126話 調査 森の違和感
ライミィの尻尾ビンタ、響介に効果はバツグンだ!
明朝のドタバタ劇を経て普段より遅い朝食を取り鴻上家はシルバーゴーレムのリーゼに留守番を頼み早速探索に乗り出していた。
魔王アルフォンスからの依頼でもある東部調査。
ラヴァナ達半旗を翻した魔族達に対策する為城の西側を中心に調査済みダンジョンを城壁変わりに展開し有事の時は砦としても機能する城下街カサブランカがありランガ達が目を光らせているがその反対東側のエルフや獣人族のテリトリー側が手薄であり未だに目立った動きは無いのだがアルフォンス曰く
『獣人族はさておきエルフの国フルドフォルクは五神の内の一神ミネルヴァが信仰されていると聞いたことがある。五神の息が掛かっている以上動きが在るならエルフ共もあるのではないかと我は見ている』
勝利の女神ミネルヴァ。
神聖王国オウレオール、隣国のコンバーテ王国でも信仰されている女神で勝利を司る神だそうで種族関係で排他的な傾向にある五神の神達の中でも唯一人間以外にも信仰されているらしく神災以前にエルフの国フルドフォルクにやって来たミネルヴァ教神官から伝わったとの事だ。
さらにネロの調べではどうやら今悪政を敷いているエルフの王はこのミネルヴァの信者だそうでエリーの母親アリスから王座を奪い盗った今では神の名を振り翳しアリスが保護していたダークエルフ達を奴隷扱いとやりたい放題だそうだ。
それを聞いた鴻上家が「また五神か」と揃って口にしアルフォンスが楽しそうに笑ったのは言うまでもない。
話を戻して城の東側はアルフォンスの空間魔法によってエルフ達亜人族や獣人族達のテリトリー近くまで森と荒野が広がっており全容が分かっていない未開の地。元々は大陸中央部の森林地帯の土地らしい死体蔓延るピュセル平野とごっそり入れ替えたことで調査が必要になり伴ってそれなりに腕の立つ者が必要だがアルフォンス側で今は人員を割くことが難しかった為響介達の協力は渡りに船だった。そんな響介達は
「ん〜」
屋敷から離れた東部の森から調査を始めていた。深い深い森の中を歩き木の状態や植物を調べる一行、そこでライブラを詠唱して木を調べていたライミィが悩ましく唸っていた。
「どうしましたかライミィ様?」
「ステラ、いやね何か違和感がさ」
「違和感、ですか?」
「そ、ライブラにも引っ掛からないから私もよく分かんないけど何だか木が元気がないようでさ」
そう言ってライミィは調べていた木を見上げる。一見害虫らしいものも寄っていない何ともなさそうに見える木だが所々の枝や葉が垂れており違和感を覚えた。勿論そんな植物は存在するしライミィ自身知らないだけかもしれないし転送魔法のせいで水辺も見当たらないのでただの水分不足という線もある。だがレベルが上がった事で精度の上がったライミィのライブラでも引っ掛からないのを受けて形容し難い感覚を感じた。
「この木だけなら気の所為で済ますんだけどさぁ」
「?」
「ここいらの木みーんなこんな感じなんだよねぇ」
ライミィが木々を見回すとステラも吊られ木々を見る。ただ見ても分からないので視覚スキルを使い目を凝らして見ると確かに所々枯れかけた葉や今にも折れてしまいそうな枝を見つけることが出来た。
「確かに、何処か不自然ですね…」
ステラが不自然だと感じた理由、それは所々の葉や枝といった先端部分は枯れかけてはいるが木の幹や根といった部分にはその兆候が見られない事だった。そうしていると同じ様に周辺を調査をしていた響介達が戻り互いに情報を共有する。
「ふむ、やっぱり感じる事はみんな一緒か」
「一緒?どゆこと?」
「この森、へん、マナが薄い」
「それは私も思ったよエリー。取敢えずダンジョン化はしてなさそうなんだけどね」
「それになんか静か過ぎるな。魔物らしい魔物もいねぇのが気になる」
「それは私も思いました」
頭を悩ます響介一行。人が寄り付かない森にならある程度魔物を始めとした動物が住み着き生態系を形成するものだが今の所その片鱗すら見当たらない。
一言で言うのであれば不自然という言葉が相応しいだろう。それを受けてネロは思った事を口にする
「なんだか森が生きてる感じがしないな」
「ネロ、どういう事ですか?」
「なんだかな、生かされてるっていうか生かしてるというか…」
「本来木に行くはずの養分が制限されている?何でだ?」
二人のやり取りを聞いてあることに思い付いたようにライミィは魔力感知と熱感知のスキルを目の前の木に対して使う。すると
「…成る程ねぇ」
「お姉ちゃん、どーしたの?何か分かった?」
「魔力や熱の流れが変だね、根っこからどっかに行ってるみたい」
「「どっか?」」
揃って首を傾げるエリーとネロ。根から吸収して枝や葉に行き渡るなら正常だがライミィの話では根から入った養分やマナは一度木の要所に辿り着くと必要なマナや養分だけを吸収してまた根から何処かへ向かっているそうだ。このライミィからの説明を聞いてますます首を傾げるエリーとステラとネロ。そんな3人に響介は
「ライミィ、そのマナの行方を追えるか?」
「まっかせて〜」
にこっと笑いライミィは瞳を閉じて集中し魔力感知と熱感知スキルを使用し魔力の道筋を辿る。するとライミィは指を差し
「うん。あっちに真っ直ぐ向かってる」
差し示した方向は
「あちらは…?」
「荒れ地の方向だな」
屋敷のある森林地帯と二分する一面荒野地帯。先程響介が朱雀翼を展開しエリーが重力を使い空から確認したが荒野地帯は森林地帯以上に生物がいたであろう痕跡が見られず所々にクレーターがある不毛の地が広がるだけだった。しかしライミィの調査結果を受けて
「何かあるのか」
どうやら何かしらのカラクリがあるようだと響介は察した。ライミィはその後も木に対して魔力感知と熱感知スキルを用いて調べるとどうやらここいらの木々の全てが魔力や養分を荒野の先に送っているのがわかった。
「真相は荒野に、か」
「だね〜、どするキョウスケ?」
「俺としてはもう少し裏付けがしたい所だな」
「裏付けってなあに?」
「別の情報からも調べる事だよエリー。俺達がいつもセフィロトの他にも街の人やギルドからも聞いたり情報集めたりしてるだろ?あれだ」
「成る程、ん?」
響介の説明に納得したエリーはふと落ちていた枯れ葉に気が付き拾い上げる。カラッカラッに乾いた薄焦茶色の葉っぱをまじまじと金色お目々で見いり
「どうしたのエリー?」
「懐かしい、匂いがする」
「懐かしい匂い?」
エリーの言葉に思わず首を傾げ顔を見合わせる一行、そんな一行を尻目にエリーは枯れ葉を拾い始める。しかしただ拾うのではなく選んで拾っている辺りを見るに何か感じたものがあるのだろうとは推察出来た響介。
その後も一行は森を中心に探索しライミィの調査結果の裏付けを進めた。響介が気功術を応用して探知した所地下水脈を発見、その地下水脈の水も荒野に向かって流れているのを突き止めた一行は今日の調査を引き上げて屋敷へと戻るのだった。