113話 魔王アルフォンス 懐かしき咆哮を聞いて
ライミィ、陽動行動を開始する。
「状況はどうなっている!?」
突如強襲される形になったラヴァナ軍、その四天王のプリモは浮き足立つ部下の中でも冷静そうな者を捕まえ状況を確認する。
「そ、それが裏庭に突如と鬼人族が現れ方々で兵を襲っていると…」
「そんな事は分かっている!それよりも貴様はネロを見たか!?」
プリモの言葉に魔族兵は面食らい戸惑う。
プリモは想像していた。今城の外のピュセル平野で起こっている戦闘、そして城内で起こった鬼人族の襲撃、ただ目的もなく戦うことは敵対しているランガやヴーレの事を考えると考えずらい、なら目的はとなった時にプリモが辿り着く答えは陽動だ。そうならばアルフォンスを助けに潜り込むと考えたら有力なのはネロしかいない。しかしネロの姿を確認していないとなると不味い事になる。
「奴らはもう入り込んでいるか……!」
プリモの中ではネロはもう侵入していることは確定している。
それはもうアルフォンスに近い所まで
苦虫を噛んだような表情を浮かべながらもプリモは地下牢へ向かう。そんな時、人虫族の兵士がプリモの元へと
「プリモ様!」
「どうした?」
「地下牢への道が塞がれました!こちらからでは通れません!」
「何だと!?」
プリモは人虫族の兵士に案内させて現場へ向かう。すると
「ぎゃああぁぁぁぁ!?!?」
「!?」
プリモが見たのは火だるまになっている魔族の兵士、周りの者が何とか火を消そうとするが火の勢いが強まるばかりで対処しようがないようだ。他の兵士や魔導師が集まる中現場に着いたプリモが見たのは道を塞いでいる炎の壁だ。
「これは、ヒートベール?いや違うな…」
自分の知る魔法と違い少し思案するプリモ。ヒートベールを分厚くしたような壁で真ん中に見慣れない紋章が輝いており、プリモは注意深く観察していたがその場にいた魔族の兵士達がプリモを見るや各所の報告を行った事で中断することに、その中でこの炎の壁の報告が上がると
「この壁がこの居城の一階に何ヵ所もあるだと?」
言わずもがなこの炎の壁はライミィのフレイムウォールだ。ネロ達と共に侵入したライミィは突入前に響介がセフィロトから買ったアングリフ城の図面をエリー達や鬼人族達に皆に見せながら何処にフレイムウォールを張るかを事前に知らせていた。その場所とはライミィ達が通る経路の境目となる扉付近。
その理由はラヴァナ達の足を止める為、
鬼人族達が突出し過ぎて孤立しないようにする為、
自分達の突入を知らせる為だ。
つまりフレイムウォールを張った場所は既にライミィ達が通り過ぎた後と認識出来、それを見た居城に乗り込んだ鬼人族達は他の仲間達と直ぐに立て籠る体勢へ移行する。命尽きるまで戦う事で有名な戦鬼族とは対象的に大多数の鬼人族は生き残る為に行動する事が多く現に居城に乗り込んだこの鬼人族達は十闘将が全滅するまで籠城戦をしていた者達ということもあり今も居城の一角を占拠し立て籠っていた。
プリモは一通り報告を受けると
「居城で立て籠った鬼人族は無視しろ。どうせなにも出来ん、抵抗する者だけ始末しろ」
「はっ!」
ここは自分達の本陣、脅威を排除すれば城の鬼人族は烏合の衆と判断したプリモは立て籠った鬼人族を放置と判断するとライミィのフレイムウォールに視線をやり詠唱を始めた
「貴様ら揃いも揃ってこんなもの何故壊せないのだ。ハイドロ」
「ちょっと駄目よプリモぉ」
プリモが魔法を放とうとした時だった。後ろから厳つい巨体を女性のように艶かしく歩く男、同じ四天王のスティーナが止めに入った。
「スティーナどういう事だ?」
「その炎の壁、強力な反射魔法が付加されてるわ。だから魔法を放ったらそこの炭みたいになっちゃうわよぉ」
そう言ってスティーナは炭と言った物を差す。それはプリモが来た時に火だるまになっていた部下だ。結局あのまま消火が出来なかったようで燃え尽きたようだ。
「この炎の壁を詠唱した術者を殺っちゃえばいいんだけどぉ、これの魔法の完成度を見るにかなりの手練れだわぁ。だから触らないほうがいいわよぉ」
「だが!連中はグラットンを解放したと聞いたぞ!それならばあの吸血鬼も」
「大丈夫よぉ、既に手は打ったからぁ」
「何?」
一方、ライミィと別れたネロ達は
「ここは引き受ける。先に行け」
「早くアルフォンス様を!」
