間話その2 亡霊騎士団とのお茶会 前編
ネロ、再教育中
「ああ、ヒマだ…」
そう溢しベッドに横たわり天井を見上げる響介。アルフォンスの好意で今現在魔王城にお世話になっている響介一行。先の戦いで思ってた以上の怪我を負った事で響介はベッドの上で暇を持て余していた。
「今日は何するかぁ、ハリエットさん達に貸りた小説はもう全部読んじまったろ、ライミィとエリーはアルの持ってる魔導書読みに城の書斎行ったしネロは再教育中だしステラはクラリッサさんと何人かの亡霊騎士団のデュラハンさん達と打ち合いするって行ったしなぁ、いいなぁ俺も戦鬼族の方々とかと手合わせしたいなぁ、でもライミィと先生に怒られるしなぁ、筋トレやろうとしてマジで怒られたし」
今の響介は医師であるグラットンからのドクターストップがかかっており戦闘は勿論鍛錬や運動も禁止、辛うじて部屋内を歩くことが許される位である。しかも
「挙げ句の果てにはピアノ演奏も禁止ってそりゃねぇよなぁ。確かに1時間は平気で弾くけどさぁ」
グラットンによって響介の演奏は一種の無酸素運動と見なされて禁止にされた結果ピアノ演奏すら出来ない有り様である。
魔王城滞在という入院生活から5日目、取り敢えず安静生活も後2日でそれからは経過次第である程度動いていいことになっているものの現在は中々に退屈でどうしようかと思った時
コンコンコンッ
ふと控えめなノックの音が聞こえた。そこで疑問が、
(誰だ?ライミィ達はそもそもノックしないしアルもたまに顔見せに来るが大抵夜だし、先生の検診の時間でもないしな…)
起き上がりながら考える。となるとここに訪れる人物が分からないと。ちなみに戦鬼族や鬼人族といった魔族は論外だ。響介が目覚めたその日ランガが響介の元を訪ねたことがありその時
「キョウスケよ、我らと手合わせ願いたい」
これに響介は受けて立つつもりだった。任侠者である以上手負いの状態だろうと相手には関係ない、向かってくる以上は戦わなければならない。そう祖父孝蔵の言葉を思い出し起き上がろうとした時だった。
「はぁ!?ふざけんじゃないわよ!!!」
ライミィが鬼の形相でランガにブチ切れた。
当たり前だ。大怪我を負い安静が必要な状態の響介と戦いたいなどと抜かすランガに対して誰よりも激怒した。余りにも強いライミィの殺気混じりの剣幕にランガは押され終いに
「そんなに戦いたいなら私が相手になってあげるわ…!」
激怒したライミィが戦いランガ含めた100を超える戦鬼族と鬼人族の戦士達は怒りのライミィ一人にものの数秒で一方的に蹂躙された。
以上の出来事があり今響介の元を訪れる人物は限られる。しかし自分に用が有るのは確かなようなので待たせるのも悪いと思い
「どうぞ」
響介は招き入れることにする。すると
「失礼しますキョウスケさん」
「ハリエットさん?」
少し予想外の人物が訪れた事に響介は驚いた。
城の照明に照らされ光沢が引き立つ洗練された騎士甲冑と格子状のアイガードが印象的な兜を身に着け騎士道を重んじる女性を連想させる凛と表現するのに相応しい声、後ろにいた騎士甲冑の人物達とは違い鎧の縁を始め袖や股下に一際目立つ装飾を施した鎧の人物、アルフォンスの近衛騎士団であり亡霊騎士団の団長であるデュラハン、ハリエットだ。
「どうしたんですか?」
「キョウスケさん、もしよろしかったら私達とお茶、如何ですか?」
「お茶ですか?はい大丈夫ですが、自分大して動けないですよ?」
「その点はご安心下さい!こちらで準備致しますので、みんな準備を!」
「「「「はっ!」」」」
ハリエットが手甲の指で器用に指パッチンをすると4人のデュラハンがテーブルセットを運び込み紅茶セットや色とりどりのお菓子などをテキパキとセットしていく、響介はハリエット達の作業を見ていたら
「速いなぁ」
率直な感想が漏れた響介。ハリエット達の無駄も澱みもない動きに関心して見ていたらいつの間にか何もなかった部屋の一角に小洒落たテーブルセットが出来上がっていた。
「お待たせ致しましたキョウスケさん」
「いえ、全く待ってないっすよ」
響介の言っている事は正しい。現にハリエット達は響介から入室を許可してもら入室してから一分未満で準備を終えていた。そんな響介の疑問を答えるように
