122話 屋敷 お掃除大作戦
響介、旗揚げする。
「よっこしょおぉ!」
ブンッ!と大きな音と積もり積もった埃を立てて古ぼけた家具が屋敷の外へと放り出される。地面一直線に宙を舞う家具はそのまま落ちてバラバラの大クラッシュかと思われたが
「ステラー!そんな力いっぱい投げるなー!壊れるだろー!」
「も、申し訳ありませーん!」
放り出した先の落下地点に先回りしていた響介が見事キャッチして事なきを得ていた。響介は鑑定スキルを使って
「これは、なかなかいいソファだったみたいだが中身が駄目だな。痛み過ぎてるお焚き上げコーナーに頼む」
「リーゼ、持ってってー」
響介からソファを受け取りひょいと持ち上げるシルバーゴーレムのリーゼに指示を出す傍ら鼻栓をして雑巾を持ちグラビティで浮かせた治癒術士の杖に腰掛けて窓拭きをするエリー
「ライミィー!そっちはどうだー!」
「2階のエリーの部屋のまで掃除終わったよー!今私達の部屋ー!」
「もう少しで中のもん選定と手入れ終わるから頼むなー!ステラも終わったら手伝ってやってくれー!」
「オッケー!」
「畏まりましたー!」
2階の窓から顔を出して答えるライミィと同じく2階のバルコニーに屋敷2階の家具を集めて響介に向かって投げるステラ
「ネロー!そっちどうだー!」
「風呂場の魔導機の修理終わったぞー!後はサンクォーツ使ってテストするだけだからサンクォーツはアルフォンス様に頼んでみるー!」
シャツを腕捲りし頭に黒地の赤い刺繍が入ったマタンプシを巻いて金色の髪の毛をまとめ屋敷に残っていた魔導機の修理作業を進めるネロ
「キョウスケはどうだー!」
「今の所家具は半分くらい使えそうだー!取り敢えず選定して使えそうなのは綺麗に磨くぞー!」
ステラから投げられた家具を庭に集め使える物と使えない物に仕分けて雑巾片手に手入れをする響介。
さて、何故一行が屋敷をひっくり返す勢いで掃除をしているのか
時を戻そう。
時を戻しアルフォンスから貰った城から東側の土地へ赴く為にアルフォンスから屋敷らしき施設への転送座標を教えてもらった響介達はエリーのテレポートで直接跳んだ。跳んだ先で目にしたものは
「意外と立派な屋敷だな」
「だね〜、意外〜」
鬱蒼とした森の中の開けた場所にポツンと佇んでいたのは元は何処かの貴族が使っていたような中々の広さの敷地を持つ西洋風の屋敷。何百年と放置されていたのは明々白々で屋敷の外壁や屋敷囲いには伸びに伸びた蔦、雑草が生え散らかした庭等が現状を雄弁と物語る。それを見ていたネロが
「何かエリーと一緒に見てた動画にあったみてーな洋館だよな」
「ゾンビの?」
「そうそう!地下に製造施設があるやつ!」
「何ですかそれ?」
「へりってのが、よく墜ちる奴」
「へり?」
何処のバイオ的なハザードの作品だと響介は心中で突っ込みを入れながら敷地内に入る、庭を歩き屋敷の入口まで来たが不思議な事に
「…?」
「どしたのキョウスケ?」
「なぁライミィ、俺達以外で熱は感じるか?」
「いんや、動体反応無いし全くっていっていい程ないよ。それに生き物の魔力反応もないし幽霊の類いも感じない」
ライミィに確認を取る響介に直ぐ後ろでステラやネロと話をしていたエリーが響介の服をちょいちょいと摘み
「お兄ちゃん、エリーも、ここ、動物とか魔物の匂い、しない」
「何?」
その言葉に響介は考える。こんな森の中にある放棄された屋敷になら何かしら住み着くもの、しかしそれがないのは響介目線不自然に感じた。だが
「そんな考えなくてだいじょぶだよキョウスケ」
「ライミィ?」
「ここら一帯空間魔法の反応が残ってる。多分ステラの開発者の時と一緒で『クストーデ』でも掛かってたんじゃないかな?」
そうライミィに指摘され成る程と合点がいき響介は納得。確かにあの時、ステラに出会う前と状況が似ていると考えていると
「れっつらごー」
「ちょ、おいエリー!」
そんな思案する響介を尻目にネロの静止を聞かずにここに来る前から好奇心を漲らせたエリーが扉に手をかけて開いてしまい中へと入る。思考を中断し響介達も慌てて中へと入り中を改めると
「…見た所状態は悪くないな」
「はいキョウスケ様、中の劣化具合から見て屋敷中を調べるのに問題はないかと」
最初に足を踏み入れた玄関ホールはかつて栄えていたであろう屋敷も住むヒトが居なくなって久しい経年相応の佇まいを見せている。響介はふと目に付いた階段の手すりを人差し指でなぞり
「薄っすら埃が溜まってるな」
「最近まで空間魔法が掛かってたのかな?」
「多分、そうだろうな」
解除された理由は十中八九アルの転送魔法だろうなと考えていると目を輝かせて見回していたエリーが響介とライミィの服をちょいちょいとと摘み
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、探検したい」
好奇心が爆発したかのように目をキラキラさせて響介とライミィにお願いする妹分、可愛い妹分からのお願いに断れる二人では無く
「そうだな、この屋敷調べるか」
