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異世界に来たらピアニストになった俺~しかし面倒事は拳で片付る任侠一家の跡取り息子の見聞録~  作者: みえだ
第5章 魔族領へ ~ピアニストと囚われの魔王~
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115話 居城 魔王の対峙

響介、新しいアビリティを目覚めさせ仲間を鼓舞する。




「ふむ、今の我でもこれ位は出来るか」


 捕らえられていた牢から出て体を動かしながら先程放ったサンダーボルトの感覚で自身の魔力を確認する魔王アルフォンス。手首にあった残りの手枷を握り潰し外す姿は細身ながらも吸血鬼だと再認識させられる。アルフォンスの姿を確認するとネロ達3人はその場で跪き


「アルフォンス様!申し訳ございません!」


 アルフォンスに突然謝罪の言葉を口にしたネロ。ネロは続ける。


「我らが不甲斐ないばかりにアルフォンス様にこのような事態を」


 そうネロが言いかけた時アルフォンスが遮るように口を開いた。


「よい」


 地下牢に響く良く通る声でピシャリと切りネロの発言を強制的に終わらせる。これにネロ達は困惑しハリエットが恐る恐る声を上げる


「ですが……」


「我がよいと言っている。此度は配下の魔族達の野心やラヴァナの思惑を軽んじていた我の責任、我自身の甘さが招いた事態だ。責は我に在る」


 この発言に面を食らうネロ達だった。アルフォンスはクリーニングを詠唱し自身の服を綺麗にしている端で一部始終を見聞きしていたステラは何となくだがこの魔王アルフォンスの人となりと言うのが見えた。


(人に責任を押し付けずにまず自分の非として捉えるところが何だかキョウスケ様みたいですね)


 自身の主である響介に被るところがありつい重ねてアルフォンスを見ていた。そうしていると


「魔方陣、抑えたよ」


 ダンジョンと繋がっていた転送魔方陣を塞いだエリーがステラの元へとやって来た。魔方陣は魔方陣から出てきたであろう魔物諸共魔方陣を氷漬けにしたようで魔力を奪われたかのように沈黙していた。


「エリー様。ありがとうございます」


「うん。ん?」


 ステラの元へ駆けて来たエリーは何かに気が付いた様にアルフォンスを見る。


「如何されました?エリー様」


 するとエリーはアルフォンスを指差して


「なんだか、お兄ちゃんみたいな、匂いする」


「ちょっ、おいエリー!」


 このエリーの行動にはネロ達はギョとしエリーに対してネロが声を上げたが当のアルフォンスは


「構わぬ」


「はっ?ですが…」


「構わぬ、我は少々気分が良い。我の見立ではその者達は狼王(ジャッカル)の庇護下の者達であろう」


狼王(ジャッカル)?ううん、お兄ちゃん」

狼王(ジャッカル)なるものは存じ上げませんが私はキョウスケ様にお遣えする従者で御座います」


「キョウスケ、それが今代の狼王(ジャッカル)の名か、ふふっ」


「アルフォンス様?」


 魔王アルフォンスは微笑む。その笑みは懐かしそうに、何処か愉快そうに


「異なる種の者達にここまで言わせる者とは実に楽しみだ。だが」


 微笑んでいた魔王アルフォンスは一転、何処からともなく真っ黒なマントを出して羽織ると不敵な黒い笑みを浮かばせ


「あの愚か者共の制裁が先だ」







「はあ!」


 一方、ネロ達と別れてラヴァナの配下と戦っているクラリッサは次々に向かってくる魔族を両断している。

 魔族の中でも幽霊(レイス)、魔物であるアンデットに分類されるデュラハンは魔法より物理での攻撃を得意としているが生前アングリフ王国の親衛騎士として一流の女騎士でもあったクラリッサの強さは折り紙付き、何よりもアンデットのデュラハンには痛覚や疲労というものが存在しないため物理的な攻撃なら怯むこともなければ疲れからくる太刀筋の鈍りもない。本人がその気なら何時までも全力で戦う事が出来る種族である。