「すまねぇ!頼むぞ!」
地下牢と目と鼻の先まで来ていたが別の道から来た魔族の兵達と鉢合わせになり戦闘、ものの数分で制圧したが次から次に来る増援を抑える為にクラリッサとイリウスを残してネロ達は地下牢へ入る。
地下牢へ足を踏み入れる4人、中は明かりも無く暗闇が広がってはいたが皆暗視能力を持っている為問題はない。しかし地下牢は人の気配が感じられない異様さがあった。
「ネロ、その一番奥とは何処に?」
「一番奥なら此方だ、こっちから下の牢に行ける」
「まだ下があるのですか?」
「ああ、この様子見ると他に捕まったのも多分この下階層にいそうだな。確か一番奥の通路の壁のここを」
「…」
ステラとネロがやり取りをしている横でエリーが不信そうに顔を曇らせるのに気が付いたグラットン
「どうされましたかの、エリー殿」
「臭い」
「臭い?」
「死んだ人の、臭いする」
「何ですと?」
エリーの不穏な言葉を聞いてグラットンは今一度この地下牢を見渡すとある疑念が生まれた。そんなグラットンを他所に
「よっしゃ、開いた」
奥の通路を探っていたネロが操作し開けた事で反対側の壁が音を立てて開き始める。徐々に開く壁に何か反応したエリーが突然声を上げた。
「ステラお姉ちゃん!」
エリーの声に即座に反応しステラは開いた壁から何か気配を感じ飛び出して来たものを斬り伏せる。それは
「魔物!?」
何でと言わんばかりに声を上げたネロ。その人型の魔物を検分していたグラットンは
「これはミノタウロスですな、体内に魔石も在ることから推測するにこのミノタウロスはどうやらダンジョンで生まれた魔物ですじゃ」
「何でダンジョンで生まれた魔物が…?」
「妙ですな、この城の地下がダンジョンになっているとは初耳ですじゃ」
その時何かに気が付いたネロが地下への階段を駆け降りてしまった。
「ネロ!?」
「早く、行こう」
エリー達もネロの後を追い階段を駆け降りていくと途中からネロの魔銃の音が響き魔物の悲鳴が聞こえてきた。ただ事じゃないことが起きているのを察したエリー達が階段を降り終えた時に見たものは
「これは…!?」
地下牢に辿り着いたエリー達が見たのは本来いないはずのダンジョンの魔物達とその魔物達に魔銃を撃ち攻撃するネロ、そして
「エリー殿が感じたのはこの事か…!妙だと思ったんじゃ、上に誰一人いないことがの……!」
牢屋の中で魔物達に襲われ喰われた魔族達の成れの果ての姿だった。ネロは引き金を引きながらある事を思い出していた
(そうだった、クラリッサが言ってたな緊急用の転送魔方陣は地下牢にもあるって……!)
これを見るに地下牢にあった魔方陣はどうやらラヴァナ達が見つけていたようだ。クラリッサの話ではダンジョンと化した元城下町にあると言うことを思い出したネロはこの惨状を見て理解した。この魔物達はそのダンジョンから転送されているようだと。迫り来る魔物に引き金を引きながらネロは苛立つ
「クソっ!切りがない!」
まるで無限に湧くかの如く次々に現れる魔物に引き金を引いていくが一向に勢いが収まらない。すると
「はぁぁぁ!」
ブンと音が立ち風が吹くと魔物達が蹴散らされる
「ここは抑えます!早く!!」
バスターブレードを振り回しステラは魔物達に相対しネロに代わり戦い始める。ミノタウロスを中心とした人型の魔物を相手取りステラが大立周りを繰り広げた今のうちにネロとグラットンがアルフォンスを探し始めた。エリーも続こうとした時
「ん?」
酷い死臭が漂う地下牢の中にクラリッサのような匂いを感じ取り辺りを見回すとエリーが見つけたのは牢屋の中で魔方陣が浮かぶ鎖に巻かれた騎士鎧だった。
「アイスナイフ」
アイスナイフを詠唱して鉄格子をバラバラにしてエリーはその騎士鎧に駆け寄るとあるものをポケットから取り出して鎖に重ねる。すると魔方陣は消失し騎士鎧に治癒魔法のキュアを詠唱した。すると
「ありがとうございます。ダークエルフのお嬢さん」
気が付いたようで鎖を引き千切りエリーにお礼を言う騎士鎧
「貴女は、だあれ?」
「私は亡霊騎士団の団長を務めさせて頂いているデュラハン。ハリエットと申します」
「動ける?」
「はい、お嬢さんのお陰です」
「でえぇぇぇい!!」
エリーの手によって解放されたハリエットは牢屋の外の様子を察し立ち上がるとガシャガシャと身体を確認するように動き
