130話 追究 炙り出したもの
響介一行、荒野の調査を開始する。
『真実は炙り出すもの』
これも祖父孝蔵の教えの一つだ。
周りに知られて困るものとは往々にしてあるもの。それは響介の実家鴻上組も例外ではなく家業が家業なだけに相応にあり鴻上組の場合その9割は同業者に対しての粛清での殺しである。しかし鴻上組は堅気には絶対に手を出さない事迷惑をかけない事に加え入念な精査と裏取りの元粛清を行い必要以上の殺生を行わない事があることで他の同業に比べまだ救いはあるだろう。(堅気に対してのみで敵対組織の皆殺しは除く)
だが、人というのは外道であればある程下衆であればある程ドス黒いものをひた隠しにしているものだ。
響介の世界で例を上げるならば暴対法を推し進めた政治家とそれに協力した警察官僚が裏では海外マフィアから賄賂を受け取り海外マフィアに便宜を図ったり、警察官僚の一人が海外マフィア経由で売人となりヤクをばら撒きそれが鴻上組のシマにまで及んだ事が発端となり祖父達の調査のメスが入った。裏社会トップレベルの情報屋を何人も囲う鴻上組の情報収集力は確かなもので正攻法から明らかなアウトな方法とありとあらゆる方法で情報を集める彼らの目を欺くのは例え警察組織の人間だろうと裏社会に精通している政治家だろうと不可能だった。
徹底的に情報を集めた所暴対法を推し進めた政治家達は賄賂や裏金目的で海外マフィアに接触し最もな理由を付けて暴対法を布き煽りを喰らう極道組織を隠れ蓑にし私腹を肥やす事を自供する証拠すら手に入り集めた膨大な証拠を元に政治家や警察と裏取引をした結果鴻上組に対する締め付けを見えない所で激減させる裏工作と反故にした場合ありとあらゆる方法で情報を公開する事、シマに撒かれたヤクに関しては麻薬取締局へ通報し適切な処置をする旨含め組長の祖父孝蔵は話しを威圧的に纏めた。
つまりは炙り出すなら徹底的に真実を追究し、そして得たものを最大限に利用しろとの教えだ。それに則り響介は目の前の荒野を歩きステラ達が現れた辺りまで移動する。
「ネロ、マッピングだとどの位置だ?」
「えっと待ってくれよ、確か…」
書いたマッピングを広げるネロ。それに皆覗き込み書かれた物を見て
「うん、やっぱりネロに任せて良かったな」
「だろ〜?」
にっと子供が悪戯を成功させたような無邪気に笑うネロ。魔導機いじりが趣味のネロはそれが高じてか図面引きやマッピングが得意で短時間とはいえかなり詳細な地図を作っていた。それを見て響介は改めてネロに頼んで良かったと感じ
「マップだとやっぱり真ん中になんもないね〜」
「うん」
ライミィが指した書きかけの地図を見ながら確認して感想を一つ。殺風景な荒野だが何も無いわけではない、クレーターを始め先の戦争の傷跡があちこちに確認出来ネロはそれらも漏れることなく書き記してしていた。地図を見ると荒野を丸い円で表現しておりその中心部が空洞になっていた。響介はステラに
「こっちからこっち飛ばされたって解釈でいいのか?」
「その通りですキョウスケ様」
地図を指で指しながら当時の状況を聞いていた。ステラが言うには
「いきなり目の前が歪んだ?」
「はい、何やら視界ぐにゃりと歪んだらと思ったら視界の先にキョウスケ様達が…」
「ふむ…」
顎に手を当てて少し考える響介、その目は何か一つの仮説が思い浮かんだように色が変わり「よし」と一言言う頃にはステラ達が現れた付近まで近づき
「お兄ちゃん、どーするの?」
「一先ずは状況確認だ、だが一つ気になることがあってな」
「気になること?」
「ああ、そこで取敢えず俺が行ってみようと思う」
「たいちょーみずからが?」
「また変な動画みたなエリー?」
相変わらずマイペースなエリーとそれに突っ込むネロ、そんな2人から気を取り直して響介が咳払いすると途端に真面目な顔をするエリーに戸惑うネロ
「俺が気になったのはステラの表現だ」
「「「表現?」」」
エリー達3人は首を傾げたが唯一ライミィは響介の言葉に引っ掛かっていたものを察した。
