112話 侵入2 恋人、愛する者として
ライミィ達、グラットンを救出し城内へ乗り込む。
魔族領の中心で激しい戦いが繰り広げられている頃、魔族領と龍人領の境に広がる森ダンジョンにいるラミア達は異様な雰囲気に包まれていた。
「……」
しんと鎮まり返る中ピラッとカードをめくる音が良く響きラミア達はその一挙一動を固唾を飲んで見守っていた。そして皆の目の前に三枚のカードが並べられ
「…出ました」
ラミアの占い師ビオラが裏返したまま並べた三枚のカードがひとりでに表になる。それは
「あっ『力』の正位置!!」
「ホントだ!」
「あれは『審判』だったかしら?それの正位置」
「あと一つは、えっと『死神』よね?」
「死神の逆位置だな」
並べられたカードを見て皆その意味を考え始めていたが唸りながらおもむろにビオラが更に二枚のカードを引くと力のカードの元へと並べる。
「『恋人』と『星』?これも正位置だわ」
困惑するラミア達を他所にビオラは更に一枚カードを引くと並んでいる『力』と『死神』のカードの間、三角形を作るように並べると表にする。
表にされたカードは『世界』の正位置
「…かの者に愛される『力』は記憶の底にあった力を自覚し受け入れ目覚めさせ『恋人』と『星』のように『死神』の運命を変える。そして『力』と『死神』の邂逅はその縁により『世界』を知る者を引き寄せ繰り返す歴史を変革へと導く」
「「「へ?」」」
ビオラの占い結果を聞いてラミア達は首を傾げる。ビオラの占いは分かりやすく語らんとしていることが理解しやすいのだが今回に限っては抽象的な表現が多い。カードを一枚一枚見ていたラミア達は
「『恋人』はほぼライミィの事だよな」
「それは間違いない」
「『審判』の意味の中には確か変革ってあったわよね?」
「『死神』って誰の事なのかしら?」
「『死神』の運命を変える?」
ビオラの占い結果を聞いてラミア達は様々な憶測や推察を口にしていた。その中でオリビアが
「キョウスケ君がライミィの運命を変えた…?」
そう溢した。しかしそれを言うのなら響介は此処にいるラミア達の運命を変えたと言っても過言ではない。あの時響介がいなかったなら自分達は間違いなく搾取され皆殺しにされてもおかしくはなかったからだ。横で『星』のカードをずっと見ているアリスの事も気に掛かるがオリビアは
「一体、何が起こってるのかしら…?」
日が沈みかけている黄昏時、沈みゆく空を見て2人の母親は子供達の身を案じていた。
「ぐあっ!」
「この、くたばり損ない共が!」
「進めぇ!獲るはラヴァナの首!鬼人族の意地を見せよ!!」
「アルフォンス様に楯突く木っ端魔族なんぞ恐るるに足らん!立ち塞がる者など斬り捨ててくれるわ!!」
怒号が響き断末魔が上がる戦場をバックにライミィ達は地下牢がある居城城内に侵入する。鬼人族達は裏庭から直ぐの別棟や見張塔そして居城を中心に戦いを起こしてライミィ達の存在を悟られないように騒ぎを大きくし戦っているからこそ最短距離で突入出来るのだ。
「ネロ!地下牢の行き方は!」
「此方だ!このルートが最短で行ける!」
「ですが気を付けなされ、奴らも馬鹿ではごさらん。伏兵がおりますじゃろう」
城内に詳しいネロ達3人が先導し駆け抜ける。城内の魔族達は外での戦いと城内に突然現れた鬼人族達の応戦に駆り出されてしまい城の中は目論見通り手薄だ。近付く魔族兵もライミィ達3人が直ぐに察知し先手必勝と言わんばかりにライミィが容赦無く矢を射ち込んで片付ける。
「……」
先を急ぎ広い廊下を駆ける一行だったがここでライミィが何かを察知したように立ち止まる。そんなライミィを見た皆足を止めるがライミィはある一点を見ており
「お姉ちゃん、どうしたの?」
「エリーよく聞いてね」
そう言ってライミィはエリーに耳打ちするとあるものを手渡す。立ち止まったライミィの様子を察してステラは人の気配を感じライミィが見ていた先を見ていた。
「ネロ、こっちは?」
「そっち?この先は玄関ホールだぞ?」
「…!ライミィ様!」
「うん。団体さんが来たねぇ」
その瞬間、玄関ホールへ繋がる扉が開かれる。そこにいたのは人獣族を中心とした一団が雪崩れ込む
「侵入者だ!ラヴァナ様に「ゲイルマグナム!!!」」
「ぐわぁぁぁぁ!?!?」
雪崩れ込んだ瞬間だった。
ライミィが全力のゲイルマグナムを一団にぶち込み一人残らず吹き飛ばし片付けた。掠めただけで恵まれた体格の人獣族は紙のように吹き飛び風の弾丸に当たった者は当たった箇所が抉られたように消し飛び自身の破片を巻き散らかし絶命していた。あまりの光景に呆然とするネロ達をよそにライミィは玄関ホールへ向かって歩きながら
「ごめーん」
笑って振り向くと
