは人格者でありその下にいるラミア達も皆気立てが良く人柄が良く良い意味でも悪い意味でも性格が良い者が多く、大蛇の姿も『ラミアのアミュレット』というマジックアイテムがあれば人間に化ける事が出来る女性達だ。
響介達が考えたのはオリビア達ラミア族に世界樹の管理を任せるという事。宛もなく旅をする彼女達が欲しいのは他者から侵害されることのない安住の地。ならば彼女達に世界樹の森という住処を提供し管理を任せ荒事があれば自分達が対処すれば良いとの結論に至った。それに加え
「ラミアの民は皆魔力が高く様々な魔法を扱うと聞く。こちらにも助力してもらえるなら我も力になろう」
今のアルフォンス側魔王軍の事情もあった。先の戦いで魔力の高い魔族を盗られた形になり純粋に魔法が得意な魔族が少なく、日中では力を発揮出来ない吸血鬼や直接的な攻撃魔法を不得手とする女淫魔位しかいない。アルフォンスとしても魔法に秀でるラミアと協力関係を構築出来るなら後ろ盾になっても良いと考えている。なによりも
「お母さんに、会える」
エリーの母アリスを屋敷に迎え入れる準備が整ったのだ。
「お母さんも、お兄ちゃん達も、みんな一緒♪」
ひょんな事からライミィの母親オリビア達と旅をするエリーの母親アリス。なんの奇妙な運命かは知らないが今も共に旅をしており迎え入れるのであれば一石二鳥であった。
「今ネロがセフィロトにお母さん達の場所聞きに行ってるから楽しみだね〜」
「うん♪」
ニコニコと笑うライミィとエリーを見てつい和んでしまい優しく微笑むステラ
「すまないなアル、感謝する」
「それは我の言葉だ兄弟よ。聞くところによるとキョウスケとラミア達は良好な関係だと聞く。ならばキョウスケに間を取り持って貰えばすんなり話は纏まるだろう」
そう響介とアルフォンスが会話をしていると一人の騎士鎧が謁見の間にやって来た。
「アルフォンス様!ご報告が!」
「どうしたジェミニエッタ?キョウスケ達がいるのだぞ?」
「も、申し訳ありません!ですが…」
「あ〜、俺達の事は気になさらずどうぞ」
そうして響介は一歩下がりジェミニエッタに話を進める事を促す。しかしちゃっかり聴覚スキルを発動させて聞き耳を立てる。
「申し訳ありません。アルフォンス様中庭に人間が…」
「人間だと?」
アルフォンスのリアクションも間違ってはいないしライミィ達も2人の会話に反応した。魔族領のおよそど真ん中にある魔王アルフォンスの居城アングリフ城にどうやって現れたか知らないが人間が現れるなんてのは自殺行為にほかならない。気になった響介は聞き耳を立て続ける。
「はい。我々が見つけた時は気を失っていましたが今は意識も戻り意思疎通が出来るのでクラリッサさん達が話を聞いているのですが…」
「なんだ?申してみよ」
「それが、少し聞いたことがない訛り混じりの言葉で話してまして、どうすればよいかと…」
「どのような人間だ?」
「ジャケットのような紺色の服を来た髪が銀色の男性でして、あっそうだそういえばキョウスケさん達のダイモン?でしたか?あれに反応して」
ジェミニエッタがここまで言うと2人の会話に響介が割り込んだ。
「すまないジェミニエッタさん。その男のとこに案内してくれませんか?」
「む…?」
「キョウスケさん?は、はい、こちらです」
そうして響介はアルフォンスに断りを入れジェミニエッタに案内されてその男の元へ、そんな響介の様子にライミィ達も遅れて響介に付いていく。少し歩き案内されたのは亡霊騎士団の詰所、中からは話声が聞こえその時聞こえた男の声に確信が着くと響介はノックもせず扉を開けた。
「!?」
「こ、こらノックもせずに扉を、ってキョウスケさん?」
中にいた亡霊騎士団のデュラハン、クラリッサとフランシスが突如扉が開いたのに気付き振り向きそこに現れた響介に驚く、そして中にいた男が入って来た響介を見て
「わ、若…?」
信じられないと言わんばかりに目を剥き呆然となる。中にいた男は銀髪の後ろ髪を短く結いハーフアップのようにした髪型で濃紺のショートジャケットを羽織った整った顔立ちの優男。響介は一目見ると