「申し訳ありませんお嬢さん」
「エリー、だよ」
「失礼致しました。エリーさんすいませんが武器か何かありますか?」
「今戦ってる、ステラお姉ちゃん、持ってる」
「分かりました。ありがとうございます」
するとハリエットはステラの隙をついて攻撃しようとした魔物に体当たりを喰らわしてぶっ飛ばす、いきなりの事でステラは驚いたがハリエットが来た方向にエリーがいたのを見てステラは察し懐中時計から一本のブロードソードをハリエットの目の前の地面に刺した。
「私の予備です。良かったら使って下さい」
「感謝致します。おっとこれは、良い剣ですね」
剣を手にしたハリエットは襲いかかる魔物を一太刀で斬り伏せステラはバスターブレードを振り魔物を薙ぎ払うのを見てエリーはネロ達の後を追って走るとネロの声が聞こえてきた。
「アルフォンス様!」
「落ち着かんか!みだりに触れたら魔力を奪われてしまう!」
どうやらネロ達は魔王アルフォンスを見つけたようだ。エリーは直ぐに追い付くとネロ達の横をすり抜けて牢屋の項垂れている人物アルフォンスに近づく
「エリーに、任せる」
またポケットからあるものをアルフォンスの下にある魔方陣にかざして魔方陣を打ち消したのだ。それを見たネロは鎖を撃ち拘束を解くとアルフォンスに駆け寄る
「アルフォンス様!しっかりして下さい!」
「落ち着けというとるじゃろ!症状を見るに魔力欠乏症の症状が主じゃが外傷も在ることから肉体的疲労も考えられるのう。エリー殿『ヒーリングサークル』をお願い出来ますかの。私めは『マナトランスファー』を使い今残ってる魔力を使いアルフォンス様の魔力を補てんしますじゃ」
「うん」
グラットンの指示の元アルフォンスに応急処置を施すグラットンとエリー。無詠唱でエリーがヒーリングサークルを唱えた時だった。
「クソっ!こっち来やがった!!」
地下牢内にあった魔方陣から新たな魔物が現れ素早い動きでステラとハリエットを振り切るとアルフォンスに向かって突撃してきた。ネロはもう一丁の魔銃を抜き引き金を引く
「こっから先はぜってぇ通さねえ!」
「シャドウチェイサー、厄介な魔物ですわい…」
「エリー、魔方陣、封じてくる」
……一体、何が起こっている?
この治癒魔法の魔力、グラットンか?それ以外も感じられる。あの神の魔方陣を破ったのか?そしてこの魔銃の音はネロか?
何故戻って来たのだ?我の事など捨て置けば良かったものを…
「諦めねぇ、ぜってぇ諦めねぇ!諦めてたまるか!!」
そうか、我がこの様な無様を晒していても我の事を慕っていると言うことか
だが、今の我はあの魔方陣によりほとんどの魔力を奪われているようなもの、今程我は自身の無力を恨んだ事は無い
口惜しい…、我に力があれば……
……ん。今のは…?
今の咆哮は何だ?何処かで聞いたものだ。我はいつ聞いたのだ?
だが、確かにあの咆哮は我は知っている。聞いた事があるものだ…
何だ?魔力が、満ちている…!?奪われた我の魔力が…?いや、これは、この感覚は…!
ああ、そうか、思い出した。この咆哮は…
「口惜しいのう、私めも魔力があれば…「下がれ、グラットン」」
ネロの戦闘を心配そうに、自身の無力さを不甲斐なさを悔いて見ていたグラットンは突如後ろから声をかけられた。
「おお…!」
振り向いた彼が見たのは当たり前のように悠然と立ち気高さや高貴といったものが服のように身に纏い王の威厳がある人物。
そんな人物をグラットンは一人しか知らない
「サンダーボルト」
突如この地下牢ごとつんざくような強烈な稲妻が地下牢中に響き魔物を正確に襲う
「な、何ですか!?」
「これは…!」
稲妻が収まった頃には魔物達は消し炭と化していた。突然の事で戸惑うステラ、響介やライミィが放つサンダーボルトとは比べ物にならない程の、同じ魔法だとは思えない強烈なサンダーボルトだ。横にいたハリエットを、そしてネロを見ると
「手を掛けさせたな。皆の者よ」
ネロ達の視線の先にいたのは響介程の身長の細身の男性、しかし響介とは対象的で白髪と赤い瞳を持ち、主である響介のような気高さを感じる人物。それを見たステラは全てを理解した。
「アルフォンス様ぁ!!」
魔王アルフォンスはしっかりとした足取りで歩くとふと立ち止まり暫し目を閉じると何処か懐かしそうに呟いた。
「貴殿の咆哮、我の耳に確と届いた。感謝する。今代の狼王よ」