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132話 大木2 大木の正体

響介一行、魔狼に出会う。




「助けるって具体的にどうすんだキョウスケ」


 邪神の身勝手で長年苦しめられた母なる大樹を助ける。そんな大それた事を口にした響介に思わず聞き返したネロ。そんな響介は不敵に笑うと


「俺が考えも無しに言うと思うか?」

「いや全く」


 ネロは食い気味にこの答え。だろうなと言わんばかりの表情を浮かべているライミィ達3人を見てネロもだんだん響介という人間を分かってきたようだ。一方で突拍子も無い事を言い出した響介にマルコシアスは驚愕の表情を浮かべていたがそれは全く気にしていない鴻上組は


「キョウスケーどう動けばいい?」


「そうだな、先ずステラとネロ」


「はい」

「おう」


 響介は懐から徐ろに賢者の懐中時計を取り出すと一つの道具袋を取り出す。中にあるのは先日エリーが枯れ葉から錬成したハイポーション


「2人はエリーが錬金魔法で作ったこのハイポーションをありったけ地面に蒔いてくれ」


「畏まりました!」

「分かった」


 そう指示出すとステラとネロはハイポーションを自身の持つアイテムバックに詰めるだけ詰めると両手にも持てるだけ持ってハイポーションを周囲に蒔き始めた。


「目潰しに使うからビンはポイ捨てすんなよー」


 蒔いているステラとネロにそう伝え響介は次の指示を出す為エリーに向き


「次はエリーだ。エリーこの大樹を中心にしてフルアンチとキュアベッセルングを同時に行使したら何処まで出来る?」


 響介の言う『フルアンチ』と『キュアベッセルング』は治癒魔法レベル9と10の高レベル魔法。フルアンチは状態異常を治療し対象の病原体に対する抗体を強化する魔法でキュアベッセルングはヒーリングサークルやキュアサークルを越える回復力と範囲を誇る治癒魔法。どちらとも高レベルの魔法に相応しく非常に高い効果力の魔法だが従来の治癒魔法の比にならない程の詠唱時間を要するという欠点がある。

 しかしここにいるエリーは


「レベル、いっぱい上がったから、周りの木まで、全部出来るよ」


 実はアルフォンス救出の際に起きた戦いで響介が倒した分約5万を越える魔族を始め一行が倒した魔族魔物が共有され全て経験値として得られておりしかもその経験値は響介のアビリティ「頼もしき兄貴分」によってブースト、挙げ句の果ては分配ではなく一人一人丸ごと加算された結果響介とライミィはレベルが100の頭打(カンスト)状態なのを始め


 響介→100

 ライミィ→100

 エリー→89

 ステラ→85

 ネロ→74


 と、ネロに至っては響介達に出会う前の倍のレベルまで上がっておりこの事実を知ったネロ曰く「この夫婦アルフォンス様と同レベルなんだけど…」と呆気に取られ溢していた。

 要はレベルアップに応じて魔力も魔力保有量も上がっており今のエリーは高い魔力とアビリティ『先祖返りのエルフ』の恩恵により無詠唱行使と11歳という少女では考えられない力を秘めておりそんなエリーは瞳を閉じて魔力を練ると大木を中心にして封じられていた区画を丸々範囲に入れ


「フルアンチ。キュアベッセルング」


 響介に頼まれた治癒魔法を詠唱。辺りはたちまち淡い優しい光に包まれる。その光の中


「よし、最後は俺達だライミィ」


「オッケー、でどするの?」


「俺が全力の気を込めた治癒功を大木に叩き込むのと同時にライミィも雷属性魔法の防御魔法を大木に叩き込んでくれ」


「雷属性、プラズマシルトね!でもなんで雷属性?」


「雷は古くから植物に刺激を与え成長を促進させると言われてるんだ。だから弱ってる大木に活をいれるように叩き込んでほしい」


「成る程!防御魔法ならついでに邪神の魔法が残ってても無効化出来るし、確か『イッセキニチョー』って奴ね!任せて!」






(目の前の者達は何を言っているのだ?)


 母なる大樹に向かい肩を並べ揃って歩みを進める今代の狼王殿と白蛇の後ろ姿を見て最早置いてきぼりとなっていた吾は驚きを隠せずただ呆然と立ち尽くし一部始終を見ていた。


(母なる大樹を助ける?何故そんな大それた事を平然と出来るのだ?いや出来ると思っているのか?)