「遅い…!」


 カチンと音がすると何人かの魔族がバタバタと倒れる。クラリッサと共に戦う独特な片刃の剣「カタナ」と呼ばれる武器を用いて戦う鬼人族(オーガ)の剣士イリウスだ。

 鬼人族(オーガ)。頭に二本の角が生えており人間と比べて恵まれた体格と魔力を持つこの種族。鬼人族(オーガ)の中でも特段線が細く人間に近い見た目のイリウスから繰り出される剣技は閃光のように鋭く迫りくる魔族達を寄せ付けず斬り捨てる。そのイリウスはまた近くにいた魔族斬ると一度クラリッサのところまで下がり


「ちっ…!数ばかりで…」


「もうお疲れですか?」


「これくらい大丈夫だ。それよりそちらのほうが酷いが?」


「まさか。デュラハンには痛覚も疲労もありません。こんなもの撫でられただけですよ」


 二人共満身創痍の姿とその場にある事切れた魔族兵達が戦いの惨状を物語る。クラリッサはネロ達がいる地下牢に向かわせんと鎧をボロボロにし戦い続けイリウスも激しい斬り合いを続けていたる所に生傷を作っていた。


「くっ、おのれ…!」


 その様子を生き残っていた魔族が苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべていた。すると


「おい、コッチだ!」

「いたぞ、鬼人族(オーガ)とデュラハンだ!」


 続々と増える増援に魔族の戦士はクラリッサ達に嫌らしい笑みを向け


「形勢逆転のようだなぁ?手間取らせやがって…!」


 最初の倍近い数の魔族の兵士がクラリッサ達に躙り寄る。しかしクラリッサもイリウスも


「ふん、斬る相手が増えただけだ。斬られたい者から前に出てこい」

「何人いようと私のやることは決まっています」


 諦念の欠片もなく大軍に相対しクラリッサがイリウスより前に出て構える


「ここを通りたくば私を仕留めてみなさい!アルフォンス様に仕える亡霊騎士団の騎士クラリッサを容易く倒せると思うな!」


 大見得を切るクラリッサ、その時だった




「よくぞ言った。我が騎士よ」




 聞こえてきた声と同時に空気すらもつんざくような雷がその場に驟雨のように魔族達に降り注ぎ雷と断末魔が響き渡る。


「ぎゃあ!」

「がああ!」

「ひぎっ」


 目も当てられない程の激しい雷が正確に魔族を居抜き襲いかかる。雷が収まった頃には地下牢へ駆けつけた魔族達は半数近く程が消し炭となり事切れていた。


「な、何が…!誰だ!?」


 いきなりの事で困惑する魔族達とイリウスだったが対称的に何かを察したクラリッサが周囲を見回すとまた声が聞こえた


「誰だとは呆れるな。我の顔を見忘れたか」


 この場にいた者達が見たのはクラリッサ達と魔族達との間に割り込むかたちで霞の集まるように現れた黒いオーバーマントをはためかせた一人の男が魔族達に対峙した。その姿を見た時魔族達は言葉を失い戦慄し驚愕する。


「な、な、なあぁ……!」


 恐れ慄く魔族達、


「何と…」


 驚きの声を洩らすイリウス、そしてクラリッサはその姿を見た時心から歓喜した。


「アルフォンス様ぁ!」


 クラリッサの声を聞きアルフォンスはクラリッサの方に振り向くと


「クラリッサよ。そなたが我の騎士であったこと、我は誇りに思う」


「も、勿体無い、お言葉です…!」


 クラリッサはその場で片膝を付き跪いてアルフォンスから賛辞を受けていた。アルフォンスはそれを見ると慈悲を秘めた穏やかな表情になり


「今はその鬼人族(オーガ)の剣士共々暫し休むとよい」


 そう言ってアルフォンスは魔族達に振り返る時にはクラリッサに見せた慈悲の表情は消えまるで養豚場の豚を見るような冷たい目で


「さて貴様ら、我に仇成すとは覚悟が有るのだろうな?」


 何も言えずに今にも逃げ出したいのか後退るもアルフォンスの血の様にドス黒い赤い瞳から出る威圧的な眼光の前に絶望の表情で身動きが取れなくなった。それを見たアルフォンスは何処か含んだように微笑すると