「やっぱりお前、潤樹だよな?」
響介が決定的な言葉を口にした。すると潤樹と呼ばれた男は響介に詰め寄るように近付く
「若じゃねぇですか…!ほんまに、若じゃねぇか…!」
「マジで潤樹か!?なんでお前もこっちに、って落ち着け潤樹!」
「うっうっうっ……!」
膝から崩れ落ちると響介にしがみつかれてむせび泣いてしてしまい響介は何とか落ち着かせる事に。
そして10分後。改めて謁見の間にて
「お恥ずかしいとこ見せてエライすんません」
頭を下げ謝罪するのは銀髪の青年、響介程ではないが背の高く細身の体格で響介以上に整った顔立ちの持ち主、なお響介が落ち着かせている間にエリーがスマホの写真をアルフォンス達に見せて誰なのかは謁見の間にいる者達には伝達済みだ。アルフォンスは一瞥し
「構わん、貴殿はキョウスケの舎弟とやらだとエリーから伺ったが?」
「ああその通りや。俺は天堂潤樹、響介の若の舎弟で鴻上組に所属してた極道や」
「貴殿は我の城の中庭にいたとジェミニエッタから聞いたが何故そこに?」
そこから潤樹の説明によると日本で半グレの襲撃に遭い心臓に刃物をもらい死の間際で意識が切れる直前に声が聞こえたと思ったら目を覚まし起き上がると身体は何ともなく中庭の手入れをしていたジェミニエッタ達に出食わしたそうだ。
本人も良くわかっておらず困惑気味ながら説明し皆一連の説明を聞き終わると神妙な顔で聞いていた響介が徐ろに潤樹の前に来ると
「本当に申し訳無い」
「えっ!?ちょちょっとキョウスケ!?」
周りの目も憚らずその場で潤樹に対して土下座をし謝罪したのだ。これにはライミィやアルフォンスは勿論皆が響介の行動に驚く。当の潤樹は突然の事で呆然としていたが直ぐに我に返り
「わ、若!頭上げてくれ!」
「すまない潤樹!本当に申し訳無い!詫びの入れようもない!お前のような優秀な男が俺のような未熟者に付いてきたばかりに!すまない!本当にすまない!」
床に頭を着け謝罪を続ける響介、頭を上げてくれと慌てて駆け寄る潤樹、そして顔こそ見えないが鬼気迫る様子で頭を下げ続ける響介に誰もが見守るしかなかった。それを目の当たりにしてライミィは先日響介が自分の実家の話をした時の事を思い出した。
(そいえばキョウスケ言ってたっけ、シャテーさんの3人はキョウスケの誘いに乗って組に入ったって、そっかキョウスケ…)
ライミィは謝罪の意味を理解した。
つまりは響介が組に誘わなかったら潤樹という男は死ぬことはなかった。
一人の人間の人生を狂わせてしまった責任が響介にはあり響介を見るにそのことを重々理解している。
人の上に立ち人の命を預かるという責務を、だから人目も憚らず謝罪をしているのだ。しかし
「若!後生やから頭上げてくれ!俺はそないなこと思たことない!実の家族にも蔑まれ居場所無こうてどうしようもないゴンたくれの俺を拾てくれた若には感謝しかあらへんわ!」
潤樹は痛々しい表情を浮かべ声を張り上げて土下座している響介に
「組に入ったことも俺が若の力になりたくて決めたことや、そんな俺が若に感謝はすれど憎むなんて天地がひっくり返ったってあらへん。俺だけやない、津上も乾もおんなじや。俺らは若の人柄に惚れたんや。だから、後生やから頭上げてくれ…」
その言葉を受けようやく頭を上げた響介の表情は今にも泣いてしまいそうな表情だったが
「すまない、すまない…!」
潤樹からの言葉を受け目に薄っすら涙を浮かべていた。
それから響介が落ち着くまでさらに10分、話しを再開すると潤樹に順番に説明をする。潤樹と話をする中で皆が気になっていたことをライミィが代表して尋ねた。
「ねぇねぇジュンキさん、ステータスボード見せて」
「なんや随分な蛇の姉ちゃんやな、おたくは?」
「あっ、ごめんなさい。私はライミィ。キョウスケの妻です」
「若の妻ぁ!?」
驚愕した潤樹は響介とライミィを交互に見ると響介に
「若にも、春来たんすね」
生暖かい視線を送りしみじみと一言
「あんな女っ気の欠片もなかった若がこんなべっぴんさん捕まえるたぁ…」
