117話 乱入 殴り込むピアニスト
響介、ライミィと合流する。
響介がライミィに手を出したプリモ達を締め上げていた頃
「ちぃ…!」
「ふははは!無様だなアルフォンスよ!!」
玉座の間ではラヴァナが産み出したカースドラゴンを始めとしたドラゴンゾンビ達にエリー達は大苦戦していた。
「くそっ!」
「ジュリエッタ!」
「私がフォローに回る!クラリッサは正面を!」
「はっ!」
「くっ、数が多すぎる!」
ドラゴンゾンビは無尽蔵に自身の分身を作り数に物を言わせてアルフォンス達を殺しにかかる。
アンデットには痛覚といった感覚も無ければ疲労を感じといったことはない。
しかし例外はある。それはハリエット達亡霊騎士団だ。
「次から次へと…!」
「この程度で怖気付くな!亡霊騎士団のデュラハンとしてアルフォンス様達をお守りするのだ!!」
「は、はい!」
彼女達デュラハンも肉体が既に失われている為肉体的疲労は存在しない。しかし自我や感情があるということは精神的疲労を感じる要因になる。増え続けるドラゴンゾンビ達を相手にした終わりの見えない戦い、今まで囚われていたことも重なり精神的疲弊を隠せない。
「まだだ…!まだいける…!」
対して迫り来るドラゴンゾンビ達を徹底的に斬り捨てるイリウス。その姿は鬼人族に相応しい正に鬼気迫る表情で次々と斬り捨て
「でえぇぇぇい!!」
エリーを守る為にドラゴンゾンビ達を寄せ付けないようバスターブレードを豪快に振り回して蹴散らすステラ。エリーの支援もあり獅子奮迅の如く戦い
「しつけぇんだよ!」
産み出されるドラゴンゾンビ達を的確に撃ち沈黙させるネロは魔速装填機をフル稼働させ手数で圧倒しながらドラゴンゾンビ達を相手にする傍らカースドラゴンへも攻撃する。しかしそれと反して
「はぁはぁ…!」
ラヴァナが産み出したカースドラゴンと戦っているアルフォンスは疲労の色を隠せず息切れが激しくなっていた。囚われている間ずっと魔力を奪われ続けたせいで魔力欠乏症になりグラットンから魔力を貰い回復したと言っても本来の2割にも満たない魔力をギリギリまで捻出しカースドラゴンに魔法を放ち続け
「ライトニングアレスト!」
カースドラゴンを覆うように雷の網を展開し拘束するように絡め取り身動きを封じる。しかし
「ガァァァァァ!!」
雷の網に絡め取られたカースドラゴンはダメージを負い苦しみながらも強引に網を引き千切り拘束を解除する。この光景にカースドラゴンに守られて後方にいるラヴァナは大層ご満悦といった表情になり
「ふふふ、ふはははははは!愉快愉快!あの雷公爵と呼ばれていた魔王アルフォンスのそんな惨めな姿を見れるとはなぁ!」
ラヴァナは鬼の首をとったといわんばかりに高笑いをし追い詰められているアルフォンスを見ては侮蔑の色で見下す。そんな自分を笑っているラヴァナにアルフォンスはふっと鼻で笑い
「惨めなのはどちらだろうな?」
「何?」
「神の力を得ても我の息の根を止められんのは一重に貴様の実力不足に過ぎん、滑稽だなラヴァナ。所詮貴様はあの神共の操り人形、神の手のひらに収まる事を選んだ存在に過ぎん」
ピシャリと言い放つアルフォンス。追い込まれていても冷静に相手を分析しラヴァナに告げる。それを聞いたラヴァナは顔を紅潮させ
「このくたばり損ないの吸血鬼がぁ…!」
激怒した。
未だ変わらない余裕に、気に障る態度に、威圧的で挑戦的な赤い瞳に
気に入らない。ラヴァナはアルフォンスの全てが気に入らなかった。
正当な魔族でありかつて存在した魔王の末裔であるラヴァナ。しかし自身とは比べ物にならないカリスマ性とその他者を寄せ付けぬ強さと威圧感、この群雄割拠の時代の魔王の中でも抜きん出る実力の持ち主、それが吸血鬼公爵アルフォンス・ヴァレンタインだった。
