間話その4 エリーの言葉
響介、恋愛小説でハリエット達と盛り上がる。
「うーん」
「どしたの?キョウスケ?」
ハリエット達とのお茶会から翌日の清々しく晴れた日。
アルフォンス指揮の元反抗したラヴァナ側に付き未だ抵抗する魔族達の捕虜の串刺し刑が厳かに執行される中、紅茶を淹れ夫婦水入らずで昼下りを自室で過ごす響介とライミィ。何やら響介が悩んでいるのを見たライミィが尋ねると響介が口を開いた。
「エリーの事なんだけど」
「エリー?エリーがどしたの?」
「いい加減、確かめようと思ってな」
「確かめるって、ああ…」
今ステラ付き添いの元城を探検中の妹分の事を悩んでいると告げられたライミィは全てを察し遠い目をして響介を見た。何故ならそれは響介だけでなくライミィも気になっていた所だからだ
「一体、何処で覚えてくるんだろねあの言葉…」
二人が確かめたいのはエリーが時折口にする言葉。
突拍子も無く飛び出す言葉というものは勿論ある。しかしそうだとしてもエリーが口にする言葉はどれも聞いた事すら無くライミィも不可解に感じていた。
そして響介にはそれらに心当たりがあった。
「エリーが口にする言葉、あれさ俺の元いた世界の言葉なんだよなぁ」
「そなの?」
「ああ、ネットスラングっていういわゆる俗語ってやつでさ、何でエリーが知ってるのか分からないんだよ」
それは響介がかつていた日本で出回っていた言葉、響介も動画サイトやその他媒体でたまに耳にした言葉もありピンと来ていたが響介が言った通り何故その言葉をエリーが知ってるのか皆目見当が付かなかった。
しかし、だからと言って二人はこれを放置する訳にはいかない理由がある。響介の深刻な表情を見てライミィは理解し頷くと
「「エリーのお母さんに怒られる…」」
二人揃って言葉に出た最大の懸念すべき点、生き別れになり再会した娘が無事なのはいいが珍妙な言葉を遣っているのをエリーの母親アリスが目の当たりにしたら私の娘に何を教えてるんだという話しになるだろう
「ちなみにさキョウスケ」
「ん?」
「私がさ、ランガさん達ぶっ飛ばした時あったじゃん?その時エリーがランガさん達に「もう勝負着いてるから」って言ってたんだけどそれも?」
「多分…」
ある種の影響とでもいうのだろうか、自分達が思っている以上に深刻なのかもしれない。
セフィロトからの情報によるとエリーの母親アリスはエルフの国の女王であると同時にエルフの中では87歳という若輩者とはいえ(人間換算29歳位らしい)魔導士として優れた才覚を持つ人物で数少ないハイエルフの中でも頭一つどころか他の者が追従出来ない程突き抜けているとのことだ。
…事が事だけにヤキを入れられかねない、いや入れられる。
響介がそう考えていると部屋の外で話し声が聞こえたと思ったが直ぐに扉が開けられた。入って来たのは
「エリーが、来たーーー」
そう言って入って来たのは渦中の当人エリー。ライミィが裁縫で拵えたラミアの民族衣装、エリーの光度のある輝く明るい銀色の髪の毛とはまた色味の違う青みかかった銀色の着物に袖や裾にエリーの希望で響介とライミィの指輪と同じ群青色の刺繍を入れ金色の帯で結い幅広い鉢巻を巻いたエリーは何処かやりきったように満足そうな表情をしている姿に呆気に取られた鴻上夫妻。
「キョウスケ、しっかり聞こっか」
いつにもなく真剣な表情をするライミィに思わず響介は頷いているとエリーに続きステラも部屋へと入って来た。
「キョウスケ様、ライミィ様、只今戻りました」
「御苦労様、ステラ」
「ごくろさま〜」
ステラに労いの言葉をかける響介とライミィ。その二人にエリーは近付いて
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、楽しかった」
「そうか、良かったな」
「良かったね〜エリー」
「うん♪」
満足そうに笑って二人に報告する。ダークエルフ特有の浅黒い肌に明るい色の民族衣装を纏うが故神秘的な雰囲気を出しているエリーに響介はついに切り出した。
「なあ、エリー」
「なぁに、お兄ちゃん?」
「エリーは時々珍しい言葉を使うがエリーは何処で覚えたんだ?」
響介の質問を聞いてライミィは勿論ステラも気になっていたようで二人共聞き耳を立てる。そんな響介達にエリーは
「えっと」
ふと肩に掛けていたアイテムバッグを開くと
「これ」
バッグからあるものを取り出すと響介はエリーが出した物を見て固まった。
「えっと何それ?」
対してライミィは首を傾げた。エリーが取り出したのは黒い長方形の薄い物体だった。
