114話 Limitover 『悪魔』を越えて
エリー達、魔王アルフォンスの救出に成功する。
もう幾つ殺った?何時間経った?
向かって来る魔族魔獣関係無く俺はぶっ飛ばしていた。数なんてもう百から数えていない、面倒だからだ。
そう考えながら俺は向かって来る人獣族に顔面に拳を入れて殴り飛ばし迫り来る野獣と蹴り上げる。そうして蹴散らしていた俺だが
「もらったぁ!!」
戦槌を振りかぶった魔族の動きを失念していた。
「しまっ…!」
俺は頭に受けてしまった。それを見逃さず他の魔族が魔法を詠唱しモロに喰らい吹き飛ばされた俺は大岩に激突した。
「つっ……」
頭にドロリと鈍い感触があり手をやると手のひらにベッタリと血がついていた。どうやら出血したようだ。大岩に打ち付けたから身体中が痛い。出血した頭はジンジンと熱を持って血が流れる感覚がある。そんな俺を見逃すはずもなく魔族達は俺を袋叩きするかのように襲い掛かって来た。しかし俺は
(あれ?こんなこと前にもあったな。何時だ?)
意外とまだ余裕がある自分にある意味感心しつつ俺に殺到する魔族達がスローモーションに見える中記憶を手繰り寄せる
(ああ、そうだ。あの時だ)
向こうで半グレ達に襲われた時だ。俺を殺そうとして襲い掛かって来た奴らをぶしのめしてたら鉄パイプを振り回して来やがってそれが俺の頭に直撃した。
まともに喰らいその後も何発も喰らい俺は殴り飛ばされた。その時も頭が切れて流血していた。だが
「ふふふ、あはは」
痛みなんか感じず俺は笑っていた。あの時は何でか判らなかった。そんな俺を見てビビった半グレ共は怖じ気づき逃げ腰になった事でその後俺の一方的になり全員半殺しにして喧嘩が終わった後モヤモヤしてずっと突っ立って考えていたら俺を見つけた若い衆が駆け寄って運ばれてしまい最後まで判らなかった。
でも、今なら解る。いや解った。襲いかからんとしていた魔族達を全員気功術でぶっ飛ばして俺は未だ目の前にいた魔族達を見据えて
「そうだよ、そうだ」
つい、笑ってしまった。頭から流れる血を手にとりあの時のモヤモヤの正体が解り自然と笑みが零れる
「俺は、こんな喧嘩がしたかったんだ」
殴り殴られ、蹴り蹴られ、壊して壊れて
一度でいい、たった一度でいいからそんな喧嘩がしたかった。あの日、喧嘩で負けて悔しくて泣いて帰ったあの日、京町さんやじっちゃんから喧嘩のいろはを教わり鍛えたらいつの間にか俺は負けなくなった。
いつも圧倒してた。だからあの時そんな喧嘩が出来ると思って嬉しかったんだ。まるで身体の奥底にある渇いてた何かが潤うように
「そうだよな。ワンサイドゲームなんてつまらない」
あの時はただ夢中で喧嘩しただけだが今は全部理解した。俺の本性も。俺はそれを理解した上でその感情を理性でコントロール出来てた。襲い掛かって来た魔獣を一蹴し
「仕切り直しだ!行くぞオラ!!!」
嬉々として魔族の大群にカチ込んだ瞬間何だか身体が凄く軽く感じた。まるで自分の『底』が深くなったように
「い、一体、何か起こっているのだ…?」
ヴーレと合流していたランガは目の前の光景に目を疑う。万を悠に越える軍勢をたった一人で相手にし圧倒する響介を姿から目を離せなかった。ランガと同じように見ていた戦鬼族や鬼人族から声が上がり
「何て容赦の無い攻撃だ…!全てを薙ぎ払うつもりか!?」
「あの人間なんて野郎だ!あいつが戦況をひっくり返してやがる!」
「奴は、化け物か!」
「悪魔だ…」
「そんな生優しいもんじゃない…!」
そんな時だった。