アルフォンスの元にいれば先祖代々の悲願人類の滅亡、はてはこの世の支配も夢ではなかった。しかし、
『みだりに人間を始めとした多種との争いを禁ずる。不服ならば我に刃向かう覚悟を持たれよ』
アルフォンスがラヴァナ達魔族に命じたのは人族国家を始めとした他種族との相互不干渉だった。
これによって魔族は割れた。
アルフォンスに従う種族、袂を分かつ種族、そしてラヴァナのように寝首をかき魔族を支配せんと目論む種族に、
ラヴァナはこの時を待っていたのだ。魔族を統一し支配する事を、アルフォンスを葬り去り今度こそこの世を支配し果ては神をも超える存在になり一族の悲願成就を果たすことを
「そちらはその礎だ!吾輩の覇道の生贄としてくれるわ!!」
その言葉が合図となったのかドラゴンゾンビ達は不気味な鳴き声を上げ攻勢に出る。これにステラやネロ、イリウスはこれを迎え討ちへし折るように蹴散らすが
「こいつら…!」
「アレッシア!クリスティナ達のフォローを!」
「分かったわハリエット!」
この猛攻に一番苦戦していたのは亡霊騎士団のデュラハン達だった。終わりの見えないドラゴンゾンビ達の攻撃に動きが鈍くなりジリ貧になっていた。その時恐れていた事が
「しまっ…!」
「やらせな、きゃあ!」
「アンリエッタ!?」
デュラハン達の防衛網を破ったドラゴンゾンビが突撃、横っぱらを突く形となり後方に下がったデュラハンに攻撃を仕掛けたがアンリエッタと呼ばれたデュラハンが庇った。しかし予想以上の力に突き飛ばされ剣を落としてしまい
「オオオォォォ!」
別のドラゴンゾンビに無防備な所を晒して窮地に追い込まれた。
「アンリエッタ!」
仲間を助けるべくいの一番にハリエットが飛び出す。しかし
「邪魔をするな!」
次から次へと沸くドラゴンゾンビに足止めをされてしまった。その間にもアンリエッタにドラゴンゾンビが迫り
「け、剣を…」
薄れる意識の中でも剣を探すがドラゴンゾンビは待ってはくれない、アンリエッタにドラゴンゾンビの攻撃が迫ったその時
「ガァァァ?!」
「え…?」
アンリエッタが見たのは自分を襲おうとしたドラゴンゾンビがなにか大きな手に頭を掴まれている姿だった。振り払おうと藻掻くも意味を成さず呻き声を上げて身をよじって抵抗している。デュラハン達が呆気に取られた次の瞬間
「ッシャァ!!」
なにかが高速以上のスピードで接近したと思ったらなんとそれがドラゴンゾンビを一撃で蹴り飛ばしたのだ。蹴り飛ばされたドラゴンゾンビは玉座の間から外へと蹴り出され地面に落ちまるでドラゴンゾンビと入れ替わるように現れたのは
「よっしゃあ!到着!」
「キョウスケ?ホントにダイジョブだよね?」
デュラハン達やグラットンが見たのは下半身が大蛇の女性が人間の男に巻き付き抱えられている姿、それを見て女性はラミアだと察するがいきなり現れたこの二人は誰だと視線の向けると
「キョウスケさん!ライミィさん!」
その姿を見てクラリッサが喜びに近い声を上げる。それに気が付いた響介は右手を挙げ
「おー、クラリッサさん。良かった合ってたみたいだライミィ」
「でもどういう状況?なんかドラゴンゾンビがいっぱいいるよー」
「お兄ちゃーん、お姉ちゃーん」
「キョウスケ様ー!ライミィ様ー!」
「あっ!キョウスケ!エリーとステラがいたよ!」
「おっ、じゃあ合ってたか。じゃあネロもいんだろ」
「待ってたぜ二人共!!」
「あっネロだ」
「元気そうだ。これは重畳、ん?」
ライミィを降ろしながら辺りを見ていた響介はふと倒れて呆然と自分を見ていたデュラハンに気が付く、響介は手を差し伸べ
「大丈夫ですか?」
「は、はい…」