「だが、我以上に貴様らに物申したいと言う者達がいてな、貴様らの相手はその者達にさせよう」


 その言葉の瞬間だった。クラリッサ達の後ろにある地下牢から数十にも及ぶ騎士鎧が飛び出すように続々と現れ魔族達の前に出てアルフォンスや後ろにいるクラリッサ達を守るかのように魔族達に対峙する。


「ハリエット団長!アレッシア姉様!みんな!」


「ま、まさか…、亡霊騎士団……!!」


 魔族達は目の前の騎士鎧達を見て瞬時に何者かを理解すると同時に恐怖心は煽られ絶望は加速する。そんな魔族達に対して一番前にいた騎士鎧(デュラハン)が剣を兜の前にかざすと他の騎士鎧(デュラハン)が透き通るような青い剣を同じようにかざし


「我ら!魔王アルフォンス様に仕えし亡霊騎士団!これより我が主に刃を向けた者共に制裁を与えん!」


 そう言ったのは団長のデュラハン、ハリエットだ。ハリエットが言い終わったと同時にデュラハン達は魔族達に襲い掛かった。


「ひ、ひいぃぃ!」


 その光景は戦いではなく一方的な蹂躙だった。攻撃に転じたデュラハン達の行動は速く戦意を喪失していた魔族達は戦う事も出来ずに逃げ惑う事しか出来なくデュラハン達の慈悲の無い剣が次々と魔族達に振るわれる。


「ぎゃああ!」

「うごあ!」

「た、助け」


 それは自分達の力に過信し胡座をかいて弱いものとしか戦わない魔族と死後もなお長い間研鑽を重ね覚悟を持って戦うデュラハンとの差だ。それを見ていたクラリッサとイリウスは