「……ルだ」
「え…?」
同じように見ていた人狼族の戦士から出た言葉、それは
「ジャッカルだ…、キョウスケ殿は、狼王だったんだ」
それを聞いた瞬間魔族達は全員衝撃を受けたが皆何処か納得したように響介の戦いを見ていた。
狼王ジャッカル。
神狼フェンリルを屠り魔狼マルコシアス聖狼スコルを平伏させた一匹の気高き狼。
その牙は決して弱き者に剥かず、その強大な武力も常に弱き者達の為に振るわれ邪神がけしかけた5万を越える軍勢をたった一人で屠ったと云われる畏怖と敬意を象徴する狼とも仇成すもの達からは凶狼とも呼ばれ、一節では霊獣ガルーダの先祖とも伝えられている。生きとし生ける者達から狼の王と讃えられ、その行いを地母神ガイアから認められた彼は分神であるセレーナという女神から生涯深い寵愛と加護を受けたとも云われている。
響介の勇々として戦う姿はまさにそれだ。例え相手がどれだけ居ようとも関係無いと言わんばかりに戦い圧倒する。まるで伝承の狼王のように
「そうか」
その響介の姿を見てランガは
「キョウスケは、ジャッカルだったのか」
この時、響介は気が付かなかった。頭の中でいつぞやの優しい綺麗な声が聞こえたのを
『達成条件を満たしました。アビリティを更新します』
地母神の加護
青い瞳の悪魔→青い瞳の狼王NEW!
天性のピアニスト
頼もしき兄貴分
青い瞳の狼王 効果
『青い瞳の悪魔』の敵の数が多ければ多い程戦闘能力向上の効果範囲を1000から50000まで拡大
自身の生命状態が危機に瀕している程に(要はHPが低ければ低い程)戦闘能力上昇。
仲間と認めた者達の最終戦闘能力を1.5倍上昇させる『狼王之咆哮』が使用可能
この響介のアビリティが更新された瞬間。ランガ達に不思議な事が起こる。
「ん…!?」
「どうしたランガ?」
「どういう事だ?力が、力がみなぎる…!まるで某の奥にあった力が涌き出たように……!」
それはランガだけではなくヴーレを始めピュセル平野にいた全てのアルフォンス側について戦う魔族達が自身に力がみなぎるような躍動を感じた。理由は分からない、しかし沸き上がる力に伝説の狼王が味方と知り士気が上がっているのを好機と捉え
「今が好機!者共進軍せよ!!」
「狼王の加護は我らにあり!!!」
ランガとヴーレの号令を合図に戦鬼族を始めとした兵達が怒号のような雄叫びを上げてラヴァナ軍に突撃を開始する
「怖じ気るな!我らには狼王の加護がある!」
「狼王と共に進め!」
息を吹き返したかのような猛攻に晒されたラヴァナの軍勢は堪ったものではない。今までは拮抗し何れは数の暴力で制圧出来るとたかをくくっていただけに次々と戦線突破を許してしまう。そして響介も
「終いだ…!」
遠巻きに魔法を放っていた魔導師達に功弾や魔法を連発し蹴散らすと最後に残っていた魔族に毒蛇咬を叩き込み制圧した。
「ふう、これで終わりか」
身体の生傷をそのままに辺りを見回して残党がいないか確認するとランガ達がいるであろう方を見て聴覚スキルを使う
「声を聞く限りランガさん達も大丈夫そうだな。じゃ、打ち合わせ通り俺は城に乗り込むか」
取り敢えず頭の出血を抑えて響介はアングリフ城へと向かっていった。身体はあちこち痛い気もするが響介は今はアドレナリンが出まくってるから気のせいだろう思い何事も無かったかのように走りだした。
後にこの戦いは多くの魔族達に伝えられることになる。
たった一人の人間が万を悠に越える軍勢を相手取り一夜も掛からず壊滅させた事を。
狼王の再来を