「私達亡霊騎士団は皆アルフォンス様の従者として仕えていますので此位は慣れたものですよ」
そう穏やかに話すハリエットに促されて響介はベッドから立ち上がり真ん中席に着くと対面の席にハリエットが座り
「「「「最初はグー!ジャンケンショイッ!」」」」
(この世界にもジャンケンあるんだ)
4人のデュラハンがジャンケンをし始め響介は不思議そうに眺めていた。そういえば借りた小説にもヒロインと恋人の青年がジャンケンして勝ったほうが自分の好きな料理を頼んでいたシーンをふと思い出した。そんな響介にハリエットは少し申し訳なさそうな声色で
「申し訳ありません、騒がしくて」
「いえいえ、自分こそこのような格好で申し訳ありません」
「そんな!此方がお約束もなく押し掛けたものですからキョウスケさんはお気になさらず」
「やったぁ!」
「よっし!」
「あーあ、負けちゃった」
「お二人さん、席は?」
「「キョウスケさんの隣!」」
そうすると6人掛けのテーブルはあっという間に埋まりハリエットがコホンと咳払いを一つすると
「改めましてキョウスケさん。私達の我が侭にお付き合いして頂きありがとうございます。そしてこの度は私達を、アルフォンス様を助けて頂き誠にありがとうございます」
頭を下げて感謝の意を述べるハリエットと騎士団の面々。それを目の当たりにした響介は落ち着いた声で
「皆さん、頭を上げて下さい。俺はヒトとして当然の事をしただけですから」
この言葉にハリエットが顔を上げた。その表情は疑問の色があり
「ヒトとして、ですか?」
「俺はネロの皆さんを助けたいという頼みを受けて俺は受けた。それだけですよ。俺は任侠者ですから」
「「「「「ニンキョウモノ?」」」」」
この言葉にはハリエットのみならず周りのデュラハン達も首を傾げた。それを受けて響介は
「はい。邪な者に苦しめられ助けを求めて手を伸ばすヒトを助けるために身体を張り助け信義や仁義を重んじる者、と言ったところでしょうか?」
ハリエット達からしてみれば初めて聞く馴染みの無い言葉を噛み砕いて説明する響介。ここで響介の隣にいたデュラハンが手を挙げて響介に尋ねた。
「ヒトって、ネロは魔族だよ?」
「家族の為に戦う奴を助けるのに種族は関係ありません。それに俺自身、誰かを助けるのに理由はありませんから」
これは響介の本心だ。響介の重んじる任侠は種なんてものは関係無い、この世界では異質なようだが響介は気にも止めたことがなかった。当たり前のように話す響介を見て
「「かっこいい…」」
両サイドから黄色い声が上がる。
「えっ?えっ?」
「かっこいいです…キョウスケさん…」
「やっぱり種族を超えた恋愛する人は違うわ!性格もいい美男美女のカップル、種族を超えた愛、なんて麗しいの!」
「えっとごめんなさい、皆さんを何とお呼びすれば」
この響介の質問に盛り上がろうとしていたハリエット達ははっとすると
「失礼しました!私以外の紹介がまだでしたね。それではクリスティナから順番に」
「はい!」
元気に返事をしたのは隣で一番盛り上がっていたデュラハンだ
「亡霊騎士団第二十七席クリスティナでーす!キョウスケさんよろしくおねがいします!」
「クリスティナがごめんなさいね、改めましてキョウスケさん亡霊騎士団第五席コーネリアです」
「亡霊騎士団第十二席パトリシア。以後お見知りおきを」
実家の組で例えると新人が兄貴に自己紹介するような流れで順番に挨拶をしているのを聞いていると後一人になった時
「どうしたのアンリエッタ?」
何故か始まらず向かいに座っていたパトリシアがアンリエッタと呼んだ、響介の隣に座っていたデュラハンに声をかけると
「は、はひ!」
声色で響介は理解した。クラリッサが以前言っていた事を思い出して考えると恐らく男性に免疫が無くて緊張してしまっているようだ。
「ぼ、亡霊騎士団第三十六席アンリエッタ、です」
「ふふふ、緊張のし過ぎよアンリエッタ」
コーネリアが穏やかな声色でそう嗜める。緊張しいなのだろうと響介は考えていたが
(あれ、どっかで聞いたこたことある声だな、どこだ?)