「クラリッサお姉ちゃん、オーガのお兄さん、今治す、キュア」


 エリーから治癒魔法を詠唱されており治療を受けていた。


「感謝する。それにしても地下牢に亡霊騎士団がいたのか?」


「うん。ハリエットさんは、まおーとおんなじとこ、ハリエットさん以外、地下牢の箱の中に閉じ込められてた。みんな、キュアかけて大丈夫」


「ありがとうございますエリーさん。それにしてもあの剣は?」


 クラリッサが気になったのは仲間達が持っている青い刀身の剣、見たことが無い剣からか気になり声に出てしまったようだ。すると


「作った」


「え?」


「エリーが、エリーのフロストタワーの氷から、クリエイトウェポンで作ったの。みんな、剣が欲しいって、言ってたから、作った」


「なんと…」


 側で聞いていたイリウスからも感嘆の声が上がるとアルフォンスが口を開いた。


「我から見ても大変良いモノだ。かつて我が屠った勇者が用いていたアイスキャリバーと云う魔剣よりも魔力の濃度が段違いに素晴らしい」


 そう説明している内に魔族達は見る見る内に数が減っていき


「があぁぁぁ!」


 最後の一人もハリエットが斬り捨てる。殲滅したことを確認すると


「アルフォンス様。制裁が終わりました」


「ご苦労、感謝する」


「「「はっ!」」」


 そうしてハリエット達亡霊騎士団は道を作るとアルフォンスが歩みを進め、指を鳴らして魔族達の骸に雷を落とし消し炭にした時


「!?これは…!」

「ちょっとちょっとどういうことよ!?」


 男らしき声が聞こえてきた。そのうち一人はかなり野太い声だ


「あの声は?」


「なんだ、お前らかよ」


 現れたのは鎧を付けた魔族の男と厳つい角が生えた筋肉もりもりの男の二人、二人はアルフォンスを見るなり


「な、貴様はアルフォンス!?」

「ちょっとどういうことよ!何であの吸血鬼が!?」


「随分な言い方だ、ラヴァナの部下の確かプリモとスティーナと言ったか?」


「ん?その二人は確か四天王、でしたでしょうか?」


 この男達の名前を聞いて反応したのはステラだ。確かセフィロトからの情報でその名前を聞いたことがあった。ステラがそう反応したのを見て


「私達の事はどうでもいいわ!質問に答えなさい!?」


「質問?質問などされていませんが?」


「いいから答えなさい!そこの吸血鬼や骸骨爺さん、鎧共は五神から手にいれた拘束魔方陣で封じた筈!それをどうやって!」


「これ」


 スティーナの言葉を遮るように声を上げたエリーはプリモ達や皆に見える様にあるものを見せた。それは


「あれは…?首飾り?」


「ウルフの牙か?」


「巫山戯るのも大概にしなさい小娘!そんなもので五神の力が!」


「出来るよ」


 そう言ってエリーはウルフの牙に魔力を込めるとそこにヒートベールが展開された。それを見たプリモは


「あれは…城に張られた炎の壁と同じ紋様?」


「お姉ちゃんの、ヒートベールや、フレイムウォール、神聖魔法、無効化出来る」


「はあ?!」

「神聖魔法の、無効化だと!?」


「お姉ちゃんが、ヒートベール付加した牙、エリーに渡してくれたの、だから使って、魔方陣無効化した」


 淡々と説明するエリーの横でネロはライミィが別行動を取った事の意味が分かった。


(もしかしてライミィの奴、自分がマークされてる可能性を考慮してたのか…?)


 その時ネロは響介のある言葉を思い出した。


『ライミィがやるリスク管理は俺より上手い』


 つまりライミィは自身の能力が敵に発覚している前提で行動していたのだ。この世には情報屋ギルド『セフィロト』がある以上金さえ払えば望む情報が得られることから相手も同じように情報を得ている可能性を考慮した上での行動ならネロは納得出来た。そしてエリーはプリモ達に


「コウガミ家、家訓その4『敵を知り、己を知り、行動し、出し抜け』だよ?」


 得意げに話すエリーはキリッと金色お目々を決めてプリモ達に言いきるとアルフォンスがプリモ達が眼中に無い様に


「さぁもうよかろう、前座は終わりだ。貴様らに用はない。いるのだろうラヴァナよ」


 プリモ達の後方を見据えて話しかける。すると


「ふふふ、そうこなくてはなぁアルフォンスよ」


 闇夜の中からツカツカと足音を立ててラヴァナが姿を見せた。不気味な程に黒い笑みを浮かべこの世のものとは思えない気味の悪いオーラを漂わせていた。


「プリモ、スティーナ」


「はっ」

「はい」


「ぬし達は下がるとよい」


「はっ?ですが」


「丁度試したいことがあってのう。ぬし達を巻き込みたくはないのだ」


「…仰せのままに」


 その言葉を最後にプリモ達は姿を消した。プリモ達が去った事で改めてラヴァナはアルフォンスに相対すると


「これはこれは魔王アルフォンスよ。魔力を奪われたそちが私に勝てるとでも?そちの操霊魔法(ネクロマンス)はすでに吾輩の手の内だ」


「ふん。宝の持ち腐れだな。我から操霊魔法(ネクロマンス)を奪うのが目的なようだが貴様に扱えきれるとは思わんな。貴様、神に何を吹き込まれた?」


「神は大規模な戦いを望んでいるようだぞ?それこそ神災が起きる前の戦よりもなぁ。そして神は吾輩に肩入れをしているのだ。すなわち、この世界を統べるのは吾輩そこ相応しいということを神が認めていると言える」


 嬉々として語るラヴァナにアルフォンスは馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに


「痴れ者が、神に踊らされていると何故気付かん」


「知ったことか!人間共を支配した後に神に反旗を翻せばよかろう!まずはそちからだアルフォンス!」


 ラヴァナは懐から禍々しい輝きを放つ如何にもな丸い水晶玉のような宝玉を取り出す。それを見たアルフォンスは


「その邪神魔具(エビルファクト)は…!、貴様…!!」


「確かに吾輩は人獣族(ライカンスロープ)だ。魔力は今でもそち程ないがそんなものこれがあればどうとでもなるわ!そちを永遠に葬れるなら例えあの神共だろうと喜んで魂を売ってやろうではないかぁ!!」


 その瞬間その場に魔力が重圧の様に重く伸し掛かるようになるのを感じた。そしてラヴァナの意図を理解したアルフォンスは


「その手には乗らん!」


 その場にいたエリーやステラ、ネロとグラットンやイリウスに亡霊騎士団達全員を自身纏めてテレポートでラヴァナ諸共別の場所へと転送したのだった。



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