「うんうん」
「おいぃ!そこのバカップル夫婦!」
すかさずネロがチョロい夫婦に突っ込みを入れるが
「まぁまぁ落ち着けネロ、どの道ここまで来たら調べなきゃだろ?」
「そもそも、アルフォンスがここの場所教えてくれたのってここから調べろって意図があっての事じゃないの?」
「ま、まぁそれはそうだけどよ…」
妹分に甘いながらもアルフォンスの意図をしっかり理解している鴻上夫婦に面食らうネロ、響介達の言い分は最もでありここまで来て調べずに帰るというのは流石に無い。もし自分達の警戒を摺り抜けてこの屋敷に魔物にしろ幽霊にしろ潜んでいた場合今のうちに対処するに越した事はないのだ。
「しかしキョウスケ様、この屋敷を探索するに当たりどうしますか?」
「そうだな、この屋敷は2階建てでそこまで広くはないから上2人、下3人に別れるか?それともみんな連絡手段あるからバラバラでも構わないしな」
そう言って響介は自身の左耳に付けている銀色の耳飾りをちょいちょいと指す、それは
通信カフス
アイテムランクS
魔法媒体不可
装備者の魔力反応を感知して離れている者と魔力念波を通じて会話を可能にするイヤーカフ。
「これを使えば離れていても問題は無いだろ」
響介が指していたのは通信カフスという通話の魔法道具、これはプトレマイオス遺跡で見つけたお宝で貴重なマジックアイテム。だが基本的に纏まって行動する事が常だった響介達には日の目に当たる事が無かったアイテムだったが
「これ、使える」
エリーが嬉しそうに取り出したのは元響介のスマホ、このスマホエガリテに対応するようにとの事だったがなんとこのスマホは魔力念波を拾え通信カフスとの通話が可能なのだ。そしてそれを知ったエリーは好奇心を刺激され使ってみたいとの事で響介達4人は通信カフスを着けているという事だ。
「じゃ時間決めて調べよっか」
「そうだな、じゃあ30分後またここに集まろうか」
こうして響介とライミィは2階を、エリーとステラとネロは1階を調べることに、
そして30分後。
「みんな、どうだった?」
「ちなみにキョウスケと調べた2階はお部屋とか書斎とかあったけどそれくらいだよ〜」
それぞれ調べた事を報告し情報を交換する。本当に何も住み着いておらず補修や掃除をすればヒトが住めそうだとステラの見解だ。中でもネロが風呂場や地下室に魔導機あったの調べたら直せそうだと興奮して話していた。そして
「ここ、住めるんじゃないか?」
時を元に戻そう。調査した結果住めるんじゃないかと結論を出した響介一行はここで生活をする為まず屋敷の掃除から始めた。屋敷内の家具をいちいち出すのが面倒だと考えた響介は自分とステラの腕力を駆使する方法を思いつき家具はキャッチボール感覚で片付ける。一通り中が片付け使えそうな家具の手入れをしていると
「お兄ちゃん」
テレポートでアングリフ城に跳んで行っていたエリーが戻ってきた。その両手に綺麗な緋色の光を湛えている宝石を抱えて
「おっ、帰って来たかエリー。アルはなんだって?」
「サンクォーツ、貰ってきた、でね、クラリッサお姉ちゃん達も、手伝ってくれるって」
「えっ?」
エリーがそう言った瞬間
「お手伝いに来ましたー!」
エリーの後ろから次々とクラリッサを始めとした亡霊騎士団のデュラハン達20人程が掃除道具を持って転送されてきた。それを見た響介は手を止めて頭を下げて感謝を述べた。
「これは皆さん、わざわざありがとうございます」
「いえいえ!気にしないで下さいキョウスケさん」
「さぁ、取り掛かりますよ!」
一緒に来た姉のアレッシアの号令に返礼を返しデュラハン達が次々と屋敷の中へと入るとテキパキと要領良く掃除を始める。それを見た響介が
「手際が良すぎるだろ。皆さん」
「クラリッサお姉ちゃんもだけど、来てくれたデュラハンのお姉ちゃん達、みんな生きてる時、元メイドさんなんだって」
エリーの話しを納得しながら聞いていたら2階から
「あっ!丁度良かったー!クラリッサさんすいませーん!そこの壁ぶち破って下さーい!」
「壁壊すんですか!?」
「そーなの!ここと隣の部屋私とキョウスケの部屋にするから広くしたいのー!」
「クリスティナ!今すぐミスリルハンマー持ってきなさい!パトリシアとフランシスは後処理準備!」
「準備してまーす!うりゃ!!」
ドゴォン!とけたたましい音が2階から響く、それと同時に1階から
「ステラさん!そんなに力を入れたらいけません!道具も装飾も壊れてしまいます!」
「ご、ごめんなさい!」
「こうなったら私が一から教えます!アンソニア!指揮権を譲渡しますから1階西側以外の清掃の指揮を執りなさい!」
「アレッシア副団長了解しました!ビアトリス、アルヴァン、ディアドリー、エレノーアは屋敷東側!アンリエッタ、ジュリアンは玄関ホール!残りはキッチン!」
「「「「「はっ!」」」」」
この様子を見ながら家具を磨く響介とそれを手伝い始めたエリー。そして少し呆気にとられながら響介はポツリと呟く
「今日中に終わりそうだな」
これにエリーが頷いたのは言うまでもない。