「俺の感覚での話だけどテレポートなら『ビュン』って感覚だけどその『ぐにゃり』ってのは何か気になってな、地図でいうと」
響介はネロからマッピングを借りて広げ自身が感じた違和感の説明を続ける。
「ここからここ空間魔法みたいに跳ばされた感じじゃないんだよな。この空間を切り取って無理矢理繋げたような感じがしてなんか引っ掛かる」
「…多分空間魔法の「ジャンピングゲート」じゃないかなぁ?それ」
ふと口にしたライミィに皆の視線が集まる。それを察してライミィは説明を始めた。
「空間魔法のレベル9のポイント取得の魔法で対象の空間と空間を繋げる魔法なの、もしかして隠蔽魔法のカモフラージュも使ってる?」
「何でそこで疑問形なんだよライミィ」
「だって魔力感じないんだもん、魔力感知に引っ掛からないしなんだか上から覆ってるみたいに違和感しかないの」
うーんと、悩ましげに考えるライミィの考察を聞いて響介は何処かで感じた既視感を覚えた。しかしそんな響介達の横をスルリと抜けるとエリーが目の前の空間に向かって
「解除」
ディスペルを詠唱した。ディスペルは掛けられた魔法を文字通り解除する状態魔法。大概の魔法はこれで解除出来る魔法だが
パリン
「ん?」
「え?」
「あれ?」
しかしなにも起こらなかった。いや、それは魔力の高くないステラやネロの視点。異質な音を感じた響介は疑念が強まり魔力の高いライミィやエリーは違和感が確信に変わった。
「解除が弾かれたな」
訝しげに呟く響介は目の前の荒野を睨んだ。本当に何もなければなんの反応も無い解除だが明らかに弾いたような音がしたということはここに何かが在るということは確定した。当然それはライミィとエリーも同じで
「何かあるね〜、エリーのディスペルを弾くなら多分私のも無理だね〜」
「ん〜」
魔力の高いエリーのディスペルは並み大抵の魔法を解除出来る大変便利な魔法。それはエリー以上に魔力の高いライミィの行使するディスペルも例外ではない。しかし簡単にいなすように弾く様を感じたライミィは自身の魔法も弾くだろうと直感的に察した。
目の前の見えない壁は余程強力な力を以て何かを封じている。そしてそれは
「なあライミィ」
「皆まで言わないでキョウスケ。私もおんなじ事思ったから」
「エリーも」
「私も」
「俺も」
鴻上家の者達は一種のデジャヴを感じていた。ライミィは一歩出て
「フレイムウォール」
中心に何かの紋様輝く炎の壁を詠唱し目の前の荒野に展開する。すると
ピシピシッ!
今度は皆の耳にも聞こえた何かの割れる音、次第に大きくなったと思った瞬間パリーンと大きな音を立てて弾けると
「「「「「また五神か」」」」」
呆れ半分に皆が揃って口にした。
「まぁた五神絡みかよ、随分お粗末な封印だな」
「本来なら人間や魔族には破るのは不可能な封印の筈、ですが」
「お姉ちゃんなら、破れる」
どうやらこの場を隠蔽していたのはあのオウレオールの五神達だったようだ。五神が施す神聖魔法は強力であり不意を突かれたとはいえ魔王アルフォンスでさえも破れなかった代物。しかし響介達にはライミィという五神達に対してカウンターとなる存在がいる。ライミィのアビリティ『神遣いの一族』による神聖魔法の無力化は明らかに五神に取っては予想外だろう。
「やっぱり五神絡みだったみたい」
「ああ、ありがとうライミィ。ようやく見えたな」
ライミィが神聖魔法を無力化したことで殺風景な荒野に変化が現れる。響介達の前に現れたのは沢山の枯れ木、響介が身近の枯れ木に近づいて気功術を使い探索すると
「…この木は生きてるな。まだ微かだが呼吸を感じる」
隔離されていたとはいえどうやら森としては僅かながら機能しているようだ。恐らく屋敷周辺の木々の養分や魔力、地下水脈の水はここに集まっていたのだろう。響介は
「じゃああそこに行こうか」
そう響介が見据えるのは一際大きい中心部に位置する大木。ここからでも確認出来る位大きい為響介の言葉で皆が見据えた時
「…ん?」
ライミィが何かに気付いた。
「あれ?何か生きてる?キョウスケ生き物いるみたい」