デュラハンはすんなり自分の手を取ってくれ響介は握り返して起こそうとする。すると背後からドラゴンゾンビが響介に襲い掛かって来た。アンリエッタは声を上げようとしたら
「邪魔」
響介は一瞥もせず裏拳をかまし一撃で沈黙させた。これにはデュラハン達は驚いた。弱っているとはいえ自分達が苦戦していたドラゴンゾンビを拳一発で沈めたのだから
「なんと…」
「クラリッサ、あの方々は?」
目の前の光景に感嘆の声が漏れた団長のハリエット。デュラハンの中でも唯一彼らを知っているクラリッサにアレッシアは尋ねた。
「キョウスケさんとライミィさんですアレッシア姉様。とても頼りになる方々ですよ!」
「はぁ!」
「シッ!」
クラリッサが説明している横では迫って来たドラゴンゾンビを殴り飛ばす響介と魔力で形成した矢を放つライミィ。
二人共消耗、特に響介に至っては身体中キズだらけでキズが開いたのか頭から流血し着ていたジャケットもボロボロにしてもまるで平然と戦っておりハリエット達も続こうとしてが大半のデュラハンが消耗し今現在の防衛網を死守するので精一杯といった状況だった。戦いながらそれに気が付いた響介は気を練り先程のように大きな功掌を作ると
「ふん!」
ブン!と大きな音を立ててデュラハン達を始め迫り来るドラゴンゾンビ達を巻き込み全て外へと投棄し一掃する。
ドラゴンゾンビ達の攻勢が途切れた時、響介はハリエット達やグラットン、イリウスの前に立つとすぅと息を大きく吸い
「さぁ仕切り直しだ!気合い入れ直せ!やるぞテメェら!!」
叱咤激励と共に「狼王之咆哮」を発動させた。
「「「!?」」」
咆哮を聞いた瞬間皆身体に異変を感じた。まるで身体の奥底から力が湧き出るような、自身の限界がいきなり超えたかのような感覚だった。
「これがさっきキョウスケが言ってた『狼王之咆哮』ね!スゴイわ!!」
「おお〜」
「何と…!力が漲ります!」
「これは…!」
「一体なにが…?!」
「ですが…!」
先程まで弱っていたデュラハン達が剣を取り立ち上がると獅子奮迅の如く戦っていたハリエットが
「続け!我らの誇りに賭けて下賤なゾンビ共を一歩足りとも通すな!!」
「「「イエス、マイロード!!」」」
再び仲間達の戦意を奮い起こしドラゴンゾンビ達を徹底的に薙ぎ払うと
「支援は私めにお任せくださいですじゃ」
グラットンはハリエット達やイリウスに支援魔法を詠唱し支援に徹し
「何時までも臭え息吐いてんじゃねぇ!!!」
力が漲っているのか己に気合を入れ直すかのように怒号と共にカタナを振るいドラゴンゾンビを一撃で両断するイリウス
「一体、これは…!これは何なのだ!?」
それとは対称的にラヴァナは困惑しその表情には焦りが見えていた。先程まで自身が邪神魔具を使いカースドラゴンを産み出して状況を支配していた筈だった。
しかし今はどうだ?まるで息を吹き返したような猛攻に押され始めたではないか。この様を
「ほう、彼の者か」
相対していたアルフォンスがポツリと溢したのをラヴァナは聞き逃さなかった。
「彼の者だと…?!アルフォンス!そちは何を知っている?!」
「おや?どうしたラヴァナ。先程の余裕が無くなっているぞ?」
「応えろ!あの人間は何者だ?!」
ラヴァナは気が気ではなかった。自分の計画が根底から覆されるような感覚に陥ったのもある。だが一番はアルフォンスの反応だ。見ると先程のような魔力欠乏症で弱った様子が見られず
「彼の者か?彼の者は…」
何処か楽しそうな笑みを浮かべているアルフォンスははっきりとラヴァナに告げる。
「今代の狼王だ」
「狼王だと……!」
「ああ?狼王?ちげぇよ」
突如否定の言葉と共に割り込んできたと思ったらカースドラゴンに斧を振り下ろすかのような強烈な蹴りを叩き込んでカースドラゴンの勢いを完全に止めると
「通りすがりのピアニストだ」