「不思議ですよね、この端末には様々な映像が記録されてまして私もこの間拝見しましたが、キョウスケ様?」
「キョウスケ?キョウスケどしたの?」
ここでステラは響介が無反応なのに気が付いた。ステラにつられライミィも響介を見ると響介はエリーが出した物体を凝視し微動だにしていなく
「キョウスケ~?」
ライミィが不振に思い響介に抱きつくと響介ははっと我に返り
「ちょっと待ってくれそれ俺のスマホじゃねえか!」
「「「すまほ?」」」
響介の言葉が分からずみんなで聞き返すライミィ達。響介のリアクションを見るにどうやらあのスマホという端末は響介のもののようだとは理解出来た。
そして響介がスマホの説明を三人にすること10分
「成程、この端末は映像を再生するだけでなく調べることにも使え魔導カメラやサウンドセーバーの機能も搭載され通話機能もあるのですね」
この中で一番この手の物に理解があるステラがライミィ達にわかりやすくまとめた発言をした。
「厳密には通話機能しか無かった元々のものに色々付け加えた物と言った方が正しいな」
「成程、ありがとうございますキョウスケ様」
「でもスマホだっけ?何でエリーはキョウスケのスマホを持ってるの?」
一番の疑問である。ライミィの質問に三人の視線はエリーに集められるとエリーは
「お兄ちゃんの、ピアノ」
「ピアノ?」
「うん。ピアノの下の裏、くっついてた」
エリーの言葉を聞いて響介はかけられていた自分のフライトジャケットから賢者の懐中時計を取り出し中にあるピアノを出すと響介は潜り込むように下を確認する。確かにスマホがあったであろう痕跡があり
「なんかまだあるぞ」
「え?」
響介が見つけたのはスマホがあった場所から少し離れた所にあった何やら手紙のような白い紙、響介は紙を引っ剥がすと一旦ピアノを仕舞う。引っ剥がした紙には何か書いてあり響介はみんなに聞こえるように読み上げた
「『これは餞別としてこの世界でも使えるようにしときました。上手く使ってください。アルテミスより』」
貼り付けられた紙を読み上げると
「直接渡さんかい!」
と、紙を床に叩きつけた響介にライミィ達は爆笑、ネロを彷彿とさせるキレ突っ込みに笑わずにはいられなかった。一頻り笑った後本題へと入る
「成る程ね〜、この『動画』ってやつを見てエリーは言葉を覚えたんだね」
響介がスマホを操作しているのをみんなで見ながらライミィはエリーに確認を取る。話しを聞くとエリーはこれを見つけた後は響介とライミィが見ていないところで色々試して操作方法を覚えたようだった。
「うん。お兄ちゃん、貸して?」
「ああ」
エリーは響介からスマホを受け取ると慣れた手つきで動画サイトを開きある動画を見せた。
「エリーが、好きなやつ」
「何何、『白夜の騎士物語』?」
その題名の動画は響介も知っている。独特な言葉で喋る白い鎧を纏う騎士が世界を旅し様々な出会いを経て真に守るものは何かと自身に問う物語だったと記憶している。シリーズ化されており
「このお話の騎士、面白い」
「へぇ、そなんだ」
「うん♪台詞、面白い」
「どんなのがあるのですかエリー様?」
「えっとね、『仏の顔も三度までという名セリフを知らないのかよ』とか、『俺の怒りが有頂天になった』とか、エリーも使えそう」
最後不吉な言葉を聞いたが中々インパクトのある台詞だと思う鴻上夫妻。履歴を見ると投稿されているシリーズは全て見ているようだと分かると思っていると
「エリー、これも見たのか?」
「うん♪それも好き」
「何何キョウスケ?」
「これは『拷問マイスター花京院忠雄』また物々しいタイトルですね」
ステラが見つけたのは日本で中々人気の動画だったしなんなら響介も視聴していた動画だ。
主人公の花京院が大切な者を理不尽に奪われた依頼人達からの依頼を受けて法で裁けない外道に対して意趣返しのような拷問を選び断罪するという物語だ。これも白夜の騎士物語同様シリーズ化されているもので履歴を見るにエリーはほとんど見ているようだ。何よりも
(昨日の履歴に串刺し刑があるんだが、これ表でアルがやってるのと関係ないよな…?)
「他はどんなのがあるの?みんなで見よーよ!」
すっかり興味を持ったライミィが何が面白いかエリーに尋ねると楽しそうにエリーと動画を視聴し始める。響介はそんな二人を見て紅茶の準備をするとステラも響介を手伝う為にキッチンへ立った。
こうして一つの疑問が解決したがまた別の疑問が発生した事について紅茶の準備をしていた響介はステラに
「アルに聞けば何か分かるだろ、時期見て聞こう」
との事でステラは納得するのだった。