「最後は私ですね、亡霊騎士団第一席団長のハリエットです」
「あ、改めて自分からも、鴻上響介といいます。キョウスケで構いません。よろしくお願いします」
自己紹介も終わりお茶会が始まる。アンリエッタとパトリシアは慣れた手つきで予め抽出していたポットから紅茶を入れると注がれた紅茶は淡い香りが立ち響介は誘われるように口にすると飲み頃の暖かさでとても飲みやすく
「美味しいです」
紅茶というものを良く分かっていない響介だが目の前で淹れられた紅茶は美味しいと自然と口から出る率直な感想。それを受けて
「よ、良かったです〜」
「ふふっ、良かったわねアンリエッタ」
「これくらいは当然です」
そう言うとパトリシアは音もなくカップを持ち一口含むようにカップを傾けると消えたように半分程減っていた。クリスティナやコーネリアはお茶菓子を食べているようで、それを見て響介は今まで思っていた疑問をハリエット達にしてみることに
「あの、デリカシーがない質問を承知で質問よろしいでしょうか?」
「はい構いませんよ、何でしょうか?」
「クラリッサさんと食事していた時もだったんですが皆さんデュラハンって食事なされるみたいですが食事っているのですか?」
響介が以前からあった疑問だった事で、魔物図鑑に記載されていなかった事でもあり実際にダンジョンにもぐっていた時に知ったことになるがアンデットに分類される魔物が他の魔物を捕食していたのを目にした事があった。元の世界でのゾンビものの映画では生きている人間を食うシーンがあるので一応の納得は出来るがダンジョンではスケルトンが捕食していたのを見た。そしてハリエット達デュラハンもこうして紅茶を楽しみお茶菓子に舌鼓している。
そんな響介の疑問にハリエットが答えてくれた。
「答えとしてはどちらでもいいとなりますね。私達デュラハンやアンデットに分類される種は食べた物を魔力に変換して核となる魔石に蓄える事が出来るのですよ」
「魔力に変換ですか?」
「ええ、魔石を体内に持つ魔物としてダンジョン生まれの魔物、レイドモンスターはダンジョンから放出される魔力を吸収し変化、又は進化することが出来ますが我々アンデットのようにそれが出来ない魔物がいます」
「もしかして、アンデットは魔力を直接的に吸収出来ないということですか?」
「その通りです。ですがそれではどちらでもいいという答えには差異が出ますね?その答えは私達がアルフォンス様の操霊魔法が起因しています」
「アルの操霊魔法?」
「アルフォンス様の操霊魔法によって私達は生前の自我を保ったままこの世に定着しています。これは一重にアルフォンス様の魔力故私達がレブナントと同等のアンデットになったことで魔石をコントロール出来るからなんです」
ふんふんと相槌を打ち響介はハリエットの話を聞き入る
「魔石がコントロール出来るということは当然吸収することも出来ますし食べた物を魔力として変換することも勿論出来ます。それがどちらでもいいという事の答えですね」
「成程、勉強になりましたありがとうございます」
この響介の勤勉な態度にデュラハン達は関心しながらも隣に座っていたクリスティナが響介にこんな質問を
「それにしてもキョウスケさんは進んで学ぶなんて偉いですね~ネロに見習ってほしいです」
「そうねぇ、団長達が貸した小説も面白いって読んでたし」
「いえいえ、勉強は嫌いじゃないというか好きな方ですよ。まぁこれは自分の持論ですけど沢山学んで吸収して生かせれば自由になれますから」
「「「「「自由?」」」」」
ハリエット達が響介の発言を受けて兜を傾げたり目を合わせたりしていると響介がその続きを話す
「はい。ヒトってのは自分の知らない事が目の前で起こるとどうしたらいいのか解らず戸惑ったり困ってしまったりと行動することが出来なくなります。しかし予め学んでいたり知っていたりすれば考察や推測が出来て対応方法も考える事が出来ます。だから勉強は好きですよ」
響介のこの発言を受けて関心するハリエット達、そしてコーネリアがポツリと
「冗談抜きでネロに見習わせたいわ…」
「本気トーンで言わないで下さいよコーネリアさん」
響介の突っ込みに一同に笑いが起きお茶会は続く
申し訳ありません。思ってた以上に長くなり前後編に分けたいと思います。