131話 大木 決まる方針
響介一行、荒野の秘密を暴き始める。
…口惜しや
『母なる大樹』とその子ら、ここに住む精霊達を護ると我が主亡き狼王殿との誓いを果たせずこの地ごと封じられ『母なる大樹』が緩やかに死に向かう姿を見ることしか出来ず朽ちるだけとは…
…やはり吾も共に逝くべきだったのではないか?
地母神と共に戦い邪神を道連れに冥府へと堕ちた我が主。『母なる大樹』を枯らす事を防ぐ為自らを犠牲にした精霊達。今も精霊達は『母なる大樹』の根におりその命を差し出している。
吾は何をしていた?何をしている?
こんな生き恥を晒し託された使命を何一つ果たせず邪神の封印にも抗えず封じられるがままの吾にもう価値などないのではないか?
だが…出来ることなら吾は、今度こそ…
……?なんだ?身体が…?
「なんだコイツ?」
荒野の隠されていた謎の一片を解き明かし枯れ木が群生している地帯を進んだ響介一行。その枯れ木の中でも中心部にあり一際大きい大木の麓にいた大きな狼のような獣を見てネロが声を上げた。
「お姉ちゃん、このオオカミさん、大っきい」
「ね〜、私もこんな大っきいの始めて見たよ~」
まるで鎮座している存在しているのは黒鉄色の毛並みをしエリーが使徒するリーゼ以上あるであろう大型の狼だ。深い眠りにつくように眠ている狼を注意深く観察していた響介は狼の変わった部分に気が付いた。
「ん?」
「どしたのキョウスケ?」
「この狼変わってるな。尻尾が蛇になってる」
「おや本当ですね。キマイラの類でしょうか?」
「お姉ちゃん、あのオオカミさん、背中の隠れてるの翼かな?」
「あっホントだね〜。翼竜種の翼みたいなのあるね、さっすがエリー♪」
「えっへん♪」
こう賑やかに考察を言っている横で引っ掛かることがあったネロは記憶を掘り返す
(…蛇の尻尾にドラゴンの翼、黒鉄色の狼?………おいおいおいおいまさかっ!?)
掘り返したとこで記憶を引いたネロが響介達に伝えようとした瞬間だった。
「あっ、お姉ちゃん、オオカミさん動いたー」
自分達に気がついたのか身動ぎしたかと思いきや尻尾の蛇がむくりと起き上がり目を開くとキョロキョロと辺りを見回し始めた。黒鉄色の蛇は何か探すように見ているとふと響介と目が合うとジーと響介に見入る。
「?」
「何でキョウスケ見てるんだろ?」
そう疑問に思っていると蛇に続き徐ろに狼が起き上がると蛇が凝視していた響介を見つけると目を見開いた。翡翠を思わせる瞳は暫し響介を見ていると
「お、おお…」
響介から何か感じ取り何処か驚くように、否
「おお…、我が主…」
まるで長年探し続けていた家族を見つけたような嗚咽に近い声色を漏らしていた。
「えっ…!?」
「喋った!?」
「アルファ?」
ライミィ達女性陣は狼が喋った事に驚いていたが響介は黒鉄の狼が言っている意味が分からず疑問符を浮かべている横でネロの表情は驚愕の色を浮かべていた。
「おいおいおいおい、ウソだろ……!」
「ネロ?」
「ネロ、このオオカミさん、知ってるの?」
「し、知ってるのなにもってこいつ魔狼だよ!魔狼マルコシアスじゃねぇか!?」
「「「「まるこしあす?」」」」
聞き返した時響介は自身の変化したアビリティ『青い瞳の狼王』の事で以前アルフォンスに尋ねた時に名前だけ聞いたのを思い出していると
「如何にも、吾は主狼王殿に仕えし魔狼マルコシアス」
その後慌てふためくネロに説明と目の前の黒鉄色の狼マルコシアスも交えて詳細を聞いた響介達。
魔狼マルコシアス。
狼王ジャッカルに平伏しその後仕えたと云われる魔獣の一頭。伝承ではドラゴンの翼と真実を視る蛇の尾を持ち高い魔力を用いて勇猛に戦う狼で欺瞞や偽りといった不義理を嫌い主であった狼王に忠義を誓っていたと伝わっているとネロが教えてくれた。