「やっぱりキョウスケ気になるから先行っててくれない?」
「はぁ!?待て待て待てライミィお前何言ってんだ!アルフォンス様を助けるのにはお前の力が!」
「あーそれならだいじょぶ。手は打ったから」
「手?」
いきなりのライミィの言葉に狼狽えるネロ達だがライミィの言葉を聞いていたエリーはクラリッサの鎧を引っ張り
「先、急ご。クラリッサお姉ちゃん、案内」
「なっ、エリーさん?!」
「ちょっと待てエリー!まず説明を」
「…!急ぐぞ、どうやら時間はなさそうだ」
イリウスが騒ぎを聞き付けて近付く多くの足音に気が付いた。それにはステラも気が付いたようでネロ達を強引に押して急かし
「ほら急ぎますよ!ライミィ様!」
「なにー?」
「ご無事で!」
何か理解したステラはそう言って狼狽えるネロ達を焦れったくなり担ぎ上げエリーは戸惑うクラリッサを急かして地下牢へ向かって行った。
「私も人の事言えないや」
あんなにキョウスケに言ったのにねー、ってふと思っちゃった。そりゃそうだよ他人に無茶しないでって言ってるクセに自分は平気でやってるんだから。でも、これにはちゃんと意味あるんだよ?そうしてるとバタバタとこのホールに魔族達がやって来て私を見ると
「ああ?なんだ人間の女?」
「ひひひ、中々上玉だな可愛がってやるかぁ」
下衆な笑いをする人獣族を見て私は有無言わず持ってたコンジットボウに魔力を込めて弦を張り一瞬のうちに魔力で形成した矢を一気に百本位放ってホールにいた魔族に大量の魔法の矢を喰らわせる。
「なっ…!」
仲間が瞬く間にやられて相手が狼狽えても私は気にしない。目の前の魔族達に淡々と矢を射ち込んでいく。すると私の隙を見て突破しようとしたのがいたから
「フレイムウォール!」
みんなが行った後ろの廊下に繋がる扉と私達が通った所にフレイムウォールを唱えて道を寸断する。
「ぎゃああぁぁぁぁ!」
丁度フレイムウォールの上にいたのが巻き込まれて火だるまになった。ラッキー。
実は地下牢への道ってみんなが行ったとこが最短でいけるの。他はここからだと遠回りになるからもう間に合わないね。だから
「ここを通りたいなら私の命取ってみなさいな」
私は奴らに対して冷たく笑って睨んでやると奴らは一瞬ビクッって萎縮した。
あーあー、そんなことしちゃ駄目だよ。駄目駄目。
「フラッシュ!」
その隙を見逃す筈もなく私は光魔法のフラッシュを詠唱、ホール全体に眩い光が立つと奴らは目が眩んだみたい。特に人虫族に良く効いてるからラッキーだね。
「くそっ!」
「小癪な真似を!」
「あの女どこだ!?」
フラッシュが収まって視力が回復した魔族が私を探して周囲を見てる。でも
「にしし、残念♪」
地上にはいないよ。フラッシュの間に私はホールの上にあったシャンデリアに向かって元の姿に戻りながら色々利用して跳んで蛇の身体をシャンデリアに絡ませてぶら下がってたから。
「この位置ならさっき以上に狙える…」
さっきと同じように魔力で自分の周りに大量の矢を作って私は射る体勢を整える。
静かに息を吐いて一呼吸おいて、焦らず、じっくり、弦を引き絞り魔力を練って周囲に魔矢を増やしていって奴らに向ける。するとようやくこの場の異常さに気が付いた魔族が私を見つけて上を見上げて声を上げようとしたけど
「スパーク!ラッシングファイア!」
私が矢を放つのと魔法を詠唱するのが先だよ!
スパークは術者が決めた地点を中心に電気を放つ範囲魔法で今回の範囲はホール全体かつ地上3メートルまで、つまりシャンデリアにぶら下がってる私だけが範囲に外れるように調整したの。ラッシングファイアは大量の火炎弾を相手に放つ魔法。つまり
「し、しまった?!」
「うわぁぁぁ!」
「助けてくれぇ!」
スパークを喰らった事で下の魔族全員が魔矢も火炎弾もまともに避ける事も防御する事も出来なくて直撃する!何とか反撃しようにも魔矢や火炎弾が驟雨のように降り注ぎ、スパークを喰らったことで麻痺した身体でどうにか出来る筈も無く次々と餌食になって
「狙い射ち~♪」
鼻歌唄いながらラッシングファイアを喰らっても立ってる奴狙って矢を放って確実に仕留める。そうやってホールにいた魔族を全員片付けるのには時間は掛からないね。
寡を以て衆を制すってやつだ。キョウスケが教えてくれた言葉で要は一人で大勢を倒す事だって言ってた。そう思いながら最後の一人を射抜いて
「はい終わり」
ものの数分で片が付いた。私はホールに生き残りがいないことを確認すると
「よし!」
玄関ホールを出てお城の正門に向かって走る。やることは勿論キョウスケを迎えに行くため!
「邪魔するおじゃマムシは容赦しないよ~」
そうして私は陽動兼ねて移動をして正門でも派手に魔法を放つ