 本来なら途方もない事だと言うことを吾は知っている。それ程までに邪神の振り撒いた毒は強力なのだ。


 それは自身(マルコシアス)が良く知っていた。


 だからこそ分からなかった。先代の狼王では考えられなかった。何故?何故そんな事を平然と行おうとする?無駄だと思わないのか?そんな吾の胸中に抱える疑問に答えたのは


「お兄ちゃんは、教えてくれたよ」


 巫女だ。あの時見た巫女の生き写しのような小さなエルフの少女は言葉を紡いだ


「やらずに後悔は駄目、やってから反省しなさい。後悔は後ろ向いちゃうけど反省は前を向くって」


 後悔か、後悔なら吾は幾らでもした。先代の狼王殿を黙って見送る事しか出来なかった事も、その遺言を果たせなかった事も、今も母なる大樹の為命を削る精霊達の力になることも


 吾は何も出来なかった。何度己が無力を感じたか。何度後悔したか。そんな吾に巫女は


「諦めるのは、駄目」


 たどたどしく言葉を紡ぎ続ける。


「諦めちゃうと、何も出来ないって。エリー怖かった。もうお母さんと、会えないんじゃないかって思ってた。でもお兄ちゃんと、お姉ちゃん、何時もエリーの為に頑張ってくれた」


 吾はそんな鈴のように鳴らす巫女に目を離すことが出来なかった。巫女は清らかな金色(こんじき)の瞳を開き


「だから、エリー頑張る。お兄ちゃん、お姉ちゃん、みんな大好きだから」


 …巫女の言葉には『力』があった。小さな幼子故純粋で素直な力強さ、今の吾には眩しく思えた。その巫女の言葉を受け改めて(アルファ)と白蛇に視線を移すと


「ようし!やるぞ!」

「オッケー!」


 光々しく力強い気を纏った(アルファ)と力強く澄んだ魔力を纏う白蛇


「でぇい!」

「プラズマシルト!」


 その瞬間吾はある光景が目に映った。あれは


「初代殿と、御使い殿…?」






 響介とライミィが大木に放った治癒功とプラズマシルトは一帯を眩い光が包むと同時に大木が包まれるかの様に変化が現れる


「おおっ…!」


 ハイポーションを撒き終わっていたステラがその光景に感嘆の声を上げた。


 枝も弱って垂れ下がり葉一枚付いていなかった大木は徐々に枝が起き上がるとシャンと伸びた瞬間緑色をした健康的な葉がバッと瞬く間に生えたのを皮切りに木全体が急激に成長しあっと言う間に最初に見たときと比べ倍ほどまでに成長した。しかし変化はそれだけではない。


「すげぇ!周りの木も復活したぞ!」


 ネロが気が付いたのは大樹の周りに生えていた木々が青々と茂り出し大樹を中心に小規模な森を形成し、草木一本無かった荒れ果てていた荒野は一面爽やかな風が吹く草原へと再生していた。


「すごーい♪」


 辺りを見回し魔法のように生まれ変わった森を見てキャッキャッと楽しそうにはしゃぐエリーは母なる大樹の麓にいる


「やったねキョウスケ!」

「ああ、ありがとうライミィ!」


 ハイタッチを交わし抱き合って喜び合う響介とライミィの元へ駆け寄ると


「いえーい♪」

「「いえーい」」


 同じように2人とハイタッチを交わしステラとネロも加わり皆で喜び合う


「やったなキョウスケ!」


「おう!上手くいって良かったぜ!」


「流石です!キョウスケ様ライミィ様!」


「ありがとねステラ。それにしてもこう見るとさぁ綺麗だね」


 そうライミィが口にすると響介達は再生された母なる大樹を見上げた。


 魔力を帯びた淡い光を湛えている森の中心に伸びた大樹は瑞々しい青い葉を付けそこから溢れる木漏れ陽にその合間から見える良く晴れた空、見上げた光景がとても神秘的に見え見惚れる一行。その時


「ん?」


 ふと一枚の若葉が枝からハラリと落ちてくるのに気が付いた響介。その若葉は反射的に手を伸ばしたエリーの両手の平にふわりと収まった。


「これも、懐かしい匂いがする。お兄ちゃん」


「ああ、やってみるといい」


「うん♪」


 そうしてエリーは落ちて来た若葉を媒体にクリエイトアイテムを詠唱する。パアと光が若葉を包むと代わりに現れたのは一本のビン。一見ポーションのようだが透き通る様な白金(プラチナ)色のビンは神々しさが感じられ響介は鑑定スキルを使い調べて見ると


「えっと、エリクサーってアイテムだな」


「はぁ!?エリクサー!嘘だろ!?」


 驚愕の表情を浮かべたネロにエリクサーの事を説明してもらった響介達。

 エリクサー。幻の霊薬と呼ばれこの世界で唯一回復アイテムでSランクアイテムとして認知されており、絶望的な怪我を負い死の縁に立たされて遭っても必ず癒し生還させる事が出来るとして冒険者は勿論多くの貴族や王族果ては魔族が喉から手が出る程欲していると言われている大変貴重で価値のある回復アイテムだ。


 ネロの説明を聞いて流石の響介達も驚きを隠せない。そしてネロの言葉を受けてライミィは暫し考えてある答えに辿り着く


「キョウスケ、これ世界樹だ」



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