そしてマルコシアスからも話を聞いていると
「「「「「母なる大樹?」」」」」
この魔狼の話によると魔狼マルコシアスは先代の狼王に遣えており先代の遺言に従いこの場の守護を請け負っていたと話してくれた。しかし邪神にこの場ごと空間を断絶し封印切り離されたそうだ。マルコシアスが言うには母なる大樹とやらを先の戦争で荒れたこの地を利用し邪神は土壌を汚染し根から侵食させ枯らそうとしておりそれを木々を司る精霊達が身を挺して今も阻止していると話してくれた。勿論疑問が
「何で邪神とやらはその『母なる大樹』とやらを枯らそうとするんだ?」
響介の質問にマルコシアスは真っ直ぐ響介を見て口を開く
「吾が主。先代の狼王殿は母なる大樹は先の戦いのおり封じられた地母神の開放に関係していると仰っていた。邪神にとって地母神は不倶戴天の敵。地母神の再臨の芽は摘みたかったのでしょう」
「しつもーん」
「なんだ?御使いの白蛇よ」
「その邪神ってなんで母なる大樹っての燃やさなかったの?処分する方法なんていっぱいあったと思うけど」
「母なる大樹には膨大な魔力が収められていると亡き先代が仰っていた。邪神はこの母なる大樹の魔力を欲していたとも聞き恐らく地母神を完全に亡き者にした後魔力を奪うのではと吾は見ている」
聞くところこの一際大きな木がその母なる大樹らしい。邪神の配下である五神に封印された地母神の開放の鍵を握っているのだそうだとマルコシアスからの話を纏めると
「つまりここを封印したのは五神ではなく邪神」
「その邪神の部下の五神はどしても地母神を復活させたくなくてこの母なる大樹ってのを封印した」
「でもその大樹も、魔力いっぱい」
「もしかしたら言葉の順番が逆か?」
「逆?どゆこと?」
「つまり地母神を完全に滅ぼしたいから母なる大樹の魔力を奪った後で地母神を滅ぼすと言うことでしょうか?キョウスケ様」
「そっちのほうが俺的にはしっくりくる。余程のバカでもない限り殺しならそれなりの準備が必要だからな」
響介の言葉に妙な説得力を感じたライミィ達。響介もまがりなりにも渡世に生きる人間、その道の手順というものは理解しているつもりである。
「要は邪神は地母神の排除とこの大木を自分の物にしたかったんだろう?で先に封印したのはいいものの地母神の返り討ちにあった。でいいんだよなマルコシアス?」
「はっ、吾が主。邪神は先代が喉元に喰らいつき道連れにしたと地母神の分神から吾に伝わっております」
「道連れ?邪神は地母神が封印したんじゃないのか?」
「正確には地母神が封印したのは邪神の御身。先代が道連れにしたのは邪神の魂、先代の狼王殿は今後邪神が復活する可能性を危惧し地母神の静止を振り切り邪神の魂を切離し滅っしたと」
響介の質問に姿勢を正しキビキビと返答するマルコシアス。その様は長年遣えてきた執事の如く粛々としたものだったが響介達と会ってから崩さないその様子に困惑してしまうが今はマルコシアスの後ろの大木に視線を移し
「つまりこの大木が母なる大樹なるもので今まで封印されていたが俺達が封印を解いたと、そしてその母なる大樹は汚染されいる地によって毒されて今も精霊達が文字通り命がけで戦い森の木々が養分や魔力を供給して大樹の命を繋いでいる。よし」
何か決断した響介の表情を見て察したライミィはふふっと笑い響介に尋ねる
「どするのキョウスケ?」
ライミィの言葉に響介は不敵に笑い
「俺は任侠者だ。やる事は一つだよ」
「だよね〜」
二人のやり取りを見てエリー達も察し四人は響介の言葉を待つ、そして
「母なる大樹を助けるぞ」