「おい潤樹」
「いやぁ、べっぴんさんなんてそれ程でも」
「若の女とは知らず失礼しました。これからはライミィのお嬢と呼ばせて頂きます」
その後もエリーやステラの自己紹介を挟み潤樹にステータスボードの出し方を教えて潤樹に出してもらう。すると
「なんや、良うわからんがけったいやな」
自身のステータスを見てなんだこれと言わんばかりに見る潤樹だが潤樹の実力を知っている響介は満足そうに頷き、他の皆が潤樹のステータスを見て強さを納得した。そんな潤樹のステータスはというと
天堂潤樹
20歳
ジョブ 拳聖
レベル45
ステータス
生命力B、攻撃力S、防御力B、スピードSS、知力S、魔力C、魔力保有量B
固有アビリティ
ストライカー…あらゆる近接戦闘に適性特大
氷属性魔法適性…氷属性魔法に高い適性がある。
鴻上組の矜持…あらゆる精神異常に対して耐性大、生命力が少なくなる程戦闘能力上昇
まさかの格闘ジョブの上位種拳聖を所持しておりアルフォンスですら手元に欲しい人材だった。
「確かに潤樹は喧嘩の実力はセンス含めて矢代の兄貴も美藤の兄貴も買ってたから納得だ」
「恐れ多いっすわ、まだまだ若や兄貴達に比べたら劣ります」
「ジュンキお兄ちゃん、すごい」
「アビリティ『ストライカー』、ジュンキ殿は武道か何かを納めてられていたのですか?」
「ガキの頃から空手ゆうのを、組に入ってからは美藤の兄貴にムエタイ、大河の兄貴にドスの捌き方教わってましたわ」
「「「どす?」」」
「短刀の事でこの世界で言うならナイフでの戦闘術だ。ドスの使い方はうちの組員の必須項目で組に入ってから大河の兄貴に刺し方から何まで習うんだ」
そう響介が話しアルフォンス達が興味深そうに聞いていると謁見の間の扉が音を立てて開かれると滑り込むように何者かが入って来た。それは
「おい!キョウスケ大変だ!」
ネロだ。カサブランカにいる情報屋ギルドセフィロトでライミィの母親達の動向を探っていたはずだが慌てた様子で謁見の間に飛び込んで来た。アルフォンスがいるというのに血相を変えたネロ様子は珍しい
「どうしたんだネロ。何があった?」
「例のラミアの集団が人間に襲撃されてんだ!」
謁見の間にいる者達、特にライミィとエリーは驚きを隠せなかった。その中でもアルフォンスは冷静に状況を確かめる。
「ネロよ、何処の人間達だ?」
「セフィロトによるとコンバーテの騎士だと…」
ネロ達3人の話しの傍ら潤樹は比較的驚きが少なく話しが早そうなステラに尋ねた。
「ラミア言うのはライミィのお嬢みたいな蛇の女のことやんな、それがどしたんや?ステラはん」
「そのラミアの集団はライミィ様のお母様とエリー様のお母様がいらっしゃるんです」
「何やて?」
そう言われて潤樹はライミィとエリーを一瞥した。潤樹目線でも明らかに動揺しているのが見て取れた。
「詳しい話は省かせて頂きますがエリー様は事故でお母様と逸れてしまい私達は行方を追っていたのです。それでライミィ様のお母様の集団にいることが分かりまして」
「…」
あらかたを聞いた潤樹は何か考えるように口を紡ぐ、その間にも響介達の話は進み
「ネロどの辺りだ?」
「セフィロトが言ってたのを見ると、この辺だ!」
「アル、すまない直ぐに向かう」
「そうすると良い」
「エリー、頼む」
「うん…!」
そうして響介達が向かおうとした瞬間だった。
「すまん若、俺も行くわ」
「潤樹?」
「お、おい誰だよこいつ」
唯一事情を知らないネロだが響介と潤樹は触れず、潤樹は真っ直ぐ響介の目を見て
「事情はステラはんから聞きはりました。人手は多いほうがええやろ」
「…いいのか?」
響介の問いに潤樹は察した。最悪は人間同士の殺し合いになると、しかし
「ええ、ここでも若が若やってるのは判ったんや。なら俺は若に付いてくだけや」
微笑みながら響介に語る潤樹の目はとっくに覚悟を決めている人間の目だった。それを見た響介は
「頼りにするぞ潤樹」
「頼られたで若」
不敵に笑う潤樹を連れて響介達はエリーのテレポートでオリビア達の元へと跳ぶのだった。